偽りの王妃は自らの想いをひた隠す
わたくしの爪はもうぼろぼろでしょう。もっとも、わたくしはそのマニュキアの出来栄えを見ることも叶わぬ、ゑづきたくなるほどの匂い溢れる汚水の中、旅の騎士に手を取られていずこと知らぬ更なる闇にもたれる足をすすめているのですが。
「王妃様。気を確かに」
彼は私をかように呼びます。
彼は騎士を名乗りましたが田舎郷士でしょう。
己の国の王や王妃の名前すら存じないのですから。
とはいえわたくし。いえ私などは王妃どころかもと奴隷に過ぎないのです。
汚水をかき分ける靴は重く歩きにくく、華麗なドレスはもはや何色かもわからないまま脚に絡みつき幾度も転びかけます。
腐臭に咽せ、肺腑を焼くような汚物のにおいに舌は麻痺しそうです。
「王妃様。もう少しで抜けます。堪えてくださいませ」
ハンカチをいただきました。使わせてもらいます。
「ありがとうございます」
ーーどうしてこうなったのかなあ。
奴隷から侯爵家の陪臣の養女になり主家の命によって主家の一の姫さまのご学友となられるはずの子爵家ご令嬢のおつきとして仕える身になって。
私のことよりマリア様は無事逃げられたのかな。
傲慢さは隠せないものの感情的でそういうところがかわいい主人でございました。
彼女の方が歳上なので面と向かって口にすれば打擲されても仕方ないですけど、本当に私にとっては好きなひとだったのです。
信じられないですよね。
でも私もあの方のどこがいいのかさっぱりわからないのです。
マリア様は子爵家ご令嬢でした。
王妃様なんて。ね。
私を拾ってくれた陪臣家の主家である侯爵家の一の姫様ならば王妃となる可能性がありましたが彼の方もおそらく生きてはいませんね。
そしてお二人の学友である太陽王国の亡命貴族である伯爵家のお嬢様も。
私のお嬢様は意地っ張りで自分の話を聞かせるためにはどのようなご身分のかたあいてでも話の腰も折らずにはいられず、本などは黄表紙すら読まず、プライベートではだらしなく、教科書には落書きだらけ。
自ら育てた愛犬のアスタリアンや鷹のフィリアス、馬のオスカーを華麗に操り、動物には人間相手以上に慈悲深く接し。
筆を取ればとても素敵な笑顔を浮かべながら誰よりも素晴らしい絵を描き。
銃を華麗に操り乗馬靴を履いてドレスの下に乗馬ズボンをまとい、馬術競技や園遊会の狐狩では高齢の旦那様に代わり郎党を率い他家を圧倒する。
かっこよくて離れられない、私にとってだいすきな姫さまです。
だいすきな姫さまでした。
ええ。他の郎党は皆。
わかるでしょう。
おつきに過ぎない私がドレスを着てこのような下水の中を駆けているのですから。
侯爵家の一の姫様が王太子に公の場で侮辱され婚約破棄だとか妄言を吐かれたそうですが、侯爵家についてきた子爵家も保護下にあった伯爵家も。
お嬢様は『あんな奴の取り巻きなんかやっていてイライラしていたしせいせいした』とおっしゃっていましたが、その方は私の主家のお姫様でもあるので『ごめん。でもあなたをくれたのは感謝している』とだけ言ってくださいました。
「侯爵の陪臣家に帰りなさい。
お父様は明日をも知らぬ身です。
よく仕えてくれたわカナエ」
私のお嬢様は、私にとってどこかの国としれぬ王妃様よりお姫様より好きなひとです。
でもこのようなお優しいことばなど今の今まで一度も。
「本来の主家に戻りなさいよ。子爵家はもうおしまい。見てわからないの。陪臣家にはあなたの姉分のミカもいる。なんとかなるわあんたみたいな弱虫ひとり裏切り者のうちとは関係ないもの」
私はゆっくりと首を振ろうとします。
いえふれません。ふれるはずがありません。
ただ徐々に早口になっていく主人の声をきくのです。
「やっぱりあんたは粗忽ね。粗忽なだけでなくバカなのよ。ぐずの鈍間の頓馬。この際どこでもいいから私の前から消えなさいよ」
マリア様。私は今覚悟を決めました。
「私の大切なティーセットとかお母様の肖像画とか絨毯とかほんと色々やらかしてくれたあんたと離れられて……せいせいするわ!」
私の行動は本当ならば許されることではないでしょう。
彼女は幼い頃から母親を知らず高齢の父のみを頼りに生きてきたと伺っております。
私も、両親を知りません。
