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記録:6

 「あの男、指名手配犯だったのか」


 ルマと共に家に戻り、指名手配の事を伝えた。


勝手に外に出た事を叱られそうになったが、それ以上の驚きだ。

褒めるべきか、と黒夜は悩んでいる。


「リユウ、お前ってそーいう所あるよな」


 確か探偵事務所を立ち上げた時もそんなんじゃなかったか?

と言う黒夜は苦笑しながら淹れなおしたお茶を飲んでいる。

怒るのは諦めたようだ。


「あぁ。確か埋蔵金を掘り当てたんだったかな」


 黒夜は以前リユウの通帳を見せてもらった事がある。

そこにはフリーター同然の男が持てる以上の金額があった。

少なくとも銀座の一等地は軽々買えたはずだ。


「まぁ今回もラッキーだったのだよ。情けは人の為ならずだね」


 黒夜からお茶を受け取る。

良い温度で淹れられたそれは緑茶に近しい味がする。


「俺が懸賞金受け取りに行ってくる。リユウはここにいてくれ」


 勝手に外に出た事を根に持っているのか、決定だと言わんばかりにお茶を片しに行った。

リユウは反論もできないのでうなだれる。


「ならランポは暇になるわね。私が魔法を教えてあげるわよ」


 留守番か、と少し拗ねていたリユウの目が輝き始める。

せっかく異世界に来たのだ、それっぽい事を満喫しておきたい。


「よろしく頼んだよ白露クン!」


 途端に生き生きしたリユウに黒夜は笑うしかない。

現金な奴だな。なんて思いながら出かける準備をする。

早めに受け取っておくに越したことはないだろう。



 ルネにリユウを任せて家を出る。


エルフに何を教えられているか不安しかないが、こればかりは仕方ない。

何故か問題ばかり引き寄せるリユウを街に連れて行くよりはマシだろう。


 ルマに教えてもらった通りに行くと冒険者ギルドが見えてくる。

さっさと受け取って帰ろう、と足を速めたその時。


「おい、そこのお前」


 フードを被った男に腕を掴まれた。

何処から現れたのか分からないが、怪しい雰囲気が漂っている。


「悪いがコレを街外れにある家の女性に渡してくれないか」


 押し付けられるように渡された麻袋。

揺れるたびにジャラジャラと音がするそれは裏取引きを彷彿とさせる。


「犯罪の片棒を担ぐわけねぇだろ。失せろ」


 黒夜が袋を突き返すとその衝撃で男が尻もちをついた。

悪いことをしたかと少し罪悪感が湧く。

しかし怪しい者に手を貸して痛い目を見るのは勘弁してほしい。


「ま、待ってくれッ、怪しい物じゃない!」


 そう言って袋の中身を見せる男。


「あ?邪気避けじゃねぇか」


 この世界には魔法が使える代わりに邪気という身体に影響を及ぼすものが存在する。

男が渡してきたのはその邪気の影響を緩和する、薬のようなものだ。


「俺は、ここから動けない。頼ま、れてくれないか」


 息も絶え絶えに袋を渡そうとしてくる男に違和感を覚える。

よく見れば男は腹に傷を負っているようだ。

それもかなりの重症のようで、血がしたたり落ちている。


 黒夜は急いで男の腹を押さえる。

気休めにしかならないが、しないよりマシだろう。


「おい、」


 男が何か言おうとするが、これ以上喋るなと言わんばかりに睨む。


「じっとしてろよ」


 なるべく人目につかないように端の方に寄ってから救急箱を取り出す。

リユウがケガした時用にと常に持っていたのだ。


 黒夜は素早く的確に手当てを済ませる。

応急処置しかできないが、出血は止まったようだ。



「すまない、助かった」


 しっかりと水分を取らせてから立たせる。

だいぶ回復してきたようで、先程よりも顔色がいい。


「ただ応急手当をしただけだ。早く病院にでも行くんだな」


 ぶっきらぼうに答える黒夜。

いつもリユウに向けてお礼を言われることが多かったからか、慣れていないのだ。


 男が持つ袋を見つめる。

確かここから街はずれまではかなり距離がある。

