14(空き瓶1)★
いや、ちげーよ。俺とお前初対面だろ? あのな、世の中には言って良いことと悪いことがあるんだよ。まぁ初対面じゃなくても有り得ないけどな。とっとと失せな。
あ? ちげーよ。お前もかよ。ここ通るやつ全員そればっかだな。そんな訳ねぇだろうが。あ? そんな訳しかないだろって? それはおめーらの勝手なイメージだよ。固定観念を取り払え。俺はただの飲みかけの麦茶だ。
またかよ。ちげーよ。俺は麦茶なんだよ。なんで野外に放置されてて褐色の液体が入ってるからって通行人全員に酸化したションベンとか言われなきゃなんないの?
あのさ、お前ら言われたことないだろ? あなたは酸化したションベンですか? って聞かれたことないだろ? 分かるよな? 失礼極まりないんだよお前ら。ションベンと敬語が同時に存在するのも相当おかしいからな。下品な言葉使うなら敬語使うなよ。分かったらさっさと失せろ。
ちっ、また通行人か⋯⋯
は!? 俺を持ち上げるだと!?
口を開けて、腕を持っていって⋯⋯
正気か!? 酸化したションベン飲む気か!?
あ、違うわ! 俺、酸化したションベンじゃなくて麦茶だったわ! 言われすぎて自分でも分かんなくなってたよ! 本望じゃん! あざす!
じゃないだろ! なんで野外で見つけた蓋の開いた瓶に入った飲みかけの麦茶を飲もうとするんだよ! 変な病気になるぞ!
「ゴクゴクゴク⋯⋯っぷは! 真っ茶ションベンはうめーなぁ!」
え、俺ってションベンだったの⋯⋯?
今までの通行人の皆様ごめんなさい。ションベンでした。まさか私がションベンだったとは⋯⋯
確かに我々は生まれた時の記憶はありませんが、なんとなく自分は麦茶なのだと思っていたんです。
ええ、飲まれたのは今回が初めてです。
はい、最初から外でした。
はい、工場じゃなくて、ここで即席で製造されました。
でもさ! 自分でションベンだって認めたくなかったんだ! 認めたら俺は所詮それまでの男だってことになってしまうから!
人は自分を凡人と認めた瞬間から成長しなくなる! ゆえに、常に向上心を持っていなければならないのだ! 何だこの話は! なんで俺は成仏しないんだ! 消化されるまでずっとこの真っ暗な場所なのか! 誰か答えてくれーっ! 誰かーっ! トムーっ! ジェリーっ! ブルさーん! ドルーピーっ! スパイクーっ! ゴリラウェイズーっ!
しばらくして、俺はまた瓶に注がれた。真っ黄ションベンとして新しい人生を与えられた俺は、この地でまた何度目かの酸化をするのであった。
しっこに質問する通行人たちが1番ヤバい。