でも侯爵家の陪臣家に迎えられて、家族というものを知りました。
思ったよりずっとずっと厄介で、騒がしく、乱暴で。優しい人たちを。
産地と用途と製造番号と製造日と◾️◾️期限しかない『K.(ed) No.a36947Bf. D.C.P.E.I:25/10/145 I.G.D.P:25/10/115』にカナエという名前を与えてくれ妹と呼び娘と呼んでくれた人たちを。
きっと彼ら彼女たちならこうするでしょうから。
私もそのようにします。お許しくださいお嬢様。
私はくずおれて嘆く彼女の肩を抱きしめたのです。
銃をとり颯爽と馬を駆る彼女の肩は私が想像した以上に細く軽く優しいものと知りました。
「どこまでもお供します」
「バカなの。主人の言葉も理解できないの。あなた王国帝国共通語は話せて。
あなた銃も使えないし、馬だってほとんど乗れないじゃない。所詮もとは帝国の奴隷ね。私のように自由を愛する冒険者の気骨をも持ち合わせている高貴な旧家のものとは違うのよ。バカ。アホ。トンマ……」
「ええ。私はあまり賢くないですから」
彼女はその腕を私のうなじに伸ばします。
掴まれた髪が痛くて苦しくてそれがとても愛おしくて。
母を知らない子供同士。
赤子のように嘆く彼女をお慰めできるなら私は悪魔にだって身を捧げてみせます。
地獄の釜にだって焼かれてみせます。
「私がもし、伯爵家に仕えるカリナならもっと学があります。
侯爵家のミカならどんな時でもお嬢様のお助けとなるでしょう。
幾たびも『ミカを頂戴』とお嬢様がおっしゃるたびに私自身がそう思いました。私なんて役立たずで無能で頓馬でバカで」
「そんなこと今までひとことも言ってないわよバカナエ!」
ほんと、このかたは人の話を遮るのがお好きなのです。言を翻すなど茶飯事でして。
知らなかったとはいえ国王陛下のお話を遮ったり(※陛下は寛大にも呵々大笑してお許しになったそうですが)、学園長の長話に大欠伸を放ったという中傷はおそらく真実でしょう。
「でも、そのバカナエはあなたといたいのです。
私は嬉しいのですよ。
姉になってくれた、お嬢様が幾度も欲しかった有能なミカでも。
知恵者のカリナでもない。
他でもない私だからこそあなたと一緒にいたいのです」
お分かりになりますか。私の拙い帝国王国共通語はお嬢様に届いていますか。それとも太陽王国語や太陽王国手話でならばご理解できるでしょうか。
学業嫌いでプライベートでは怠惰で下着姿でソファに伏せ寝したまま変な絵ばかり描いて異端審問官に睨まれ、婚約者には幾度も絵筆を折られ画材を燃やされているお嬢様。
そんな苦難にもめげずに変な絵ばかり描いていたのにある日からしばしの時間をとって『失敗作』『練習。モデルになる名誉をあげるわ。仕事がサボれるから感謝しなさい。代わりのものは呼ばないけどざまあ』などとおっしゃいつつやけに時間をかけてまともに見える絵を一枚私に描いてくださいました。
その絵を、私の見る限り粗末に見えて一番良い額縁に収まった、私が笑っているだけのそのだいすきな絵を。
引き裂く音。
砕ける木の匂い。
燃える油絵のガスの味。
「これでせいせいした。侯爵家にも媚を売らなくていいし、あんたみたいな役立たずを可愛がる必要もない。こんなゴミを大事にするあなただから。
……ほら腹が立ったでしょう。ぶん殴ってやりたいと思わない。ねえねぇどんな気持ち。バカナエだからわからないのよね。だから。……さっさと出ていけ」
それは素敵な、だいすきな絵でしたが、何気なく人目につかない、絵にとって一番良い場所に飾られていた絵ですが。
それは私ではないですし、私のほんとうに大切な方はあなたが絵筆をとるまでもなく私の瞳に映っていますよ。
「そうですね。修道院に向かうには少々荷物ですから、賢明な判断ですね。さすがお嬢様です」
お嬢様。画材だけは良いものを持ちましょう。
修道院に着いたらまた描いてくださいね。
そうして私たちは旅に出ました。
郎党たちには暇を出しお嬢様が奮発したので一人去り二人去り。
家財ももはや意味がないとお嬢様はおっしゃると、もはや屍肉にたかる虫か蜘蛛の子を散らすかのように。
「少しでも村の人たちに還元できたかしら。