このケガで移動するのは酷だろう。


 黒夜はため息を吐く。

そして男から荒々しく袋を奪い取った。


「しょうがねぇな、持ってってやるよ」


 男は嬉しそうに感謝を述べた。

けどな、と黒夜は胸を張って続ける。


「俺は探偵なんでね。依頼料はいただくぜ」


 誰かさんとは違って俺は優しくないんでね。

そう言うと少し考えた後、懐から契約書とペンを取り出し男に渡す。


「はい。依頼料はこれな。契約書にもサインしてもらおうか」


 そこに書かれている内容に男は目を見開いた。


「お、おい、依頼料ってこんなことで良いのか?」


「あぁ、生憎金には困ってないんでね」





 黒夜は懸賞金を受け取り、ルネの家に戻った。

予想以上の金額に腰が引けたが、しばらくは働かなくても済むだろう。


 大した値のついた指名手配犯に攫われていたらルマはどうなっていたか。

あの時ルマを助けようとする気が無かった黒夜は罪悪感を覚える。


改めてリユウの勘の良さに敬意を感じた。


「あ、おかえりなさい」


 家の前でルマが花に水をやっていた所に出くわした。

少し気まずく思いながらもリユウの居場所を尋ねる。

どうやらリユウはルネと共に森の方へ行ったらしい。


 ルマにお礼を言ってから森へ向かう。

地響きがする方へと近づくと、ルネがお手本とばかりに火球を放っていた。


「いい?魔法はイメージが大事なのよ」


 リユウが手を前に突き出し、集中する。

すると先程のルネの火球と同じくらいのものがはじけ飛んだ。


黒夜の方にも飛んできたが、何とか避ける。


「おい、あぶねぇだろ!」


 怒りながら二人に近づく。


「お前はいつも怒ってるわね。老けるわよ」


 ルネの嫌味に黒夜は青筋を立てる。

しかし反論はしなかった。

ここで言い争ってもまたリユウが何処かへ行ってしまうだけだと踏みとどまったのだ。


「リユウ、金は受け取ってきたぜ」


 リユウにお小遣いとしていくらか渡しておく。

いざという時のための分はポーチに忍ばせておいた。


「ん?その袋はなんだね?」


 材質が違うようだけれど、と薬の入った袋を触るリユウ。

目ざといな、と思いつつ先程の出来事を話した。


 するとリユウの目は再び輝きだす。


「僕も勿論行くのだよ!早速準備をしなくては!」


 飛び出して行ってしまったリユウを片目にルネは袋の中身を確認する。

怪しい物ではないと分かったからかその目付きは軟化している。


「邪気避けをわざわざ飲まなきゃいけないくらいの人なら噂になると思うのだけれど」


 この世界は主に魔族が住む区画と人間の住む区画が分けられている。

人間の住むこの国はそこまで邪気が濃いわけではない。

それなのに邪気避けを飲むという事は相当体が弱いのだろう。


「俺はただ頼まれただけだ。詳しくは知らねーよ」


 これ以上ルネに関わらせるつもりはないのか袋を懐に仕舞う。

あまり素性を探ろうとするのは良くない。


 あまり詳しくは聞かず、ただ依頼をこなすだけ。

その心持ちでいないと探偵の仕事は務まらないだろう。


しかし、そのせいで犯罪に巻き込まれることも少なくはない。

そういう時はリユウの勘に頼るのが黒夜のやり方だ。


 リユウが大丈夫と判断したから大丈夫。

探偵と名乗ってはいるが、黒夜はあくまでリユウの助手のような立場なのだ。


「あまりランポを危険に晒すんじゃないわよ」


 ルネの厳しい視線を黒夜は軽くあしらう。


「リユウのやりたいことに付き合うのが俺の楽しみなんだよ」


 難しい話だな。と黒夜は笑った。

準備が終わったのかリユウが家の近くで手を振っている。


「白露クン!早く行くのだよ!」

「分かってるよ。今行く」


 黒夜はルネにお礼だと帰り道に買っておいたスイーツを渡す。

目的は果たした、と振り返る事無く走り出す黒夜。


 目指すは街はずれにある一軒の民家だ。


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