096 案内
建国記念式典の5日前、ようやくヨネ子達はアルケオンへと帰って来た、この頃には各国の要人もほとんどが入国していた。
ヨネ子達は報告も兼ねて王宮に向かった。
「帰ったわよ。準備は進んでる?」
「マーガレットさん、順調ですよ。ゲストの皆さんも今日のリシュリュー王で全員到着です」
氷河人、エルフ、妖精族はゲートで迎えに行っている、大使館の事もあるので建国記念式典の1週間前に連れて来ていた。
それ以外の各国には護衛を派遣しており通信の魔道具も持たせている、なので到着予定は逐一報告されているのだ。
各国のゲストは元々記念式典の前日か前々日に到着するよう出発していた、それが5日前には全員到着する事になったのは人数を30人以内に絞った事と護衛を派遣したからだ、そのおかげで各国とも予定よりかなり早く到着したのだ。
「そう、とりあえずは帰国の報告よ。調査報告は建国記念式典が終わって落ち着いたらするわ」
「わかりました。それでこれからどうするんですか?」
「そうね、町の様子を見てみるつもりよ」
「そうですか。はあ、私も行きたいです」
エレンはため息まじりに言った、よほど疲れているのだろう。
「建国記念式典が終われば時間に余裕もできるでしょ。できなくても流一に丸投げして羽を伸ばしなさい」
「そうですね。流一さんには悪いけどそうします」
エレンはそう言って笑顔でヨネ子達を見送った。
町に出たヨネ子達が最初に向かうのはブレイザーの店『ゴールデン・ドーン』だ、2ヶ月近く主人不在だったのでブレイザーは気になってしょうがないようだった。
因みに『ゴールデン・ドーン』はブレイザーがヨネ子に「黄金の夜明け」という意味を聞いてつけた名だ、地球なら魔術結社の名前として知られているが決して魔法がある世界だからと付けたわけではない。
ヨネ子達はそのままそこで食事をしていると貴族風の客が入って来た。
「ここがブレイザー殿の店で間違い無いか?」
「あら、ルビー公爵、それにギルスバート殿下。久しぶりね」
やって来たのはエムロード大王国の王太子とルビー公爵だった、そしてそこへヨネ子が声をかけた。
「おお、マーガレットではないか。ではやはりここがブレイザーの店で間違い無いようだな」
ルビー公爵とギルスバート、それに護衛のグリードとミーシャはヨネ子達のテーブルの隣のテーブルに陣取った。
全員着席するとそれぞれ挨拶をしてから注文をした。
「ところでレーナはまた強くなったようだな、その歳で大したものだ」
「わかるんですか?」
レーナはルビー公爵に聞き返した、自分では変わっているとは思わなかったからだ。
「もちろんだ、この前より身長が少し伸びているのは成長期だからだろうが・・・雰囲気がな。歳に似合わない落ち着きと自信が見て取れる」
「俺もそう感じるぞ。よほど鍛えられているんだろう」
グリードもレーナに言った。
「そうなんですね、自分では全然わからないですけど。ありがとうございます」
レーナは素直に礼を言って頭を下げた。
「ところで馬車はどうなっているんだ?」
「それは建国記念式典に間に合わせるように言ってあるけど聞いてないわ。この後様子を見に行ってみる?」
「ああ、頼む」
「馬車とはなんだ?わざわざドラゴニアで作ったのか?」
ギルスバートがルビー公爵に聞いた。
「殿下はドラゴニアの大使が乗って来た馬車を見ていないのですか?」
普通なら馬車などどれも同じだと思っているので大使が乗っている馬車など貴族や王族は気にも止めない、しかしルビー公爵はドラゴニアの使者という事で何か違うと感じ興味を持った。
ルビー公爵はギルスバートなら同じような感性を持っているのでドラゴニアの馬車に興味を示したのでは無いかと思っていたので驚いた。
「ああ、見ていない。何か違うのか?」
「そうですか、それならこれから実物を見て貰うのが早いでしょうな」
その後料理が運ばれて来たので食べ終わると全員で店を出る、すると今度はリシュリュー王とイリアの2人に出会った。
リシュリュー王はイリアを護衛に町を散策しているところだった、まだそれほど大きくない町なので偶然出会うのは不思議ではない。
「マーガレットさん、エルさん、セラフィムさん、それにルビー公爵も!お久しぶりです」
