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7.勉強

「それではこれから勉強の時間ですね。といっても基本私が話をして分からないことがあったら夏樹さんがその都度質問するという形にしたいと思います。聞いただけで全部覚えられはしないでしょうから、細かい知識はこの時間には教えないことにしましょう。」


「もちろん分からないことがあったらこの時間でなくても、いつでも質問してくださいね。」

「分かりました。よろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いします。疲れているとは思いますが、寝ないようにお願いしますね。」


アリシアはいつも通り優しげな声で話していたが最後のときだけはいつもと違う雰囲気を感じた。


寝たらどうなるんだろう…気になるけど、もちろん自ら火に入るようなことはしたくない。


ちなみに勉強の時間にもアリシアを師匠と呼び敬語を使うことにした。教わっている立場だから、当然だ。



「まずは先ほどの魔具の話からしましょう。まぁ、そんなに難しい話ではありませんよ。魔具とは魔法を保存できる道具です。発動しっぱなしにしたり、発動させたり止めたり、強くしたり弱くしたり、制御することもできます。昔からある技術ですが一個一個作るのに時間が必要なため結構高価なので流通量は多くありません。私は近衛隊副隊長でしたので、それなりの財力があって、買うことができたのですが。」


「便利な道具ではありますが色々制約もあります。一番大きな制約は簡単な魔法、もっといえばⅠ級魔法しか保存することができないということです。なので戦いで使うことはできません。Ⅰ級魔法なんて簡単に防ぐことができますから。」


「そういうことなので一般的には日常生活の手助けとして使われています。例えば、冷凍室の氷属性の冷却魔法を保存する魔具やキッチンにある火属性の魔法を保存する魔具は調理に使っています。魔具を買うことのできない一般家庭だと普通に火をおこして調理しているのですよ。」


「風呂のお湯も魔具で沸かしているんですか?」

「よく分かりましたね。その通りです。そのせいで風呂はそこそこ財力のある家にしかなかったんですよ。」


やっぱりそうだったのか。アリシアが火を一所懸命調整して沸かしている姿はとてもじゃないけど想像できなかったし。


それにしても全部過去形になっているのがなんだか寂しいな。魔王に征服されたこの大陸では元の暮らしをできている人はかなり少ないらしい。

その点でこの家、アリシアの家は恵まれているのだ。アリシアに拾ってもらえて本当にラッキーだった。


「魔具の話はこんなところでしょうか。何か質問はありませんか?」

「師匠の家にある魔具はいくつなんですか?」

「4つですよ。冷凍室のものと、キッチンのものと、風呂のもの、そしてこの家の結界を維持するもの、です。」


「外に比べて家の中はだいぶ暖かいですが魔具で暖めているのではないのですか?」

「いえ、普通に火を燃やして暖めていますよ。ほら。」


そう言ってアリシアが指差した先には確かにストーブのようなものがあって火が燃え盛っているのが見えた。


「なるほど。だから暖かかったんですね。」

「森の木を切って薪にしているんです。他に聞きたいことはありませんか?なければ次の話をしたいと思うのですが…。」

「はい。もう大丈夫です。」



「では次の話をしましょう。この大陸の北方にある魔王城について話しましょう。」



こんな感じで他の大陸の事を聞いたり、Ⅰ級魔法を教えてもらったりして勉強の時間が終わり、異世界三日目、そして修行一日目の全スケジュールを無事に終えることができた。


「今日は本当にありがとう。感謝しても感謝しきれないぐらいだよ…。」

「いえ、一日がとても楽しくて充実していました。こちらが感謝したいぐらいです!これからもよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いします。」



本当にアリシアに出会えてよかった。でもやっぱりありがとう、よろしくなどという言葉は魔法の言葉だと思う。俺の気持ちを伝えるのに、これほどふさわしい言葉はない。


時計を見てみると針は21時50分を指していた。スケジュールでは就寝は22時となっていたから横になるにはちょうどいい時間だ。

明日の起床は6時だから8時間も睡眠をとることができる。日本のときでは考えられない健康な生活だ。布団の固さが気になるけど…まぁ大丈夫だろう。



「では夏樹さん、おやすみなさい。今日はお疲れ様でした。」

「アリシアもおやすみなさい。ではまた明日。」


そう挨拶をして別れ、それぞれの部屋へと足を進めた。



チクチクチク、と時計の針の音が聞こえてくる。ベッドに横になって30分ほど経ったがなかなか寝付くことができない。疲れているはずなんだけどなぁ…


なかなか寝付けそうにないし、ちょっと外の空気でも吸いに行くか。


そう思い立ち上がって扉のほうへと向かう。

扉を開け部屋から出ると、アリシアは寝ているだろうしと起こさないように忍び足で歩きリビングから庭へと出る。



修行中はいくつかのランプで庭を照らしているので明るいが今は全部消えているため庭はだいぶ薄暗い。一日が濃すぎてこの暗さの中を歩いていた、つい1、2日前のことを随分昔のことのように感じる。


外はだいぶ肌寒かった。一日中気温は変わっていないのだろうが外にいる間は体を動かしていたので寒さを気にすることはなかったからそう感じるのだろう。



アースランドに来てからのことを頭の中で振り返ってみる。あぁ、色々なことがあったなぁ…。


よくやってるよ、と自分を褒める。



空を見上げていると自然と日本のことが思い出されてきた。そしてふと、頬に涙が流れていることに気づく。

今まで何とか思い起こさないように封印してきた思い。日本に帰りたい、家族にもう一度会いたいという気持ち。

このような状態になって初めて日常の大切さに気づくことができた。なんでこんな所に来てしまったんだろう。


そんなときだった。



「何も羽織らずにこんなところにいると風邪を引きますよ。」


いつの間にか後ろにアリシアがいて毛布のようなものを俺の肩からそっとかけてくれた。

泣いている姿を見られてしまっただろうか。いやきっと後ろからは見えなかっただろう。


「眠れなかったんですか、夏樹さん。」


相変わらずの優しい声で話しかけてくる。


「うん。今は元いた世界、地球っていうんだけど、そこのことを思い出していたんだ。」

「…私に夏樹さんのいた世界のことを話してみてくださいませんか?興味があるんです、夏樹さんの世界にも、夏樹さんがどう生きてきたのかも。」


ちょっとした間のあとアリシアはそう言ってきた。



そうして俺は地球、日本のこと、家族や子供のころのこと、会社であったことなど色々なことをアリシアに話した。

アリシアはたまに相づちをうってくれながら俺の話を聞いていた。



そして気づいたら俺の目からは再び涙が零れ落ちていた。


「いや…これは…こんなつもりじゃなかったのに…もう大人なのに情けないなぁ。」


そんな風にどうにか涙の言い訳を探そうとしているとアリシアが微笑んで、


ギュっと俺のことを抱きしめてきた。


「夏樹さん。我慢しなくていいんですよ。分かります、夏樹さんの気持ち。一杯泣いてもいいんです。恥ずかしいことなんてこれっぽちもありませんから。」



そうして俺はアリシアに抱きしめられながら泣き続けた。

恥ずかしいとは思ったけど離してほしいとは思わなかったし、心も体もどこか暖かかくなった気がした。


そしてそのまま俺はアリシアの胸の中で眠りについた。



朝食のいい香りがして目が覚める。


昨日はあのまま眠ってしまったか。またここまで運んでもらったんだろう。



ありがとう。アリシア。


よしっ!今日も頑張るぞ。こんな風に一日は始まりを告げた。



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