まぁ散々こき使ってやったからね。私だってたまには徳を積むのよ。なに。みんなどうして笑っているの」
村の皆様豪快に持ち出していきましたからね。
ええ、もう笑えるくらい。
「いい? 私は高貴な旧家にしてしかも自由なる冒険者の誇りをも併せ持つ『黒き針』ケイブルの末裔よ。あんたたちごときに笑われる言われは……うふふ。あははは」
わたしたちは主従の区別もなくこれほど笑ったことはございません。
「お父様。さようなら」
「地獄で会おう。我らは『黒き針』ゆえに」
侯爵家への裏切りは苛烈な復讐を受けると聞きます。
余命いくばくもなき旦那様と今生の別れをしてお嬢様は何事もなかったように村を出ました。
「いきましょう。この村はもう我らとは無関係です」
この時私のように残ったわずかなものもまた。
ここではあえて記しません。
武門と呼ばれしケイブルももはやここまで。
意外にも私はお嬢様と最後までお供できました。
お嬢様が自ら銃を取り、愛鷹フィリアスを猟犬アスタリオンを失い私たちを運んでくれた名馬オスカーまで失いながら庇ってくださったからですが。
「お嬢様。徳を積んでくださいな」
追手迫る中、私はお嬢様に最後のお願いをします。
すごく不遜なお願いを幾度したことでしょう。
幾度も許されない失敗を重ねたことでしょう。
でもこれで最後です。
お嬢様たちが学園の丘の上、花畑の香りの中戯れるすがたを眺めながらわたしの中に湧いてきた夢を、希望を。友であるミカとカリナに語ったこと。
お嬢様たちのようにいつか素敵なドレスをミカとカリナとの親友三人で身にまとい、素敵なパーティーに行けたら良いなと。
「わたくし、一度で良いからお嬢様方のような素敵なドレスを着てみたかったのです」
「これ? これでいいの?」
ええ。それでいいのです。
それだからこそ今の私には良いのです。
「これ、子爵家格のむすめが普段着として使い回しする粗末なものよ。おまけにぼろぼろで。
こんなのいやよ。あなたに着せられない。私の恥よ」
「最高のお姫様のドレスです。無相応で不遜でしょう。そしてずいぶんわきまえないことを言いますよね。でもお嬢様はとても寛容な方です。大切な母君、奥様の肖像画を破ってしまった私をお許しくださいましたもの。ほらお嬢様追手がきます。徳を積んでください。哀れな奴隷のむすめの最後のお願いを叶えてください」
お嬢様のドレスと私の召物は交換されました。
間に合わせの化粧でも背格好は似ています。
「できたわ。鏡見てよ。傑作よ。大笑いしてあげる」
ひひっ。お嬢様は口の端を少し動かすことしかできず。
彼女の瞳の奥の私は流れてしまいます。
「行って。
何しているの。
あんたが行かなきゃ私が暗殺者に捕まるでしょう。バカナ……いえ。カナエ。
最後までありがとう。私は幸せよ。
最後に徳まで積ませてくれて……ごめんなさい」
これこそ最高に素敵なわたくしのお姫様のドレスです。
お嬢様見てください。
泣いていてはわかりませんよしっかりしてください。
ゆっくり一周し、最後のコロンの香りをまとい、しゃらしゃらと鳴るアクセサリーの音と輝きにこころよせ。
綺麗ですかお嬢様。あなたのカナエは。
「一度で良いからお嬢様方のような素敵なドレスを着てみたかった」
「綺麗よ。私のカナエはお姫様どころか王妃様にだって負けない。そんなの当たり前でしょう」
「行ってくださいましお嬢様!」
お嬢様。私は卑しい生まれ。
駆けっこなら……得意です。
まだ、走れます。どこまでも。
■■品であるわたしは健康だけが取り柄。
どこまでだって走っていけます。
どこまでも歩いていけます。
どこまでも。どこまでも。ーー
「お気を取り戻しましたか王妃様」
髪に編み込まれたアクセサリーは今は重くて。
でも先程ほど臭いはしません。
川辺にて私は寝ておりました。
マントが敷いてありますが先程まで下水の中にあったもの。洗ってはいますがお察しです。
「ここは」
「なんとか撒きました」
お嬢様。ごめんなさい。
この人イケメンってやつです。
焚き火で濡れた服を乾かし、鎧下姿になった彼は「とにかく服を乾かしましょう。替えは近くの村で調達しますが……農夫の召物になります」と告げてきます。
