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39 銀次VSオリバとヘアロ

 


「よぉ優真、助けにきたで」


「銀次さん!!」


 ペドロの魔の手から優真の窮地を救ったのは、銀次だった。

 大阪に住んでいる筈の彼が、何故この場所に駆けつけられたのか。

 それは、優真がダメ元で銀次に応援を頼んだからである。


『あっ銀次さん……』


『おお~優真、急にどないしたんや』


『それが~』


 学校の屋上で敵からメッセージを送られてきた後、優真は銀次に電話をかけた。

 セツナが敵に倒され捕まってしまい、優真がおびき出さてしまったことを伝える。

 勝手なのは承知の上で、銀次に力になって欲しいとお願いしたのだ。


『よっしゃ、ワイも行くで!!』


『いいんですか……頼んでおいてあれですけど、とても危険なんですよ』


『分かっとるわ。でもな、ダチの頼みを無碍にするほどワイは薄情者はくじょうもんじゃないで。それに嬢ちゃんは優真の仲間なんやろ?

 だったらワイにとっても仲間みたいなもんや。仲間を助けるのは当然のことやろ?』


『銀次さん……』


『せやけどな~、今からかっ飛ばしても間に合わんかもしれん。ほんなら、ワイが行くまで気張るんやぞ』


『はい、ありがとう銀次さん!!』


『礼を言うのはまだ早いで。二人で嬢ちゃんを助けようやないかい』


 こうして、銀次も応援に駆けつけてくれる事になった。

 結局指定の時間までには間に合わなかったが、ちゃんと来て優真を助けてくれた。


 もしかしたら来ないかもしれない。

 そんな考えは一切合切浮かばなかった。

 銀次は約束を破るような男ではない。きっと来てくれると信じていた。


 そして彼は、優真のお願いを聞いてしっかりと来てくれたのだ。

 それが何よりも嬉しい。


「シキ様~~~!!」


「やぁランディ」


 少し離れたところで優真の戦いを見守っていたシキの元に、烏の見た目をした悪魔のランディが飛んでくる。

 ぜぇぜぇと息を切らしている配下に、シキは労った。


「急なところ、駆けつけてくれてありがとね」


「いえいえ! シキ様の頼みでしたら例え日の中水の中、ワイはどこまでも駆けつけまっせ!! それで、状況はどんな感じでしょうか?」


「ああ、ユーマが敵の契約者に殺られそうなところだったけど、ギンジ君が助けてくれたんだ。それと相手の契約者を一人倒したよ。

 いやいや、彼は強いねぇ頼りになるよ」


「いやいや……ギンジなんかまだまだでっせ。まぁ、ちっとばかしは見込みがある奴ですけど」


 二人の悪魔が話している間、突如現れた銀次にオリバとヘアロが動揺していた。


「なんなんだよこいつ、どっから出て来たんだい」


「ペドロが一撃でやられたぞ。しかも、何をしたのか全く分からなかった。気をつけろオリバ、どうやら相当な実力者のようだ」


 ペドロを一瞬で倒した銀次の実力に二人が警戒する最中、銀次はそっと優真を下ろしてポンっと頭と手を置いた。


「おう優真、見たところしこたまやられてみたいやけど、まだ戦えそうなんか?」


「はい、大丈夫です」


「はは、相変わらず頑丈なやっちゃで。そんならお前は先に行って友達ダチを助けに行ってきぃや。ここはワイに任せてな」


「えっでも……銀次さんを一人置いてなんていけないですよ!」


「何をごちゃごちゃ言うとんのや。お前はここに何しに来たんや。ダチを助けたいんやろ? ほんなら、それだけを考えて命をかけんかい」


「……うん」


「一度決めたことは死んでもやり遂げるんや、男ならな」


「わかった、僕はセツナを助けに行くよ」


 銀次の提案に、優真は強く頷いて了承する。

 本当は、敵がまだ二人いるのに銀次を置いていくのは気が引ける。


 だが一刻も早くセツナを助けに行きたいのも事実である。

 ならば、ここは銀次の心意気を汲んで、彼を信じて任せるしかない。


 二人の会話を聞いていたオリバとヘアロが、気に入らなそうに顔を顰めて割り入る。


「何を勝手に決めているんだ。俺達が大人しくここを通すと思ってるのか」


「それによ~たった一人でアタイらに戦おうってんのも随分と生意気じゃないか」


「お前等如き、ワイ一人で十分っちゅーこっちゃ!!」


((――疾いッ!?))


