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03 悪魔の正体

 


「おいペペラパ、本当にこの近くにいるんだろうなぁ。俺様のカモがよ」


「いるよ! なんとなくだけど、悪魔は他の悪魔の居所がわかるんだ!」


 市立湘風中学校の近くに、一匹の悪魔と契約者がいた。

 契約者の名は横峯よこみね 哲平てっぺい

 つい最近までヤクザの下っ端だったが、悪魔のペペラパと契約を交わし力を得たことで、功績が爆上がりしている。

 因みにペペラパの見た目は、でっぷり太った蝙蝠である。


 契約時に叶えた願いは大金だった。

 その大金は組への借金返済と地位の向上のために上納した。悪魔の力を使って組を乗っ取ればいいとも思うのだが、失敗した時のリスクを考えて上手く立ち回っている。

 見た目はただのチンピラだが、意外に狡猾な男である。


 ただし、契約悪魔のペペラパはあまり頭がよろしくなかった。


 そんな二人のコンビは、ライバルを蹴落とすためにここまでやってきていた。

 悪魔を倒せば、その分悪魔の力が上がるらしい。

 という事は、今よりももっと強くなれるという事だ。

 そんな情報をペペラパから教えてもらった横峯は、なるべく弱そうな相手と戦おうとしていた。


「中学校ね~、てことは相手はガキってことだな。へっ、ちょろいもんだぜ」


「ちょろいもんだぜ!」


 優真とシキに、最初の悪魔の手が迫りかかろうとしていた。



 ◇◆◇



「これで契約は終わりだよ。私とユーマは、晴れてパートナーになった」


「それと、友達だね」


「そう、友達」


 あははと、二人はおかしそうに笑う。

 シキは手に持っている魔石の指輪を優真に渡した。


「これはユーマが持っていてくれ。とても大事な物だから、肌身離さず持っていなくちゃダメだよ。首にかけてもいいかもね」


「うん、わかった」


 いつの間にか指輪にチェーンがついていた。

 ネックレスとなった指輪を首にかけ、無くさないように服の中にしっかり仕舞う。


「因みに、それが壊されてしまっても敗北となってしまうからね」


「ええ!? そ、そんな大事なことは先に言っておいてよ!」


『魔王の儀』においての敗北条件。

 それは契約者の死亡もあるが、契約した魔石を破壊されてしまっても敗北となってしまう。

 そんな大事なことは最初に言って欲しいと、心の中でため息を吐いた。


「ねぇシキ、気になることが二つあるんだけど、聞いてもいいかな」


「いいとも、じゃんじゃん聞いちゃってくれ。私が知っている事ならばなんでも話してあげるよ」


「それじゃあさ、『悪魔の儀』に参加している悪魔っていったいどれくらいいるの?」


「う~ん、詳しくは私もわからないけど、百は軽く越えていると思うよ。下手すると千はいるかな~」


「えっ!? そんなにいるの!?」


 数を聞いて驚いてしまう。

 優真の考えでは、十や二十ほどだと思っていた。

 多くても五十ぐらい。

 まさかそんなに多くの悪魔が戦いに参加しているとは思いもしなかった。


「まぁね~、魔王になれる可能性があるなら、誰だって参加したいだろうし。

 とはいっても、実際に戦う数はそんなにないと思うよ。悪魔は世界中に降りているからね。私達の知らない場所で勝手に戦い合えば、自ずと数は減ってくるんだよ」


「そっか……そうだよね。僕達だけじゃないんだもんね」


「契約するタイムミリットもあるんだ。人間界ではもうすぐ月蝕があるんだけど、それまでに人間と契約できなかった悪魔は強制的に魔界に送還されてしまうんだよ」


「へぇ……そうなんだ」


 何百もいると聞いて、どれだけの数と戦えばいいんだと焦ったが、考えてみれば自分達以外でも戦うので、実際に戦うのはそれほど多くはないのだろう。

 ちょっとだけ気持ちが楽になった優真だった。


「もう一つ聞いていい?」


「どうぞどうぞ」


「僕が見える黒い化物も、シキみたいな悪魔なの?」


 シキと出会い、シキが悪魔と名乗った時からその疑問を抱いていた。

 あの醜くおぞましい化物の正体も、悪魔なのではないかと。


「黒い化物? それってどんなものなんだい?」


「形は様々なんだ。だけどこうドロっとしていて、気持ち悪くて、大きな目玉があったり、呻き声を上げたりしてるんだよ。

 その化物は僕にしか見えないんだけど、悪戯のような事をしてきたり、僕の周りにいる人を不幸にしてしまうんだ」


 優真から化物の特徴を詳しく聞いたシキは、はっと気づいたリアクションをして、目を見開いた。


「驚いた……ユーマ、君は“けがれ”が見えるのかい?」


「穢れ? それって悪魔とは違うものなの? もしかしてシキも見えるの?」


 自分が見える化物がシキにも見える。

 自分以外にも見える者がこの世にいたんだと嬉しくなるが、シキは首を横に振ってしまう。


「残念だけど、私にも穢れは見えないんだ」


「そ……そっか……」


「ユーマが言う化物は穢れといって、この世界とは違う世界から零れ落ちた“異物”なんだよ」


「この世界とは違う世界って……魔界ってこと?」


 その問いに、シキは「いや」と首を横に振る。


「魔界でもないんだ。こことは全く異なる世界、言うなれば“異世界”といった感じかな」


「い、異世界……?」


 そんなもの、初めて聞いた。

 こことは全く異なる世界なんてあるのだろうか?

 俄かに信じられないが、シキが言うのならば本当に存在するのかもしれない。


「そう、異世界だ。本来ならば、ユーマがいるこの世界と異世界は決して交わることはない。けどね、異世界にある穢れというものが、なんらかの原因によってこちらの世界に零れ落ちてきてしまうんだよ。

 普通の人間ならば穢れは見えないし、特に干渉もされない。でもユーマは人よりも霊力が高いから、そのせいで見えてしまっているのかもね」


「そう……だったんだ」


 腑に落ちた。やっとわかった。

 あの黒い化物の正体が、ずっと自分を苦しめ続けたものの存在が。

 黒い化物は、異世界の穢れだったのだ。


 だからどうだって話だけれど。

 優真にとっては、少なくとも得体の知れないものではなくなった。

 それは彼にとって、とても大きな意味をもつ。


「穢れとは関わってはいけないよ。あれは、悪魔でも手に負えない代物だからね」


「大丈夫、それは自分でもよくわかってるから」


「そうかい、それならいいんだけどね。それと一応言っておくけど、私は穢れに干渉されないから心配しなくていいよ」


「そうなんだ……じゃあ、一緒にいられるね」


「うん、いられるよ」


 穢れによる危害がシキに及ばないと知り、嬉しそうにはむかむ優真。


 そこで、優真はある事に気付く。

 日が落ちかけ、空は夕焼けに染まっていた。

 いつの間にこんなに時間が経ってしまったのだろうか。

 久しぶりに、誰かとこんなに沢山話していたから気付かなかったのかもしれない。


「そろそろ帰らなきゃ。シキはこの世界に家があるの? よかったらうちに来る?」


「私はユーマの側をできるだけ離れたくないからね。ユーマさえよければ、一緒に行ってもいいかい?」


「うん、勿論さ。じゃあ――」


 ――帰ろう。


 そう告げようとした瞬間。

 パンッと乾いた発砲音が聞こえたと同時に。


 優真は、冷たいコンクリートに倒れてしまったのだった。




本日夜にもう一話更新予定です!

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