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29 関西弁の男

 


「いや~ほんまありがとうな~、ボウズのお蔭で命拾いしたったわ」


「あはは……」


 道端に倒れていた男は食い倒れだった。

 優真は手元にあった食パンと、近くにあった自動販売機から水を買って男に与える。

 男は一瞬で食パン全てを食べ尽くし、満足そうに腹を叩いた。


「ほんま助かったでボウズ、この恩は一生忘れへんで」


「いえ……大した事はしてないので気にしないで下さい。それより、どうして動けなくなるまで放っておいたんですか?」


 単純な疑問。

 今日日、腹が減って倒れるなんて珍しい。

 今時、古臭くて漫画ですら使われない展開だ。

 優真だって、まさか人生で食い倒れと出会うとは思いもしなかった。


「それがな~、わいの知り合いを探そうとして朝から何も食わずで大阪からここまですっ飛んできたんやけど、急にエネルギー切れで意識が遠くなってしもうたんや。いや~下手こいたで~」


「ええ!? 大阪からここまで来たんですか!?」


 参ったで~と言う男の話に驚愕してしまう。

 その話が本当なら、食い倒れてしまうのも無理はないだろう。


 だけど解せない。

 大阪からここまでの長い距離を一日で辿り着くのには、新幹線や電車に乗らないと時間的に不可能だろう。

 でもそれなら、食べ物を買う瞬間は幾らでもあったのではないか。

 まさか、徒歩や自転車でここまで来た訳でもないだろうし。


「そうや。大阪からびゅ~んとひとっ飛びや」


「ひとっ飛びって、飛行機で来たってことですか?」


「ちゃうちゃう、文字通り空を飛んできたんや。こんな風にな」


「――っ!?」


 突如、男の背中から黒い翼が生える。

 漆黒の翼が広がり、羽根が舞った。

 人間の背中から翼が生えるなんて有り得ない。

 考えられるとしたら、悪魔の力。

 という事は、この男は契約者なのか。


 優真の予想は的中しており、男は胸を張りながら名乗った。


「わいは浪速なにわのイケメン高校生、金塚かねづか 銀次ぎんじや。そんで見ての通り、ボウズと同じ契約者や。よろしゅう頼むで」


(自分でイケメンって言っちゃうんだ。まぁ、事実男前だしカッコイイけど)


 食い倒れの男――金塚銀次は大阪住みの高校生二年生。


 外見は、本人が言っている通りイケメンだ。

 ツンツンした黒髪。目の堀は深く、鼻筋も高い。背が高く身体はガッチリしている。優真的には、今時のイケメンというより昭和期にいた男前のような顔だと思う。

 剣道を嗜んでいるのだろうか、何故か竹刀袋を背負っていた。


 そんな銀次が、まさか契約者だったなんて。

 大阪から空を飛んできたという話もこれで頷ける。あの翼があれば、空を飛んでここまで来ることも可能だろう。


「どうして僕が契約者だって分かったんですか……」


「なんでって言われてもな、そら~ボウズの横に悪魔がおるからやろ」


(あっ……)


 銀次がシキを指しながら当然だと言わんばかりに告げる。

 優真はついシキがいることを忘れていた。

 一般人は悪魔を視認する事ができないが、契約者は他の悪魔のことが見える。

 だから悪魔が側にいる人間は、契約者だと判別することができるのだ。


 優真はすっかり忘れていたが、勿論シキは承知の上で優真と一緒にいる。

 何故契約者だとバレるリスクを抱えてまで彼の側にいるかというと、それは優真の友達という願いによるものだからだ。


 まぁ、シキとしては願いがなくとも優真の側にいるのだが。

 が、しっかりとその辺の対策はしている。悪魔の気配を感じたら姿を消したり変えるなりしているから、バレる要素はない。


(けどおかしいね、悪魔の気配はしなかったんだけど……)


 実は、シキは常時悪魔の気配を探っている。

 上級悪魔の手腕により、その範囲はかなり広い。悪魔によっては巧妙に気配を隠したりする悪魔もいるのだが、大体の悪魔は漏れ出てしまう。

 なので悪魔が近くにいれば察知している筈なのだが、何故か銀次には反応しなかった。


 というより、銀次の契約悪魔がどこにも見当たらない。

 シキの探知に引っかからなかったのは、もしかして契約悪魔を置いて銀次一人だけで来たのかもしれなかった。


 自分が契約者だと名乗り出た銀次に優真とシキが警戒していると、彼は黒い翼を背中に仕舞い、戦う気はないとアピールする。


「そんな警戒せんとええよ、戦う気はあらへん。助けて貰った礼に、今回は見逃しといたるわ」


 凄い上から目線だった。

 よっぽど自信があるのだろう、まるで自分が負ける筈がないと言わんばかりの物言いだ。

 その強気な発言と態度に脱帽するが、きっと口だけではないだろう。

 対峙しているだけでなんとなく分かる。

 この男は相当強い、と。


「ありがとう……ございます」


 見逃してくれると言うならわざわざ戦う必要はないだろう。

 それに銀次は今まで戦ってきた契約者とは違い、悪い人でもなさそうだ。できることなら戦いたくない。


「そうやボウズ、わいは人探しでこっちに来たんやけどな、お前さんぐらいの歳で、ゆうまって名前のガキ知らへんか?」


「えっと……僕も優真ですけど」


「ほんまか!? ボウズの名前、ゆうまっていうんか!?」


「はい、榊 優真っていいます」


 今更ながらに自己紹介する。

 まさか銀次が探している人の名前が自分と同じだとは思わなかった。

 しかし探し人の名前が“ゆうま”だからといって、自分だとは限らないだろう。“ゆうま”という名前は他にもいるだろうから。


 いや、それは願望か。

 彼の探し人が、自分であって欲しくないという願望。

 もし同一人物だとしたら、とても嫌な予感がする。

 優真の名前を知った銀次は、険しい表情を浮かべて口を開いた。


「悪いがボウズ、見逃すってのは前言撤回するで。わいはお前さんと戦わなきゃならんようや」


 嫌な予感が当たってしまったようだ。

 どうやら銀次が探していた人物は、優真であったらしい。

 彼の雰囲気は本気で、冗談を言っているようには思えない。

 戦わないという選択は取れないようだ。


「本当に、戦わなくちゃダメなんですか……」


「おう、こっちにも理由があるからな。すまんが、わいに付き合ってもらうで」


「……分かりました」


「おおきに、助かるで。ほな場所を変えようか、ここだとおもいっきし暴れられへんからな」


 そう言って身を翻す銀次。

 彼について行こうとする優真に、シキが声をかける。


「大丈夫かい? 彼は強いよ、本気で戦わないと負けるかもしれない」


 優真が戦ってきた契約者は悪人ばかりだった。

 だけど銀次はそうではない。周囲を巻き込まないように場所を変えようとしているし、正々堂々と戦おうとしている真っすぐな人だ。


 極単純に言えば良い人である。

 そんな相手と、本気で戦えるのか。

 シキが心配しているところはそこだった。


「分かってる。僕も戦う覚悟はできてるよ。金塚さんが相手でも、僕は本気を出す」


「そうかい、それを聞けて安心したよ。頑張ってね、ユーマ」


「うん」



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