アメリスの目覚め
静寂の中、アメリスはゆっくりと目を覚ました。瞼の裏に残る暗闇が、夢か現実かの境界を曖昧にしている。彼女の体は石のように重く、手足はしびれていた。それでも不思議な感覚が彼女を包んでいる。自分がどこにいるのか、なぜここにいるのか、全く思い出せない。ただ目覚めた時の微かな不安だけが心に残っていた。
起き上がろうとするが力が入らない。視界には光が差し込まず、暗い空間が広がっていた。石の冷たさが皮膚に伝わり、まるで自分が鉱石の中に閉じ込められているような感覚だった。彼女は自身の体を確認しようと手を動かすがその感覚すら曖昧だ。
「私は……誰?」
声に出してみたが答えは返ってこない。失われた記憶が心にぽっかりと穴を開けている。過去の記憶がぼんやりと霞んでいるが、何か重要なものを忘れてしまった感覚が胸を締め付ける。
しばらくして、柔らかな声がどこからか聞こえてきた。
「アメリス……起きて。もう大丈夫だよ、ここは安全な場所だから。」
その声はまるで子供が囁くように優しく、温かかった。ぼんやりと意識が戻る中で、彼女はその言葉に導かれるようにゆっくりと目を開けた。
「……あなた、誰?」
アメリスは混乱したまま尋ねた。小さな鉱獣の姿をした生き物が、ふわっと浮かび上がってアメリスのそばに近づく。「私はシトラ。ここで、ずっと君を守ってたんだよ!」と明るい声で答える。
「シトラ……?」アメリスはその名前に聞き覚えはなかったが、何故か安心感を覚えた。
「ここはね、アメリスがずーっと寝てた場所だよ。でも、もう大丈夫。安心してね!」シトラは、体をふわりと揺らし、まるで嬉しそうにアメリスに寄り添った。
「アメリス……それが私の名前?」彼女は一瞬戸惑いながらも、その名前が不思議と自分の中にしっくりくるのを感じた。「本当に……大丈夫なの?」
不安げに尋ねるアメリスに、シトラは小さく浮き上がりながら「うん、シトラがちゃんと守ってるから平気だよ!」と無邪気に返す。その可愛らしい態度に、アメリスは少しだけ心が軽くなった。
しかし、遠くから風の音が聞こえてきたとき、シトラは一瞬真剣な表情を見せ声を落として言った。「でも……なんか変な感じ。何か、起こりそうな気がする……」
アメリスの心には未だに不安が残っていた。自分は何者なのか?なぜこんな場所で目覚めたのか?次々と胸に浮かぶ問いに答えは見つからない。しかし、今はそのすべてに向き合う力がなく、ただシトラのそばに身を任せるしかなかった。
遠くから風が吹き荒れる音が聞こえていた。異変は確実に始まっている。世界が少しずつ、何かを変え始めている感覚。それを感じ取るアメリスだったが、その原因を知る術はまだなかった。