鍵のかかった箱
口唇口蓋裂という病気を知っている?俗名「兎口」。私はこの病気で生まれてきた。
病気だから可哀想?
見た目が変だから気持ち悪い?
私は生まれて来て良かったの?
私の心の奥深くには箱がある。何重もの鍵をかけて、絶対に開かないようにしている箱がある。箱には、幼少期に浴びせられた「心ない言葉の数々」、人前で流さなかった「涙」、そして…「現実」を閉じ込めている。
私は写真が大嫌いだ。
写真は、かけたはずの鍵をいとも簡単に開け、「現実」を私に見せてくる。
不意に撮られた私の顔は、ねじ曲がっていて、明らかに変なのだ。
そう。そうなのだ。
解っているんだ。
私の顔は、人とは違うのだ。
そう思いながら生きていくのは辛すぎた。
だから思春期を迎えた頃から私は、「現実」の自分の顔を認識しないように、箱に閉じ込めたのだ。
それよりも前は。
幼稚園から小学生の低学年頃までか…。
自分の顔が人と違うことに気がついていなかった。
なぜか男子から、バイ菌、汚い、伝染ると言われ、お前の顔〜っと言って、はねじ曲がった顔をみせつけて笑われた。私は男子から嫌われていた。
何故こんなことを言われないといけないのか解らず、悲しくて涙を流せば、さらに相手の思うツボで、悪口はヒートアップしたのだった。ブスが伝染る〜…と。
だから私は「涙」を箱の中に閉じ込めた。もう泣かないと決め、悪口を言う奴らと闘うことにした。
いつもの様に悪口を言ってくる男子には、負けずに言い返し、時には、取っ組み合いのケンカもした。
体が大きかった私は、低学年頃までは男子よりも力が強かった。悪口を言ってきた奴らは、力で負かして黙らせた。もう涙を流すことはなくなった。私は自分で「私」を守ったのだ。だけど、守るために常に殺気立っていたので、高学年になり、違う意味で嫌われてしまった。
あの子、いつも怒ってるよね。
なんか怖い。
今度は、女子が避けていったのだ。
私はクラスで、真の「嫌われ者」になっていた。