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25 校外学習6

 


「ん……うぅん」


「あ、朝比奈さん、大丈夫?」


「ふぇ? 榊君?」


 目が覚めると、目の前に優真の顔があった。

 状況が読めず呆然としてしまう。


(あれ……なんで榊君が……朱音と一緒にいたんだけど……)


 記憶を掘り起こす。

 自由行動の時間、木陰の下で宮崎とお喋りしていた。

 だけど急に眠気が襲ってきて、そこからの記憶が一切思い出せない。


(待って待って!? もしかして抱っこされてるの私!?)


 完全に覚醒しきった朝比奈は、自分が置かれている状況に驚いてしまう。


 いわゆるお姫様抱っこというやつを、優真にされていた。

 小さな乙女なら一度でもされてみたいと夢見ていたことをされ、恥ずかしくて顔を真っ赤に染めてしまう。

 恥ずかしさに顔を手で覆い悶えていると、優真が焦った風に聞いてくる。


「大丈夫!? どこか痛いところがあるの!?」


「う、ううん……そうじゃないから。ちょっとだけ待って」


「え、あ、はい」


 心を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した朝比奈は、にっこりと微笑んだ。


「大丈夫だから、下ろしてもらってもいい?」


「う、うん。立てる?」


 優真から下ろしてもらい、自分の足で立つ朝比奈。

 多少身体が怠いが、歩けない程度ではなかった。痛いところもないし、ぱっと見て怪我らしい怪我も無い。

 身体の状態を確認した彼女は、何故こんな状況に陥っているのか問いかけた。


「ねぇ榊君、私どうしてこんな場所にいるの?」


「あ~うんとね、帰る時間になっても朝比奈さんと宮崎さんが来なかったから皆で探してたんだ。キャンプ場から少し離れたところに倒れているのを見つけたんだけ、中々起きなかったから連れてきたんだよ」


 優真達をおびき寄せる為に契約者に攫われたと説明する訳にもいかないので、優真は作り話をでっち上げた。


 隠蓑を倒した後、優真は眠っている朝比奈を起こそうとしたのだが、一向に目覚めない。


 仕方ないので、彼女を抱きかかえて戻ることにしたのだ。

 女の子の身体に触れることに躊躇してしまったが、そんな事も言っていられないので緊張しながらも抱きかかえる。


 因みに隠蓑は山の中に放置してある。

 目覚めたら自分の力で下山するだろう。

 優真はそうしたのだが、シキは違った。


 こっそり隠蓑の記憶を改竄し、ついでに“悪い夢”を見させた。

 きっと今頃、自分が手を下した者達から復讐される夢を見て苦しんでいることだろう。

 優真から事情を聴いた朝比奈は、不思議そうに首を傾げる。


「そうなんだ……でもおかしいなぁ、こんな山の中に来た覚えはないんだけど」


「あはは……なんでだろうね」


 誤魔化すように笑う優真に、朝比奈はにっこりと微笑みながらお礼を告げる。


「ありがとう、榊君。私を探しに来てくれたんだよね」


「え、あ、それは同じ班だから、心配して……」


「それでも嬉しいよ。あっ!? おでこから血が出てるよ!?」


 優真の額や鼻に血がついている事に気付く。

 血は既に止まっているが、朝比奈からしたら重傷のように見えてしまうだろう。

 慌てて額を隠す優真は、心配させないように嘘を吐いた。


「だ、大丈夫だよ。ちょっと転んだだけだから」


「ダメだよ! そのままにしちゃ!」


 実際は銃弾を撃ち込まれたのだが、今は少しジンジンするぐらいだ。

 なので気にしなくていいと訴えたのだが、朝比奈は何故か怒ってしまい、ズボンのポケットから絆創膏を取り出す。

 そんなもの持ち歩いているんだ……流石優等生だなぁと関心していると、ぐいっと迫られてしまった。


「ちょっとごめんね」


「え、あ……」


 有無を言わさず前髪を上げられてしまう。

 女の子に顔を触れられてしまった思春期の優真は、恥ずかしさに耐えれず瞼を閉じた。


「……」


「朝比奈さん?」


「あっ、ごめんね! 今張るからじっとしてて」


 優真の素顔を見てぼーっとしている朝比奈に声をかけると、彼女は慌てて絆創膏を額に張り付ける。

 初めて優真の素顔をしっかり見た彼女は、顔色がりんごのように赤く染まっていた。


「とりあえずこれで大丈夫。後で消毒してからもう一度絆創膏を張ってね」


「うん、ありがとう。先生達も心配してるだから、もう行こう」


「そ、そうだね!!」


 その後二人は、違う意味でドキドキしながらキャンプ場に戻ったのだった。



 ◇◆◇



「ん……んん……」


 心地良いリズムを感じながら、宮崎は目を覚ました。

 目覚めたばかりで頭がぼんやりとしていて、どんな状況なのか理解できていない。

 ただ、山の中に居て、誰かに背負われていることは何となく分かる。


(あれ……あたし何で……って!?)


