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第13話、リーザエッテ嬢、王太子妃となる

 そして学園卒業後、私とエリックは王宮の敷地内にある礼拝堂で結婚式を行うこととなった。


 明日から王宮で暮らすのに、私はまだ城内の敷地に足を踏み入れると緊張する。純白のドレスに身を包んだ私は、礼拝堂のとなりにある小部屋で儀式開始まで待機していた。


 グランアーレント国王太子の結婚には隣国の要人たちも招かれているので、私の両親は社交に大忙し――といってもそれこそが公爵夫妻の仕事だと私も理解しているけれど。


 仕事熱心なマリーは儀式の手順を書いた紙をまた確認している。私は気持ちを落ち着けようと、窓の外をながめていた。テラスの向こうには、定規を当てて描いた図形のごとく完璧に手入れされた庭が広がっている。


「なにかしら? あれ――」


 植え込みの向こうでハニーブラウンの何かがきらりと光ったのだ。マリーが振り返ったとき、


「リイ、着替え終わったかい?」


「エリック殿下―― そこにいらっしゃるのですか!?」


 私は驚いて椅子から立ち上がると、ガラス戸をあけた。テラスから庭をのぞくと、低木のうしろからエリックが姿をあらわす。ハニーブラウンに輝く髪の上で陽光が踊り、すらりと伸びた体躯は均整がとれ古代の彫刻のように美しい。誰が言い出したか「知力が宿る金の瞳」と噂されるそのまなざしは、やさしげに私をみつめている。


 儀礼用の正装に身を包んだその姿がかっこよくて、胸がきゅんと苦しくなる。いつの間にかこんな立派になって――と思っていたら、彼が口をひらいた。


「リイ…… なんて美しいんだ――」


 そんなきれいな瞳でまっすぐみつめられたら、ドキドキして目をあわせられないわ……!


「い、いけませんわ。ちゃんと控室でお待ちにならなければ――」


 ツンと目をそらす私に、


「ここも控室じゃないか。きみと離れていたくないよ」


 彼はひらりと植え込みを飛び越えると、テラスを囲う木枠にやすやすと足をかけ、ひょいとこちら側へ下りてきた。身体は一人前の青年に成長しても、その振る舞いにはまだ少年らしさが垣間見える。


「もう僕は待ち続けるだけなんて嫌なんだ」


 テラスから部屋に入ってきた彼に、私はテーブルセットの向かいに置いた椅子を勧めた。だが彼は座らず私の横に立ったまま、


「学園で現実のリイに会うまで、僕はいつ来てくれるか分からないきみをいつも待っていたんだよ。一人になるたび、今か今かと期待がふくらむんだ」


 と寂しそうな目をした。


「ようやくきみに会えても、次いつ来るか一度も言ってくれたことがない。もう今日が最後かもって何度も思った」


 私は、ちょっとかわいそうなことをしたなと後悔する。


 エリックは私をうしろからぎゅっと抱きしめた。


「子供の頃、リイはよく僕を寝かしつけてくれたけど、寝てしまうのが嫌だった。だって目が覚めたらきみがいないって分かっているから」


 私を離さない彼の手をやさしくなでながら、


「これからは毎朝、目覚めたら私がとなりにいますわ、殿下」


「うん、ずっとずっとそばにいて。僕の愛するリイ」


 彼が私の耳元に頬を寄せる。そんなに近づかれたら心臓の鼓動が聞こえてしまいそう!


 そのとき外からバタバタとあわただしい足音と共に、


「式が始まるというのに、殿下の姿がどこにも見当たらないぞ!」


 という慌てた声が聞こえてきた。


「ほら殿下、戻らないと」


 と私が彼の手をやさしくたたいたとき、


「こちらにいらっしゃいますわ」


 マリーが予告もなしに扉を開けた。外にいた侍従は反射的に中をのぞいてしまう。その刹那――


「ああっ、申し訳ありませんっ!」


 エリックにうしろから抱きしめられたままの私と目があって、彼はがばっと頭を下げた。


 いや、こちらこそすみません…… 私は真っ赤になりながらマリーをにらみつけた。




 そして私たちは神様の像が見下ろす礼拝堂で、誓いのキスを交わした。


 エリックはどこか安堵したような、満ち足りた笑顔を私に向けていた。

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