「おおイリア子爵久しぶりじゃな・・・申し訳ありません挨拶が遅れました。お久しぶりですリシュリュー王様」
ルビー公爵は声をかけて来たイリアに挨拶をした後、その横にいるのがリシュリュー王だとわかり慌てて挨拶した。
「これはリシュリュー王様、お久しぶりでございます」
ギルスバートもルビー公爵の言で気付いたので挨拶した。
「おお、ルビー公爵にエムロードの王太子ではないか、お主達も来ておったのか」
「はい、我々もドラゴニアとは少々縁がありまして」
「そうかそうか。ところでイリアよ、お主はルビー公爵と面識があったのか?」
「はい、我が領のウィスキーとブランデーの最初の顧客です」
「ほう、さすがエムロード王の懐刀と呼ばれるだけはある。ワシよりも先に目を付けていたとは」
「それもこれもここにいるマーガレット達のおかげですがな」
「そうであったか。ところでお主達はこれから何処かへ向かうのか?」
「はい、私が注文していた馬車が出来ているか確かめに行きます」
「わざわざドラゴニアで馬車を作ったのか?うーむ、ルビー公爵ほどの者が自国ではなくドラゴニアで作るとは。興味があるのう、ワシらも付いて行って良いか?」
「ええ、それではご一緒しましょう」
結局ヨネ子達4人にルビー公爵一行4人、さらにリシュリュー王とイリアの合計10人で馬車を見に行く事になった。
「リーエル、注文していたルビー公爵の馬車はどこまで出来てる?」
リーエルは木工職人で馬車作りのリーダーだ。
「はい、本体はすでに完成しています。後は明日紋章官が来てからルビー公爵の紋章を入れるだけです」
「ほう、そうか。本体が出来ているなら試運転をしても良いかな?」
ルビー公爵がリーエルに尋ねた。
「あのう、こちらの方は?」
「注文主のルビー公爵よ」
ヨネ子が簡単に説明した。
「これは失礼しました。どれでもお乗りいただけますので是非ご試乗下さい」
リーエルが手で指し示した先には2頭引き6人乗りの馬車が3輌と1頭引き4人乗りの馬車が1輌並べてあった。
「ほう、他にも注文している者がいたのですな」
ルビー公爵が感心したように言った、がそれは違っていた。
「いいえ、これは全部貴方用よ」
「ハテ、注文は1輌だったはずだが」
「後の3輌は魔法使いのお礼よ」
「なんと、そんなつもりで用意した訳では無かったのだが。良いのか?」
「ええ、遠慮せず受け取って」
「そうか、ありがとう。では全部で10人なので6人乗りと4人乗りを1輌づつ試乗しようではないか。マーガレット、馬は用意出来るか?」
「ええ、ここで待ってて」
ヨネ子はそう言うとマルコに連絡した、そしてしばらくするとマルコが牧場の使用人と共に3頭の馬を連れて来た、その内の2人は御者として残る。
6人乗りの方にはヨネ子、エル、ルビー公爵、ギルスバート、リシュリュー王、イリアの6人が、4人乗りの方にはセラフィム、レーナ、グリード、ミーシャの4人が乗った。
「それでどこへ向かいますか?」
「もちろんあの遠くにそびえる建物だ。あれはなんだ?あんな大きな建物見た事が無いぞ」
ヨネ子の質問にルビー公爵が答えた、まだ来たばかりで気にはなっていたが調べてはいなかったのだろう。
「あれはルテナ橋、鉄橋よ。ではそこへ行きましょう」
そうして一行はルテナ橋に向け出発した。
「これは・・・全く揺れんでは無いか。それにこのスピード、これは高速馬車なのか?」
驚きの声を上げたのはリシュリュー王だった、ギルスバートも初めての体験で驚いてはいたが先にリシュリュー王が声を上げたので黙っていた。
因みにイリアも初めてだったがヨネ子達のする事で今更驚きはしない、ただ感動はしていた。
「いいえ、これが通常のスピードよ」
「これが普通のスピードだと?それにこの窓はなんだ?これはガラスなのか?こんな透明なガラスなど見た事が無い」
「そうよ、このガラスはエムロードの職人も作れるから注文すると良いわ」
「何?本当か?」
リシュリュー王は驚いてルビー公爵とギルスバートに聞いた。
「はい、ここドラゴニアで修行させまして。もうすぐ制作を開始します」
「そうか、ならその内注文しよう。城の窓をこのガラスに変えれば部屋の中が明るくなって仕事も捗るというものじゃ」
「はい、是非ご注文下さい」
「しかし・・・なるほどこれならわざわざ注文するのもわかる。マーガレットよワシも注文しても良いか?」
