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短編シリーズ

最近のラブコメはつまらない。

作者: 屋代ましろ

鷲尾わしお先輩。最近のラブコメ、実は滅茶苦茶つまらなくないですか」

「急にぶっこんでくるな、お前」


 五月の放課後、二人きりの部室。

 後輩のひじりが質問の通りつまらなそうな感じで尋ねてきた。

 ちらりと横目に見ると椅子を三つ並べ、彼女は器用に寝転がりながらスマホを眺めている。

 いつものようにアニメでも見ているのだろう。ちなみに視線を離す気配はない。


「だってそうじゃないですか? ヒロインの可愛さとか、出オチ的な意外性だけで肝心の内容はペーストみたいに引き延ばしてペラペラな感じの作品ばっかり。何が一対一ラブコメですか、ばかばかしい」

「はあ」

「最初から主人公に好意を持っているヒロインとイチャイチャしてるだけの物語の何が面白いのか、って話ですよ。どう考えても面白くないのに人気がある作品が多くてなんだろう、私と別の作品を見ているのかと最近は疑問に思うほどです」

「はあはあ」

「今見てるのもそうですけどシチュエーション一辺倒なんですよね。別にそれが悪いとは言いませんけど、少なくともラブコメのメインストリームに我が物顔で存在しているのは間違っていると思うんですよ、私は」

「はあはあはあ」


 聖は雑な相槌を打つ俺に、むくりと身体を起こしてジト目を向けると、


「その、はあはあ言うの辞めてもらえません? ちょっと気持ち悪いので、顔が」

「顔は関係ないだろ」


 至って簡潔に罵倒してきた。

 つーか俺がはあはあ言ってる時の表情すら見てなかっただろ、お前。

 ともあれ聖後輩はスマホを置き、熱弁を続ける。


「まあ、鷲尾先輩の顔はどうでもいいんですよ、どーでも。今、話したいのはどうして私の大好きなラブコメは死んだのかってことです。あ、○○は違うから~とかそれこそオタクのテンプレみたいなこと言わないでくださいよ? どうせ客観的にみたら九割以上、似たようなものなんで」

「うんうん」

「ラブコメが生ける屍状態な理由、それはズバリ――作者が読者に合わせすぎだからなんですよ! と言っても中高生はいいんです、好きなだけ触れればいい! 青春だから! 思い出になるから! でもいい歳こいてラブコメを熱心に見てる人間はダメです。終わってます! そういう連中なんてのは大抵、やれ癒しを求めてるだの、やれストレスフリーが世の流行りだの、もう物語をまともに楽しむために見ることすらできてないじゃないですか!」

「うんうん」

「でもそういう人たちが集まるジャンルって悔しいことに売れちゃうんですよ、他にお金の使い道がないから! 先輩だって覚えがあるでしょう!? 聞いたこともないような漫画のタイトルがなんか五百万部とか売れてて、でもいざアニメ化したらまるで話題にもならない! おじさんの集団は流行を生み出す能力が著しく低いから!」

「うんうん」


 なんか途中から特定の読者層を批判してるだけな気がしたが、とりあえず頷いておく。

 すると途端、聖がクワッとした勢いで跳んできて俺を締め上げた。

 彼女の脱ぎ捨てられた上履きが宙を舞う。


「そういう、女友達と話してる感じがしてるような視聴者読者がいるからぁあああ~~~ッ!」

「ぐ、ぇええっ」

「私、お兄ちゃんと歳が十個以上離れてるから分かりますけど、まともに人生をステップアップしてる人間だったら自然と離れていくものなんですよ、そういう風にできてるんです! アニメや漫画は子供だけじゃなくて大人も楽しむ時代って言いますけど、今のラブコメはもう意味が全然違うじゃないじゃないですか。楽しむ以外のことに使ってたらそれはただの道具ツールでっ、現実逃避でしょう!」

「まぁ、それは……そういう人がいても、いいんじゃ?」


 解放された俺は、息を整えながら疑問を口にする。


「いてもいいんですよ! 無駄に金払いは良くて声がでかいのは嫌いですけど! だから私は作者には合わせて欲しくないって言ってるんです! 作品は極論、作者の個性的な自慰行為! それを見て。私たち読者がいいよいいよ、もっと見せてくれよって盛り上げてるだけなんです! なのに作品が読者の自慰を手伝うようなものばかりだから最近のラブコメはつまらないんです。なんならちょっと、いや……かなり気持ち悪いんです!」


 聖の言いたいことは分かる。非常によく分かる。

 たぶん作ってる側もある程度、そんなことはもう理解しているはずだろう。

 けれどそう上手くいかないのが、資本主義の辛いところだ。


「よく言われるコミュニティの一生と同じなんですよ。面白いラブコメが生まれて人が集まって、つまらないラブコメがどっかの縦読みみたいに粗製濫造されて、最後にはコンテンツを純粋な気持ちで楽しんでいるわけではない、一種の執着だけを持ったつまらない人だけが残る……ラブコメは今ここにいるんですよっ! それを分かって欲しいんです私はっ!」

 

