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お父さんに感謝を…

 私はお父さんに感謝している。

 でも、本人には言えない。

 恥ずかしいからというのもあるけれど、最近になってそういう気持ちになったから、というのも理由だったりする。

 私は、お父さんがどれほど私の為に頑張ってくれていたのかを知らなかった。

 友達に「1人親で子育てするのは大変なんだよ」と言われ、そこで初めてお父さんが頑張って私を育ててくれていたのだと気が付いた。


 朝は必ず御飯をテーブルに並べてラップを掛けてくれているし、昼もお弁当を用意してくれている。

 夜も、仕事から帰って来てから必ず作ってくれている。

 友達から聞いたけれど、お父さんが決まった時間に帰るのは難しい筈らしい。残業と言って、仕事する時間が伸びてしまう事があるのだとか……。でも、お父さんは必ず決まった時間に帰ってきて、必ず御飯を作ってくれる。

 ……そう言えば、お母さんが死んじゃってから私が塞ぎ込んでいた時、お父さんが早く帰ってくるようになった気がする。

 なんて言ってたかな?

 確か、会社を辞めて別のところに就職し直したとか言ってた気がする。


 ……………。


 私の為? なのかな……。

 嬉しい。

 でも、やっぱり本人には言えない。


 友達に相談してみた。

 感謝を伝える為に、何か方法は無いかと。

 友達の返事はシンプルだった。


「そのまま直接言えば良いじゃん?」


 言えたら苦労しないの。


「拗らせてんねぇ……」


 呆れないで。

 本気で困っているの。


「じゃ、何かきっかけを作るとか?」


 きっかけ?

 例えば?

 イベント?


 ……………。


 そう言えば、お父さんの誕生日が近いかな。

 え?

 誕生日プレゼント?

 でも、私お小遣い無いの。

 いやいや、必要な物があったら言えば買ってくれるから。

 んー……。


「じゃあ、ちょっとしたバイトしてみる?」


 あれ?

 中学生でバイトできたっけ?

 うん?

 お手伝い?


「うち、貴金属取り扱ってるから」


 でも、接客なんてできないよ?

 ん?

 裏で働く……。

 裏って表現やらしいよね。

 ごめんなさい。

 思った事言っただけで、他意は無いから。

 それで、何をするって?


 ……………。


 成程、接客は外見が問題になるから、表には出ずに買い取った商品の手入れをしろと。


「そ、普通の商品もこまめに手入れしてるし、結構大変なの。だからちょうど良いかなって」


 それはありがたいけど、素人が触って大丈夫?

 ……問題は無いと。

 指紋が付かないよう気を付ける?

 確かに大丈夫そう。


「んで、報酬でお金渡すとあれだから、腕時計とかどう?」


 それって、高いのでは?

 安いのもある…と。

 うーん……。


 お父さんは普段、腕時計をしていない。

 喜んでくれるかは謎だけど、無駄にはならない…かな。

 でも、突然帰りが遅くなって大丈夫かな?


「放課後に一度やってみて、帰りが遅いって言われたら休日だけやってみるとか」


 むむむ。

 それも、あり…かな?

 お父さんを怒らせたくはないけど……。

 え?

 いや、怒ら()たくないんじゃなくて、怒ら()たくないの。

 言い訳じゃなくて。

 心労を掛けたくないと言うか……。


「心配は掛けても良いの?」


 心配……されそうだなぁ。

 でも、休日だけだと―――


「おもちゃ同然の物しか出せないね」


 ――だよね。

 それはちょっと……。


「まあ、怒られたらゲロっちゃう感じで良いんじゃない?」


 それは本末転倒では……。


「や、感謝伝える為なんだから、それならそれでなし崩し的に言っちゃえば良いんだよ」


 なんと!?

 考えもしなかったよ。

 でも、その場合は格好が付かないよね。

 え?

 元々?

 どういう意味かな?


 ……………。


 ま、まあ今回は良いや。

 それじゃあ、お願いしても良いかな?


「うん。今日帰ったら親に頼んでみる」


 お願い。



 翌日、友達からオッケーを貰ったと聞いて、早速お邪魔してみた。


「いらっしゃい。最初は中古品だけにしとくから、緊張しなくても良いよ」


 私は目に見えて緊張していたらしい。

 深呼吸、深呼吸……。

 よし!

 はい? あ、大丈夫です。

 ……あの、これは?

 手入れで使うスプレー。

 成程。

 え? 使っちゃダメなのもある…と。

 が、頑張ります!


 ……………。


 つ、疲れた。

 集中力が持たない。

 これは大変だわ。

 ……はい?

 あ、お疲れ様です。

 今日はもういい?

 あ、はい。わかりました。

 ……明日からも似たような量?

 が、頑張ります。



 遅い時間に帰ったけど、お父さんは怒らなかった。

 一応、ちらっと見た感じだと気にはしてるみたい。

 でも聞いてはこない。

 なら、ちょっと後ろめたいけど、誕生日当日までは話さない。

 ごめんね? お父さん。



 バイト―――もとい、お手伝いも最終日。

 ようやく終わりを迎える事に、ちょっとだけ安堵する。


「さ、この中から選んで良いよ」


 見せられたのは3つ。

 1つ目は全体が金色の腕時計。一応メッキで、純金には足元にも及ばないから大丈夫と言われた。

 なんか成金っぽ―――いえ、なんでも無いです。

 これは止めておこう。お父さんには似合わない。

 2つ目は銀色と黒色の腕時計。シンプルながらも精巧な作りをしている…らしい。私にはよくわからない。

 3つ目は赤色の腕時計。目立つ。とにかく目立つ。

 これもお父さんには似合わなさそう。

 ……選択肢が無い。

 でも、2つ目の腕時計はお父さんに似合いそう。

 うん。これにしよう。


「こっちのやつね。んじゃ、ちゃちゃっと包むから少し待っててね」


 プレゼント用に包んでくれるらしい。

 ありがとうございます。


「こちらこそ。助かったわー……また機会があったら宜しくね?」


 ……か、考えておきます。



 家に帰り、お父さんにプレゼントを渡す。

 とても喜んでくれた。

 でも、感謝の言葉の途中で泣かれたのは予想外だったな……。

 最近ちょっと落ち込んでたけど、元気になったみたいで良かった。

 ……まあ、原因の私が言う事じゃないけど。

 ごめんね?

 でも、まあ……。


 お父さん。


 いつもありがとう、感謝してます。


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