表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自動生成イラストからストーリーを作る練習  作者: 七宝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/79

29(カモメの勇気)

  挿絵(By みてみん)


 皆、不幸だった。


 呪われた街だった。


 真っ赤な街だった。


 そのほとんどが殺人事件による血、それ以外は虐待による血だった。


 カモメは父親から虐待を受けていた。

 否、カモメ「も」虐待を受けていた。


 この街の子は全員が平等に虐待を受けていた。


 この街の子の父親は全員が酒乱で暴漢だった。


 この街の子の母親は皆腑抜けていた。


 ある日、連続殺人事件のニュースがカモメの耳に届いた。担任は事務的に皆にそれを伝え、教室から出ていった。


 カモメは驚かなかった。


 他の子も驚かなかった。


 人が人を殺すことは当たり前だからだ。

 間もなくしてこの地の外も真っ赤に染まり、地球は全て血まみれになるのだと思っていた。


 その日もカモメは父親から暴力を受けた。

 いつものように灰皿で殴られ、タバコの火を押し当てられたのだ。


 父親の虐待が終わると、カモメは机に向かった。高校受験が近いのだ。


 カモメは勉強が好きだった。

 知らないことを知ることが出来るからだ。


 勉強をしている時だけがカモメの生きがいだった。

 否、カモメ「たち」の生きがいである。


 この街にはゲームやテレビなどの娯楽は存在せず、大人になって初めて「子」という娯楽を手にすることが出来るのだ。


 カモメは笑顔で勉強を続けた。

 この国には深い歴史があり、素晴らしい景色が広がっている。そう書いてあった。


 楽しい楽しい学びの途中、不意に涙が流れた。


 カモメにはその意味が分からなかった。

 勉強の邪魔になるので止めようと思った。


 しかし、溢れるばかりで一向に止まる気配はない。やがてカモメは声を上げて泣くようになった。


 その声を聞きつけて父親がやってきた。


「泣いたのか。いけないことだ」


 そう言って父親はカモメの顔をバットで殴った。カモメはいつものように部屋の隅に吹き飛んだ。


 翌日も担任は連続殺人事件の話をした。殺人鬼がいるから、帰りは寄り道をせずにまっすぐ家に帰りなさいと言うのだ。


 皆適当に聞いていた。寄り道などしようものなら皆父親にカッターナイフで切られるからだ。


 家に続く血溜まりの上を歩きながらカモメは考えた。


「昨日の涙はなんだったんだろう」


 カモメには分からなかった。涙とは悲しい時に出るものだと本に書いてあったが、あの時は別に悲しくはなかった。悲しい⋯⋯


 悲しいってなんだっけ。


 カモメは涙の理由が分からなかったのではなく、悲しいという感情が分からなくなっていたことに気がついた。


 カモメはただ、疲れていた。それ以外は分からなかった。

 だから今日もまた家に帰る。


 父親はまた機嫌が悪かった。血まみれになった母親の髪を引っ張りながら、帰ったばかりのカモメの名前を叫んでいた。


「カモメ。こっちへ来なさい」


 カモメは言われた通り父親の前まで歩いた。


「座りなさい」


 いつものように大きな手がカモメの頬を張った。それが十五回繰り返された。


 虐待が終わり、カモメはまた勉強をしに二階の自室へ向かった。

 その途中、階段を上るカモメのスカートを何かが掴んだ。バランスを崩し、階段を転げ落ちる。


「お母さんはもう使い物にならないから、今夜からお前が相手になりなさい」


 カモメは父親に近づき、持っていたペンで父親の胸を刺した。父親が倒れた隙に勉強道具を持って家を飛び出した。


「その本がいけないのか」


 家を出る直前、そんな言葉を聞いた。


 教科書には、この国の法律が書いてあった。


 人を殺してはいけないらしい。


 我が子を虐待してはいけないらしい。


 外の世界では、今の自分たちのような環境は異常なのだと知った。


 誰かの足音が聞こえた。父親が追いかけて来ているのかもしれない。


 カモメは走った。どこへ続くかも分からない、血膿のぬめるこの道を、ただただ走った。


 青い世界が見えてきた。


 カモメは走った。目の前に広がるこの青の一部になることさえ叶えば、全ての苦しみから解放されると思えたからだ。


 あと少しというところで、カモメは父親に捕まった。殴られ、蹴られ、うずくまっているところに、近くに落ちていた石を投げつけられた。


 薄れゆく意識の中、父親が飽きたような顔をして去っていくのが見えた。


 助かった、と思った。


 いくらかの時間を血の海で過ごし、意識がしっかりした頃に、1人の男がやってきた。その男は、ナイフと首を持っていた。


 カモメはゆっくり目を閉じた。


 やはりここは、呪われた街だった。


 真っ赤な街だった。


 皆、不幸だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