 銀次は漆黒の翼を羽ばたかせ、地を這うような低空飛行でオリバとヘアロに肉薄する。

 右手に持つ魔装グングニル突き出し、高速の刺突を繰り出した。


 凄まじい速さの移動と攻撃に、二人は吃驚しながらも棍棒と巨大鋏で防御する。

 が、二対一であるにも関わらず、対応が追い付かず防戦一方を強いられ反撃することが敵わなかった。


 オリバとヘアロを圧倒している銀次に優真が「凄い……」と感心していると、銀次から叱られてしまう。


「何ボケっとしてんねん! はよ行けや優真!!」


「分かった!!」


 銀次に促された優真は、迂回するように三人の横を走り過ぎる。

 それを阻止しようとオリバが追いかけようとするが、銀次の攻撃によって阻まれてしまった。


「行かせると思ってんのかい!」


「おっと、邪魔はさせへんで」


「くっ……」


「オリバ、こうなったらこいつを倒した方が早いぞ」


 ヘアロがそう告げると、オリバは大きくため息を吐きながら棍棒を肩に乗せる。


「それもそうだね。こうなったらアンタを痛みつけて楽しませて貰うとしますか」


「やれるもんならやってみぃ。返り討ちにしたるで」


「その余裕な面、すぐに絶望に染め上げてやろう」


 オリバは棍棒で空間を叩くと、怒無ドンッと轟音が鳴り響くと共に雷が発生する。


 同時にヘアロが長い髪を伸ばし、銀次に向けて放出した。

 雷撃と髪が飛来する中、銀次は再び翼を羽ばたいて上空に飛んで回避する。


 上空という好位置アドバンテージを取った銀次は、翼を羽ばき無数の羽根を撃ち放った。


「ニードルヘア!!」


「怒怒ー無!!」


 ヘアロが髪の毛の針を、オリバは雷撃を放って黒羽根を撃ち落とす。

 そのまま追撃するが、銀次は空中を飛び続け躱し続ける。


「おいテメエ卑怯だぞ!! 飛んでないで降りてきやがれ!!」


「アホ言うなや! 降りろって言われて言う通りにする奴がおるかボケ!!」


「クソが……これじゃあ攻撃が届かないし、やられたい放題だぞ」


 空を飛んでいる銀次に有効な攻撃手段が無い事に苛ついているオリバに、ヘアロが静かに作戦を伝える。

 それを聞いたオリバは、ニヤリと口角を上げ、銀次に声をかえた。


「アンタやるじゃないか。それによく見ると結構男前だしね!」


「なんや急に気色悪い、おだてても手加減はせぇへんぞ」


「そんなこと言わないでくれよ。アタイ達はもうどうする事もできないんだ。降参するって言ってんだよ。ほら、さっさとトドメを刺しな」


 突如、オリバは持っていた棍棒を捨てて両手を上げ、降参のポーズをする。

 不可解な行動に、銀次は訝し気に眉をひそめた。


(意味がわからん、一体何を考えとんのや? あの姉ちゃんは負けを認めるタイプには見へんのやけどな。まぁええわ、ほんならさくっと終わらしたる。まずはあの面倒そうな髪の奴からや)


 オリバの考えは読めないが、銀次は油断せず行動に移る。

 近付くことはせず、その場で霊力を高めて魔槍を構えた。


 狙いはヘアロ。彼の能力はパワータイプではなく搦め手を使うような厄介な能力だ。

 まずは奴を倒す。


 銀次は狙いを定め、必中の攻撃を放とうとする。


「穿て――グングニうおぉ!?」


 魔槍を突き刺そうとした刹那、足を引っ張られ中断してしまう。

 何をされたんだと困惑していると、足首に細い糸のようなものが絡みついているのが視界に入った。


(髪!? しもた、いつの間につけられたんや……暗くて気付けへんかった!!)