「神代さん!? 何であたし、神代さんにおんぶされてんのよ!?」


「うっさいわね、耳元で叫ばないでくれる!?」


「あっごめん……でも、この状況が全然理解できないんだけど……あたし小春と一緒に居たはずなのに」


 目を覚ました宮崎に、優真が朝比奈に説明した同じ内容の事情を伝える。


 因みに、森永が居場所を教えた所にちゃんと彼女はいた。

 面倒だったが、下着姿の宮崎にジャージを着せてから起こしたのだが、全然起きない。


 こうなったら電撃を浴びせて起こしてやろうかと思ったが、メアリに止められてしまったので、仕方なく背負って運ぶことにしたのだ。


 セツナから事情を説明された宮崎は「あっれ~?」と怪訝そうに首を捻った。


「あたし、何で一人で山の中に入ってんのよ。ダメだ……小春と話してた時から全然思い出せない」


「そんなの知らないわよ、神隠しにでもあったんじゃない? ていうか、起きたんなら自分で歩いてくれるかしら」


「あ、ごめん――痛っつ!」


 謝りながら降りるのだが、地面に足を着けた時に痛みが走る。

 痛がる素振りを見せる宮崎に、セツナは「どうしたのよ」と声をかけた。


「わかんないけど、足首が痛くて……」


(あの野郎、余計な真似しやがって……)


 森永の顔を思い出しながら、心の中で舌打ちをする。

 恐らく宮崎を運んだ時に捻挫してしまったのだろう。

 最後まで余計な手間をかけさせてくれたものだ。


 セツナは(あーもう!)と後頭部をガシガシ掻きながらため息を吐くと、宮崎の前に背を向けて屈んだ。


「な、なに……」


「なにボケっとしてんの、早く乗りなさいよ」


「い、いいわよ。自分で歩くから」


「アタシはさっさと戻りたいの。アンタに付き合ってたら日が暮れるじゃない」


「ご、ごめん」


 セツナに強く言われ、しゅんとしてしまう宮崎。

 捻挫した足ではまともに歩くことはできないだろう。

 このままではセツナや他の人達にも迷惑をかけてしまう。

 悩んだ結果、宮崎は申し訳なさそうにセツナに背負ってもらった。


「「……」」


 山の中をスタスタと歩く中、二人は口を開かず気まずい空気が流れている。

 先に沈黙を破ったのは宮崎だった。


「ねぇ、何で探しに来てくれたの? あんた、あたしのこと嫌いだったじゃん」


 その疑問が浮かぶのは、彼女にしたら当然だろう。

 班決めから今日に至るまで、二人の関係は最悪。宮崎はセツナに対して苦手意識を抱いていたが、それはセツナとて同じだろう。

 それなのに、どうしてセツナはこんな山の中に入ってまで自分を探してくれたのだろうか。


「勘違いしないで。別にアタシは、アンタの事なんかどーも思ってないわ」


「……」


「ただ、放っておくのも寝覚めが悪いと思っただけよ。あの形でアンタが死んでもしたら、後悔するかもしれないと思った。それだけの話よ」


「そっか……」


 好意的な理由でないと知り、宮崎は暗い顔を浮かべる。

 彼女が言ったことが全てであり、それ以上でもそれ以下でもないだろう。

 それを寂しいと思うのは、自分のエゴだろうか。


 そんな宮崎に、セツナは「それに」と続けて、


「まだ言ってなかったこともあるしね」


「え?」


「悪かったわね、アタシも少し言い過ぎた。過剰に反応したアタシがガキだったわ」


 きっと彼女は、今までのことについて言っているのだろう。

 まさか謝られるなんて思いもしなかった。

 突然謝ってきたセツナに驚きながらも、宮崎は自分からも謝罪を告げる。


「それはあたしも同じだよ。引っ込みつかなくて、ずっと嫌な態度取ってた……ごめん」


「……」


「それと、ありがとね」


「何でアンタにお礼を言われなくちゃならないのよ」


「だって、あたしを助けに来てくれたことに変わりないじゃん。だから、ありがとね。探しに来てくれて嬉しかった」


「ふん……勝手にすれば」


「ツンデレ乙」


「あん、なんか言った?」


「ん~ん、何も言ってない」


 嘘を吐きながら、宮崎はセツナの首筋に顔を埋める。

 金色の髪はさらさらで気持ちよく、シャンプーの良い匂いが漂ってきた。


(うふふ、一件落着って感じね~)


 二人の後ろ姿を背後から眺めていたメアリは、ニヤニヤしながら笑っていたのだった。



 ◇◆◇



「セツナ、宮崎さん!」


「あっ、朱音!」


「小春!」


 キャンプ場に戻ってきたセツナと宮崎を発見した朝比奈が二人に駆け寄る。


「二人とも大丈夫だった?」


「うん、ちょっと足が痛いけど、なんとか大丈夫よ」


「神代、宮崎! 大丈夫か!?」


「はい、大丈夫ですよ」


 担任の教師も血相を変えてやってくる。

 心配する彼に、セツナは大丈夫だと言いつつ事情を説明する。

 その内容は、一足先にキャンプ場に戻っていた優真が話した内容と同じだった。

 教師は安堵の息を吐きながら、


「なんにせよ、二人とも無事で良かった」


「さぁ、駐車場に戻りましょう。皆も待ってるわ」


 宮崎は教師に背負られ、二人を探しに出ていた教師達と一緒に駐車場へ降りていく。


「あんたも勝ったみたいね」


「うん、なんとかね……」


 契約者と戦ったことを言っているのだろう。

 まんまと罠に引っかかってしまい、危うく殺されるところだった事を言ったらまたあーだこーだ言われてしまうので、その件については黙っていた。


「セツナは大丈夫だった? 怪我とかしてない?」


「はん、アタシが雑魚に負けると思ってんの?」


 罠だと読んでいたが結局罠に嵌ってしまったなんてダサいことは優真に言えないので、その件については黙っておくことにした。


「お~い二人共~何してるんだ~。お前等も早く来~い、ここに置いてっちゃうぞ~」


「「は~い、今行きま~す」」


 教師に呼ばれた優真とセツナも、先に降りている教師達を追いかける。

 こうして、四人にとって波瀾万丈な校外学習は無事終了したのだった。


本日夜にもう一話更新予定です!

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