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【短編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ  作者: ・めぐめぐ・


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第11話 マーヴィの力

 撤退のラッパが鳴り響く。

 それを聞き、兵たちがこちらに戻ってきた。これ以上、無駄な死者が出なくなると思うとホッとする。


「アウラはここら一帯を結界で守ってくれ」

「分かったわ」


 いつの間にか鎧を身につけたマーヴィさんに頼まれ、私は神聖魔法でこの辺り一面を結界で覆った。万が一、悪しき存在である魔族達が一斉に襲ってきても、しばらくは持ち堪えられるだろう。


 キラキラと輝く光の壁を見て、副官が声を上げる。


「え? 結界とは、これほどまでに広い範囲を覆えるものなのですか?」

「え? そういうものじゃないのですか?」


 さっきダグの傷を癒していた女性神官と同じように、副官が激しく瞬きながら驚いていたけれど、マーヴィさんが鋭く注意したことで話題は別に移った。


「その話は後だ。魔物の大軍は、あの魔族とまだ力が繋がっているようだな。なら魔族本体を叩けば魔物も消滅するはず」

「ですが数が多すぎて、魔族にまで攻撃が届かないのです」

「大丈夫だ。俺が突撃して直接魔族をぶった斬る」

「え⁉︎」


 声を上げたのは私。


 マーヴィさんは盾役なのだ。

 たった一人で魔族を倒すほどの力があるわけじゃない。


 そんな無茶ができるのは、女神に選ばれた勇者たるダグだけなのだから。


「マーヴィさん、危険すぎます! やっぱりダグを説得して出撃させましょう!」

「今のあいつには無理だ」

「なら、マーヴィはもっと無理じゃないですかっ‼︎ あなたは普通の人間なんですよ⁉︎」


 思い直して貰いたくて、彼の鎧を強く叩いた。


 この鎧だって剣だって、いつものフルプレートアーマーだと馬が走れないからと、ここについて借りたもの。魔王討伐時に身につけていた、鍛えに鍛えぬいた装備じゃない。


 鎧を叩く私の手を、マーヴィさんが優しくとった。


「俺を信じて欲しい、アウラ」


 迷いのない、まっすぐな言葉が耳の奥に届く。

 

 何をもって彼がそう言っているのかは、分からない。

 でもマーヴィさんは、いい加減な理由でこんなことを言う人じゃない。


 それなら私にできることは――


「分かったわ。何か考えがあるのですね。それなら……信じてます」

「ありがとう」


 そう答えるマーヴィさんは、嬉しそうだった。

 戦場の中を照らす希望のような笑顔に、心が強く揺さぶられる。


 次の瞬間、鎧に身を包んだ体が、弾かれたように戦場に駆け出していった。


 私が防御魔法をかける暇もなかった。


(大丈夫……かな)


 こみあげた不安を、ぐっと喉の奥に飲み込んだ。


 後ろから土を踏む音がし振り返ると、ダグがテントから出てきたところだった。マーヴィさんの後ろ姿を見つけ、意地悪く笑う。


「おい、あいつ一人で突っ込んで馬鹿か? あれじゃ死ぬな。いい気味だ」

「……死なないわ」

「はぁ?」

「マーヴィさんは死なないって言ってるの!」


 口だけで何も行動しないダグの言葉なんて、なにも響かない。

 私の心には、僅かな傷もつかない。


「私は信じてる。マーヴィさんが無事に魔族を討伐して帰ってくることを」


 次の瞬間、白い光が辺り一面を照らした。


 発光元はマーヴィさんだ。

 不思議なことに、彼の周囲には山ほど魔物が集まっているのに、魔物達は彼を覆う光の壁に阻まれおり攻撃できずにいるみたい。


 この光景に見覚えがある。


(ダグの身を守っていた不思議な力だわ)


 でも、何故マーヴィさんにも同じ力が?


 そのとき、周囲の魔物たちが吹き飛んだ。

 これにだって見覚えがある。


 あれは確か、ダグがよく使っていた勇者の技。たった一振りで魔物を一掃出来る、凄い技だったはず。


 自分を囲んでいた魔物を一掃したマーヴィさんが、駆けた。全身に鎧を身に纏っているとは思えないほど速い。


 生き残った魔物を踏み台にし、その身が高々に宙を舞う。

 リーダー格である魔族の前で振り上げた剣の刀身が、まばゆいばかりの光を放つ。


 剣が振り下ろされた瞬間、爆風が吹き荒れた。


 だけど私には見えていた。


 マーヴィさんが巨大な魔族の首を、たった一太刀で飛ばす光景を。


 ダグ以上の力で――


 魔族が黒いチリとなって崩れて行くと同時に、魔物たちも消えていった。


 恐ろしいほどの静寂が、場を満たす。

 まるで何も無かったかのような静けさだけど、戦場で倒れている可哀想な兵士達の遺体が、この地であった戦いの激しさを物語っていた。


 向こうでゆらりと影が動いた。マーヴィさんだ。


 こちらに戻ってくる姿を見つけると、私は急いで彼の元へと駆け寄った。


「マーヴィさん! 怪我は⁉︎」

「いや、ないと思う」

「またまたそんなこと言って……って、嘘⁉︎」


 階段の怪我の時と同じように癒しの魔法を使ったけれど、全く魔力が流れなかった。

 つまり、癒すべき傷がないことを示している。


 愕然としている私に、マーヴィさんは小さく笑った。


「あんたが、俺を守ってくれたからな」

「?」


 どういうことだろう?

 私はあなたに、防御魔法をかけることができなかったのに。


 詳しく訊ねようとした時、ダグの怒声が響き渡った。


「マーヴィ……お前どういうことだ……なんで俺と同じ力が使えているんだっ‼︎ まさか、俺の力を盗んだのか⁉︎ だから俺は、勇者の力が使えなくなったんだな‼︎ お前のせいで‼」 


 鼻息を荒くしながらマーヴィさんの前に詰め寄ると、彼の右肩を強く押した。


 だけど相手は盾役として鍛えた体の持ち主。押された体はビクともせず、逆にダグがよろけてしまった。


 そんな彼を、マーヴィさんは哀れそうに見る。


「やっぱり……勇者としての力を失っていたんだな、ダグ」

「あっ……」


 ダグの表情が固まったことで、マーヴィさんの発言が本当だと知る。


 まさかダグが勇者の力を失っていたなんて……

 だから色んな理由をつけて、兵士達を戦わせていたのね。


 全ては、自分の身の安全のために――


 ダグの身勝手な理由で亡くなったたくさんの兵士たちを思うと、やるせない気持ちで一杯になった。


 副官の方を見ると、彼は下唇を噛みしめながら俯いていた。握った拳が震えている。

 ダグに軍を任せたことで、たくさんの兵士が亡くなったことを怒り、後悔しているように思えた。 


 この人も、ダグの身勝手に振り回された被害者なのかもしれない。


「でも、どうして? ダグは女神様に選ばれた勇者だったのに……」


 副官を気の毒に思いつつ、私はマーヴィさんに疑問をぶつけてみた。私の問いに、彼は肩をすくめる。


「それは少し違うな。ダグは女神に選ばれたんじゃない。あんたがダグを勇者として選んだんだ」

「……えっ?」


 私が……選んだ?


 言葉を失う私に向かって、マーヴィさんは優しくも畏怖を湛えた瞳を向けながら、こう言った。


「聖女アウラ」


 と――

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