副業おーけー?
筋力2では押し勝てるわけもなく、リーゼさんに押し倒されて少しの間強火のスキンシップを受け続けた。
解放された時にはすっかり体力を奪われ、満足そうなリーゼさんにまた後日試しましょう⋯と提案して逃げるよう帰宅。
ドレインを受けたような身体に治癒が効くことはなく心身の回復に半日を要した。
ブラッドポイントなる新しい情報も出てきたがあれ以来何か起こるわけでもなく、確認する方法も無いので一旦忘れる事にした。
リーゼさんの乱心から翌々日、早朝の採取を終えていつものカウンターに足を運んでいた。
「おはようございますリーゼさん、査定をお願いします」
「⋯⋯」
「リーゼさん?あの、査定を⋯」
「⋯⋯」
「リーゼさーん?」
「お姉ちゃんって呼んでくれないの⋯?」
ここ数日でギルドの面々には自分は冒険者ではなく薬草の提供者であり買い取り場所の常連と認識され、ここに居ることが当たり前のようになっている。
カウンターで起こるリーゼさんとのやり取りを見てまた何かやってる⋯という感じの視線が集まる。
「1度だけって話だったでしょう?お仕事ですよ、ちゃんとやらなきゃダメですよ」
「うぅ⋯正論⋯、距離は縮んだ気がするけど私の天使はどこに⋯」
「残念ながらボクです、さぁお仕事してください」
「あの時のお姉ちゃん⋯があればやる気が出るのになぁー」
「はいはい、お姉ちゃんお姉ちゃん」
「私の妹が冷たいっ」
査定の待ち時間に周囲を見渡すと、相変わらず受付周辺は混雑しているのに買い取り側は貸し切り状態だ。
「いつも思うんですけど、ここを利用する人ってほとんど居ませんよね?」
「そうだね、動物や魔物の解体は別の場所でしてるし素材や肉はその場でやり取りしたり大きな街へ運ばれたりするから⋯ここは植物の素材とかがメインなんだけど持ち込みは滅多にないからね」
「ボクが来るまで暇そうにしてましたもんね⋯」
「ちゃんと仕事はしてたからね?持ち込みもゼロってわけじゃないし手が空いてれば他の業務に回ったりもしてたんだから。本当だからね?」
「別に疑ってませんよ?」
もうすっかり手慣れたもので査定ついでに喋っていたのが会話のついでに査定しているようになっていた。
「何かもう片手間でやってますけどボクが雑草混ぜたりとか疑わないんですか?」
「しないでしょ?これでも人を見る目はあると自負してるし何かあったら私が悪いで済むし」
「しませんけど、そこまで信頼されると擽ったいですね」
「姉が妹を信じるのは当然よ」
「違いますけどね」
査定が終わりお金を受け取る。
リーゼさんが片付けをしながら口を開く。
「そうそう、怪我人の件だけど⋯ステラちゃんが問題なければ受付に話を通してもらって怪我をした冒険者に来てもらうこともできるけど⋯どうする?」
「いいんですか?受付の方の手間が増えてしまうんじゃ?」
「許可が出たら通知の張り紙でもすればいいのよ、張り紙を見たら喜んで来ると思うわ」
ポーションは思っていたよりも高級品らしく、程度の低い物でも複数枚の銀貨から金貨を出すレベルらしい。
(ゲームでは安い回復薬扱いだったけど、魔力の消費も無しで傷を即座に治せるならそりゃ高いよね⋯)
命に関わる場合は惜しまず使うが、軽い怪我ならツバつけとけ精神らしい。
「じゃあお願いできますか?そんなに急ぎじゃなくても良いので」
「わかったわ、報酬は後払いで」
「⋯報酬?」
「んもぅ⋯わかってるくせにぃ」
「やっぱり良いです、自分でお願いしてきます」
「あぁっごめん嘘嘘、冗談だってば!」
宿へ帰ってから食事を済ませて部屋へ戻り、全身に浄化をかけて身体を拭く。
魔法によって汚れは落ちているが熱めの湯に通した布で拭くとさっぱりするのだ。
(生活に余裕ができてきたし、お風呂にも入りたいなぁ⋯)
収入が安定し、宿泊料を何日分か先払いする余裕ができたので様々な欲が顔を出す。
(薬草もそろそろ採る場所を変えないと⋯成長が早いらしいけど採り尽くすのはダメだろうし)
一先ず安定したとはいえ薬草が無くなったり需要が変わればその安定も崩れる可能性はある。
余裕があるうちに他の収入源も模索しておく必要があるだろう。
いつの間にか1人で考え事をする時に魔力塊を出して弄るクセが付き、粘土遊びをするように大きさを変えたり濃度に変化をつけたりするようになっていた。
つい先程自覚したが、捏ね回してそろそろ消えるだろうと意識から除外するもそこからしばらく残っている事がある。
(まだ距離は離せないけど消えるまでの時間が長くなっているような⋯?)
