温泉ラブストーリー
「なあ、俺たち付き合わないか?」
温泉から出て、ゆったりとマッサージチェアに座り、心地の良い震動に身を任せていた。揺れているせいだろうか、自分の声も震えているのがわかる。
「俺……好きなんだ。一目惚れだったんだ」
「…………」
「今日だって君との仲を深めるために前々から計画してて、俺はすごく楽しかった。温泉まんじゅうなんて初めて食べたよ」
何を言ってるんだ俺は。
温泉まんじゅうの話なんてどうでもいいじゃないか。この沈黙が嫌で適当な事を口走っていた。
どんなに話しかけても反応がない。眠ってしまっているのだろうかと思いながら体を起こす。
「ねえ、聞いて…………誰⁉」
視線が重なった女性は友達ではなかった。
「いや、その、出会ったばかりでさすがにお付き合いというのは……。もう少しお互いを知ってからでも遅くないかと」
温泉に入った後だからか目の前の女性の頬は赤らんでいる。多分同い年くらいだ。
その言い方だと時間をかけて距離を詰めれば良いと捉えられるのですが、大丈夫なんでしょうか……。早く間違いだったと伝えたいのだが言い出しづらい。もっと拒絶されていたら簡単に「すみませんでした」と言えるのだろうけど。無意識にため息が出る。どこか行くなら言っておいて欲しい……ホウレンソウ本当に大事。
「あの……お名前は?」
恥ずかしそうに聞いてくるから少し緊張してしまった。俺は自分の名前を名乗った。
早く戻ってきてくれ。
「あの……連絡先を」
そう言われて携帯電話を開く
どこ行ってるんだよ。キョロキョロと辺りを見渡すが友達の姿は見受けられない。
「あの……」
「ごめん。ちょっと待ってて」
俺は立ち上がり、走って自分の部屋に急ぐ。
すると、そこには眠っている友達の姿があった。肩を揺すって起こす。
「おい。好きだから付き合ってくれ。そして早く返事をくれ」
と叫んだ。
今この場で付き合ってしまえばさっきのは間違いだったと言いやすくなるからだ。
けれど、帰ってきた言葉は自分の想像の域を遥かに超えていた。
「ん? ああ、ごめん。ふわぁ……彼氏と復縁した。さっき電話で」
そう言って、すぐにまた眠ってしまう。
俺はゆっくりと友達を布団に寝かせた。
「えへへ。急に走って行ったから驚きました」
「あの」
「はい?」
「じゃあ、その、友達から始めてもよろしいですか?」
なぜか敬語になってしまった。
俺は名前を聞いた。
携帯番号を聞いた。
二人きりで話をした。