別に全く構いませんが、いくら汚水にまみれてもお嬢様のドレスを脱ぐのは惜しいです。せめて指輪ひとつだけでも。
しかしこれらは明らかに私たちの命とりです。
持ち歩くにせよ売って路銀にするにせよたちまち暗殺者の知るところとなるでしょう。
私はお嬢様が大切にしていた奥様の指輪だけを紐に通して首にさげ、胸の谷間の奥にしまいます。
粗末な着物を『調達』したという自称自由騎士の彼のいうまま袖を通しました。
最近の農夫はいい服を着ています。
木繊維のずた袋もどきではないですし。
私がミカのように器用ならばスカートのようにアレンジできたかも。
いえいえ私は不器用で容姿も他と同じ、健康だけが取り柄の■■品ですからそのような特技はありません。
それに王妃様というものは刺繍は楽しまれたとしても召物の手縫いはしないでしょう。
この方は私から何を見てか王妃様だと勘違いしているのです。
暗殺者どもに追い詰められた縁もゆかりもない私を助けてくれました。
暗殺者の仲間かしら。ひょっとしたら頭のどこかに狂気の精霊が宿っているのかもしれませんが。
「私は郷士にすぎません。先ほどは嘘をつきました許してください」
あら。許すも何も私だって奴隷あがりですよ。
私はこの戯れに乗る気になってしまいました。
思えばこの罪深きことの始まりです。
「剣を」
「はい」
捧げられた剣を抜き。
陪臣家で使う曲刀とは勝手異なりますが使えないほどでもないです。
小川のせせらぎ風の香り。
森の木漏れ日さすその広場で。
私はゆっくりと彼の肩をそのつるぎで叩き、告げます。
「なんじは今より騎士である。励め」
「御意」
私は彼と旅をすることになりました。
騎士道だのは幻想で、郷士は乱暴もの。
私のような小娘(まだ数えで16です)など瞬く間に手籠にされいいように使われ路銀にされあるいは酒のツマミ代わりに。
などということは一切ありませんでした。
なんてこった! ミカならそういうでしょう。
カリナなら妄想はそこまでとかいうかもです。
私は帝国に滅ぼされた亡国の王妃らしいです。
直近にそのような国あったかしら。
せめて姫さまとかにならないかなあ。
私って人妻には見えないでしょう。カリナはさておき。
でもあの子も数えで18だっけ。人妻感あるよね。私たちの中でいちばん胸あったし。ミカは悪くないというか綺麗だけどだからどうした意味ないわ。
こんな話は私たちにしかわかんないけど。何を考えているのだろう私。旅疲れかしら。
私はなんとか本物の私のお嬢様、マリア様を探そうと試みるのですが、王国国境を抜け太陽王国からも道を逸れ藩都と呼ばれる藩王たちが治める地を転々とする身では思うようにことは運ばず。
何より私を王妃として、王の妻と思い込んでいるらしい彼の態度が変わってしまうのがおそろしいのです。
そういえば私は恋を知りません。
いえたぶんこの殿方に恋をしているかもしれませんがどうやってそれを証明できるのかとんとわかりかねます。
わたくしは星の海にお嬢様のお顔を想い。
お嬢様お嬢様教えてくださいまし。
戀とはなんぞや。
あっ。お嬢様もたぶん存じません。
この自由騎士もまた山賊には先手を取っても恋のいろはは見当つかなさそうです。
なお、いろはとは陪臣家における手習の戯れ歌です。
冒険者の真似事をし、剣士様勇者様と持ち上げられ水車を直し猪を狩り山賊を追払い、たまに現れる帝国の尖兵と呼ばれるバイドゥなる化け物には一歩も引かない。
彼は勇敢で紳士でちょっとかっこいいです。
何かにつけて気遣いいただき、戦いの興奮冷めやらぬまま私の安否を第一に考え駆け寄ってきてくださいます。
殿方の匂いって結構素敵ですね。これは新発見。
彼は剣はとっても人をころしたり縛るのは好まず、本当にいにしえの騎士物語に焦がれて旅に出たのでしょう。
「違いますよ」
「違うのですか」
内心ものすごく驚きましたが、彼の旅のきっかけは彼が夢物語として私に幾たびも語ってくれたユメミルとかいう知らない国の騎士の物語ではないというのです。
「いえ、お話がきっかけなのは間違いないのです。ただ私が憧れたのは勇者ノビィトァニィアではありません。剣士スゥズキャールに扮するのちの女王スゥジュキャリア姫の方です。変ですよね。よく笑われるのです」
い、いえいえぜんぜん!
