32(0名様)
いらっしゃいませ。お客様何名様でしょうか。
ぜ、0人ですか！？
でもお客様目の前にいるじゃないですか！
えっ？ 今君に見えている私が本当にいるかどうかなんて分からないじゃないか、ですって？
⋯⋯⋯⋯
⋯⋯え？
お客様、何名様ですか？
ああ、やっぱり0人なんですね。曲げないんだ。
あの、ボクどうすればいいですか？
えぇ⋯⋯
普段やっている通り『0人』を案内しろと言われましても⋯⋯
「永くん、どうした？」
あっ、店長！
あの、さっきこいつに何名様か聞いたら0人だって言うんですよヒソヒソ。どうにかしてくださいよヒソヒソ。
「コラ！ お客様に『こいつ』なんて言うんじゃない！ 謝れ！」
す、すみません⋯⋯
「オレにじゃない！ ちゃんとお客様に誠心誠意謝れ！！！！」
えっ！？
わ、分かりました⋯⋯
すみませんでした。
「ほら、お客様困ってらっしゃるじゃないか！ ちゃんと自分が何をしてしまったのか説明して、その上で謝んないとなんのことだか分かんないでしょ？」
そ、そんなぁ⋯⋯！
分かりましたよ。やらないとまた給料なしにされちゃいますもんね。
お客様、実はボク、さっき店長にあなたのことを『こいつ』と呼んで相談をしてしまったんです。大変申し訳ございませんでした。
あ、ですよね⋯⋯
わざわざ言わないですよね、普通。すみません⋯⋯ははは。
あ、笑ってないです！ 笑ったわけではなくて⋯⋯あの、その⋯⋯すみません！
「永くんどうしたー？ 厨房まで聞こえたけど、またなにかしたの？」
あ、いや⋯⋯
あ、お客様⋯⋯
えっ！？
違います店長！ ボクはお客様のお尻なんて触ってません！ 神に誓います！ 命かけます！
「永くん、それはちょっと良くないな。お客様のお尻『なんて』は失礼だよ。お尻様って言わないと。お尻陛下でもいいな」
なんて理不尽なんだ⋯⋯
ちょっと、警察呼ぶってなんですか！ なに電話しようとしてるんですか！ ボクは何もやってないじゃないですか！ 監視カメラ見れば分かりますから、店長！
あ、監視カメラの話したらすぐにやめましたね。店長、これが証拠だと思いませんか？
⋯⋯って、いない！ 店長ー！
「なに！ こっちは忙しいんだけど！ 君の事ばっか見てるわけにはいかないんだけど！」
それは確かにそうだ。ごめんなさい。
分かりました。ボクが死ねばいいんでしょ。そうすれば解決するし、みんな喜ぶんでしょ。
もういいですって。2人ともなんなんですか？ ボクが怒ったら急に下手に出て。人をバカにするのもいい加減にしてくださいよ。
「永くん、ここって『いや君、人じゃないだろ！』って突っ込むとこ？」
なわけないでしょ！？ 空気読めないにもほどがありますよ！ よくそんなんで店長やって来れましたね！
ちょっと、なに逃げようとしてるんですかあなた！ 元はと言えばあなたが0人とか言うからこんなことになったんですよ！ 責任取ってくださいよ！
「そうですよお客様。男だったら責任の取り方はひとつしかないですよね？」
店長はもうボクの視界から消えてください！ そのうち殺しちゃいますよ！
「酸の唾液とかで？」
よくこの状況でエイリアンいじり出来ますね！ ボクはれっきとした人間ですってば！ いつも言ってるでしょ！ ちょっと見た目が人と違うだけでなんでこんなに言われなきゃなんないんだ！ もうやだああああああああああ出てってやるうううううううう！！！！！！！！
はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯
まだまだ走るぞ！
うおおおおおおおおおおおおおお！
はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯
ここまで来れば1人になれるだろう。あのままだったら2人を酸の唾液で殺して刑務所に入れられていた。
はっ！ 誰ですか！
あなたは、お客様！ ⋯⋯なんの用ですか。
えっ！？ 責任取ってボクと結婚する！？
ほ、本気ですか？
そうですか⋯⋯
なに言っとんじゃボケ！！！！！ 死ねぇ！！！！！！！ 酸ビーム！！！！！ 跡形もなく消えてしまええええええええ！！！！
結局なに？ エイリアンだったの？ 0人の謎は謎のまま？
