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27 選択肢

 


「今日からテスト週間だから、部活は無いから注意しろよ~。来週に中間テストがあるから、ちゃんと勉強するんだぞ」


「「は~~~~」」


(あ、テストのことすっかり忘れてた。どうしよう、全然勉強してないや)


 校外学習という楽しいイベントも終了し、今度は中間テストがやってきてしまった。

 生徒達がげんなりしながら深~いため息を吐いている理由が分からず、シキは頭を抱えている優真に問いかける。


「テストってなんだい?」


(テストはね、今まで勉強してきたことをちゃんと覚えているか試すものなんだよ。テストの点が良いと成績の評価が上がるし、逆に悪いと成績が悪くなるんだ。

 それに赤点を取ってちゃうと、補修をやらなくちゃならないんだ)


「へぇ、魔界学校の試験と同じようなものなんだね」


(悪魔にもテストってあるの?)


「内容はちょっと違うけどね。悪魔の場合は魔界の歴史と、悪魔の力を使えるかの実技試験があるんだ。ユーマ達と同じように、及第点を取らないと上の段階にいけないんだよ」


 シキの話に、優真はなるほどな~と感心する。

 悪魔にもテストがあり、同じような仕組みがあるらしい。悪魔なのにテストなんて必要あるのだろうかと思っていると、シキがこう聞いてくる。


「ユーマは何を焦ってるんだい?」


(最近色々あったから、勉強してなかったんだ。だから赤点取っちゃうかもしれない)


 優真は地頭が良い訳ではない。勉強するのも苦手で、家でも復習しないと身につかなかった。


 しっかりと復習しているお蔭で、一年生時の成績は上から三十番代をキープしている。

 どうして彼が勉強に力を入れているのかというと、それは親戚の叔母である夏美の影響だった。


『学生がよく「勉強する意味なんかあるの? 将来に役に立つの?」って先生や大人に聞くでしょ? 私も小さい頃は同じ疑問を持ってたんだけど、勉強する意味はちゃんとあるんだよ』


『どんな……?』


『将来の選択肢の幅を広げられること。そして後悔しないこと』


『……選択肢の幅と……後悔?』


『そう。勉強して良い学校に行くじゃない? そしたら色々な事を学べるし、やってみたい仕事の会社にも就職しやすくなる。子供の優真に言うのはまだ早いかもしれないけど、世の中ってまだまだ学歴社会なところがあってね。良い学校じゃないと、そもそも入ることすら難しい会社もあるのよ。

 だから優真がこの先こんなことやりたいと思って、それをやれる会社ばしょを選ぶ時、選択肢がいっぱいあった方がいいじゃない? だから勉強する必要があると思うんだ』


『そうなんだ……じゃあ、後悔って?』


『私は今写真を撮る仕事をしてるけど、本当はね、漫画の編集者になりたかったの。でもね、それに気付いたのは前の仕事をしてる時で、気付くのが遅かった。

 編集者って、四年生の大学に出ておかないと駄目なんだって。私は大学に行ってないから、挑戦する権利すらなかったの。

 この歳からまた勉強して四年間大学通うのは面倒だったから、すぐに諦めちゃった。だからね、あの時少し後悔したの。ちゃんと勉強やっておけばよかった。大学に行っておけばよかったてね』


『そう……なんだ』


『だから優真には、後悔して欲しくないの。優真が大人になって、やりたいと思ったことに挑戦できるように、選択肢の幅を広げられるように、あの時ちゃんと勉強しておけばよかったって後悔しない為に、今から勉強をやっておくことは大切なんだよ。

