ステータス依存
今起きている異変が初期化を中断した事やアップロード中のエラーが原因ではないかと当たりは付けてみたものの、そこから対処方法を思いつく事はなくそこで手詰まりとなった。
脳の病気の可能性も捨てきれないが、それ以外に身体に異常は見られないので無理矢理大丈夫と思い込むことにして先のことを考える。
今後の方針と決めたのは生活を維持しながら元の世界や転生者に関わってそうな情報も集めていくこと。
町の本屋などもあたってはみたのだが、残念ながら目当ての物と思われる書物は扱われていなかった。
この世界にある書物はダンジョン等で得られる魔法の本は例外として、ほとんどは印刷ではなく書き記された原本を写本して複製されたものだ。
(複製のお仕事とかひたすら同じ本を書くのかな、大変そう⋯)
そういった理由でそれなりの値にはなるし購入して輸送までしてもらうとなると銀貨で済むわけもなく、世の中お金という現実に行き当たっていた。
(当面は資金集め、他の街へ行くという選択もどの道お金はかかるし⋯異世界甘くない⋯)
心でぼやきながら今日も治療所の仕事を終えて片付けを済ませ席に戻ると、見慣れない果実がある事に気付く。
「あれ?こんなのありましたっけ?」
「これ?さっき患者さんが会計の時に置いていったのよ、ポココっていうの」
リーゼさんがでこぼこした大きいオレンジのような果実を手に取る。
「ポココ?かわいい名前ですね」
手渡されたポココを調べると、皮は厚く丈夫そうで実が詰まっているのか結構な重さがあった。
「クリーンは済んでるから食べてみる?酸味が強いけど美味しいわよ、私も好きなの」
そう言われたので頷きポココを渡す。リーゼさんが実を両手で持ち、厚そうだった皮を裂き繊維を千切る音と共に割り開いた。
(え⋯素手で⋯)
割られた果実を確認すると皮は確かに厚い、中身は明るい黄色のザクロのようで小さな粒が沢山入っていた。
「さ、食べていいわよ」
そう言われるが今見た光景への違和感が凄く、ポココを見た後にリーゼさんの方へ視線を向ける。
(⋯簡単に割れそうには見えない⋯んだけど⋯)
「どうしたの?あ、そうか初めて食べるんだもんね」
困惑していたのを食べ方がわからないと勘違いしたリーゼさんがポココの粒を取り出し口に含む。
「普通に食べて大丈夫よ、んー⋯美味しいわ」
そう言われポココを差し出されたので小さめの粒を取り口に入れる。
リーゼさんを見ると、食べた反応を待つように優しい顔でこちらを見守っているので口の中の粒を噛み潰した。
「⋯ん!? んんー!?」
(すっぱぁ!?)
粒から出た果汁により口の中に広がる強烈な酸味はレモンのようだった。
酸味で耳の下側が痛くなり思わず目を瞑る、強烈な味に耐えてる顔はおそらく梅干し顔だろう。
涙が滲むほどの酸味をなんとかやり過ごし、過剰に分泌された唾液と共に飲み込んで目を開けると⋯
愉悦!と言わんばかりの顔をしたリーゼさんがこちらを見ていた。
今回差し入れされたポココの実は残りを含め、今後差し入れされる分もリーゼさん専用とした。
時折摘んでは美味しそうに食べているので騙したわけではなく、自分の好きなものを食べて欲しかっただけなのだろう。
「凄い味でした⋯まだ酸っぱい気がする⋯」
「可愛い反応、ご馳走様でした」
「悪意が無いのはわかってますが⋯凄く嬉しそうな顔をしていましたよ⋯」
「急に悶え始めたから心配していたんだけど⋯見ていたらこう、湧き上がるものが⋯お姉ちゃん、開発されちゃった?」
「勝手に自己進化したと言うのが正解では⋯」
木皿のシャクの実に手を伸ばし食べ始める。
「あー⋯、この甘さと瑞々しさに癒されます⋯最高⋯」
