新人研修保護者付き
割り込んできた声により、自由時間を優雅に過ごしている姿の妄想が中断される。
声の方に視線を向けると軽装の青年冒険者が落ち着かない様子で立っていた。
「あ、はい。どうされました?」
「ここで怪我を治してくれると教えていただいたもので⋯」
「初のお客さんね、頑張って」
「はい」
青年の方へ振り返り
「反応が遅れてごめんなさい、すぐに処置しますので患部を見せてもらえますか?」
「ええと、ここなんですけど⋯」
腕をまくると土汚れの中に滲む赤色、転倒して何かに引っ掛けたような痛々しい傷口が見えていた。
血の色を見た瞬間少し身構えてしまったが、今回は特に心身の変化は無い。
「うわ⋯痛そう⋯、ちょっと綺麗にしますね」
魔力塊を出して汚れと傷口を覆う。
『浄化』
塊が消えると患部周りは綺麗になって痛々しい傷口がよりはっきりと見えるようになっていた。
「続けて傷の処置をしますね」
再び魔力塊を出して傷口を覆う。
『治癒』
魔力塊がもこもこ動く。
(あれ⋯?こんな動きしてたっけ?)
様子を見ていると青年の顔が何かに耐えているように見える。
「あの⋯痛んだり変な感じがしたりしますか?」
「いえっその、ちょっと擽ったくて⋯でも大丈夫です」
「そうですか、何かあったら言ってくださいね」
と言うと同時にブラッドポイント獲得の表示が流れ、魔力塊が溶けて傷口はすっかり消えていた。
(また獲得?名前から血に関係しているんだろうけど⋯何だろう)
頭の中を疑問符が埋めていくが患者の事を思い出し視線を戻す。
「えっと⋯とりあえず処置は終わりましたけど、おかしく感じる所はありませんか?」
「えっと⋯はい、大丈夫みたいです」
傷のあった場所を確認しながら擦ったりする青年を見て問題無かったようで安心する。
「良かったです、余り無理しないでくださいね?」
お大事にと営業スマイルで処置完了。
「あっあの⋯お代のほうは⋯」
そう言われて特に決めていなかったなとリーゼさんの方を見ると何か渋い物を食べたような顔をしており、こちらの目線に気が付くとすぐに元の顔に戻った。
「お試しだから今回は特に決めていないけど、そうね⋯貴方の懐が痛まない程度にこの子に何かお礼をしたら?」
「そうですね⋯ええと」
青年が少し考える仕草を見せた後、腰にある袋に手を入れて何かを取り出した。
「あの⋯これを」
差し出されたのは小さな果実、梨をゴルフボールより小さくしたような見た目だ。
受け取るとリーゼさんが覗き込んできた。
「あら、シャクの実じゃない」
「シャク?」
「森で採れる果物よ、美味しいわよそれ」
「あの、良いんですか?」
青年に確認すると目を逸らされる。
「はい、あの⋯美味しいから食べてみてください」
と恥ずかしそうに言う。
「ありがとうございます、後で頂きますね」
初仕事の対価に嬉しくなり笑みが溢れた。
「あのっありがとうございました!それじゃっ」
青年はそう残し、慌ただしく去って行った。
「どうでした?リーゼさん、治療初報酬ですよ」
シャクの実をそっと机に置いてリーゼさんの方を見ると何か考えているような表情をしていた。
「そうね、一連の流れを見ると問題は無かったように思うわ」
そう言いながらシャクの実に手を伸ばし
「⋯クリーン」
「リーゼさん!?」
(念入りにワード付きで!?)
「当然よ、外から持ち帰った物だから何か付いてるかもしれないもの」
「大丈夫だと思うけどなぁ⋯」
「甘いわ、油断していると見えないところに虫がいるものなの。ちゃんと見ておかないと何かあったら大変じゃない」
(あれ、話噛み合ってる?)
「そ⋯そうかもしれませんね⋯」
「とにかく初仕事お疲れ様、色々問題が見えたからこちらで対策を考えておくわ」
「あの⋯さっき問題は無かったって⋯」
「ステラちゃんの方ではないわよ?ちょっと机の場所や見通しとか防犯対策を徹底しておこうかと思ってね?」
「防犯って⋯ここギルドの中ですよ⋯?」
その後も何人かの治療を続けていると冒険者さんが冗談混じりで勧誘してきたり、家族や彼氏の有無を聞いてくる若者も居た。
しかし子熊を見守る母熊のような圧を放つリーゼさんがすぐにインターセプトしたため話が続くことは無かった。
それぞれにお礼の品を頂いたが食べ物はしっかりクリーンされ、そうで無い物は一旦ギルド預かりとなった。
魔力の消費よりも距離感の合わない初対面の人と話す事に疲れてしまったため、察したリーゼさんが終了の看板を置いて早めに切り上げてくれた。
「はぁ⋯疲れました⋯」
「お疲れ様、よく頑張ったわね。」
机の上で溶けているとリーゼさんが労いの言葉をかけてくれる。
「冒険者さんは距離感が近すぎます⋯」
「まぁ⋯出先で交渉したり、警戒されないように陽気に振る舞うこともあるからその傾向はあるわね」
「個人でやらなくて良かったと心底思ってますよ⋯」
「⋯私もそう思うわ」
リーゼさんが飲み物を置いてくれたので口を付ける、口に感じる暖かさで疲れが溶けていく気がした。
「疲れてそうだし、ちょっと早いけど今日は帰る?」
「うーん⋯そうしようかなぁ。そこまでくたくたじゃないけど確かめたい事もあるし」
「じゃあ送っていくわ、準備するから待っててね」
すこーんと本日終了の札を立ててリーゼさんが退勤準備を始める。
「え⋯いや、1人で帰れますよ?」
「いいのよ、私が送りたいの」
「あの⋯まだお仕事じゃ」
「いいのよ」
(いいのかな⋯)
準備を終えたリーゼさんと一緒にギルドを出る。
外に出る時に冒険者の人達からも労いの言葉を頂いた。
人から感謝される事が少しこそばゆいけど、明日も頑張ろうという気分になれた。




