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001.初代国王の崩御

 日が変わろうかというこの時刻の王都は、夜明けに普段鳴らされることのない楼閣の鐘が鳴らされ、拡声魔法により前国王の崩御と摂政であった皇太子の新国王就任の発表がなされ、太陽が天頂に達した時刻に執り行われた新国王の戴冠の儀の余韻に浸るかのように、静かにだが、これからの未来を照らすかのような街明かりに包まれた時を過ごしていた。

 王城の表顔、王都側にある正門は開け放たれ、つり橋には篝火が焚かれ、前国王の弔問と新国王の戴冠を祝う貴族や民の列が途切れることもなく続いていた。そして、そこから見える城内は煌々と灯りを照らし、ある種の活気に満ち溢れ、貴族や文官がこれから暫くは続くであろう式典の準備の追われていた。

 城の裏手は、各騎士団駐屯地であることと、城内裏手は前国王の遺骸が安置されている簡素で無骨な国王居館があるためか、表の顔が嘘のように全ての明かりが消され、深く暗く、前国王の永の眠りを妨げないように配慮がなされていた。


 そのような城内を、灯りも持たず、閉じられた裏手門に向かう一人の少年の姿があった。



…後門守衛長、勤務中にすまぬな。御隠れになった前国王陛下との思い出話でも少し聞かせてはくれぬか…


 はい、殿下。大殿様のお話ですか…私は大殿様に長年ご奉公させていただきました。楽しい日々でございました。


…長き時を一緒に過ごされたと爺から聞いたことがあるでの…


 はい、ただ私は…長年と申しましてもご存じの通り、棄民の出の私は、国興しの前から馬取としてご奉公を始め、今はこうしてお館の後門守衛としてご奉公している次第でして。


…うむ、だからこそ、私の知らぬ前国王陛下の話をと思っての…


 はい、市井の民と同じ程しかお話しできるようなことは…大殿様の偉烈は、御重臣の方々か、私と同様の長きご奉公をされている殿下の守役殿もにでもお聞きになられたほうがよろしいかと。


…政の話、公人の話は見聞きしておるでの、今聞かぬでもよかろう。人としての前国王陛下を知りたいのじゃ。爺も後門守衛長が最古参だというだけで何も言わんし。前国王陛下はもとより、昨年御隠れになられた御婆様も政以外はご自分の話をされなんでの。それとも、前国王陛下から箝口令でも出されておるのか…

 

 はい、いいえそのようなことは。わかりました。日が変わると守衛交代があります。大殿様の館の守衛室で暫しお待ちくだされ。あ、この鍵をお持ちくだされ。守衛室奥の間の鍵でございます。そこでお待ちくだされ。役目が終わり次第伺いますので。


…うん。このような時に押しかけて申し訳なく思うぞ。先に参っておるでの…



◇◇◇



 十二歳の僕は、今日からこの国の第一王子となった。国王だったお爺様が昨日深夜お亡くなりになり、皇太子であった父が日の出と共に国王となったため、長男である僕が第一王子となった。


 僕には六歳になる弟と四歳になる妹が一人いる。共に別々の楼閣で過ごしている。滅多に会わないから弟妹の事を家族って気持ちは薄いかも。王となられた父様や母様も、同じく滅多に会わないから。お爺様とは、城内に居られる時は毎日お会いしてお話をしていたから、お爺様だけは家族って感じかな。あ、お婆様もだな。お爺様が僕によく仰った言葉が「銘銘で考えてりゃ、好きに生きりゃいいよ。後は銘銘の責任さ。おめえもな」だったな。

 

 僕は五歳まで四層建ての表の左楼に住んでいた。表の左楼には今、弟が住んでいる。妹は表の右楼だ。そして僕は三層建ての後ろの右楼だ。


 王城は城壁と堀が二層囲いで、王都より見て500マール四方の外囲いに三層建て正門楼閣中央に四隅と後門は三層建ての楼閣。これが二階建ての高さの石壁で結ばれている。正門は城門を兼ねて3マールの跳ね上げ式の橋が4条、その両横に脇門として1.5マール常設渡し橋、後門は城門を兼ねて3マールの跳ね上げ式の橋が2条、その両横に脇門として1.5マール常設渡し橋。