 銀次の足を捕縛しているのは、ヘアロの髪であった。

 彼はこっそりと髪を伸ばし、オリバが注意を引き付けている間に銀次の足を捕縛したのである。


 まんまとヘアロの策に嵌った銀次は慌てて翼を動かし、逆に引っ張り上げてやろうとしたのだが、ヘアロの髪が引っ張る力は尋常ではなく力負けしてしまう。

 そのまま勢いよく引っ張られ、地面に叩きつけられてしまった。


「ごはッ!!」


「はっは! やっとアンタをぶっ殺せるよ!!」


「ぐぉ!?」


 背中を強打して咽ている銀次に、オリバが棍棒を振り下ろしてくる。

 間一髪槍で防御したが、衝撃に両腕が痺れてしまう。

 そのまま鍔迫り合いをしている中、銀次は苦笑いを浮かべながら悪態を吐いた。


「ええんか? このままやったら男前な面がブサイクになってまうで!」


「それでいいんだよ!! アタイは良い男をボコボコにするのが大好きなんだからさ!!」


「ほんま趣味が悪いで、姉ちゃん!!」


 銀次は力を振り絞って、オリバの身体を弾き飛ばす。

 体勢を整える為に立ち上がり、そのまま大きく距離を取ろうとしたのだが、足に絡まっている髪がピンと張って動くことができない。


「くっそ、面倒やな!!」


「いいぞヘアロ! 絶対にこいつを逃がすんじゃないよ!!」


「分かってる(というより、全力を出さなければ捕まえていられん)」


 本当なら自身も参戦したいが、少しでも気を緩めると髪を解かれてしまう。

 だからヘアロは、銀次を空に飛ばさないように意識を集中させた。


怒怒無ドドンッ!!」


「ぐあああああ!!」


 放たれる雷撃を魔槍で薙ぎ払おうとするのだが、手数が追いつかず喰らってしまう。

 苦しそうに絶叫を上げ、身体から煙をたたせる銀次に、オリバは間髪入れずに接近した。

 肉薄すると、棍棒による強烈な連続殴打を繰り出す。


「そらそらそらそらぁあああ!!」


「なんて馬鹿力や!?」


 オリバの猛攻に、銀次は防ぐだけの防戦一方に陥ってしまう。

 一合一合武器を重ねる度に、全身に衝撃が襲って痺れてしまう。


 このまま防いでいても埒が明かないし、先に力尽きるのはこちらの方だろう。

 銀次は霊力を高めると、敢えて攻撃を受けて耐え忍び、起死回生の一打を繰り出した。


「ごほッ……穿て――グングニル!!」


「へっ、そんな見え見えの攻撃当たるかよ」


 銀次が何か企んでいることは読めていた。

 だから銀次の刺突を、オリバは身体を半身にして紙一重で躱す。


 彼の攻撃は無駄に終わった――と思われたその時だった。


「ぐぁぁああああああ!!」


「ヘアロ!?」


 背後から絶叫が聞こえ振り返ると、何故かヘアロが胸を押さえながら倒れていた。


「こいつ、まさかッ!?」


 そこで初めて、銀次の狙いに気付く。

 銀次はオリバに反撃しようとしていたのではなく、最初はなっから動きを封じているヘアロを狙っていたのだ。


 仲間がやられて顔を憤怒に染めながら振り返ると、眼前に銀次の姿はなく離れた場所に移動していた。


「はぁ……はぁ……これで後はあんた一人やで」


「テメエ……ふっアンタいい度胸してるじゃない。よくアタイの殴打を防げたじゃないか」


「まぁの……当たると分かっていたら、後は気合で耐えるだけや」


 銀次は攻撃される箇所に霊力を高め、僅かだが防御力を上げた。

 それによって耐えることはできたが、その変わり大きなダメージを負ってしまう。

 ヘアロを倒した代償はかなり高かった。


「ますます気に入ったよ、こうなったらアタイも全力でアンタをぶっ殺してやる」


 そう告げるオリバは、全霊力を身体に注ぎ込む。

 その瞬間、彼女の筋肉が膨張し、額から角が生える。

 凶悪なその姿は、鬼そのものに見えた。


「これがアタイの切り札だ。パワー、スピード、共にさっきまでの比じゃないよ。覚悟しな」


 オリバは契約悪魔であるボルビの鬼の力を最大限まで発動した。

 自身を鬼に変化させる事で、パワーやスピードが飛躍的に向上している。


 ただ、鬼化は一度発動してしまうと霊力が自動的に減ってしまい、長い時間発動できず時間制限というデメリットがある。

 だからオリバは、この力を切り札にしていた。


 凶悪な鬼に変貌したオリバに対し、銀次は勝気な笑みを浮かべる。