「地元では怪力の郷士ダイトスや知恵者で弟思いのシュネミィス子爵の方が人気でした。特に子爵家が自らの家名とした『骨の川』国境線を死守した名もなき人々のものがたりは闇曜学校でも教わるのです」
子爵家。武門ですか。
狐狩りをみんなでして、お弁当を食べて。
旦那様はあのお身体をおしてお嬢様の鷹狩りや馬術競技がある日は必ず駆けつけてくださいました。
私はお嬢様専属でしたので接点は薄いもののメイド仲間たち、よく話す侍従たち。愛らしい小姓。陪臣の皆様。
村の人々。みんないい人で。
薪が爆ぜました。
この匂いは好きですが、この暖かいのも好きですが時々驚いてしまいますよね。
確か主家の一の姫さま曰く、薪の中の水気が熱で大きくなって爆ぜるそうです。
「クリ、焼けましたね」
一の姫さまは学問好きと申しますか、知的好奇心旺盛で陪臣家では『また一の姫様がクリイガで目を怪我しかけた』と呆れられるような方でした。
懐かしいです。
「そういえばこの香水山猫ですが」
「はい」
逆さ吊りにし血を抜き皮を剥いて火にくべてもいい匂いかしますが本来の匂いを出す方法にあらず。
香水山猫の正規の利用方法の一つを知らぬお嬢様は。ふふふ彼にはいえませんね。
「いえ、貴婦人が口にする話題ではないですね。学友の話です」
私はお嬢様のお話だったか私のお話だったかわからぬ話をいつしか彼にするようになりました。
「それより先程の続きを。ダメィル。いえキ・フォータ卿」
「卿はおやめください。王妃様」
「あら。スズカと呼ぶ約束でしたでしょう」
私は気取って見せることも虚勢をはることもなくなりました。
割とこの辺はよく主家の一の姫さまを真似できるようです。なんと言っても王妃様になるべく教育を受けたかの方に私は短期間ながらお仕えしましたので。
わたくしたち三人のおつきは、学園では一の姫さまたちのその奇行、いえ腹心の友としたお嬢様たちと花畑の上でよからぬたくらみをしたり戯れたりする様子を観察しておりますゆえ彼女たちの仕草の真似は得意になっていました。
さて。思い出に惚けていた私と違い、彼は本当に恥ずかしいのでしょう。
彼は焚き火をかき分け、炎に頰を近づけて耳まで赤いのを隠します。
「では僭越ながら話を続けます。スズカとはスゥジュキャリア女王の愛称なのです。
彼女は国を荒らす悪の僭王を倒したものに娘をやり王配として迎えるという父王の言葉にショックを受けて」
「国も役目も捨てて男装し剣士として旅立ってしまうのでしょう。そして魔法のほうきに乗ってしまい魔法使いドォラモと三剣士の一行に加わって」
「そうです! そうです! 最後は彼女の機転と勇気が勇者を救い僭王を倒すのです!」
何度も何度も暗闇に怯えて眠れぬ私に聞かせてくれたお話ですからね。
「またその勇者が冴えない青年だったとか」
「見た目は。それでも勇気や使命、友情に導かれて凛々しい青年になっていき、彼女は男に扮した自らを苦に思い、剣士として庶民に触れあるいは騙され悔し涙を流して成長していきます。そして後の王配となる勇者たちを従え僭王を倒し」
「もう。早口になっていますよ。何度も聞いたのです。落ち着いてお話くださいな」
「おっと伯父にも叱られました」
おや。
「伯父上ですか」
「地元の子供なのですがそう呼べとうるさくて。よく物語を歌ってくれました」
私はナイフで山猫の身を切り分けてくれる彼に木の葉の器で晩餐の支度を手伝うのです。
この湯気の香りといい血の焦げた様子といい香水山猫には申し訳ないのですがたまりませんね。
王妃どころかメイドだって普通山猫など食べませんが。
とはいえ。
一心不乱に王妃様と思い込んでいる私をお世話しようとする青年をみるとはなく思うのです。
私は興味のある話をすごい早口で話す好ましい少年を一人ぞんじております。
あの子は農民でありながら天才と呼ばれた子で……私のこと覚えているのかしら。ミカやカリナとは話していましたけど一の姫様にお熱でしたから。
今思えばむかつきます。ふんだ。
学問狂いなんて嫌いです。
サーガ狂いも大概ですけど。
蛙が歌っています。森のけものが息づいています。
彼もまた何も言わずとも折を見て歌ってはわたくしを慰めてくれます。
「枯れ川に 集え名もなき 勇士たち
骨川という そのかわらにて
その水 血そのものだと ひとはいう
その小石たち 友が骨ぞと
枯れ川に 春は訪れ 水満ちて
野山に夢を 運べ祭りぞ
乙女まい 子供はわらい 翁眠る
夢を守るよ 夢の人びと」
松葉茶を手に彼はまた朗々と故郷の歌を聞かせてくれます。
子爵家を支えて国境を守り抜いた名もなき人々を讃える歌を。わたくしに勇気を与えてくれる歌を。
私もこの歌を覚えてしまいました。
私の楽器は貴族が使うには珍しいオカリナですけど、陪臣家にきたばかりでまだ幼くぐずる私にオカリナを焼いて吹き方を教えてくれた人がいます。あの男の子はどうしたのかしら。やたら偉そうなコだったな。
とりあえず楽器ができてよかったです。
歌っていたら涙で喉が詰まってしまいます。