「ええ、お待ちしています」
「ところでマーガレットさん、こんな場でなんですがこの前話していた魔法使いを2人雇って連れて来てるんだけど鍛えてもらえるかしら」
馬車の話が終わったところでイリアが聞いて来た。
「もちろんよ、それで今どこに?」
「セリーヌに預けてるわ」
「そう、ちょうど良いわ」
ヨネ子はそう言ってその場でセリーヌに連絡した、そして婚約者のアーネストに魔法師団の所へ連れて行くように指示した。
それを聞いていたリシュリュー王がイリアに質問した。
「バーニア子爵、魔法使いをわざわざここで鍛える必要があったのか?」
「はい、魔法使いは我が領特産の酒用の瓶をここまで買い付けに来る為に雇ったんです。なのでゲートの魔法を教えて貰うんです」
「なるほどのう、あの酒は味も良かったが容器も素晴らしかった」
そんな話をしている内にルテナ橋に到着したので全員馬車を降りた。
「これは、物凄く大きな橋だな!」
「凄いな、こんな大きな橋見た事が無い」
ルビー公爵とギルスバートが感嘆の声を漏らした。
「大きい、それに綺麗。さすがドラゴニアと言うべきでしょうね」
イリアは当然だが女性らしい感想を持った。
「まあドラゴニアと言うよりマーガレットと言うべきでしょうね。私達はマーガレットの言う通りにしただけだから」
エルがイリアに言った。
「これはまた見事な」
「ええ、この橋を見れただけでもここに来た甲斐があります」
後からやってきたグリードとミーシャも感動の声を上げた。
「あら?ミーシャも初めてだったの?」
「はい、この前はガラス作りの道具を買っただけで帰国しましたから」
「そうだったの?まあ貴方はゲートが使えるんだからたまには遊びに来なさい」
「はい、公爵様からお休みがいただけたら是非」
「いやいや、それなら休みではなく公務として俺も連れて来い」
「あら、それはそれで魅力的な提案ですね」
「うーむ、その時は俺も一緒で良いか?」
ルビー公爵とミーシャのやり取りにギルスバートも参加した、結局3人でまた来ると言う事で話がまとまった。
「ところであれはなんだ?」
リシュリュー王が橋から川の方を見てヨネ子に聞いてきた、訓練中のヨットが目に入ったようだ。
「あれはヨットと言う船よ。今船乗りの訓練中なの」
「あんな小さな船なのに訓練が必要なのか?」
「ええ、あれは操船ではなく風を掴む訓練だから」
「風を掴むねえ、それにどんな意味があるのかワシにはわからんがまた凄いことをするんじゃろうな」
「風を?帆で風を受けても風下にしか進めなければ不便では無いか?」
ルビー公爵が聞いてきた、リシュリュー王国は内陸だがエムロード大王国は海に面しておりディラルク王国、ブーストン王国と海路での交易を行っているので船につても少しは知識があるからだ。
「そんな事は無いわ、風を真正面から受けなければ風上にも進めるわよ」
「そうなのか?お主の知識は底が知れんな」
「強さの底もだけどね」
「「「「「「確かに」」」」」」
ルビー公爵の言にエルが被せて言ったが残り全員が頷いた。
「ところでマーガレットよ、俺たちは予定より早く到着して時間が余っているんだが。良ければ明日どこか魔物狩りに連れて行ってくれぬか?」
全員の息が合ったところでルビー公爵が話を変えた。
「それは良いけど、貴方達4人が行くの?」
「ああ、そうだ」
「どうせならバーニア子爵も行ってはどうじゃ?」
リシュリュー王が提案した。
「陛下、私は今回陛下の護衛も兼ねているのですが」
「1日くらい良いじゃろ。お主はルビー公爵とは知り合いのようであるし」
「わかりました、ありがとうございます。ではマーガレットさん明日は私も連れて行って下さい」
イリアは少し考えてから行くことを決意した。
「イリアさんが行くなら『デザートイーグル』の皆さんも誘ったらどうですか?」
今度はレーナが提案し受け入れられた、そしてその場でセリーヌに連絡すると喜んで参加するとの返事をもらった。
もちろんメアリとシェンムー付きだ、2人には昼食の準備をしてもらう。
この後はアルケオンに帰って今度は町中の案内をした、そして当然ながら自転車に目が行った。
しかしまだ生産台数が少ないので買って帰るのはまた次の機会と言う事にしてこの日は解散した。




