8.外出
修行を始めて2週間が経った。
異世界に来て17日目というところだろうか。
今は午後16時。アリシアと木剣を使って打ち合いをしている。
最初の一週間は武術の時間はひたすら素振りをしていた。かなり筋肉を酷使していたが、一週間もするとかなり筋肉もついた。
異世界効果なのか筋肉のつき方は尋常ではない。見た目はそれほど変わらないが触ってみれば分かる。カッチカチだ。
そしてここ一週間は身体強化を実際に使ってみたりアリシアと打ち合いをしたりしている。
ちなみにまだこれまで一回もアリシアに木剣を当てることは出来ていない、さすがに動かすことが出来ないなんてことはなくなったが。
魔法の方はさらに順調で、今となっては基本六属性の、よく使われるⅢ級魔法までの魔法はほとんど全部使えるようになった。
今のところどの属性が苦手だ、とかいうのは感じていないし、魔法をずっと使っていても魔力切れというのを経験したことがない。
アリシアにはよっぽど魔力が多いのだろうと言われた。アリシアでさえ俺ほどの魔法連発は出来ないそうだ。
普通の日本人だった俺がねぇ、と不思議に思うが何か理由があるのかもしれない。
「剣が乱れてますよ!もっと集中してください。」
「すみません。考え事してました。」
「打ち合い中に考え事とはずいぶん余裕なんですね!」
アリシアから檄が飛んできた。ここ何回かの手合わせではあと少しで当てられたのに、という惜しい場面が少なくない回数あった。
正面で剣を構えるアリシアを見つめる。
アリシアの姿が右へとぶれた。よし、右を…いや違うか。これは何度も経験してきたアリシアのフェイント。だったら、左へ!
俺は左へと素早く動き木剣を振り下ろす。
バシッ
当たった。やっと当てることができた。
アリシアはしまった、という顔をしている。
「当たってしまいましたね。本当に夏樹さんの成長は速いですね。教えたらすぐに呑みこんでしまうんですから。これは私もうかうかしていられません!もう一本行きましょう!」
「えっと…お願いします。」
アリシアが悔しそうな表情を見せ、そう言った。やばい予感がする。
そして案の定アリシアの怒涛の攻撃によって体力の切れかかっていた俺はボコボコにされてしまったのだった。
◇
その日の夕食中のことだった。
「夏樹さんはこの二週間でかなり強くなりました。近衛隊の隊員ももしかしたらもう夏樹さんには勝てないかもしれないと思うぐらいに、です。なので明日から3日間は力試しというか何というか、森に出て魔物を狩ってみましょう。そろそろ食糧の備蓄も少なくなってきたので。」
「森…か。ジャイアントボアとかが普通に歩いているんだよね?大丈夫かな。」
「今の夏樹さんなら心配することありません。もっと自信を持っていいと思いますよ。なんて言ったって近衛隊副隊長の私から一本取ることが出来たんですから!私もついていきますし、いざとなったら私も助太刀します。」
「うん。それなら安心かな。じゃあよろしくお願いします。」
そうして遂に俺は森へと出ることが決まった。
トラウマとまでは言わないが、1人で歩き続けウルフに襲われた記憶しかないので、今のところ森に良いイメージはない。
魔物と一度も戦ったことがないので強くなっている実感が余りない、というのも不安材料の一つだ。
◇
そして異世界18日目の朝。今日は朝食前の持久走は休むことにした。体力は出来るだけ温存するように、ということだったし。
ちなみに昨日の夕食後は森の中で注意することや持って行くものを教えてもらった。アリシアと一緒に行くのでその時に色々教わればいいのだが、何があるか分からないということで一応、ね。
この二週間で使えるようになった魔法の中で森に出るときに特に便利であろうものがひとつある。
それはボックスという魔法だ。
物を異空間に収納して持ち歩くことが出来るという魔法なのだがこれに色々持っていったり、森で採れた素材や魔物の肉や皮を入れておけば手持ちの荷物がなくなって危険を少なくすることができる。