「おみごと。相変わらずあなたの歌はワザマエです」
「いえいえ。私はスキルやギフトもちではないですから。それより王妃様のオカリナは本当に素朴……と言っては無礼ですね。素敵で、この歌に合います」
スキルやギフトというのは家伝の固有魔法で、太陽王国に使い手が多いとのことです。
魔法などおとぎばなし。
されどこの世にはまだまだふしぎが溢れています。
私はいつまで偽りの王妃を続けるのでしょう。
いつになったら私のお嬢様をお助けできるのでしょう。
私は信じています。
お嬢様は必ず生きていらっしゃると。
胸の中に隠すこの指輪をお嬢様にお返しするその日まで私は信じ続ける覚悟です。
その日まではどのような罪も重ねる。
悪魔にだって身を委ねる。
娼婦の真似もやって見せる。
そう誓いました。
ええ。彼は紳士です。
そういうことは一切ありません。
私、そんなに魅力ないかしら。
同じ顔や体型とはいえその規格は正確なのですけど。
検品落ちの中にはスキルに目覚めるものもいますが。何故でしょう。むむむ。
……焚き火は未だ燻り、その下では下ごしらえした燻製の匂いがします。この辺は私たち手慣れてきましたからね。
冬場なら肉を寒ざらしにするのもありです。
美味しいですよ。
村では秋に身分を忘れてみんなでお祭りを兼ねて冬支度をやるのです。
お嬢様もむらむすめもわたくしも若いむすめは身分の区別なく精一杯着飾ってワインになるぶどうを踏むのです。
星が美しい夜ですね。
私は傍らにお嬢様の銃を置き、オカリナを吹きます。
その素朴な音は星々の輝きと踊り合い清涼で冷たい風と戯れ合うのです。
彼は何を思ったのか。
洗濯に使うシャボンを取り出してお湯でとき、草の茎で吐いて水泡を飛ばします。
一つ、二つ、また一つ。
星の煌めきは泡沫の球にて休憩を決め込み、しかし急かしい彼ら彼女ら水泡の煌めきに負けたくないとひかり星香りを野の花ときそい踊り唄うのです。
「星の泡沫ですね」
追手に追われる身でこんな遊びをしていいものかしら。
振り返ると彼は自分が作ったシャボン玉の美しさに惚けて液を飲んでしまったらしくむせていました。
もう。しっかりしてください私の騎士よ。
私もそっと草の茎を切り取り、ナイフでシャボン玉を大きくしやすいように草の茎を縦に刻み広げてくちびるをよせ軽く吹きます。
小さなシャボン玉。大きなシャボン玉。
次々と生まれ星と踊るシャボン玉。
さあ踊りましょう騎士様。
わたくしたちも星に、小さな水泡の玉のようないつ滅ぶとわからぬ美しい世界の中で。泡沫の宇宙を楽しむために。
もうここ何ヶ月も追手は来ていません。
いっそいいところに骨を埋めようかしら。
空を見上げば大きな『輪』と月と二つの浮石。
いけない。この指輪を、母君の指輪をお嬢様にお渡しせねばいけません。
そして騙していたことをこの正直で優しい男に謝らねばならないのです。
星空に改めて誓いを。
そしてこの純粋な青年に巡り会えたことに感謝を。
「卿、卿。……眠っちゃいましたか」
たまにもとの喋り方に戻ります。
手早く諸々のことを済ませてしまいます。
昨日から体調すぐれませんでしたので。
「水を汲んできます」
普段なら彼がやってくれますが、地面にそう書いておきます。
文字を習ってよかったです。
やまとことばというものも習いましたがこれは秘め事には便利なものです。
「”すき”」
一の姫さまみたいな気の利いたうたなど書けません。
今宵は満月ゆえ川面は星々の光を受けてきらきらひかり、清浄な水の香りを放っており。
心臓麻痺を起こしかねないので身を清める前に軽く運動を。
こんな姿は彼には見せられません。
ちょっとだけつま先をつけて、じんわり麻痺してくる痛みのような冷たさに耐えて。
ひゃあああっ!?
冷たいというより痛い!
身体を清め終わる頃には、つま先も指先も凍えてしまい下着はおろかシャツをつけるのにも難儀しつつ、服を改めて纏い何かに気づいて振り向くと。
終わりました。
暗殺者です。
ついに来ましたか。
けど満足ですよ。だいすきなお嬢様として死ねるのですから。
お嬢様は何処かの土地で平和に暮らすのです。
だいすきな絵を描き、馬を鷹を犬を育ててまた狩に行くことでしょう。
ひょっとしたら地元の田舎では女狩人として名声を得て困るかも。
彼の方は虚栄心が強い方ですから。ふふ。
「藩王領まで足労痛み要る。ケイブルのむすめマリアだ。気狂いの騎士従えし物狂い王妃を名乗る狂人とは仮の姿。
暗殺者よ。汝の名を聞いておきたい。武門として憎き仇の名も知らずに討たれるのは恥ゆえに」
私、堂々といえているかしら。
お嬢様教えてください。私はバカナエですもの。
あなたの真似ができているかしら。
空の星がひとみから溢れないように上を向きます。
喉をみせて胸を開きます。
ケイブルの末裔を示す指輪を。
「『氷の刃』と人はいう。しかし君に用はない」
彼は、暗殺者と呼ぶにはあまりにも小柄な彼は言いました。
うそつき。にせもの。
おまえに用はないと。
言葉でなく態度全て。
