11 引っ越し
「あっ」
「どうしたんだい?」
「すっかり忘れていたんだけど、屋上そのままで大丈夫かな……大丈夫じゃないよね、どうしよう」
頭を抱えて困り果てる優真。
優真とシキは自宅に帰宅していた。
夕食を食べ、風呂に入り、ソファーに座りながらシキと一緒にテレビを見ていると、ふと気づいてしまったのだ。
優真とセツナの激しい戦闘によって至るところが破壊されてしまった屋上を、そのまま放置してしまったことを。
優真が途方に暮れていると、シキが安心させる言葉を送る。
「それなら気にしなくていいよ。私が元に戻しておいたからさ」
「そんなことまでできるの?」
「まぁね。それとついでだけど、他の人間には気付かれないように細工もしてあるから、優真は気にせず戦っていいからね」
その話を聞いて、そういえばと優真は今更なことを気付く。
横峯に襲われた時、彼は拳銃を撃ってきた。パンッと幾度と甲高い音が鳴り響いていたが、その音に気付いて誰かが様子を見にきたりはしてこなかった。
セツナと戦った時もそうだ。
あれだけ激しい戦闘を繰り広げていたというのに、他の人間が来ることは一切ない。
普通なら、なんだなんだ!? と教師や生徒が押し寄せてくる筈なのに。
それがなかったのも、シキが何を施したからなんだろう。
「そっか……じゃあ他の人達が僕の戦いに巻き込まれることはないんだね。少し安心したよ」
安堵したように微笑む優真に、シキは(この子は……)と驚く。
優真の境遇を考えたら、世の中の全てを憎んでいてもおかしくはないだろう。
なのに彼は、周りの人間が傷つかなくて良かったと喜んでいる。
セツナとの戦いの時もそうだ。
自分のことをどれだけ罵倒されても気にしなかったのに、シキを馬鹿にされたことには激怒した。
それから考えるに、榊 優真は、根っ子からの優しい人間なんだろう。
それを嬉しく思うと同時に、シキは申し訳ない感情を抱いた。
「ごめんね、ユーマ」
「えっ、なにが?」
突然謝ってきたシキに優真は首を傾げると、羊の悪魔は続けて、
「君に何も教えていないことをさ。私が上級悪魔だってことも、特権の力のことも、メアリのような仲間がいることも。何も教えず隠すような真似をしていて、ごめん。気を悪くしただろう?」
真摯な態度で謝ってくるシキに、優真はなんてこともないかのように首を振る。
「ううん、全然怒ってないよ」
「ほ、ほんとに?」
「本当だよ。まぁ少しぐらい何でなんだろうとは思ったけど、別にいいんだ。だってシキは、何か理由があって話さなかったんでしょ? 魔王を目指してる筈のシキが、わざわざ不利なことをする必要はないだろうし」
「……」
「だから、シキが言いたくなった時に教えてよ。僕はそれまで待ってるからさ」
「……ユーマ!」
「うわっ!?」
シキはたまらず、優真の身体を抱き締める。
嬉しかった。
優真が自分を信じてくれていることが心の底から嬉しかった。
シキ自身としても、『魔界の儀』について詳しく教えないのは理由がある。
しかし、理由があっても隠されている方は気分が良いものではないだろう。
友達といってくれた優真の信用を失うかもしれないと恐れていたが、優真はシキを疑うどころか話すまで待ってくれると言ってくれたのだ。
「ありがとう、ユーマをパートナーに選んで本当に良かったよ」
「ぐ、苦しいよシキ。離して……」
自分よりも二倍近くある体格、それも骨の身体に強く抱き締められた優真は、今にも窒息しそうに呻いていのだった。
◇◆◇
「こちらでいいですか~!?」
「いいわよ、そこら変に置いておいて」
「う~ん、五月蠅なぁ……朝からなんだよもう」
大きな物音により無理矢理起こされてしまう優真。
今日は土曜日で学校が休みなのでいつもより長く寝ようと思っていたのだが、騒音によって起きてしまった。
ベッドから起き上がり、目元を擦りながらリビングに行くと、朝のニュースを見ていたシキが声をかけてくる。
「やぁユーマ、おはよう。今日は起きるのが遅かったね」
「うん……なんだか色々考えちゃって、中々寝付けなかったんだ」
眠れなかった理由としては、『魔界の儀』について色々考えていたからだ。
口では気にしていないと言ったが、聞いてしまった以上考えてしまうものだ。
セツナやメアリのような仲間が他にもいるだとか、力の特権だとか。
特に気になったのは、シキが魔界に七人しかいない上級悪魔ということ。
優勝候補と言われるシキがそんな凄い悪魔というのに衝撃を覚えていたが、それよりもそんな凄いシキに選ばれてしまったという重圧。
本当に自分なんかをパートナーにしてよかったのかと考え出すと、急に不安になってしまったのだ
「ねぇ、なんか外が騒がしいけど、なにか知ってる?」
「どうやらお客さんが来てるみたいだよ。見に行ってごらん」
「お客さん?」
誰だろう……と疑問を浮かべる。
今までこの家にお客が来ることなんてほとんどなかった。
あるとしたら、宗教関連や飛び入り営業マンくらいだろう。
(夏美さんが帰ってきたのかな?)
それか、優真を引き取ってくれて、この家の家主である不和 夏美の可能性がある。
玄関に行き、靴を履いてドアを開き、外の様子を確認すると――、
「な、なんだこれ!?」
外の光景を目にして驚愕してしまう。
玄関の周りには、大量の段ボールが積まれていた。
なんだこれはと唖然としていると、少女らしき人物がトラックの運転手と話していた。
一言二言話すと、運転手はトラックを発進して去ってしまう。
一人残った少女はくるりと振り返ると、大仰に腕を組みながらこう言ってきた。
「何ボーっとしてんのよ、さっさと中に運びなさい」
「セ……セツナ!?」