ただし生き物はいれることができないし、魔力量によって容量があって、いくらでも入る訳ではない。
この魔法は身体強化のようにどの属性にも属していない魔法だが、身体強化とは違って誰もが使える魔法ではないそうで、使える人はかなり珍しいようだ。
アリシアによると使える人は使えそうな感覚があるということで最初は疑っていたのだが、ある日起きたら突然使えるような気分がして試してみると、実際に使うことができるようになっていた。
もちろんアリシアもこの魔法は使うことが出来る。アリシアはこの魔法に頼りすぎると重いものを持たなくなり結果筋力が弱くなってしまう、と普段はこの魔法は使わないそうだ。
俺は魔力量が半端じゃない(アリシア談)らしいのでたくさん入るのではないかと試しに色々入れてみたのだがどんどん入ってしまい、容量の限界まで到達しなかった。
このような、どの属性にも属さない魔法は他にもいくつかあるようだ。
魔法はイメージが大切、ということでもしかしたらテレポートみたいな魔法もイメージ次第では可能なのかもしれない。体が分離してしまったら怖いから試さないけど。
「準備はできましたか、夏樹さん。」
リビングでアリシアを待っているとフル装備のアリシアが二階から降りてきた。
かくいう俺もアリシアに防具を貸してもらって装備している。叩いてみるととても硬く頑丈であるようだが、かなり軽いので動くときに邪魔にはならないだろうし、長時間着けていてもあまり疲れもしないだろう。
「うん。いつでも出発できるぞ。でもどこへ向かうんだ?」
「今日は夏樹さんが歩いてきた方向へと向かいましょう。野宿するは危険なので、きりの良いところで今日は引き上げて家に戻ってくるつもりです。」
「分かった。それにしてもやっぱり外は暗いな。」
そして二人で庭へと出る。
てっきり野宿するのだと思って野宿に必要なものをアイテムボックスの中に入れてしまった。
考えてみれば危険なこの森の中で好き好んで野宿をしようとは思わないだろう。二人しかいないから見張りをするのも大変だし。
一応、野宿道具は入れたままにしておこう。何があるか分からないし。
「では行きましょう!夏樹さんと一緒なのでピクニックみたいで少しワクワクしますね。」
「俺は結構緊張してるよ。家の結界の外に出るのは久しぶりだし。」
「大丈夫ですよ。この家の周辺はあまり魔物が出没しないエリアですから。」
会話をしながら森の中を歩く。
後ろを振り向くと、庭の明かりがだいぶ遠ざかっていた。家の外に出るときはいつも明かりをつけっ放しで出かけるらしい。
そして俺たちは明かりを持ってもいないし、魔法で周囲を照らすこともしていない。これは魔物に気付かれないようにするためだ。
明かりをつけながら歩くのはこちらの位置を魔物に教えているようなものであるらしい。
うっすらと周りを見ることができるので明かりがなくても困りはしない。一人だったら少し怖いけど。
◇
30分ほど歩くと、アースランドに来て一人で歩いていたときに聞いた動物の鳴き声も頻繁に聞こえるようになってきた。
アリシアと俺はどこに魔物が潜んでいるのか分からないので周りを警戒しながら足音や声を立てないようにゆっくりと歩く。
ここまでする必要があるのかと思っている諸君!
アリシアによると二人で協力しても倒せないような敵はこの森では滅多に遭遇しないだろうとのことだったが、不意打ちをされると相手が弱い魔物であっても不利な状況におちいってしまう危険性があるので警戒するに越したことはないだろう、とのことだ。
「待ってください。その木の後ろに何かがいる気配がします。夏樹さんは何か感じますか?」
「確かに何かいるようだな。でもそんなに大きな魔物ではなさそうだ。」
アリシアに言われて注意を向けてみると確かに木の後ろに何かの気配を感じることができた。
「そんなに強い魔物ではなさそうですし気付かれないうちに攻撃を仕掛けましょう。夏樹さん、お願いします。」
「あぁ、分かった!」
さぁ、いよいよ初戦闘だ。