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004.鑑定(1)

 柚希は美羽が水を飲んでいるのをじっと見詰める。


 そう言えば、喉が渇いた時、水は先川で飲んだことがあるけれど、食事は異世界に入ってから一度もしていない。


 楽指の村を出た時から空腹状態がずっと続いていたから、情報収集より、今は食事がしたい。


 情報収集ばかり考えて、日常問題はまだ解決していないことにようやく気付いた柚希は、仕方がないから、目の前の少女に頼んでみた。


「はい!」

 柚希は手を挙げる。


「何かね? 柚希君」

 眼鏡をかけていないのに、美羽は眼鏡をずり上げるような仕草をする。

 楽しそうだな、こいつ。


 初対面の人でも馴れ馴れしくしてくれる女の子は、正直嫌いではない。子供だから、そういう表現もたぶん、普通に属しているのだろう。


「水が飲みたい!! ご飯も食べたい!!」

 厚かましく強請る柚希。

 こいつも子供である。


 急に食事の請求をされて、相手は呆れるだろうと思ったが、美羽はそういう反応を見せなかった。


「仕方のない人ね。私がいないとだめなのです」

 彼女がふんふんと得意げに鼻を鳴らす。


「お前の言う通りだな」


「中途半端に助けるのも助けにはならないのです。これは仕方がないのです。ほれ、干し肉がありますのですぞ。水なら外で井戸水を汲めばいいのです」

 彼女は下の木箱から干し肉を取り出した。


 それは何の干し肉か、見た目から判断できない。


 というより、非常食の感じだ。

 部屋中にはそういう箱が何個もある。まさかすべての箱の中身は全部非常食なんて言わないよね……

 あれ、もしかして美羽さんは引きこもり?


 廃墟で引きこもりって、柚希のレベルではちょっと理解しがたいものがある。

 柚希はまず料理がうまい、それは相当にうまい、自分の食生活は料理の腕で解決できるので、料理のない生活はまず考えられないのだ。


「ありがとう」

 ご飯を作る気はないようだ。

 干し肉だけ食べさせるとは、なかなか面白いやつだ。


 干し肉だけじゃ、まだ足りないけれど、つべこべ言うことはできない。


「一応台所があるけれど、私は料理ができないから、普段は使っていません……」


 聞いた話では、彼女の普段の食事は、楽指でインスタント食品の方を購入して解決するか、猟をし、外でバーベキューをして解決するかの二択だそうだ。


 魔法使いの美羽は、猟をすることもできる。


 魔法を使って猟をするって、かなり便利なものじゃないか。

 柚希は魔法が使えないから、猟をすると言えば精々釣りくらいの手伝いしかできない。獣トラップを作ることも一応できるけれど、食生活に支障が出るから毎日作らないといけないのも嫌になってしまう。

 原始的な生活は最初は刺激感があって面白味もあるが、その刺激も次第に蒼白な現実となって、うんざりになるに違いない。


 そもそも現代社会の一般人がいきなり異世界に放り込まれて本当に生きていけるのかすら疑わしい。

 その考慮もあって、転生物語を書く時、チートスキルとか、間抜けな神様が間違って転移させちゃって謝りとして色んな恵みやアイテムを送るとか、そういう設定にしがちなのだ。


 チートスキルか、そんな別世界の転移者に甘々な授かりは柚希にはないみたい。それこそが夢見がちなのだろう。


 台所があるということは、調味料があれば、今すぐ料理できるではなかろうか。

 せめて感謝としての料理を作ってあげたい。


「不摂生はダメじゃないか。お前、一人で住んでいるなら一応料理のスキルも習得しないと……」

 柚希は干し肉を齧りながら、日常会話をする気持ちで言った。

 干し肉がちょっと硬い。


 美羽は急に立ち上がる。

 なぜか怒っている。


「もう、何なんですの? 貴方、先からずっと、私のことをお前、お前と呼ぶじゃないのです? 年上になんの口のきき方でございますの? 私ですら敬語を使っているのに~……」

