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最近、娘の行動が…


 最近、娘の行動が怪しい。





 娘からの誕生日プレゼントは、腕時計だった。

 余り詳しくないが、シンプルながらも精巧なデザインで、相応の値段がする物だろう。

 風呂と寝る時以外、片時も外す事は無い。

 時間が空くと、ついつい腕時計に目をやり、思わず表情が緩んでしまう。

 職場の同僚に指摘されたのは、少々恥ずかしかった。

 だが、娘からのプレゼントだと話すと、途端に優し気な目をするのは何故かな?

 それと、何度言われてもお前と娘を会わす気は無いからな。

 露骨にがっかりするんじゃない。そんな目で見ても無駄だ。

 まったく、どこまで本気なのやら……。


 そんな感じで平凡な日々を送っていると、それに気が付いた。

 誕生日プレゼントを貰ってから、娘はいつも通りの時間に帰宅するようになった。

 相変わらず、学校での出来事は余り話さないが、前よりも会話が続く様になった気がする。

 だが、最近はその会話の内容から、化粧品に興味を持ち始めていると仄めかされている様な気もする。


 …………………。


 これはひょっとして、催促されている?

 だが、まだ早いんじゃないかな?

 化粧なんてしなくとも、十分可愛いとも。

 え?

 親の贔屓目は信用できない?


 …………………。


 いや、まあ言いたい事は解る。

 しかし、今から化粧をし始めると、肌が荒れてしまうんじゃ……。

 ん?

 ナチュラルメイクがしたい?

 肌に合った化粧水を選んだり、手入れを欠かさなければ大丈夫と……。

 ま、まあ…考えておこう。

 そう言えば、この前休日に友達と遊びに出掛けた日、帰って来た時の顔が確か……。



 その場を誤魔化し、1人になってから考える。

 娘もお年頃だ。

 そういった事に興味を持つのも仕方が無いのだろう。寧ろ、話を聞くにちょっと遅いくらいかもしれない。

 しかし、珍しく自分から言い出すほどに化粧をしたいと思っているとは思わなかったな。

 それに、化粧をしたところで見せる相手も―――


 …………………。


 もしかして、気になる人でもできたのかな?

 いやいや、まだそうと決まった訳では……。

 この間だって、彼氏ができたと思った訳だが結局は勘違いで……。

 今回のはもしかすると、もしかするのかな?


 …………………。


 うーん……。

 ま、まあ…そうだな。

 彼氏でなくとも、気になる男の1人や2人くらい……。

 くっ…考えたくない。

 考えたくないが……一応は頭の片隅にでも、可能性として……。

 ぬぅぅぅ…。

 やはり娘に直接聞いて―――――いやいや、干渉し過ぎだと嫌われる未来しか見えない。


 …………………。


 致し方ない。

 同僚にでも聞いてみよう。

 確か、あいつは化粧品関係に詳しかった気がする。

 以前、聞いてもいないのに、どこそこの化粧品はコスパが良いだの、容器がプレゼント向きの物があるだのとアドバイスされた事があった。

 その時は自分には関係無いと聞き流していたが、しっかり聞いておくべきだったか……。



 翌日、早速同僚に相談してみる。

 最初は「何だコイツ」といった風に変な顔をされた。…聞き方が悪かったのだろうか?

 しかし、経緯も話すと納得顔になる。

 そして呆れられた……何故?

 だが、例のコスパが良いという店を教えてもらえた。

 あれこれ言われたが、結局は気の良い奴だ。

 素直に礼を言うと、照れくさそうに頬をかく。照れ屋な一面もあったようだ。

 いたっ…す、すまん。謝るから叩かないでくれ。

 コホンッ!

 ……気を取り直して、家に帰る前にでも教えてもらった店に寄ってみよう。


 …………………。


 こ、これは……うーん。

 想像よりオシャンな外観をしている。……初めてオシャンと言ったな。

 別の意味でも恥ずかしくなったが、意を決して入店する。

 ――ぅおっ!?

 入った瞬間、一斉に注目された。

 ま、まあ…こういった店に男が1人で入るのは珍しいのだろう。

 案の定、他の客は女性ばかりだ。

 それに、今は会社帰りでスーツ姿だ。余計に目立つ。

 ……はっ! 入口で立ったままだと迷惑になるな、移動しなければ……。

 しかし、時折チラチラと見られているな。

 肩身が狭いとはこういう事か。

 急いで用事を済ませよう。


 最初は今日購入する気は無かったが、今の状況だと不審に思われても可笑しく無いな。

 仕方が無い。

 贈り物だと説明して、お勧めの中から選んで買うか。

 近くの店員に声を掛け、いくつか並べてもらう。


 …………………。


 正直、全く判らない。

 取り敢えず、人気だと言われた物の中から、一通りセットになっている物を選ぶ。

 見た目も…恐らく可愛いと思う。

 ――あ、包んでください。はい、贈り物なので……。


 良い笑顔の店員に見送られ、店を後にする。

 想定外の出費となってしまった。

 いや、娘の事を思えば、結局は買う事になっていたであろう物だと割り切ろう。

 家に着くと、いつも通り娘は既に帰宅していた。


「おかえり」


 ただいまと返し、靴を脱ぐ。

 ふふふ、わざわざ玄関まで来て出迎えてくれるのは、うちくらいなものだろう。

 こういったやり取りで、仲の良さを実感する。小さな幸せの1つだ。

 いつもならそのまま部屋へ戻る娘だが、今日は違った。

 小首を傾げ、一点を見つめる。


「その紙袋は?」


 おっと、手に持ったままだったな。


 …………………。


 うん、まあ良いか。

 いつ渡しても一緒だろうと思い、先程購入した化粧品を渡す。


「え? 私に? ……早速買ってくれたんだね、嬉しい」


 大事に使って欲しい。

 でも、だからと言って学校に行く日は化粧しないように。


「でも、何人かは化粧してるよ?」


 中学生なのに?


 …………………。


 いや、女に年齢は関係無いと、昔妻に聞いた事があったな。

 そうか、こういうのもそういうものか……。

 ――そういうものか?

 うーん…まあ、娘がそう言うのなら、そうなのだろう。

 ここは納得しておく。


 じゃあ、控えめにな。

 それがどのくらいの量か、正直よくわからない。

 だから大事にして欲しい。


「わかった。ありがとうね、お父さん」


 うん。

 やはり、娘の笑顔は可愛い。

 やっぱり、化粧なんてしなくても―――


「それはそれ、これはこれ」


 ――あ、はい。

 余計な事は口にすまい。


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