8月16日(土)事故物件で見る事故物件
8月16日、土曜日の朝。
僕はベッドで目覚めた。あのあとシャワーを浴びて、しっかり眠った。
お盆休みはもう終わり、今日と明日は普通の土日──と考えて気持ちを切り替えておかないと、月曜の朝が耐えられなくなる。
いや、今はそんなことはいいんだ。
彼女が現れたのは二時ごろ、消えたのが二時半。もしやと思って調べてみると、いわゆる“丑三つ時”にあたるのがその時間帯だった。
草木も眠る丑三つ時──もっとも不吉で妖気の強まる時間。鬼や幽霊もいちばん出やすいとされている。chatGPTもそう言っていた。
つまり彼女は、その時間だけ出現できるのではないか? という仮定ができる。
というわけでスマホの目覚ましアラームはすでに二時ちょうど……より十五分前に設定済み。今日は眠らずに待ってるつもりだけど、万がいちの寝落ち対策だ。
それともうひとつ。今日8月16日はお盆の最終日「送り盆」に当たり、先祖の霊があの世に帰る日だ。だとしたら、日付の変わる今夜午前二時に彼女はもういないかも知れない。こればかりは彼女の「また、あした」を信じるしかない。
なお土日は管理会社がお休みなので、“心理的痂疲アリ”の内容の確認は月曜を待つしかない。
「さてと……」
今日もトーストとコーヒーで朝ごはんを済ませる。
彼女の伝えてくれた感謝を思い出す。胸の奥がほんのり温かくなる。
だから今日は、サブスクでさらに怖い映画を見まくって耐性を高めることにした。
テレビでAmazonのFireスティックを起動し、まずはそのまま「事故物件」で検索してみる。
けっこうな数の作品が表示された中から、いちばん上の、そのまんまなタイトルの映画を選択する。亀梨くんが主演のやつだ。かっこいい。昨日の「近畿地方」でも思ったのだけど、人間側の登場人物が美男や美女だと現実感が少し薄れて怖さがやわらぐ気がする。
──彼女に関しては絶対的に本物なので、美少女っぷりが怖さにつながっているのか逆なのかは、なんとも言えないけど。
「……ふう」
見終えた。事故物件で事故物件の映画を見るのはなかなか得難い経験なのかもしれない。環境の効果もあってけっこう怖かった。しばらくトイレや冷蔵庫の扉を開けるとき身構えてしまいそう。あと、映画の霊たちは昼間っから普通に出てきた。そこはちょっと羨ましいなと思った。
さすがに連続で見るのはキツいので、原作者の情報などを検索してみていたところ、映画にも事故物件の情報などで協力している「大島てる」というサイトに辿り着いた。地図上に事故物件の情報が共有されている。
ためしに地図上に表示される炎を模したアイコンをタップすると、情報が表示された。令和5年、孤独死。管理会社の愚痴めいたことも添えられている。
というか、孤独死が多い。なんだか身につまされる。
いったん深呼吸で自分を落ち着かせ、ここの住所を検索窓に入力した。
少しの読み込みのあと、表示された地図のアパート上には炎を模したアイコンが表示されている。何らかの情報があるということだ。おそるおそる、タップする。
そこには、こう書かれていた。
孤独死
5、6年前
中年男性
……は……?