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28 勉強会

 


 テスト対策のため四人で勉強会を開くことになった四人は、学校から少し離れたファミレスに訪れていた。


 優真達以外にも学生の姿がちらほら見られる。恐らく優真達と同じように勉強しているのだろう。


 とりあえずドリンクバーだけ頼み、各自飲み物を持ってくる。

 その際シキが「なんだいこれは?」と驚いていたので簡単に説明すると「こんな小さな箱にそんな沢山の飲み物が入っているんだね」と感心を抱いていた。


 彼にも飲ませてやりたいが、コップが宙に浮いて飲み物が減っていくのは怪奇現象なため、申し訳ないが我慢して貰うことにした。


 そうして始まった勉強会。

 一先ずは各々で苦手分野を克服するところから手をつけ、分からない箇所があればその都度セツナや朝比奈に教えてもらう。


「何でこんな問題がわかんないのよ!?」


「分からないんだからしょうがないじゃん!」


「ここはね、この公式を当てはめるといいんだよ」


「そっか、ありがとう」


 しかし、セツナは教え方が下手だった。

 天才肌の彼女は、できない人の気持ちがわからない。

 特に宮崎は頭が悪く、理解するのに苦労してしまう。彼女は運動が得意で、陸上部に所属し成績も良いのだが、勉強の方はからっきしだったのだ。


 その点朝比奈は教え方が上手で、優真もすんなりと理解することができた。


 話し方も上手いし、セツナのように嫌な顔して怒らずに、優しく丁寧に教えてくれる。

 教える側だけではなく、セツナの下手な教え方でも「そっか~」としっかり理解していた。

 それを横目で見つつ(凄いなぁ)と感心してしまう。


 そんな感じで一時間ほど勉強していると、一番最初に宮崎が根を上げた。


「も~無理、頭が一杯になってきた。休憩しよ休憩」


「何よ、だらしないわね」


 テーブルの上にダランとうつ伏せになる宮崎に、セツナが呆れた風に見下ろす。


「まぁまぁ、少し休憩しようか」


「小春ぅ~」


 場を和ませるように朝比奈が告げると、休憩することになった。

 ドリンクバーを取りに行くついでに身体を解し、ジュースを飲みがらお喋りに発展する。

 学校のことや誰々がどうだとか他愛のない会話を広げていると、突然宮崎が怪訝そうなジト目を優真とセツナに向ける。


「そういえば気になったんだけどさ、神代と榊っていつの間に仲良くなったの?」


「えっ、あ……」


「それに皆の前では苗字で呼んでるのに、二人の時やあたし達といる時は名前で呼び合ってるんじゃん。もしかして、あんた達デキてんの?」


 疑わしいなぁ……と宮崎から下種な勘ぐりをされて狼狽える優真とは違って、セツナは不愉快そうにきっぱりと発言する。


「冗談じゃないわ、何でアタシがこんなモヤシと付き合わなきゃならないのよ」


「じゃあどんな関係なのよ」


「こいつは単なる男除けよ。クラスの男子ガキ共が一々五月蠅いから、唯一群れてないぼっちの優真と仲良くしておけば他の奴等も近寄ってこないでしょ。こいつ、嫌われてるようだったしね」


(そういえばそんな事言ってたなぁ……)


 班を決めた日の夜、どうしていきなり自分と班になったんだと尋ねたら、男子に言い寄られるのがウザいからと言っていた。


 他にも契約者と戦うことを想定して、できるだけ近くに居た方がいいとも言っていたが、流石にそっちの理由を話す訳にはいかないだろう。


 それにしても言い方が酷くないかと落ち込む優真。

 まぁ、クラスの生徒達から冷たい目で見られているのは事実であるのだけども。


 セツナから理由を聞いた宮崎は「なるほどねぇ」と腑に落ちたように頬杖をついた。


 彼女は転校してきたその日からクラスの人気者になった。

 帰国子女で美少女、さらに愛想も良ければ(表面上は)色々と話を聞きたいし仲良くなりたいと誰もが思うだろう。

 特に男子からは、傍から見て同情してしまうぐらいにしつこく声をかけられていた。


「なるほどねぇ、それでぼっちの榊を男除けに選んだって訳か。でも、榊からしたらいい迷惑じゃない?」


「え……僕はまぁ……」


「迷惑な訳ないじゃない。アタシのような可愛い女の子と一緒にいられて喜んでるわよ」


「それ自分で言っちゃう?」


 傲岸不遜な物言いに呆れる宮崎。

 するとセツナは、腕を組みながら怪訝な顔を浮かべ、質問し返す。


「だったらアンタ達はどうなのよ。班決めの時に男子から誘われてたのに、真っ先に優真のところに来たじゃない」


「それは……」


「私が榊君と一緒の班になりたいって言ったからだよ」


「「えっ」」


 宮崎が言う前に、横から朝比奈が理由を述べる。

 恥ずかし気もなくきっぱりと言い切ったことに、優真とセツナは同時に目を見開いた。


「榊君とは二年生で同じクラスになったんだけど、どんな子なんだろうって思ってたの。誰かと関わりたくなさそうにしてたから、一人が好きなのかな~って思ったり、時間があればずっと窓から外を眺めてるな~って、不思議な子だな~って思ってたんだ。

 でもある日ね、先に帰ったはずの榊君の上履きがまだ残ってて、その日だけじゃなくて毎回そうだったからどこに行ってるのかな~って思ったり。

 そしたらなんか興味持って、どんな子なんだろうと思って話してみたいと思ったの」


(そうだったんだ……)