「証はすでにもらった」
月夜の川原に転がったのは、ひとふさの髪。
女性の、長い髪です。
「お嬢様……!?」
「好きに生きな。かわいい女王さま。
あんた割といいことしてるみたいだし応援するよ」
彼は去って行こうとします。
「待て! 待ちなさい!」
私は礫を投げます。
お嬢様の銃は今持っていませんが、印字うちなら陪臣家で学びました。
「ちょ。待て待ってちょっと待って。おまカナエだろ」
「お嬢様の仇め覚悟を。貴様武門を舐めるな!」
騒ぎを聞きつけたのでしょう。
彼がやってきました。
月夜の下の川原で石持ち追いかけっこをする私たちを見て彼は言いました。
「伯父貴。なにしてるんだ」
「あれ? 君故郷出てなにしてたの騎士坊主」
知り合いだったようです。
「いやぁ二人とも山猫の燻製ありがとう。
山猫糞珈琲茶をあげるよ。うまいぞ」
いりません。
彼は喜んで飲んでますけど。
いい匂いですけど絶対飲みません。
お嬢様は山猫糞珈琲茶のせいで『学園で伯爵令嬢に騙されたから』としばし真面目に本に向き合われておりました。
後にも先にも彼女が毎回の期末試験前に不正行為のためにおつくりになる諸々の手の込んだ代物以外で学問に向き合われたのはこの短期間のみであとは黄表紙などをつまみ読みし、初代国王言行録に家臣たちの似顔絵を描いて遊んでいました。
その制作時間を学問に割けばよきとか。
類は友を呼ぶと……いえいえ私の口からは。
ぬっと肉の匂い。
川で血抜きをしたのでしょう。
彼は言います。
「じゃ、今捕まえたデカいトカゲがいいか、ムカデがいいか。おまえらに選ばせてやるぞ」
「いらぬ伯父貴」
「不要にて。馳走のみ感謝する」
彼は珈琲を作り、みるも忌まわしきものの肉を焼く香りはくやしゅうことに香ばしく。
「はふ。はぶぅ。うっめー!
なんでくわねぇのふたりとも」
一人召しませ。
「こいつにスズカの物語をしたの僕だからね。いまはこんなんだけどスカートが似合う……」
「その話は無しです! 王妃様! これは私の故郷の習慣であり、変態趣味ではないのです!」
あら。何処のものかも知らぬ者たちが教会や王国の弾圧にもめげずに初代国王言行録に手沢し回覧している、殿方同士の恋愛を描いた一連のものがたりに対して、私は偏見ないですよ。
「だいたい『物語の挿絵に似ているから王妃様と思ったので咄嗟に助けた』とかバカでしょ。よく今まで冒険して死ななかったね」
「伯父貴ぃ」
殿方同士伯父甥同士の恋愛にも同性愛にもわたし、興味も関心もいっさいありません。
……ふんだ。
「ダメィル。私はあなたが如何なる趣味でも受け入れます。ええ今の今まで私に指一本触れない紳士で、忠実無二の騎士が持つ個人的性癖には一切触れませんことよ。例えば仮にあなたが同性愛で、伯父に懸想しおまけにショタコンでも許します。わたしはとても寛大ですから」
「盛大に誤解されていらっしゃるようですね王妃さま」
「がんばれー」
「伯父貴が蒔いた種ですよ……酷くないですか」
パチパチと気のない拍手と薪が爆ぜる音と香りは重なります。
星々めぐり花の香りを放ち。
月は二つの浮石とともに歌う中。
結論。
バレてました。
「バレていましたか」
「ええ。知った上で」
「バレちょりました」
夜毎に魘される中、わたしが呟くお嬢様の名前も私の名前も彼は存じておりました。
そもそもオカリナは庶民が手ずから焼くような楽器です。貴族の娘は使いません。
そのオカリナを焼いた殿方もまた、目の前にいます。
「では、お嬢様はご無事なのですね。よかった! よかった!」
わたしの歓喜のようすに「ちょっと。ちょっ?! 胸もと開いてる! ボタンつけろ! 若い娘がはしたない! 下着持ってこい騎士坊主!?」と彼は狼狽してたまりかねたように叫びました。
だって先程まで身を清めていたのですよ。
ちょっと昔より胸が膨らんだくらいで取り乱しちゃって。もう。
「おまえのお嬢様は信頼できるやつと共に海を渡った。間違いなんかない。あいつはアレなところはあるがいいやつだから。
……まぁとりあえず真っ先に御者に扮して侯爵家の娘を辺境までなんとか無事に送った」
遅れてすまないね。
彼は言いました。
その手はとても柔らかくちいさく暖かいものですが、そして遅れてはきましたが。
確かな救いの手です。
もっともわたしはこれ以上は望んでいません。
わたくしへの救いの手なら。
隣にもう。それはいつも如何なるときも。
それよりも今はわたしどもの手を望むもの、このこうべの上に輝く星々のようにいくらでも。泡沫の如く儚さと守るべき輝きを持って。
「侯爵家は決してつかんだ手は離さない。『ともに海に沈むまで』。海賊の掟だ。知ってるだろきみも。
爺さんはまぁ保護はできたよ。あの身体で娘を庇っていてさすがってとこだけど」
じゃ、ミカも無事ですね。
「あいつ、男同士の恋愛を手沢した『初代国王言行録』って本を食事の代わりに十何冊も馬車に積み込もうとするんだよ。バカじゃない」
彼女らしいですね。
ではカリナは? 伯爵家のご令嬢は?