 外囲いと内囲いの堀までの間の主だった施設としては、表側には右より内務省、外務省、中央通路を挟み財務省、軍務省の国務四省。右横は表側より迎賓館、国学院(学習・研究施設)。左横は表側より士官学院、王宮施設工務所。裏側は旧王館である二層建ての国王居館、その左右王都よりに僕の住んでいる三層楼閣もある。これらが森林庭園を間に挟みつつ配されている。


 内囲いは100マール四方で中正門・右門・左門・中後門が三層建てで、各門共に9マール幅の橋で繋がっている。中城壁も二階建ての高さで、隅楼閣は表側左右のみ、弟妹が住んでいる四層楼閣、その内側に庭園が配され僕の知る限り、地上六層、地下二層の王城がそびえている。


 僕は普段、守役の爺を筆頭に国務四省から各々派遣されている侍従、僕の専属騎士団の梅花騎士団から派遣された護衛騎士が二名と護衛騎士が率いる護衛小隊が二隊。侍従や護衛騎士は、教育係も兼ねていて居住する楼閣とその周囲の庭園で僕を鍛えてくれている。執事長とメイド長、料理長は爺が選んできたみたいだが、楼閣の生活を維持する人員は王宮より派遣されている。

 一日の基本スケジュールは、起床して爺と朝食、侍従による座学を内・財・外の順に行って座学を行った侍従と昼食。護衛騎士と護衛小隊による鍛錬を行った後、軍務侍従による座学。自由時間の後に爺と護衛騎士、軍務侍従と夕食。食後に執事長とメイド長によるマナー講習を受けて湯浴みをし、暫しの自由時間の後に眠りにつく。このような生活を僕は送っている。この生活しか知らないから、一般的な王族の生活かどうかなんて知らないけど。


 お爺様がなくなられ、これより二週間は国の儀式と何やかにやのために座学鍛錬は行わない。儀式があるとき以外は王城内であれば護衛騎士の側仕えも外すから自由に過ごしてよいと爺に言われたんだ。陰共は付いてるだろうけど。今まで、言われた通りに行動していたからかな?自由にと言われても、本を読むしか思いつかない。周りは忙しそうに動き回っているし。戴冠の儀が終わってからは暇すぎて、仕方がないから自由時間を作ってくれた原因たるお爺様の棺の側に座っている。


 実は、すんなりと入れるとは思っていなかったんだ。普段は入ることないし入ろうとも思わないし。居館入口で立哨している守衛に挨拶したら「ご自由にどうぞ」だって。国王居館は奥…お爺様の私的な居住区に該当し、政務に関する資料などは置かれていないため、家族?王族や高官側近であれば基本的に自由に出入りさせる様にとの通達があったんだって。

 まぁ、みんな忙しいみたいで、僕しか中には居ないんだけどね。今まで聞いたお爺様の逸話を思い出したり、教わったこの国の成り立ちを思い返したりしてたんだけど、国としてどうしたいかや、飢饉や疫病、他国の侵攻にどう対処したかしか思い出せなくて飽きてきた。時間が取れる度に弔問に訪れるお爺様の古参の家臣に話を聞いても国が出来てからの思い出話しかしてくれないし。爺にも聞いたけど、「お城では後門守衛長が一番古くから仕えております」としか教えてくれなかったし。


 お爺様の側で過ごすのも飽きてきたし、小さな時に入ったきりだった居館にも興味あったから、居館の中をぶらついてみることにしたんだ。鍵の掛かっていなかったお爺様の書斎に入り込んだりしてみた。そこで思い出したんだ。お爺様の書斎には本が少なく変な置物がいっぱいあったことを。熊が魚を咥えている木彫りの置物や、魔物?亜人?かな?狸っぽい焼き物とか。そういえばお爺様、「ボケ防止に昔を思い出しながら俺が作ったんだぜ」って言ってたのを思い出した。

 あの時は小さかったから気にもならなかったけど、お爺様の書斎の本、背表紙を見るにこの地方で使われているセブ語でない文字で書かれている。置物の銘板もセブ文字ではない。書棚を開け手に取ってみたかったけど、さすがに鍵がかかっていた。


 お爺様って生まれた地方で国興しを成したのではなくて、遠い地方の出身だったのかな?そういえば、お爺様のことやお婆様のこと、僕ほとんど知らないや。


 仕方がない。夕食食べて仮眠したら後門守衛長に話を聞きに行ってみようかな。自由時間だし。


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