 カッと怒る美羽は、柚希に指差すと、言った。


 柚希は、肉を齧るのをやめる。

「ご、ごめん。確かに初対面の人にその呼び方はまずいよね」


「敬語も使いなさいのです。私は年上なのですよ。今年はもう十一歳ですから」


 十一歳? って、年下じゃねえか。


「ぅえ? でもぼく、十二歳よ。」

 自分は相手より背が低いから、何も言えない。


 柚希の身体は本当の年齢より二三歳下に見えるので、知らない人によく勘違いされる。


「私を馬鹿にしているのです? どう見ても貴方は十歳児よ」

「十二歳だよ、もうすぐ十三歳になる」

「年上の人には、敬語を使いなさいのです!」

「はい、すみません……」

 威圧に負けて、柚希は頭を下げる。

 確かに命の恩人に対するリスペクトはないと言われたらそうかもしれないが、柚希は敬語を使う機会は、そんなに多くないので、敬語の付け方はかなり下手だ。

 まあ、美羽も変な付け方をしているし、ここはどっこいどっこいか。


 最初出会った時は、かなり頼もしい人だと思っていたけれど、こう見ると彼女も割かし子供っぽいところがあるではないか。

 いや、子供っぽいではなく本物の子供だった。


「鑑定術は人の年齢が鑑定できないから、残念ですわ」

「鑑定術?」

「ステータスが見れるじゃぞ。貴方と出会った時はもう使っていますのです。柚希の個人情報は丸見えなのですよ。ガッハッハッ」

 言って彼女は馬鹿でかい声で笑う。


 どうやら美羽は『鑑定術』の魔法が使えるらしい。


『鑑定術』は、簡単に言えば、人の個人情報を文字や数字に転換し表す魔法のことだ。

 美羽の鑑定術は、鑑定対象に関する四つの情報しか表示されない。

 それぞれは、名前、性別、人種、よく使う異能、の四つの項目である。


 鑑定術の魔法は、術式の構成が難しい原因で、魔力の操縦に長じる人しか構築できない。


 魔法を使って、人の情報を文字で表すことは、どう考えても至難の業だ。

 そんなものより、殺傷力抜群の極大火炎魔法など、そういう物々しい名前の魔法の方が格好よくてより難しいと思う人もいるかもしれないが、ものを創ることと破壊することのどちらが難しいか、それは言わずもがな「創る」の方だ。

 特に魔法で文字を創るという繊細な注文は、できない人にはどうしてもできないのだ。


 それはともかく、美羽は鑑定術を使って、鑑定の結果を相手に見せることもできる。


 例えば美羽のステータス:

【名前:葉桜美羽】

【性別:女性】

【人種:フロネシス人】

【よく使う異能:魔法】


 そのステータスは、映写機の画面みたいに相手に見せることができる。

 原理を言うと。つまり、科学的に光の粒子を、鏡文字の形にして、相手の網膜の表面に打ち込むことだ。

 もちろん物理的ではなく、魔法で実現するのだが……


「自分の秘密をうまく隠しているつもりじゃありませんか? だが残念、私は貴方の秘密を直接に見ることができますのです」

「ぼくの秘密?! そ、それは別として、ぼくのプライバシーはないのか?!?!」

「貴方の来歴は不明なのです。調べないわけには行きませんのです。仕方ないのです」


 道理で最初から柚希はフロネシス人って知っているわけだ。

 なるほど、鑑定されたか。


 鑑定術があれば、今日の運勢が鑑定できるのかね。

 今日は大凶だったらお出かけが怖くてできなくなる。大吉だったらいいことが起こるかもしれないよね。


 柚希は鑑定術に対する理解は、どうやらズレがあるようだ。


「でも、ぼくは何も隠し事をしていないよ……。鑑定しても一般人としか表示されていないと思うが?」

「またまた~、そんな無神経な嘘は女の子にモテませんよ。私は貴方のことを結構気に入っていますから、期待外れの嘘は聞きたくないのですわ☆!!」

「さてとね」

「自分のステータスは自分で見るのです。はら、『鑑定』」

 美羽は手を柚希の方へ伸ばし、早くも鑑定術を使う。



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