持ってきてくれた人達に感謝をしながら2つ目も平らげた。
口の中が落ち着いたのでリーゼさんと雑談をしながら魔力塊を操作していると、ふとあることを思い出す。
「そういえば魔法を使えるようになって色々試してはいるんですけど、土?地?の魔法が上手くできないんですよね、何ででしょう?」
「あら、そうなの。どんな事がしたいの?」
「外で試してみたのですが⋯ほんの小さな穴を掘るとか小さな砂山を作ったり石を転がすくらいはできたんですけど、もっとこう⋯礫を飛ばしたり壁を作り上げたりするイメージがあったので何か違うなぁと」
今の状態では子供の土遊びみたいなものなので、何かコツがあるのかと聞いてみる。
「礫って小石とかよね?あれって別に地魔法ってわけじゃないと思うわよ」
「あれ?そうなんですか?」
魔力塊を消してリーゼさんの方へ向き直ると何かを思い出すような仕草をした後に視線を戻す。。
「そんな魔法見たこと無いもの、収納と投擲スキルの応用じゃないかしら」
「収納と投擲⋯?」
「しまっておいた石を取り出して投げているだけだと思うわ」
「へぇ⋯そうなんですね、てっきり魔力で岩や礫を生み出して敵に放つのかと思っていました」
「生み出すって、そんな事したらその辺石だらけになっちゃうわよ?」
「確かに⋯それだといつか世界が石で埋まっちゃいますね⋯、なら土や岩の壁とかもその応用ですか?」
「どうかしら?外ならそのまま地面に地魔法を作用させて頑張れば、動かして壁くらいは作れるんじゃない?」
「うーん⋯でも、全然動いてくれなかったなぁ」
「あー⋯うん、それはそうかも⋯」
「⋯?何か原因として思い当たる事が?」
「魔法として作用させる事はできると思うけど、1度に動かせる質量は魔力だけじゃなくて筋力も関係してくるの」
「⋯え?何でそこで筋力が?」
「地魔法はそういうモノらしいの。筋力と魔力の合わせ技みたいなものね、例えが間違ってるかもしれないけど筋力50と魔力10で仮に500とすると⋯」
「ボクの場合⋯2と20で⋯40?」
他の計算方法の可能性も考えてみるが、どう当てはめても出力が低いことに変わりはなかった。
「⋯ね?頑張って時間をかければできなくは無いと思うけど、時間がかかり過ぎるだろうしちょっと⋯向かないんじゃないかなぁ」
「そんな⋯」
(両手でパンッってやって地面から岩壁ズモモモ⋯の夢が⋯)
筋力不足で地魔法は向かない事が発覚して若干ショックではあるが、今はまだ仕方がないと切り替え話を続ける。
「でも地魔法がダメでも収納に物をしまっておいて投げつけるって事はボクでもできると思いませんか?」
「収納、あるの?」
「無い⋯ですけど」
「まぁ無くても魔法の鞄で補ってる人は居るけどね」
「魔法の鞄!あるんですか!?」
(出た、異世界モノのお約束。容量無限?それとも時間停止かな?)
「簡単に買える値段じゃないわよ?もし仮に鞄があったとしても投擲は?」
「う⋯、それもない⋯です」
「投擲も筋力依存だから、貴女の場合投げつけるというより投げ渡すになりそうね⋯」
「くぅ⋯ここでも筋力⋯。じゃあ鞄にしまった剣とか槍、重いものを上から落とすとかは?」
「⋯鞄の所持やどうやって上から落とすのかは別として、そもそも剣と槍が⋯ね」
「その言い方は⋯まさか」
「うん⋯鞄の容量は魔力に依存するけど、出し入れ可能な物は片手で持てる重さまでよ。よく考えれば当然よね、取り出した時に支えきれなくて負傷でもしたら大変だもの」
「ですよね⋯そうなんじゃないかと思いました⋯」
(女神様⋯筋力至上主義ですか?)
いつの間にかブクマしてくれた方が⋯ありがとうございます。