「ほぉ、お前さんもワイと同じような能力があるんやな。ならワイも、お前さんの全力に応えようやないかい」


「その口ぶりだと、アンタも変身できるようだね」


「その通りや。見晒せ、これがワイの切り札の一つや!!」


 銀次が身体に残った霊力を注ぎ込むと、漆黒の翼が彼の総身を包み込む。

 数秒後、翼を展開すると全く変わった銀次が現れた。


「ほう……まさに鴉だね」


 オリバの言う通り、銀次の身体は鴉に変貌していた。

 全身が鴉の肉体に変化し、足や手の爪が鋭く伸びている。ただ、顔はそのままで嘴が生えることはなかった。

 言うなれば、鴉の獣人といったところだろう。


 この力はオリバの鬼化と同様に、自身の身体をランディに変化させる能力だ。

 パワーやスピードの他にも、反応速度などが飛躍的に上昇するが、これもデメリットがある諸刃の剣である。


 因みに、オリバや銀次のような姿を変えて身体能力を上げる能力を『悪魔化』と呼ぶ。


「さぁ、思う存分やり合おうやないかい」


「いいねぇ、アンタ本当に良い男だよ。身体が滾って仕方ない、早く殺り合おうぜ!!」


 両者同時に動き出す。

 強く地面を蹴り上げ、眼前の敵へ猛進した。


「そらぁ!!」


「ぉおお!!」


 おもいっきり振るわれた棍棒と槍がかち合う。

 攻撃が重なった瞬間、劈く轟音が辺りに響き渡った。


 パワーもスピードも互角。

 なれば、相手より先に自身の武器を相手に届かせるだけ。

 銀次とオリバは、目の前を倒すことに全神経を注ぎ込んで武器を振るった。


「「ぉおおッ!!」」


 拮抗。


「「ぉぉおおおおおおおおッ!!!」


 拮抗ッ!


「「ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!」


 拮抗ッ!!!


 腹の底から絶叫を上げる。

 幾度攻撃を重ねただろうか。度重なる衝撃に、腕や身体が今にもはち切れそうだった。

 それでも両者一歩も退かず、逃げず、目の前の敵に喰らいついている。


「くっそがッ」


 激しい剣戟の嵐の中、先に限界が訪れたのは銀次の方であった。

 豪快な横薙ぎに両腕が悲鳴を上げ、耐えきれず吹っ飛ばされてしまう。

 その上魔槍を弾き飛ばされ、武器を手放してしまった。


 その隙を彼女は見逃さない。

 体勢を崩された上に、丸腰な銀次へと一直線に襲いかかる。


「愉しかったぜ、これで終わりだ!!」


「勝手に終わりにすんなやボケェ!!」


 オリバがトドメの一撃を振り下ろそうとする、その直前。

 銀次は右手を突き出すと同時に鴉の爪を伸ばしてオリバの腹部を貫いた。


「クロウクロー!!」


「ごはッ?!」


 予想外の不意を突かれたオリバは、攻撃を中断され吐血してしまう。

 怯んでいる間に、銀次は間髪入れずにトドメの攻撃を繰り出した。


「ダブルクロー!!」


「ぐああああああああああああああッ!!」


 両手をクロスさせながら振るい、鴉の爪を全力で叩き込む。

 身体から血飛沫が舞い、オリバは白目を剥いてうつ伏せに倒れた。


「無念だオリバ……もっとお前の筋肉が躍動するところを見たかった」


 最後の一撃が魔石を砕いたのだろう。

 オリバの契約悪魔であるボルボが、うっすらと消滅し魔界に送還されてゆく。


「はぁ……はぁ……しんどいわぁ」


 霊力も力も使い果たした銀次は、立っていられず地面に両手がついてしまう。


 彼でも、オリバとヘアロの二人を同時に戦うのは厳しいものだった。

 特にオリバに関しては、一歩間違えていれば敗北していたのは自分の方だったかもしれない。

 どちらに転んでもおかしくない、紙一重の戦いだった。


 最後に勝利の女神が微笑んだのは、銀次の方だったが。


「すまん優真、もう力が出えへんわ。助けに行きたいところやけど、流石に無理やで」


 大量の汗を流しながら、銀次は優真が向かった方向を見つめる。

 彼の力になりたいが、霊力も体力スタミナも全て出しきってしまったので戦いに加わることは不可能。

 後は優真に託すしかない。


「気張れや、優真」


 優真の勝利を願いながら、銀次は大の字に寝転がったのだ。


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