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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

前世の娘が不遇な立場になっていた

作者: 高月水都

恋愛にしたかったけど、無理だった。

「頼む…アルフ……レッド。エラーナを……エラーナを……」

 骨と皮だけになってしまった自分の腕を必死に持ち上げて、弟に縋る。


「任せてください。兄さん」

 腕を握ってくれた感触は辛うじて感じ取れた。だから、エラーナ()を託した。


 弟なら娘を幸せにしてくれると信じて……。





「どういうことだっ!?」

「どうしましたっ。ディナスさま」

 馬車に乗って出かけている途中にその信じられない光景を目の当たりにして、思わず叫んでしまったのを心配した侍女が声を掛けてくる。


「にゃ、にゃんでもにゃいっ!!」

 舌ったらずの口調でな行とさ行が上手く発音できない。それが恥ずかしく思えるが幼児だから仕方ないと必死に言い聞かせる。

 

 わたしの名前は、ディナス・アルテ・マーキュリ-。マーキュリー公爵家の三男だ。だが、私には前世の記憶があり、その時の名前はキリア・ベルディ。………侯爵だった。


 私には、目の中に入れても痛くない可愛い愛娘が居たのだが、そんな愛娘を残して病気で亡くなったという記憶があった。

 残していく自分が悔しくて、娘の幸せを祈って、爵位を代理で弟に任せて、娘も託したのだが、

「にゃんで、エラーにゃがちたばたらきのかっこちてるんだ……」

 亡くなってすぐに別の人間として新たな人生を歩むと思わなかったがそれに驚いたし、まさか、交友関係のあったマーキュリー公爵家の子供で生まれるとは思わなかった。


(前世、夫人が妊娠されたと聞いてお祝いの品を贈ったが、その子供が自分になるなんて……)

 いや、そんなことはいい。何で、エラーナが下働きの仕事である水汲みをしているのを私は柵越しで見ているのだ。エラーナはれっきとした侯爵令嬢で、今は弟が代理だが、あの子が成人したら爵位はエラーナのものになると書類に記載して、王宮に届けを出しているのに。


「にゃんでだ……」

 手入れがされていない髪。手があかぎれでぼろぼろ。腕も足も細く。触れれば折れてしまいそうだ。

 

 どうして、どうしてエラーナが……幸せにしてくれと頼んだはずなのに……。


 蒼白になっていく私を心配して、侍女は屋敷に戻るように声を掛けて馬車は出掛けるのを中断して、屋敷に戻っていく。


「ディナス? どうしたんだ? 出かけたと思ったのに……」

 玄関のところで兄――マーキュリー家の次男であるシュダルと鉢合わせしたと思ったらシュダルはこちらの顔を覗き込み。


「――何があった?」

 私があまりにもひどい顔色をしていたからだろう案じるように告げてくる。


 侍女が馬車での様子を説明をするのを聞きつつ、こちらの様子をじっと見てくるシュダルは私が話せるタイミングになったのを見計らって今度はこちらの話を聞けるように耳を傾ける。


「ぢつは………」

 前世の記憶とかは流石に信じてもらえないので、母の私室に飾ってあった肖像画――前世の妻と今世の母は親友で二人で仲良く絵を描いてもらうほどだった。その描いてもらった絵を私室の目立つところに飾ってあるのを懐かしさと共によく見に行っていたのでそれを引き合いに出して、

「ははうえのちんゆうにそっくりなかたがちたばたらきではたらいていてびっくりしたのでしゅ。がりがりにやちぇて、いまにもたおれそうでしたが……」

 エラーナは亡くなった前世の妻に似ていた。だからそんな説明が出来たのだが、それを聞いてシュダルの表情が険しくなっていく。


「――ディナス。その話、今すぐ母上に報告できるか?」

 シュダルの言葉に頷いて、シュダルと手を繋ぎ母の元に向かう。


 母は私のつたない説明でもしっかり聞いてくれた。そして、母が聞かされていた話は私の前世の娘であるエラーナは私が亡くなった後意気消沈して体調を崩し、領地で療養中だとか。その間、前世の弟であるアルフレッドが代理で侯爵家の業務を行っているとまで聞いていた。


「心配だったけど、領地まで押し掛けるのはと遠慮していたけれど……」

 だけど、私の見たことが事実ならば……。

 母は怒りを顕わにして、シュダルに詳しく調べるように……場合によっては前世の姪(アルフレッドの娘)にハニトラまでしても構わないとまで命じて、その間父の尻を叩いて王宮での書類などを調べられないか働きかけるように伝えていた。


 うん。前世の妻が親友に大事にされているのは知っていたけど、ここまでしっかり動いてくれるとは思わなかった。


(そういえば、妻が生きていたころ。エラーナとマーキュリー公爵家の子息を結婚させたいと妻同士で盛り上がっていたけど、妻が病気で亡くなったのでうやむやになったな)

 少しタイミングがずれていたらシュダルとエラーナが婚約者だったかもしれないのかとしみじみ思ってしまう。


 それにしても、信じて託したのに前世の弟がそんな事をするなどと思っていなかった。私はつくづく人を見る目がないのだなとエラーナを苦しめてしまったきっかけを作ってしまった事実に落ち込んでいる間にも、気が付くとシュダルはエラーナとちょくちょく会っていて、

「素敵な人なんだ。母上の親友の娘さんとは聞いていたけど、中身もそっくりだったのならば母上が好きになるのも理解できる…………」

 と恋に落ちたように報告してくれる。


 父も父でしっかり母に調べろと言われたので調べていたら、前世の私の死因まで調べる羽目になって、前世の私の死因が原因不明の病気ではなく毒だったと判明したとか。


 えっ、前世の弟が爵位欲しさに医者を脅した?

 そんな奴に最愛の娘を託した?


 前世の自分の見る目無さに情けなさを感じる。それで幸せになってもらいたい娘を不幸にしていたなんて……。

 まあ、妻は普通に病死だったのは不幸中の幸いか。これで妻も毒だったら呪っていただろう。


 エラーナは無事に救われて、気が付くとシュダルと親しくなっていて、シュダルが婿入りすることが決まっていた。


「あにうえ。おねえちゃまおめでとうごじゃいます」

 エラーナとシュダルを心から祝福して、二人の幸せを願う。


 前世の父だったことは生涯秘密にするつもりだ。守れなかった父など思いださない方がいいだろう。


「ありがとうディナス」

「ありがとうございますディナスさま」

 微笑んでいる二人が、たまに、

「天国にいるお父さまに見せてあげたかった……」

「きっと空から見ているよ」

 などと会話するのに居た堪れないが、


「こんせではひとをみるめをやしなおう……」

 そんなことを誓ったのだ。






 それはそうと、シュダルとエラーナの結婚式で妙に涙ぐんでいる幼女がいるのだが、もしかして……。






何も出来なかった父親が転生していたら面白いと思ったので(笑)

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― 新着の感想 ―
主人公の口調があまりにも不自然すぎて、読むのがしんどかったです。 総ひらがななのも舌足らずなのも幼さの表現として機能していますが、微笑ましさよりも読みづらさが勝ちました。
文章の性質上仕方ないのでしょうが、子供のセリフが前編ひらがな、かつ舌足らずであるため何言ってるのかわかりづらく複数回読み直してしまいました。 ルビ使うとかカッコ書きにするとかで、なんて言ってるのかわ…
人の好い夫婦だったのだろうな。 弟の野心を見抜いていたら生前に妻なり周囲なりがそれとなく苦言していたかもしれないし、再度調べるまで毒の存在を疑われなかったのなら、それなりに弟が皮をかぶるのが上手かった…
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