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「あ、シビネル君。良いところに帰ってきましたね」
「良いところとは?」
「それはね……」
その返事の前に、自分の嗅覚がその答えを嗅ぎつけた。思わず、よだれが……って、ダメダメ。
「君の分もあるからね。そこのテーブルについていて頂戴」
「は、はい!」
腹が空きすぎて、お腹と背中がくっつきそうだ。あの、スパイスの効いた匂いが僕を狂わせる。席に着く速度は、先程までの速度を裕に上回っている。
「あ、ニーナ……」
「その声……リオ?」
室内は魔法のおかげか、とても明るい。
気づかぬ内に、ニーナの対面に座っていたようだ。ニーナはきちんと、膝に手をグーの形で置き、姿勢良く座っている。
(そういえば、ニーナの食事どうするんだろう?)
僕がまだ、目が見えなかった時は、食卓を時計に例えて、方向教えてもらったり、直接食べさせて貰ったりしてたけど…………
(いざとなったら、力になれるかな……)
そんな考えを巡らせながら、食事を待っていた。
それは、遡ること、リオがカフネの脅……提案に乗って、外に飛び出した時だ。
「カフネ、あのね……その……」
「ん、どうしたのよ? 煮え切らないわね」
やけにモジモジしている、ニーナに自分の予想をぶつける。
「どうせ、リオに今日のお礼したい、とかでしょ?」
「そ、そう。でも、何をすればいいのか、分からないくて……」
「……キスでもすれば良いんじゃない?」
「キッ……!」
途端に、ニーナの顔が赤くなる。少し声を漏らしながら笑った後、冗談よ、と放つ。
「ニーナはね、私のなの。私が認めたやつ以外と、キスしてるのを見たら、そいつを『ピー』して、そいつの『ピーーー』で、――」
「ひっ……」
あまりにも内容が過激過ぎたためか、小刻みに怯えているニーナを、可愛いと見えてしまう。とことん心酔していると、自分でもおもう。
「特にリオ! あいつは、絶対にダメよ! 何考えてるか分かんないだから! まぁ、あいつじゃ、何も出来ないでしょうけど」
「へっぶし! なんだ、誰か僕の噂でも……なんてね」
「な、なにかない?」
上目遣い……そんな容量でこちらを向くニーナ。ああ、実際目が合ったら、私、倒れる自信がある。どうやら、本気でお礼をしたいそうだ。
「そうねぇ…………料理でも、作ってあげれば良いんじゃない?」
「りょ、料理……」
「流石に、そこまで大したものは要求できないわよ」
「そ、そうだよね…………」
目が見えない彼女は、料理なんておろか、火も扱えない。でも、大丈夫と言い聞かせ、肩に手を置き、親指を立てる。全部見えていないので、ニーナは当然のごとく困惑する。
「おにぎりぐらいなら、出来るんじゃない? やり方は教えてあげるわ」
「あ、ありがとうカフネ……」
「そうと、決まれば時間もないし、キッチンに行くわよ!」
「う、うん」
その後、ニーナの手を引いて、キッチンに連れて行き、あれこれ教えてどうにか完成したのだが…………
「い、いいんじゃないぃ? 味は悪くないわ」
「ほ、ほんと?」
「もちろんよ、私が認めたんだからね。お墨付きよ!」
「…………」
お皿の上には、ニーナが一生懸命に握った、いろんな形の塩おにぎりが並んでいる。いろんな形というのは、三角、丸とかではなく、……そういろんな形なのだ……。
まあ、味には、影響はあまりないし……
「じゃあ、後は私とシスターが作っておくから……ん、1時間以上経つけれど、リオのやつ遅いわね……」
「はは……」
――ということがあって、今になるんだけれど……
(せっかくだから、リオの目の前に置いてあげようかしら…………)
見つけてもらえないという万が一を考慮し、絶対に目につく場所に置く。他の料理を四人用のテーブルに置いてゆく。
「ほら、カフネも、もう席についても良いわよ。後は私がやっておくから」
「でも……」
「いいの、いいの! あの子、もう我慢出来なさそうな顔してるから、早めに食べておいて頂戴。それに、ニーナの手伝いも兼ねてよ」
「はぁ……分かったわよ。でも、もう歳なんだから無理しないでね?」
「わかってるわよ、もう〜。手伝って欲しい時は、ちゃんというから。ほら、いってらっしゃい」
そこまで言われては、引き下がるしかない。キッチンから、食卓まで歩き、ニーナの隣に座る。
「ニーナ、先に食べておいてもいいそうよ。リオは、ちゃんと感謝しながら食べなさいよ」
「わ、わかりました…………」
きちんと、野郎に釘を刺す。
「それじゃあ………………」
「…………」
食事前に、右手を胸に置き、目を瞑る。これは、ヘイラ神に感謝を述べる行為だ。ニーナも同じ動作をする。
ちらりと、目を開けると、案の定リオは困惑していた。が、すぐに私たちの真似をした。
「……それじゃあ、いただきましょうかね」
「うん」
その言葉を放った瞬間、リオがとんでもない勢いで目の前の料理を食べ始めた。ちょうど、今塩おにぎりを頬張っている。
「カ、カフネ……」
「ん?どした?」
小さな声で、ひそひそと話すニーナに耳を傾ける。
「リオ、今何食べてる?」
「ああ、今ちょうどおにぎり食べてるわよ。……感想、聞いてみたら?」
「えっ……、そ、それは……」
顔が赤らんでおり、その姿がとても可愛く見える。恥ずかしさが出ており、聞けなさそうだ。それじゃあやることはひとつだ。
「リオ」
「な、なんでしょう、カフネさん!?」
「それ、おいしい?」
びくっとなっており、先程までの言動が相当刺さってるなと思いつつ、頬をつきながら質問をすると、リオは間抜けにぽかーんとした顔で答える。
「はい、おいしいですけど……」
「そう、じゃあ食事を続けて?」
「は、はい……?」
ニーナの方を見ると、顔を両手で押さえてうずくまっていた。
「? カフネさん、なんでそんなにニヤニヤし……ひっ!」
「いいから、黙って食べさない。次、余計なこと言ったら……」
「は、はい、すみませんすみません!」
その後も食事は続いた。
謝罪の連日投稿……毎日投稿してる方々って、神か何か?