小説を書いたら邪神が集まった
小説を書くにも、専門知識が必要らしい。けれど、正直なところ、自分の専門外の分野を調べ上げるだけの気力はなかった。
じゃあ、自分の職業で得た知識を活かせば、いいのではないか。
僕はそう思い至り。
実行に移し。
仕事をクビになった。
外患誘致の罪らしい。
「くそう!いったい何がいけなかったっていうんだ!」
「全部だ」
取調室の刑事さんは、きわめて淡々と言い返してきた。文才が全く感じられない。
「大体、外患誘致の罪ってなんなんだよ。僕が何をしたって言うんだ!」
「小説を書いた」
「横暴だ!書を焼く国は必ず滅びるって歴史が証明してるんだぞ」
「安心しろ。大体の国はどこかの段階で必ず滅びるから」
検閲は禁じられているのが、近代国家じゃないのか。いつからわが国は法治国家であることを放棄したのか。
僕は不当な扱いに激怒した。
「大体、お前のせいで既に滅びそうなんだよこの国は!なんなんだよ、お前の小説は」
「傑作お仕事小説だ。自負がある。オフィスラブ部分は、芥川賞を穫れる自負がある」
「お前の作品で芥川賞とれるなら、純文学なんて単語が滅びるわ。いいか、お前の小説のせいで──なんかよくわからんけど神々が復活し始めてるんだよ。旧き神の復活とか、外患でなくてなんなんだよ」
弁護士を呼んでほしい。僕は全く悪くない。勝手にやってきた神様サイドに非がある。割合的には、1:9くらい。
「大体、旧き神々なら外患じゃないじゃないか!」
土着信仰だろ。海の底からやってきたんだから、実質地球産。そして、我が国は海洋国である。どっちかというと、内患だ。
「そこじゃねえんだわ、問題は。で、お前の供述を聞いてたら?職業上知り得た知識を活用した?なんの仕事で知り得た?」
「居酒屋のホール兼キッチン」
常連のアラビア人からもらった本をベースにしたのが悪かったか。表紙には、ネクロノミコンって書いてあったけど、まあ仕事上で知り得た知識には違いがないだろう。
「下手なゲームでもそうはならんわ。お前の居酒屋では、クトゥルフの刺身とか提供してんのかよ」
さっきから何を言ってるんだろうか、この刑事さんは。クトゥルフってなんのことだ。これだから専門職はダメなんだ。全く説明するつもりがない。
本当に賢い人は、誰にでも伝わるように説明ができるというのに。きっとこの刑事さんは、どっちかと言うと脳筋の類なんだろう。
「というか、この場合、そんな僕を取り調べてる刑事さんのほうが、怪しい気がする。公安?」
「生活安全係だバカ野郎」