 聖後輩はテーブルの上に立ち、俺をビシッと指さして言い放つ。


「あえて問います、鷲尾先輩。ラブコメを面白くするために一番必要な要素はなんですっ!?」

「そりゃあ、まあ……主人公だろ。ヒロインが惚れるわけだし」


 究極、ヒロインが超絶ブスでも主人公を底抜けのB専ってことにしたらコメディ部分は個性が出る気がする。言い寄ってくる美人は滅多切りにしたりしてな。

 反対にヒロインの良さは作品の面白さには寄与しないと俺は思う。

 ヒロインが可愛いのに主人公が微妙な作品の評価は、どこまでいっても〝ヒロインが可愛い〟以上のものにはなり得ないからだ。


「そうです、主人公! なんなら本来、ヒロインよりも大事なはずなのが個性的な主人公なんですよ! それがどうです、似たようなやる気のない顔立ち、美容院にも行ったことがなさそうな黒髪! あげく性格は感情移入させるためとか都合のいい言い訳を使った、無個性を通り越してもはや虚無!」

「言うなぁ」

「言いたくもなりますよ! だってこんなのもうラブコメの主人公じゃないですよ、寝取られ同人誌の主人公という名のモブじゃないですか!? だから海外の謎サイトでやってる今期アニメのカップリングランキングとかでなんでこいつがっ!? みたいなのがよく上位に居たりするんですよっ!! あいつら寝取りも寝取られも好きだから!」

「偏見が強い」


 しかし寝取りに関してはぶっちゃけ皆好きだろ。責任取らなくていいなら。

 聖は「いいですか、先輩!」とさらにヒートアップして続ける。


「ラブコメに求められているのはですね、主人公ないしヒロインを含めた人間が周囲との関係を形成し、変化させ、成長していく過程なんですよ! その中で主人公とヒロインの間には友情とは違う愛が育まれていくのを楽しむものなんですっ! 他人の人生を客観的に見守るジャンルのはず! 最近のラブコメは邪道なんですよ!」

「まあでもほら、邪道も流行れば王道になるって言うだろ」

「分かってませんね、鷲尾先輩! 最近のラブコメはもう、そういう次元じゃないんですよ。見たり読んだりしている側の人間の価値基準が歪んできているんです!」

「具体的には?」

「さっき言ったことと近いですけど。最近のラブコメは作品の気持ちよさを、作品の面白さと言い張ってるだけなんです! ラブコメはAVじゃないんですよまったく、汚らわしい!」


 確かに最近のラブコメ含めた諸々全般。AVみたいにタイトル長いもんな。


「これを言ったらあれだけど。そもそもの話、ラブコメってジャンル自体は別に単体だと大して面白くはな――――……」

「そ、そ、そそそっ、それを言ったら戦争でしょうがっっ!! でもえぇ! 実際、大体何とでも相性がいいサブジャンルですよ! だとしても……先輩が好きなロボものよりマシですっっ!! 何なんですか、あの単体だと見向きもされない欠陥ジャンル」

「う、うるせぇ! ただジャンルを延命したのもガ○ダムなら、殺したのもガ○ダムなだけだよ!」


 ここまでくるともう、最近のラブコメという話題からそれにそれまくり、単なるみにくい罵り合いと化していくのは必然だった。

 数分後。俺と聖は息を切らしながら額の汗をぬぐう。


「はぁ、はぁ……疲れた。しかしそっか、聖は俺と二人がそんなに嫌なのか。じゃあうちの部も本格的に新入部員、探さないとなぁ……このままだと廃部だし」

「えっ」


 俺がそう言うと、聖後輩が困ったような顔をして焦り始めた。


「べ、別に無理して増やさなくてもいいんじゃ……」

「いやだって部員が二人のままだと、お前が嫌いな無個性主人公と可愛い後輩ヒロインの一対一ラブコメだし」

「うっ……せ、先輩のいじわる」


 縮こまった聖に対して、俺はここぞとばかりの反撃に転じる。

 まぁ、俺たち二人のいつものお約束の流れというやつだ。


「え~、何がいじわるなの~? 俺、全然わから~ん。教えて教えて~」

「あ、きも。きもきもきも。しねしね、しんじゃえ、ばーかばーか!」

「照れてるところも可愛いよ、聖」

「~~~~~っ!?」

 

 真顔で言って見せたこんなセリフひとつで顔が真っ赤になるのだから、彼女は充分チョロインの素質を持っていると思う。やれやれ、先が思いやられるな。


「わ、鷲尾先輩も……その、まぁ、他の人はそうでもないでしょうけど、私は好きですよ、先輩の顔」


 ――ちゅっ。

 もじもじしていた聖が言い終えた瞬間。俺は彼女にキスをする。


「なっ、なななっ、な……!」

「俺とのラブコメは面白い?」

「きも! 超きもい超きもい超超々きもい! きもいけど――――好きっ!」


 聖後輩はとびきりの笑顔でそう言ってくれる。

 そんなわけで強く抱き合った俺たちのラブコメは明日も続くのであった。


なんだか無茶苦茶な内容になってしまい、反省はしています。

ともあれ最近のラブコメに対して何かありましたら、気軽に感想を書いていただいて結構です。


それと私は現在、『無感の花嫁』という異世界恋愛ものと


『昔から何でも話してくれた幼馴染にある日突然「昨日、彼氏ができたんだよね」と言われ、クラスの女子に泣く泣く相談したら幼馴染の彼氏の幼馴染と付き合うことになった。』


という現代ラブコメをメインに書いていますので、よろしければぜひそちらも一読頂けると嬉しいです。

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