 クラスの人気者である朝比奈が、自分みたいな陰キャぼっちなんかに声をかけたりする理由がやっと分かった。


 挨拶などは彼女の人柄だろうが、わざわざ声をかけてくるのはただ単純に興味を抱いていたからだ。

 だけど朝比奈は、まだ一つだけ本当の事は話していない。

 どうやら、自分だけの秘密にしたいようだ。


「なんだ、モヤシが好きだとかじゃないのね。つまんないの」


「あはは……どうだろう」


「だから言ったじゃん。小春が榊な……」


 宮崎は言葉を飲み込んだ。

 飲み込めてよかった。

 また、自分が嫌な奴になるところだったから。


「朝比奈さんがなんなのよ」


「なんでもないから忘れて。っていうかさ、榊もよくわかんないのよね。今まで人を避けてた癖に、どうして急に神代といるのよ」


 それ以上追求されるのを嫌がった宮崎が、今度は優真に話を振る。


 その質問に、優真は口つぐんでしまった。

 誰かと関わろうとしなかったのは、自分と近くにいれば不幸な目に遭うかもしれないから。

 セツナと関わったのは、同じ契約者で、シキを魔王にする為の仲間だから。


 いや、それだけじゃない。穢れのことを知って尚、セツナは自分と一緒にいると言ってくれた。

 例えそれが復讐の為に仕方がないことだとしても、優真にとっては本当に嬉しかったのだ。


 宮崎の質問に、優真はしどろもどろになりながらも自分の気持ちを伝える。


「成り行きって言ったらそう……なんだけど。なんだろうな、セツナが一緒に居てくれるって言ってくれたから……だと思うよ」


「「……」」


 微笑みながら告げた優真に、女子三人は驚愕してしまう。

 その反応に(えっ? 僕おかしなこと言ったかな?)と困惑していると、宮崎がにししと厭らしく笑いながら、


「な~んだ、やっぱりあんた等デキてんじゃん」


「ばっ――!! か、勘違いすんじゃないわよ! アタシはそんな事一度も言ってないからね! バカ優真がなんか勘違いしただけよ!」


「必死なところがまた怪しい」


「宮崎、これ以上アタシを揶揄おうってんなら張り倒すわよ」


「わ、悪かったって。マジになんないでよ」


「大体ね、アンタが紛らわしいこと言うから悪いのよ」


「痛い痛い、痛いよセツナぁ」


(なんだか先越されちゃったな~)


 セツナは優真の首を絞め上げて、優真は苦しそうに呻いている。

 仲睦まじい光景を眼前で見て、朝比奈は残念そうな顔を浮かべた。


 自分は中々距離を詰められなかったのに、セツナはあっという間に壁を壊してしまった。

 それがなんだか、ちょっぴり悔しい。


「そろそろ勉強に戻ろっか」


「それもそうね。はぁ~、勉強面倒臭いなぁ」


 それから四人は、客が込んでくる時間帯まで勉強を続けたのだった。



 ◇◆◇



「「終わったぁぁあああああ!!」」


「これで中間テストは終わったが、すぐに期末テストがあるから勉強怠るなよ~」


「「は~~~~、そうだった」」


 全てのテストが終わり、やっと勉強から解放されて喜ぶ生徒達だったが、期末テストの情報を知ってため息を吐く。

 それでも、頑張ったご褒美に今日ぐらい羽目を外したって罰は当たらないだろう。


「あそこのカフェにデザート食べに行こうよ」


「カラオケ行こうぜ!」


「やっと新作のゲームができる!!」


 開放感に包まれた生徒達は、遊びの予定を立てて教室に出て行く。

 それは宮崎も同じで、優真とセツナの席に来ると誘ってくる。


「あたし達もどっか行かない?」


「悪いけど、アタシはやる事があるからパス」


「ごめん、僕も今日は買い物に行かなくちゃいけないから」


「何よ二人とも、一緒に勉強した仲なのにつれないわね~。小春は来てくれるでしょ?」


「うん、勿論だよ」


 という事で、朝比奈と宮崎の二人は「じゃあね~」と挨拶して教室を出て行く。

 用があるセツナも一人で帰ってしまい、優真はシキと一緒に買い物の出掛けたのだった。





「今日の晩御飯はカレーかい?」


「そうだよ、よくわかったね」


「じゃがいもににんじんにカレー粉。これだけ揃ってれば誰だってカレーだと分かるさ。ユーマの作るカレーは美味しいから楽しみだなぁ」


 晩御飯を期待している羊の悪魔。

 シキは大分人間界の料理の虜になっている。

 いや、優真が作る料理にと言うべきか。


「あれ、誰か倒れているね」


「本当だ……助けた方がいいよね」


 近くのスーパーから家に帰ってる途中、細い道端に一人の男が倒れていた。

 なにかあったのだろうか。

 優真は慌てて駆け寄り、倒れている男に声をかける。


「あの、大丈夫ですか!? どこか痛いんですか?」


「は……へ……」


「えっ?」


 声が小さくて聞き取れずもう一度尋ねると、その男は苦し気に呟いた。


「腹が減って死にそうや……なんか食いもんくれ」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前回は何気にスルーしてたけど 上履きが残ってたら既に下校してるって…。 靴が残ってたら校内に残ってるのでは?
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