表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/22

8月28日(木)悪夢とコロッケそば

 午前二時を過ぎても、かすみさんはなかなか現れなかった。

 どうしたんだろう。ベッドに腰掛け待つ。右隣に彼女の仄白い光は現れず、暗い部屋にはただ時間だけが流れていく。


「ね、ここ座っていい?」


 どこかで聞いたその声とセリフは、左隣から聞こえた。

 視線を向けると原田さんが座っていた。ただ、雰囲気が少し違う気がする。


「え!?」


 彼女は、セーラー服を着ていた。見覚えがあるそれは中学時代の制服だ。髪型もあの頃と同じポニーテールになっている。


『……どうしたの?』


 問い掛ける声は右側からだった。慌てて振り向くと、かすみさんがいた。いつもの幸薄顔で、原田さんと同じセーラー服姿で、髪は肩上で切り揃えられている。


「……な……」


 なんだこれ、どうなってるんだ。意味が解らない。


「原田さん、なにこれ!?」


 慌てながら左側に視線を戻すと、そこに座っていたのは原田さんではなくて、見たことのない中年男性(おじさん)だった。彼はセーラー服を着ていて、苦虫を噛み潰した顔をしている。


「いッ!?」


 焦って反対側を向くと、かすみさんも知らない中年男性(おじさん)に入れ替わっている。彼は穏やかに微笑んで、こう言った。


『おはよう、高野くん』


 そこで目が覚めた。ベッドに寝転んで本を読んでいたはずが、いつの間にか眠っていたようだ。ちなみに読んでいたのは「近畿地方のある場所について」の文庫版だ。かすみさんを怖がらない耐性を付けるためだったけど、最近はすっかりホラーにハマってしまっている。


「もう、やっと起きた」


 ぼやけた視界の中で、そんな僕を上から覗き込んでいるのは原田さんだった。


「ああ、ごめん、寝ちゃって……」


 目をこすって起き上がり、よく考えると彼女(このひと)はなんで堂々と(ぼく)の寝室にいるんだろうと疑問が浮かぶ。なんというか、警戒心とかないんだろうか。


「気にしないで、私も話し込んじゃったから。そろそろ始発の時間だから帰るね。もう太陽も昇るから、送ってくれなくて大丈夫」


 スマホの時計を見ると五時ちょい前。外はまだ薄暗い。


「いや、そういうわけには……」

「そう? じゃあお言葉に甘えて。ちょっと、高野くん借りてくね」


 いつもかすみさんの座るベッドの端を見て、声をかける彼女。


「だいじょうぶ、ちゃんと返すから。うん、またね」


 あいかわらずやたらフレンドリーに会話する二人。蚊帳の外の僕。

 しかしいくら原田さんのコミュ力が凄くても、初対面でこんなに仲良く夜通し語り明かしたりするだろうか。その疑問がふと、薄れかけていた夢の中の光景を──お揃いのセーラー服姿の二人を思い出していた。同時におじさんたちのことも思い出してしまって目まいがした。


 何かが、記憶のはしっこに引っかかる。小骨が刺さったようにすっきりしない。


「ほら、送ってくれるんでしょ」

「ああ、うん」


 原田さんに急かされて部屋を出る。

 駅前で彼女を見送った帰り道、富士そばのコロッケそばを朝ごはんにした。隣でそばをすする知らない中年男性(おじさん)は、ちゃんとスーツを着ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