最近、娘の学力が…
最近、娘の学力がヤバいらしい。
その日もいつものように、一緒に夕飯を食べていたのだが、娘の食の進みが遅い。
表情もやや暗い気がするし、何か気になる事でもできたのかもしれない。
……気になる事?
もしや、ついに気になる相手が―――
「お父さんって、頭良い?」
――何だって?
頭?
……ふむ。
自慢じゃないが、可もなく不可もなしと言ったところか。
まあ、学力って意味なら、学生時代はそこそこ良い成績だったな。
ん?
学校の勉強が難しい?
そうか……。
まあ、そういう事もあるさ。
何が難しいんだい?
「……………全部」
娘がボソッと呟いた。
…………………。
そ、そっかー、全部だったかー……。
え?
本当に?
苦手な教科があるとかではなく?
…………………。
苦手かどうかもわからないのか、そうか。
そっかー……。
え? ヤバくない?
前回のテストはどうだったの?
一番高いやつで46点、一番低いやつで18点。
…………………。
う、うーん……。
ま、まあ…まだ間に合うさ。
うん、頑張ろう。
お父さんも手伝うさ。
覚え方にコツがあるものも、幾つか知っているしな。
心配するな。
随分と昔の事だが、教科書を見れば思い出すさ。
早い方が良いよな。
そうだな、次の休日から始めようか。
平日はちょっと難しいからな。
なあに、気にするな。
だが、授業はちゃんと聞いてるんだよな?
…………………。
ん?
何で目を逸らすんだい?
いかんぞ?
先生にもよるが、授業中にテストの出題範囲を言ってくれる人もいるからな。それに、教科書に載っていない事を話して、それがテストに出る……なんて事もあるかもしれないからな。
そういう先生、いないか?
心当たりはある?
……そうか。
授業、しっかり聞こうな?
怒ってはいないさ。
きちんと反省しているのに、追い打ちなんて掛けられない。
うん。
そうだな、頑張ろうな。
約束の休日。
最初に教科書を見せてもらう。
…………………。
うん、大丈夫。かなり思い出せた。
それじゃあ、一番点数が低かったやつから勉強しようか。
まず―――――
日が暮れるまで頑張った。
結論、娘は物覚えが悪い訳じゃなかった。
集中力が続かないだけだったようだ。
ただ、授業1コマ分も維持できないというのは…少々、こう……何と言うか………マズいな。
せめて、先生の話を聞くくらいは頑張ろうな。
ノートは友達に頼むなりすればどうにかなるさ。
ただ、テスト前くらいは勉強しような。
うん。
この分なら、毎日しろとは言わないさ。
でも、テストで良い点取ろうと思えば、勉強は必須だ。
だから、本当なら毎日少しずつ勉強するのが良いんだが……。
え?
頑張ってみるって?
…………………。
そ、そうか。
………そうか。
うん、頑張れ。
だが、最初から無理をすれば続かないだろう。
だから、徐々に勉強時間を増やしてみると良いさ。
そう、慣れだ。
最初は短く、勉強に慣れてくれば少し時間を延ばす。
それを繰り返すんだ。
そのうち、集中力も付くだろう。
1人でダメそうなら、また手伝うさ。
娘は毎日勉強をするようになった。
リビングで。
…………………。
何で?
自分の部屋だと気が散る?
誘惑が多いと……。
成程。
え?
短い時間なのに?
…………………。
そ、そうか……。
今はまだ20分くらいだったと思ったが…そうか、それでもダメだったか。
いやいや、気構えは大事だ。
間違ってなどいないとも。
好きなだけリビングを使いなさい。
勉強は個人の部屋でという決まりは無いさ。
うん。
頑張れ。
そんな話を会社の同僚にすると―――
「や、子供どころか結婚もしてないんで……」
――共感は無理だと言われた。
いや…まあね、そうだよね。
すまん。
ん?
結婚願望ならある?
…………………。
何故今言うんだ。
おいおい、そんな目で見ないでくれ。
え? 娘?
あ、ああ…無理している様子は無いが。
ん?
いや、お前の成績なんぞ聞いていないから。
……まさか、娘に会う口実か?
ダメに決まっているだろう。
しつこい奴だなお前も。
いやいや、別にお前が嫌いな訳じゃないさ。
だがな……。
職場の同僚を娘に紹介するって、変だろう?
それに、別に会わせる必要も無いしな。
だからダメだって。
大人しく諦めろ。
やれやれ、いつの間にか話が変わってしまっていた。
さて、残りの仕事も頑張るか……。
後日、娘からテストの点数が良くなったと聞いた。
良い事だ。
しかし、慢心はいかん。
今後も継続して……。
え?
ああ…そうだな、説教くさかったな。
すまない。
いやいや、わかってるなら大丈夫だ。
安心した。
うん。
続けるのは大変だろうが、頑張れ。
ん? 会社?
いきなりどうしたんだ?
前にも話したが、同僚とは上手く付き合えているとも。
いや、男女の関係でなく、仕事仲間の話だ。
…………………。
良い女性と言われてもな……。
これも前に話したと思うが、今の職場で同年代の独り身はいないんだ。
そう。
同僚も、年下だからな。
そうだ。
若い女性なんだから、相手も若いのを探すだろう。
ん? 話によく出てくる人? そうだな。
候補って……。
いやいや、そんな訳無いって。
あいつも、同期だからこんなおっさんでも仲良くしてくれているのさ。
普通なら先輩後輩、上司と部下でもおかしくない年齢差だぞ?
…………………。
そんな目をしないでくれ。
真剣に考えているさ。
でも、そんな気持ちにはなかなかな……。
ああいや、無理はしていないとも。
大丈夫だ。
ん?
やけに聞きたがるな。
……あいつが娘に会いたがっている話はするまい。
何故か嫌な予感がする。
え? ああ、何でも無いさ。
だがまあ……。
娘の学力はどうにかなりそうで良かった。