「ギリギリだけど間に合った。ふたりともちょっとおかしくなってたけど仕方ないよ」
髪はもらったけど、なんとか無事だと彼は保証してくれます。
よかった。本当に良かった。
一度も祈ったことはありませんが。
感謝なんてしたことありませんが。
言って良いでしょうか。
祈ってよろしいでしょうか。
感謝して良いのですか。バチなんて当てないでくださいな。
かみさま。わたしのお嬢様をお救いくださりありがとうございます。
わたしは広場にひざまづくと、星々に。
暖かい星の拍手を下さる魔王の『輪』に。
わたくしたちはわたしたちを見守る歌を歌っている月と二つの浮石に感謝の祈りを捧げるのです。
「あのさ。君たちぼくにも感謝してほしいんだけど。ねえねえふたりとも。むしすんなマジで」
ああ。かみよ。この世にうんでくださりありがとうございます。
「で、行くの。君たち」
彼は問います。「なんならおまえのお嬢様のところまで送ってあげるけど」とありがたい申し出をしながら。
今思えば思うほど今のお嬢様にわたしの助けは不要でしょう。
彼の話ではお嬢様は彼の地で思うまま、ご自由に。
冒険者の魂持つ旧家の誇り絶やさず懸命に生きていらっしゃるのですから。
それに彼女の御守りをまたもするのはちょっとばかり苦労しそうですし。ふふ。
「ええ。『黒き針』ケイブルの末裔ここにありと示すため」
「伯父貴も達者で」
黄色じみた汚いマントと頭に巻いた布でちいさな身体を隠し、おもちゃの長剣を背負った彼はひらひらとやる気のないように手を振ります。
「幸せにな。ご両人」
「はっ?!」
「ひゅえっ!?」
彼は土埃の香りと共に消えていきます。
朝霞が鼻を包み、喉を通っていきます。
森が息づき、鳥たちは早くも命の唄の準備を始めております。
「ああ。子供が生まれたら名付け親になってやる。『リリ』なんてどうだ。いい名前だろ。
ケイブルの初代の名前だ。料理人としても有名だぞ」
くだらない冗句だか御巫山戯だかをとなえ。
彼は嵐のように夜闇を駆け抜けて。
朝日の中に消えていきます。
「吾らも旅立たねばならぬ。
我が騎士や。いくさのしたくをせよ」
「御意」
燻製を土から取り出し、その香りを袋につめい。
ドワーフの焚き火にニンフの水をかけ、薪めぐみしエルフに祈れ。
鋼のみつるぎ磨いて靴に足を通せい。
吾もまた銃を磨き邪砕くひぐすりを詰め弾を込めるぞ。
夜は星々と歌い踊り。
昼は悪漢どもから無力なる民草を救わん。
夕日沈むその他にて
果てなきくらやみ押し寄せようと
嵐のように戦いて
朝日と共に帰還する。
一歩。一歩。また一歩。
妾の栄光の旅は続く。
わたしのだいすきな騎士とともに。
わたしの最愛のお嬢様の御志を継いで。
いつか、いつかお嬢様にこの指輪を渡すまで。
決してわたしは悪党どもに屈しない。
『悪魔に魂を捧げましょう。
地獄の釜の焚き付けとなりましょう。
国を滅ぼす娼婦となりましょう。
愛するものと、その想いと共にいきましょう。
さあ我が騎士よ。
この夢見る国の王妃に。
どこまでもついてきなさい』
ーーケイブルという存在しない国の物狂い王妃とその気狂い騎士の冒険譚は数あれど、彼女達がケイブル子爵家ゆかりのものである証拠を携えていた事実は揺らがない。
一部の学者によると彼女こそが王国を揺るがした政争に散ったケイブル子爵令嬢その人だという。
また一部の学者によると彼女はミーシャやミューシヤと名を変えてのち、のちに夫となる機械教のものと海を渡り、『ひざのくに』半島を代表する偉大な画家として大成したともいう。
ここにただ一つの真実があるならば。
そのあふるる想いを胸に秘め、忠実な気狂い騎士と共に民草を救い続けし『物狂い王妃』の物語は。
新たなる『骨の川』の物語として今なお語り継ぐべきサーガのひとつとなったのである。ーー
(『藩王国史 列勇伝』より抜粋)
『偽りの王妃は自らの想いをひた隠す』【劇終】