表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【短編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ  作者: ・めぐめぐ・


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/14

第10話 防衛線

 馬を乗り捨てながら、私たちはダグのいる防衛線へとやってきた。

 必死で走って来たけれど間に合わず、私たちがたどり着いたときには、戦いはすでに始まっていた。


 兵士たちは私たちの顔を覚えていてくれたようで、すぐさま簡易的に作られた防衛施設の中に迎え入れてくれ、今の状況を説明してくれた。


 リーダー格である魔族一体と、その魔族が生み出した膨大な量の魔物たちによって、危機的状況にあるらしい。

 大勢の兵士たちが戦場に駆り出され、無残に死んでいるのだと。


(どうして?)


 戦況を聞き、真っ先に思ったのはこの一言だった。


 確かに敵の数は多いけれど、私たちはもっと過酷な戦場を経験している。

 今までの経験上、このくらいなら、ダグと兵士たちだけで制圧できるはず。


 それが危機的状況だなんて……


 ダグの姿は、防衛施設から少し離れた救護テントにあった。


 怪我をしたのか、女性神官に癒しの魔法をかけてもらっている。

 私たちの姿を見るなり、今までの仕打ちなど無かったかのように、笑顔で立ち上がった。


「マーヴィ、アウラ! 来てくれたのか!」

「これは一体どういうことだ、ダグ」


 マーヴィさんは、背中で私を守るようにダグの前に立つと、怒りに満ちた低い声で訊ねた。


 いや、責めたと言った方がいい。


 自分が見下していた相手に詰め寄られ、ダグは笑顔を引っ込めると、イラッとした様子で答えた。


「いや、兵士たちの訓練の一環として魔族と戦わせてるんだが、あいつらが弱すぎてまだ殲滅できてないだけだ。問題ない」

「何が問題ないだ! そんなつまらない理由で、どれだけ死者を出したのか分かっているのか⁉」

「お前には関係ないだろ! ただの盾役(タンク)の分際で、俺に意見するな!」


 大声を出したせいで、怪我にさわったのだろう。ダグは顔を歪めると、彼の傷を癒していた女性神官を突き飛ばした。


「お前、この程度の傷を癒すのに、どれだけ時間がかかってんだ!」

「そう仰られましても……癒し魔法は、普通時間がかかるものなのです!」

「そんなことあるか! どんくさいアウラですから、一瞬で癒していたんだぞ!」

「えっ、一瞬って……そんな……」


 女性神官は、信じられない様子で私を見ている。

 何をそんなに驚いているのか分からないけど、


(もしかするとこの人、癒しの魔法が苦手なのかもしれない。昔の私みたいに)


 今よりももっと未熟だった自分と彼女を重ねながら、まだ目を丸くしている女性神官に笑いかけた。


「大丈夫! 私も昔はもう少し時間が掛かったけれど、魔法をたくさん使うことで熟練度が上がったのか、早くなったから!」

「い、いえ、そういう理屈じゃ……」


 女性神官がまだ何か言っている。

 うーん……この子、相当自分に自信がもてないのかもしれない。


 そんな中、


「ダグ、お前、勇者の力はどうした」


 鋭すぎるマーヴィさんの言葉に、皆の視線がダグに向いた。

 

 ダグの表情が一瞬だけ固まったように見えたけど、すぐさま唾を飛ばしながらマーヴィさんに食ってかかる。


「も、もちろんあるに決まってるだろ! ただ俺が本気を出せば、兵士たちの訓練にならないから出していないだけだ!」


 そう叫ぶダグの声は、少し震えていた。

 目線だって定まらないし、誰も聞いていないことを一人でベラベラと喋り続けている。


 まるで何かを誤魔化そうとしているかのように――


 彼が挙動不審なのは、誰の目から見ても明らかだった。


 だけどマーヴィさんは、それ以上ダグを追及しなかった。代わりに失望した目を彼に向けると、冷然とした声色で命令した。

 

「ここは俺が対処する。兵士たちを撤退させろ」

「はあ⁉︎ ここの責任者は俺だ! 俺が兵たちに戦えと言っているんだ! 撤退なんてさせるか!」

「そうか。神官のあんた。ここに副官はいるか?」

「あ、はい、あちらに」


 女性神官が指をさした方向には、真剣な眼差しで私たちを見つめる中年男性の姿があった。


 彼はマーヴィさんの視線に気づくと、大股で近づきて大きく頷いた。


「分かりました。兵を撤退させましょう」

「お前っ! 何勝手なことを‼︎」


 ダグは怒りに任せて、副官の腕を掴んだけれど、強く払いのけられたため、みっともなく尻餅をついた。


 だけど、彼を助けようとする者は誰もいない。


 悔しそうに睨むダグに、副官が冷ややかな視線で見下ろす。


「私は、軍を率いる経験のないあなた様を助けるようにと、皇帝から仰せつかっておりました。ですが先ほどのやりとりを聞き、あなた様に軍を指揮する資格はないと判断いたしました。ですから今この瞬間、兵の指揮権を私に返して頂きます」

「お前……皇帝に言いつけてやるぞ!」

「ご自由に」


 ダグが脅しても副官は全く動じず、マーヴィさんとともにテントの外に出ていった。


 私も慌てて後を追おうとした時、ダグの怒声が響いた。


「おい、アウラ! 出て行く前に俺の怪我を治せ!」


 今までの私ならすぐに癒していただろう。

 だけど、


「そんな怪我、唾でもつけときゃ治るわ」

「っ‼︎」


 私に拒否されると思っていなかったダグは、虚を衝かれたように目を見開いていた。


 その隙に、私もマーヴィさんたちの後を追う。


 我に返ったダグの怒鳴り声が後ろから聞こえたけれど、心は何だか晴々としていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
匿名で何か残したければ、WEB拍手orマシュマロをご利用ください(*´ω`*)

【マシュマロ】☆こちらをクリック♪☆

【WEB拍手】☆WEB拍手♪☆
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