最近、娘の様子が…
ひっそりと新作投稿。
不定期更新、設定ゆるゆる。寧ろほぼ無い。
そんな感じなので、頭空っぽにしてお読みください。
(/・ω・)/
最近、娘の様子がおかしい。
妻が亡くなって早10年。
男手ひとつで育てた娘は、中学2年生になった。
妻は元々病弱で、最初は子供も諦めていた。
しかし、妻起っての願いで1人だけ子供をつくる事となった。
無理をさせないように気を遣い、なんとか子を授かる事はできたものの、妻の容態は思わしくなかった。経過を診ていた医者からは、どちらかを諦める覚悟をするようにと言われた程だ。
だが奇跡的に、母子共に無事だった。
……いや、妻の身体はこの時、既に限界が近かったのかもしれない。
出産後、妻は寝たきりが続いた。
それでも欠かさず娘に母乳を与え、少しでも調子の良い日には娘をあやしたりもしていた。
こんな日々でも構わない。
妻も居て、娘も元気に育っている。
十分に幸せな日々だった。
そんな日々に、突然終止符が打たれた。
娘が4歳になる年。
妻の容態が急変した。
急ぎ救急車で病院へ搬送されるも、医者から告げられた内容は無情なものだった―――
――もって、あと一月です。
長くとも……そう、断言されてしまった。
お金で解決するのならば、借金してでも払うと懇願した。しかし、現在の医療技術では無理なのだと、そう…諭された。
退院も難しい…いや、無理だろうと。
涙が堪えきれなかった。
周りの人も、傍に居る娘の事すらも気にする余裕もなく泣いた。
一時的に体調を崩し、娘に心配を掛けてしまったのは失敗だった。
それでも、現実は変わらない。
妻の意識が戻り、診断結果を伝えた時、妻は気丈に振る舞っていた。
十分幸せだった……願いは既に叶っていると………。
妻のその言葉に、また涙が溢れ我慢できなくなった。
すると、妻は微笑みながら続ける。
「泣かないで……。貴方だったから、私は子供が欲しくなったの。その事に後悔は無いわ。私の方こそ、貴方に迷惑を掛けたんじゃないかって、いつも不安だったの」
――そんな訳が無い。
「この先、娘の成長が見られないのは残念だけれど、心配はしていないわ。先逝く私を赦してね……」
――赦さない訳が無い。
「娘の事、お願いね」
――当然だ。任せてくれ。
全部、言葉にならなかった。
口から漏れ出るのは、嗚咽ばかりだった。
それでも、妻には伝わったらしい。
最後に見た妻の表情は、幸せそうに微笑んでいた。
あの時、娘の健やかな成長の為に全力を尽くすと、亡き妻に誓った。
娘は最初、妻の死を受け入れられていなかったが、長い時間を掛けて明るく活発な子へと成長していった。
のだが………。
その事に気付いたのは、娘の帰りが遅くなり、暫く経ってからだった。
娘は部活に入ってはいるものの、数合わせの幽霊部員なのだと聞いている。
事実その通りなのだろう、いつも娘の方が先に帰宅していた。
小学生の頃には友達と遊んで帰る事もあって、そういった日は娘の方が遅い事もある。
しかし、中学生になってからは友達と平日に遊ぶ事は無くなっていた。休日には遊びに出掛けていたので、友達がいない訳では無いのだろう。偶にだが、家に友達を連れて来た事もあるから間違いない……筈だ。
もしかすると、娘は気を遣っているのかもしれない。……何にと聞かれると困ってしまうが。
兎も角、娘は平日は必ず学校が終わると直帰していた。
にも拘らず、最近は夜に帰ってくる事の方が多い。
心配になり、それとなく食事のついでに聞いてみた事もあるのだが、はぐらかされてしまった。
…………………。
露骨に目を逸らされたのは、ショックだったよ。
無理矢理聞き出す事はしたくない。
別に、娘の表情に陰がある訳でも無い。
少し疲れた様子を見せる事もあるけれど、寧ろ機嫌は良さそうだ。
…………………。
まさか…いやいや、そんな訳……。
いや、現実を見よう。
恐らく、娘に彼氏ができたのだろう。
帰りが遅いのは、きっと彼氏とデートでも……。
…………………。
まだ、早いんじゃないかな?
せめて高校生になってからでも……。
…………………。
ダメだな。
こんな事を言っては娘に嫌われてしまう。
子供が幸せそうなら、見守るのが親の努めだろう。
あんなに楽しそうなのだ、きっと相手の男の子も良い子に決まって……。
…………………。
やっぱり、一応は調べた方が……。
いや、娘に見つかるとマズいな。
やはり、ここは素直に見守ろう。
うん。
正直辛いな。
可愛い娘も、こうして段々と大人に……。
…………………。
やはりまだ早いんじゃないかな?
もうちょっと子供のままでも良いんだよ?
まあ、言うと嫌われそうだから娘には言わないが。
娘が帰宅した。
その表情は、少し照れていた。
くぅっ!!
娘にこんな表情をさせるとは、いったい彼氏君はどんなや―――
「はい、これ……」
………?
娘が、可愛らしくラッピングされた袋を差し出す。
……これは?
「……忘れたの? 今日、お父さんの誕生日だよ?」
―――――!!?
言われて思い出す。
そうだった、自分の誕生日を忘れ……いや、そもそも日付を意識していなかった。
最近は娘の様子ばかりが気になり、他の事が疎かになっていたようだ。
恐る恐る、娘の差し出した袋を受け取る。
壊れ物を扱うかのような、慎重な手つきで。
感動だ。
嬉しいのは嬉しい、歓喜している。しかし、そんな言葉だけでは言い表せられない。ここまでの気持ちになったのは、嘗て妻に告白を受け入れてもらった時以来かもしれない。
なんならこれを家宝にしよう。
いや、だがしかし、どうやって娘はこれを……。
非常に心苦しいが、娘にはお小遣いを渡していない。
必要な物を、必要な時に買ってあげていた。
無論、無駄使い防止の為でもある。恥ずかしながら、収入は余り良いとは言えないからだ。
しかし、だからと言って娯楽用品を買わない訳では無い。
何が言いたいかと言うと、娘が自分で物を買うお金を持っていない筈、という事である。
だが現実に、こうして娘から誕生日プレゼントを貰っている。
不思議に思い、娘を見ると―――
「バイト、まだできないから、友達の家でお店の手伝いをしてたの。……それの為に」
――なんと、最近帰宅が遅かったのはこの為だったらしい。
不覚にも、ウルッと来た。
サプライズ用の誕生日プレゼントを買う為に、密かに友達に相談したそうだ。すると、バイトとしては雇えないが、お手伝いという形で働き、そのお礼としてこのプレゼントを貰う事になったのだそうだ。
「お父さん…その、いつもありがとう。それと、誕生日おめで―――――ちょっ!? 何泣いてるのよ」
泣いた。
あの日以来、もう娘には涙を見せまいとしてきたが、これは構わないだろう。
悲しくて泣くんじゃない。
嬉しくて泣くのだから……。
「………もう、しょうがないんだから」
そう言って、娘は持っていたハンカチを渡してくれる。
こんなに嬉しい事があるだろうか?
今日という日を、忘れる事は無いだろう。
―――彼氏なんて居なかった。それで良い。