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「大変だね、目が見えないってのは」
「いつも、あ、ありがとう神奈月さん」
「もう。それ、何回言うのよ。言ってるでしょ、将来の夢の為にやってるのよ」
白状を僕に渡して、肩に手を置かせてくれる。
進学して、ここ1ヶ月、彼女に感謝と謝罪していた。
そんな、学校生活を手伝ってくれる、この女の子は神奈月さんだ。
時々、触れる髪が艶やかで、身長は僕よりちょっと低い。
桜が散り終わって、校庭には花びらが散らばっていた。
「次は、理科で移動教室なんだから、急ぐわよ」
「ああ、そうだったね……」
足元の展示ブロックを探りながら、一階上、3階の教室を目指す。
「小林はさ」
「うん」
「今はこうして、私が手伝ってあげてる訳だけど」
「そうだね」
「小学校のときとか、それ以前は誰に助けて貰ってたの?」
一段ずつ、慎重に段を踏む。
「……実は僕、小学校とか、行ってなかったんだ」
「まさか、虐待とか……?」
「いいや。僕が望んだんだ」
「なんで?」
段を登り切って、取り敢えずは安心だ。
「小学校くらいの年齢だと、いじめとかあるし」
「……あったの?」
気まずそうに尋ねる
「別に。実際には遭ってないけど、そういうのがありそうだから」
「うわ、小林ってば、達観しすぎ。ほんとに12歳?」
「もちろん、こうやって君と同じ教室で肩を並べてるのが何よりの証拠だよ」
理科室の前に着いたのか、神奈月さんの足が止まる。
「じゃあ、なんで中学校は、行こうと……」
「……それは、また今度ね。ほらはいろう?」
先程まで、晴天は、いづこに。分厚い雲が光を隠していた。
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「ただいまー」
神奈月さんは親切だ。学校内のみならず、帰宅までも手伝ってくれる。
彼女、曰く「家の方向同じだし、別に気にしないで」と、僕の気遣いさせないようにもしてくれる。本当に優しい。
「……あれ、いつもなら、ママが出迎えくれるはずだけど……」
なんだろう。やけに、嫌な予感がする。脳が騒がしい
しかし、悲しいかな。齢12歳、しかも盲目の彼には、どうすることもできない。
「お、帰ってきたか」
「え、その声は、お父さん? 珍しいね、こんな時間に家に居るなんて」
サラリーマンのお父さんはいつも、僕に優しくしてくれる、実に紳士な漢だ。
「お父さん、ママはどうしたの? この時間なら居るはずだけど」
「ああ、奥にあるぞ」
ある……?
靴を脱ぎ、白状を置いて、廊下にある手すりに捕まり、奥に向かう。
スタスタ
なんだろう、匂う
この脳の騒ぎはなんだ?
奥の部屋に入ると、違和感を覚える。
二人いる?
鼻をつんざく匂いに思わずたじろぐ。
ゴト
何か重いものを床から持ち上げる音がする。
「うわっ!」
なにかにつまづいて、手をついて転んでしまう。
ピチョン
手をついたところに何か、液体らしき物が手に付着する。
それを、残された五感を頼りに、考察する
手を鼻に持っていく。
「鉄の匂い……」
「もしかして、いまつまづいたのは……っ!?」
バッと、振り返り手探りで探す。
触れたものは、おおよそ人の形をしていた。
そして
「冷たい……」
カチャカチャ
何かを装填する音が聞こえる。
「じゃあな。恨むなら、俺を恨め」
引き金を引く音と、頭にとんでもない衝撃を受けるのは同時だった。
評価してくれないと、失踪してしまうので、コメント下さい(乞食)