3.アースランド
「ここはアースランドという名の世界ですが、夏樹さんは異世界に飛ばされているのではないですか?」
「多分そうだと思います。」
「えっ?」
「えっ?」
一回目のえっ?はアリシア。二回目は俺の、だ。
「もっと驚くと思っていたんですけど。」
「予想はしていたんだ。ここはあまりにも地球、俺がもともといた世界と違うことが多すぎるから。」
「そんな…。さっきの重々しい雰囲気作るの大変だったんですよ。心の準備とか。」
そう言ってアリシアはへこんだ様子を見せた。なんか申し訳ない。いや雰囲気作りとか言ってる辺り案外余裕があるのかも。
色々聞きたいことはあるが全部聞くわけにもいかない。段々とこの世界に慣れて行くしかないだろう。でもせめて地理的なこととか状況とかは聞いておかないと。
「とりあえずこの世界について基礎的な知識を色々とお話しましょう。気にはなるでしょうが質問は話が終わってからにしてください。」
そう言ってアリシアは話し始めた。
◇
アリシアの(長かった)話を要約しよう。聞いた話だけどもう俺の知識の一部だから、らしいとかはいらないよね!?
この世界の名前はアースランド。話を聞いた限り地球の過去ではなさそうだ。未来、ではないことを願おう。
そして今俺がいるのが西の大陸と呼ばれている大陸の中心に位置する魔の森というところだ。ちなみに大陸は北、東、南、西の四つ。
アースランドは所謂、剣と魔法のファンタジー世界。この世界の全員が魔力を持っていて、少なくない人が魔法を使える。そうでない人も剣や槍など何かしらを鍛えているのだ。
ちなみに俺からは強大な魔力を感じるらしい。どういうことだよ。
俺が寝ていたのは半日ほど。時間や暦は日本と変わらないようだ。この大陸にも四季があり今は初冬、らしい。
この世界にはさまざまな種族が暮らしていて二つの陣営に分かれて戦っていたり、静観を保っていたりする種族もあるようだ。
まずは人族の属している陣営。人族の陣営には獣人族、エルフ、が属している。ちなみにアリシアは人族だ。
一方魔族が率いる陣営。鬼人族、ダークエルフ、さっきの狼もどき、ウルフなどの魔物、ダークドラゴン、が属している。
そして中立とでも言うべきだろうか。
まず龍人族。かなり強い力を持っているが世間にあまり興味がなく滅多に姿を見せることはない。
次に魚人族。水中でも陸でも過ごすことができ、龍人族ほどではないけど強い。同じく世間に興味を持っていない。
その次にドラゴン。かなり強い力を持つ龍人族であっても、数人がかりでないと倒せないものもいる。ダークドラゴンとは闇に染まったドラゴンで、普通のドラゴンより闇のせいで力が劣っているものの、人族たちの陣営にとっては十分に脅威だ。
最後にドワーフ。酒が大好き、しかし彼らの作る剣や槍はどれも一級品。基本どちらに味方するという意識はなく、どちらの陣営にも頼まれれば武器を作っている。
次にアリシアが話したのは魔法のこと。一番弱く消費魔力の少ないⅠ級から一番強く消費魔力の大きいⅩ級まで十段階に区分されているらしい。
区分はされていても使いようによって変わるし、使い道のないものもあるようだが。
属性は魔法を使える人なら誰でも持つ火・水・風・地・光・闇の基本六属性。
人それぞれ属性に得手不得手はあるが誰もがⅠ級は練習して使えるようになる。
そして炎、氷、聖、アリシアの使った重力などの特殊属性。これを持っている人はかなり少ないらしい。
特殊属性は使えれば強力だけどその分消費魔力も多い。しかも特殊属性を持っているか、何を持っているかは特別な装置でしか調べることができない。
その装置は近くにはないらしいのだが…
持っているかを魔法を使って試してみるのはかなり危険で魔力が暴走する。暴走したらどうなるのかは教えてくれなかった…。
