髑髏と夏
夏の思ひ出。
綺麗なおべべの子供が、誘蛾灯の下で舞っている。
その幻、幻想。
とくとあれ。
桜が舞う。
春の彼岸。夢の里。
白目と黒目が逆さになった雛人形が日の元で一人祭りをして舞っている闇。宿場町の春。
側溝に赤椿の花弁が水に濡れている。
水瓶の中の花を、遊女が手折っている。
還らぬ人への手向けに、仏壇へ飾るんです。
そう云って、笑う。
その笑顔。花が咲く。
石畳。齢十六歳にして鬼籍に入る。
少女の好きだった花が水路を流されてゆく。
椿花、幻坂。
十六夜の月が昇ってゆきます。
エーヤレコーヤレ、掛け声と共に、海の荒くれ者が、大漁の旗を揚げて還ってきます。漁火。海鳴り。
少女はやがて人魚になって海に還ってゆく。常世の唄。
街道沿いに夏が来て、知らない影法師が増えていく。
影法師は、闇へ誘うよ。
さあ、怖い話を聞いたら、サイダーを飲んで家に帰るんだ。
影法師に、魂を、捕られる前に。
そう云って、鬼やらいのくれた風車は、良く廻るかい?
早く帰ろう。
鴉の七つの子が誘って、
逢魔が時になる前に。
水すまし、アメンボが梅雨の中を踊っている。
帰ろうかな、まだ帰らない。
影法師の少女が、毬を転がして小雨の中。
ぱしゃん。
嗚呼、あめふらしが、毬を拾った。少女を連れてゆくよ。
後は、小鬼と閻魔が宿場町の雨の中を踊るだけ。
夢の幕間。
しゃれこうべがしゃべっている。
嗤っている。
父の帰りが遅いからか、かたかたかた。
祖母の骨。
美しい少女が宿場町の灯りの下で、舞っている。
寂しそうに哀しそうに。
街道沿いとは、死者が眠る場所だ。
そうしてまた夏が来る。
妖しい少年が舞っている。
夏の宵。
夏の訪れは近い。
入道雲がもくもくと湧き立ち、金魚売りがやってくる。
竹藪の裏道では、狐の青年が獲物を狙う眼。
気を付けたまえよ。
妖は夏になると現れる。
生者と死者の交錯する夏の妖しい煌めき。
美しくも糜爛な夏奇譚。
宿場町の謎。
サイダー、入道雲、陽炎、炎天下の元、
誰の物か分からない麦わら帽子が道端に堕ちているのを発見する。
なぞなぞをしながら、影踏みをしていたら、知らない子が混ざってきました、
あの子は誰?ずいぶん前に亡くなった子。
此処は宿場町。
亡くなった人が、ひょっこり現れる場所。
夢の中。
かすかな妖しさが、あなたを虜にする。
昭和のノスタルジー