カードのステータスに変化は無く、裏付ける情報も無いが熟練度的なものかと推測すると弄り回すのが一層楽しくなってきた。
翌日ギルドに顔を出すと買い取りカウンターの横に小さな机が置かれていて、木の板に描かれた赤い十字の何処かで見た覚えのある気がする立て札が置かれていた。
(十字⋯!⋯いや別に何ともないな⋯)
実際自分にただの十字や十字架が効きそうな気配は無い、スキル選択にそのような耐性も無かったしニンニクのような物も匂いは気にするが普通に食べている。
耐性スキルがあったのは日光くらいで銀貨なんて平気で触っているし意外と弱点なんて無かったんだなと実感する。
「あ、きたきた。いらっしゃいステラちゃん」
「こんにちはリーゼさん、査定お願いします」
隣の机に視線を移し
「あの⋯これは何ですか?」
と指をさす。
「これ?ステラちゃんの机だよ」
「ボクのですか?」
「うん、怪我人治療の話はすぐに許可が出てね。是非やって貰いたいって机とか用意してくれたよ。もし良ければそのまま続けて欲しいと言ってたしその場合の料金とか給与は後から相談させて欲しいって」
「料金と給与⋯が出るんですか?」
「そうだよ、今回はお試しだけど怪我が治せるなら実質治療院みたいなものだもの。続けてくれるならタダ働きなんてさせられないよ」
「治療院って勝手に開いても良いものなんですか?」
「だってこの町に治療院は無いもの、医者はいるけど教会は無いから常駐する聖職者も居ないしね。怪我をしたらポーションを使うかヒールを使える人に頼むか治るまで我慢するかよ、ポーションよりは安いけど回復魔法もタダじゃないしね」
一般的に回復魔法を使える才能があるのならエリート扱いで大きな街の教会や治療院に所属しやすく生活も安泰らしい。
冒険者にも簡単なヒールを使える人が居るがどのパーティーでもヒーラーは生命線な為、自分達の活動外に魔力を消費するのはリスクがある。
だから部外者が治療を頼む場合それなりの対価を払うのが暗黙の了解となっているようだ。
「ステラちゃんが治療院を開く訳じゃなくてギルドが治療院を設置してステラちゃんがそこで働くという感じかな。
⋯あ、先に言っておくけどギルドが利益を取ろうってわけじゃないからね?個人で治療院を開くとなると結構面倒な事があったりするの」
「面倒な事ですか?」
「そう、個人でやるとなると例えば冒険者からの勧誘が多かったり。警護が居なければ治療代の踏み倒しや複数で押し掛けて治療を強要したりね」
「ああ⋯確かに⋯」
「それにその⋯ステラちゃん可愛いから良からぬ事を企む輩も出ないとは限らないし⋯」
(あー⋯確かに⋯)
強火スキンシップを思い出して心が冷える。
「だからここなら安全だし面倒事もギルドが後ろ盾になって対処する事になるから断然こちらをオススメするけど、どう?」
「ここでお願いします」
即決した。
「でもここで働くとなると薬草を集める時間が無くなりそうなのですが⋯」
「それは大丈夫、治療は常駐じゃなくてステラちゃんの好きな時間にここに居てくれればいいから。」
「非常勤⋯みたいなやつですか?」
「そうそう、張り紙にもそう書いてもらうし自分の時間を優先してくれていいよ。ただし給与は滞在時間の基本給と歩合給だからね」
「ここに居るだけで給料が発生するんですか?」
「待機手当みたいなものかな、そんなに高くは無いけどね。でも待機中は本を読んだりしても良いしここに居る限り自由に過ごしてくれていいみたいよ?」
(本を読んでいるだけでも賃金が出る?それって最高じゃない⋯?)
頭の中には既に紅茶を片手に読書をする自分が浮かび上がっていた。
「あのー、すみません⋯」