 勿論、優真がスポーツ選手や俳優になりたいと思ったら、私は全力で応援するからね。その変わり、中途半端な考えだったら蹴っ飛ばしてやるから。

 だからやりたい事が見つかるまでは、勉強頑張りな』


『うん、分かったよ。叔母さん』


 夏美の話を聞いた優真はとりあえずしっかり勉強することにした。


 正直言えば、将来なんか夢も希望もない。

 やりたい事なんてないし、仮に見つけたとしてもできる可能性は低いだろう。


 穢れが存在する以上どこに居たって周りに迷惑をかけるし、不幸にしてしまうから。

 自分は、この世に必要とされていないどころか、生きているだけで迷惑な存在だから。


 それに、優真はいつ死んでもいいと思っている。

 そんな自分が、勉強したってなんの意味もない。


 けど、いつも明るくてふざけた感じの夏美が、本気で言っていることが伝わってきたから、とりあえずやっておくか程度で勉強に励むことにしたのだ。


 とはいっても、ここ最近は勉強する暇がなかった。

 シキの契約者パートナーになり、敵と戦ったり、セツナが突然家に居座ったり、放課後はトレーニングしたりと大変だったからである。


「勉強嫌だ~!」


「誰かんちに集まって勉強しようぜ」


「それ絶対遊んでるパターンじゃん」


 生徒達がテスト対策の話をしながら下校する中、隣の席にいるセツナが呆れた風に声をかけてくる。


「なによアンタ、まさか頭悪いの?」


「そ~ゆうセツナは良いの?」


「誰に言ってんのよ。この程度のレベル、楽勝に決まってるじゃない」


 優真と違って、セツナは地頭が良かった。

 アメリカにいた頃から成績も良く、日本の中学生レベルは既に頭に入っている。


 ただ、歴史や国語といった日本関連の科目に関しては完全とはいかない。

 まぁ、その二つは殆ど記憶を植え付けるだけなので、授業中に聞いていれば十分ではあった。


「セツナって頭良かったんだ……」


 普段の態度や言動からは頭が良いイメージはなかったのだが、どうやら彼女は自分と違い頭が良いらしい

 優真から褒められて「あたり前じゃない、アタシを誰だと思ってんのよ」と優越感にふんぞり返っていると、


「へぇ、神代って頭良いんだ。なら、あたし達にも勉強教えてよ」


 と横から声をかけられる。

 声の方に視線を向けると、そこには朝比奈と宮崎がいた。

 校外学習が終わった後、二人とはちょくちょく話をするような仲になっている。

 セツナと宮崎の関係がいつの間にか解消されていた時は優真も「え? え?」と驚いていた。


「あん? どうしてアタシがアンタらに教えなくちゃなんないのよ」


「別にいいじゃん、減るもんじゃないし。それにただ教えて貰うだけじゃなくて、こっちにも小春がいるんだから」


「なに、アンタ頭良いの?」


「そ、そんなんじゃないよ。少しできるってだけだよ」


 謙遜している朝比奈だが、一年生の学年順位は全て十位以内に入っていた。

 流石、優等生と言われているだけはある。

 彼女は自分の話題から逸らすように、セツナにお願いをする。


「私も英語が苦手だから、神代さんに色々と教えて貰いたいな。駄目……かな?」


「ふん、しょうがないわね。仕方ないから教えてあげるわよ、感謝しなさい」


「はいはい、ありがとうございます。じゃあ早速帰りにどっか寄ってかない? 声に出すから学校の図書室とかだと周りに迷惑になるしさ」


「いいわよ」


 どうやら女子三人は放課後に勉強会を開くらしい。

 自分には関係ないと、家に帰って勉強しようと鞄を持って席を立ったら、突然宮崎に声をかけられてしまう


「何してんのよ、榊も行くでしょ?」


「えっ僕?」


「話の流れ的にそうでしょーが」


 そんな話の流れだったろうか?

 誘われたことは嬉しいけど、戸惑ってしまう。

 自分なんかが一緒に行って、邪魔にならないだろうか、気まずい空気にならないだろうか。

 不安になって口を開けないでいると、朝比奈が微笑みながら聞いてくる。


「行こう、榊君」


「う……うん」


「てか、アンタに拒否権なんかないのよ」


 パシっとセツナに頭を叩かれる。

 痛いよと頭を支えて抗議しつつも、内心では彼女達が誘ってくれたことを喜んでいる。

 そんな優真を後ろから見守っていたシキも、穏やかな笑みを浮かべていたのだった。


本日夜にもう一話更新予定です!

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