俺の予想では浦島太郎みたいに歳を取ってしまう、が有力だ。考えても答えは出ないけどね。
最後に、とアリシアは雰囲気を変えてこんな話を始めた。
「西の大陸、つまりここは3年前から夜が明けていません。」
「えっ?」
予想外過ぎる言葉につい声を出してしまった。
「まぁ、聞いてください。3年前に魔王がこの大陸の北方に誕生して十魔将、十人の重臣と魔物たちを従え侵攻、そして蹂躙を始めました。私たちの陣営も抵抗しましたが全く歯が立たず敗北し、ハーメルン王国、ガリレア帝国、ハーグ皇国と名だたる国は次々と滅ぼされ我々の文明は破壊されました。」
「かくいう私もハーメルン王国の近衛隊で副隊長をしていました。私は十魔将の一人と戦いましたがあと少しというところで敵の援軍が来て、仕方なく国王や王女と逃走しました。」
「文明が破壊され魔王がこの大陸を征服すると空は闇に覆われ明けない夜が来ました。生き残った人々は柵を作り結界を張り、小さな集落を作って生活しています。ですが集落の一歩外は危険なので交易はほとんど行われていません。魔王軍は集落を襲撃することはまだしていません。魔物が襲うことはありますので防御は固めているのですけどね。」
「自分を見つめ直したかった私は国王一行と別れ別行動をしました。そして修行をするために強い魔物が存在するこの森に入りました。」
「夏樹さんが異世界から来たのだと想像できたのは変わった格好をしていた、というのもありますが文献にいくつかの記録が存在していることを知っていたからです。この世界では黒目黒髪はとても珍しいんですよ。東の大陸のさらに東の島に住んでいる、と聞いたことはありますがこの状況ですのでわざわざこの大陸に来ることもないでしょうし。」
「話したいことはだいたい話終わりました。何か質問はありますか?答えられることは出来るだけ答えますよ。」
当然聞きたいことは色々あるが、ここは我慢。必要なことだけを聞こう。まずこの先俺がどうするのが良いかアドバイスが聞きたい、かな。よし!
「いい布団知ってます?」
ま、まちがえたぁぁぁあ!!
◇
「布団、ですか?夏樹さんの部屋のベッドの布団は結構良いものだと思うのですが。」
真面目に返してもらうのはすごく恥ずかしい。
「そうですか。ありがとうございます。いや、今の質問は気にしないでください。」
「はい…。」
「俺はこの先どうしていけばいいかアリシアにアドバイス貰えたらなぁ、なんて。」
「もちろん構いませんよ。正直言って今の夏樹さんだとこの家の結界の外に出たらすぐに殺されてしまうでしょう。森の中を何時間も歩けたのは奇跡、だと思います。夏樹さんが襲われていたウルフと少し戦ってみて分ったでしょう。もしよければ、私が魔法や剣をお教えしようと思いますがどうでしょうか?こう見えても私、かなり強いんですよ。」
「是非お願いします、師匠!」
即答、してしまった。これでこの先何とかなりそうだ。
「ところで…何で他の大陸に逃げようと思わなかったんだ?」
「港は全部魔王軍によって占領され他の大陸に行けるような大きな船は全て破壊されてしまいました。中には自作の船に乗って出ていった方もいらっしゃったようですが…正直死んでいる可能性が高いと思います。」
これで聞きたいことは粗方聞いた俺は、もう質問はない、とアリシアに感謝して頭を下げる。
最後にちょっとだけ、とアリシアはこんな話をしてくれた。
「文献によると1000年以上前ですが今と同じような状況に陥ったことがあったようです。その時は突然強力な力を持った勇者が忽然と登場し仲間を増やし、最終的に魔王を倒し世界を救ったと書かれています。今はまだ勇者は現れていませんが私は期待してるんです。きっとまた勇者が現れて私たちを救ってくれる、って。」
そんな風に異世界二日目は怒濤に過ぎていった。