094 フィールマ大森林の山
巨大な蛇を討伐した後も調査は続く、ただ街道の整備準備以外の成果はあまり上がっていない。
そんな中、ヨネ子がフィールマ大森林にある山の調査をすると告げた。
フィールマ大森林は森林西部に大きな山脈があるが中央部にもいくつかの山がある、もちろん入り口付近のテーブルマウンテンとは違い休火山だ。
街道の予定は高いところでも火山の3合目あたりまでしか行かない、しかしこういう山には割と資源が眠っている事も多いので調査をする事にしたのだ。
「今日は予定の道を外れて山の調査をするわよ」
「わかったわ」
「「了解」」
エルに続きセラフィムとレーナも賛同する、ブレイザーはこういうときにはあまり声を出さない、戦闘力がないので自身に選択権があると思っていないためだ。
ヨネ子に限らず全員気にはしないのだが、不都合も無いので敢えて誰もその事には触れない。
今回調べる山は2つの山が連なった双子山とそこから少し離れた場所にある単独峰の3つ、それぞれの山は海抜はわからないがヨネ子達が今居る場所からの高さは3000メートルから4000メートルの間くらいある、なので雪こそほとんど降らないが7合目付近より上は背の高い木も無い。
ただし単独峰の方には巨大なカルデラ湖があり魔物領域となっている、魔素の感じからしてSランクなのだが魔物領域の広さは6合目より上部とランクの割に狭い。
この謎を解くためだけでもヨネ子には行く価値のある山だ。
先ず最初は近い双子山の方に向かう、割と高い山なので上部は雲に覆われることも多くその分雨も多い。
なので大きくは無いがいくつもの川がありあまり深く無い渓谷が形成されているので景観は素晴らしい。
そんな川の一つに沿って上流へと向かいながら時々アースソナーで地中を探る、そうしてまだ5合目までも行かないうちにヨネ子が地中の空洞を見つけた。
「ここの地下には割と大きめの空洞があるわね」
「あら本当。入口は・・・あっちにありそうね」
ヨネ子の言葉を受けて自身もアースソナーを使ったエルが入り口があると思われる方向を指差しながら言った。
エルの指差した方向に全員で歩き出す、しばらくして空洞の入り口らしき場所にやって来た。
そこには大人1人がやっと通れるくらいの穴が空いていたが、ほんの2・3メートル行くだけで大人5人くらいが横に並んで歩けるほど大きなトンネルが出来ていた。
しかも入口は他にも複数あるのか風速で3メートルほどの風が吹いている、この風のお陰でコウモリが住み着く事が無かったと思われる。
ヨネ子達は一旦山の捜索をやめてこの洞窟を調査する事にした。
「面白そうだからこの洞窟を調べるわよ」
「そうね、面白そうだわ」
ヨネ子の言葉にエルも同調して洞窟探検が始まった。
先ずは洞窟を山の中心部方向に歩き始める、直線的では無いがあまり大きな曲線でもない、富士山にある風穴同様溶岩流により形成されたからだろう。
異世界小説ではこういう場合ダンジョン化しているのだろうがここはそんな事は無かった、ただ鍾乳洞のように気温が低いということもない、一年中風が吹いて外気が循環しているからだ。
しばらく進んだところで一際広くなった横穴が現れた、その横穴に入ってアースソナーを使うとルビーとサファイアの鉱脈のすぐ脇だった。
「ここを少し掘ったところにルビーとサファイアがあるわよ」
「そうなの?じゃあ掘ってみる?」
「いいえ、今のところ宝石は必要ないから鉱脈の位置を覚えておくだけで良いわ」
エルの質問に否定で返したヨネ子は再び洞窟探検に戻った。
さらに進むと川に突き当たった、この場所は上流からヨネ子達が来たのとは別方向に向かう洞窟へと川が流れている。
ここからは川に沿って進む事になる、ただ洞窟も広いので冷たい川の中に浸かって歩くと言うことは無い。
ここまではヨネ子のライトの魔法で洞窟内を照らしていたが、ここからは光る苔が洞窟内を照らしているので少し暗くはなるがライトの魔法は使わないようにした。
川をかなり遡ったところで一際広い場所に出た、しかしその広い場所いっぱいに地底の湖が広がっている、そしてその先には急に細くなった洞窟がいくつも湖の上部にありそこから大量の地下水が滝となって湧き出していた。
「どうやら行けるのはここまでのようね」
「そうね、でも大して何もなかったわね」
「確かに役に立ちそうにない生き物以外いなかったわね。でもとりあえずこの湖には大きめの魚がいるみたいだから釣ってみましょう」
ヨネ子は残念がるエルにそう言うと近くにいた小さな虫を捕まえて、それを餌に釣りを始めた。
地底湖は流石に透明度が高く水の中がよく見える、なのでヨネ子が投げ込んだ餌が30センチくらいの白い魚に食べられるのが良く見えた。
釣り上げた魚は真っ白のイワナに似た姿をしていた、鑑定してみると食べられるようであった。
それを見て他の4人も釣りをする、ブレイザーには再びヨネ子が釣り道具を貸したのだ。
そして全員1匹づつ釣ったところで釣りはやめた、あまり時間をかけたく無い事と試食には1人に1匹あれば十分だからだ。
この日は洞窟を出てからそのまま野営した、夕食では地底湖で釣った白い魚が塩焼きで出てきた。
「あら、これは予想外に美味しいわね」
「本当ね。これは美味しいわ」
「美味しいです。もっと釣ってくれば良かった」
白い魚の味はすごく美味しかったようでレーナは1匹しか釣らなかった事を後悔した。
「これも養殖候補にしましょう」
「そうですね、地底湖は結構広かったですがここにしかいない魚だった場合、この味だと乱獲される恐れがありますからね」
ヨネ子の意見に珍しくブレイザーが反応した、ブレイザーも白い魚の味をよほど気に入ったのだろう。
翌日は再び地上の調査を開始する、ジャングル部分には知らない動物が多くいたが細かい種として知らないだけで大きな括りでは鹿や猿、狐の仲間など既知の動物の亜種ばかりなので特別に珍しい動物は居なかった。
ただ7合目付近のジャングルから9合目近くまでの低木や草が生茂るあたりにはダチョウよりも大きな飛べない鳥が居た、地球では絶滅したモアを一回りくらい小さくした鳥だ。
そしてここには羊と山羊を掛け合わせたような動物がいたので狩ってみた、ヨネ子の鑑定では地球で言うならビクーニャのような高級な繊維が取れるようだ。
隣の山とは8合目辺りで尾根を通じて繋がっているが、隣の山には行かずに洞窟があったのとは反対側を調べる、ここでは上質の大理石が見つかった。
9合目より上にはめぼしい生き物はいなかった、しかしそれだけに少し寒いが安全なのでここで野営をする。
一夜明けると8合目の尾根を使い今度は隣の山を調べる、山頂部分はやはり大した物はない。
こちらの山にも小さいモアのような鳥と羊と山羊を掛け合わせたような動物が居た、まあ隣の山とは繋がっているので居ない方がおかしいが。
こちらの山ではダイヤモンドの鉱脈が見つかった、ダイヤモンドは宝石としても貴重だがヨネ子としては工業用に使いたいと考えている。
こちらでも洞窟を見つけたが隣のような風穴ではなく鍾乳洞だった、入った感じでは空気が冷たく至る所に不思議な形の鍾乳石が見られる。
奥に進むと鍾乳石ではなく露出した水晶の部屋が現れた、半分は白い普通の水晶で半分は紫水晶なのはなんとも不思議な光景だ。
鍾乳洞を出て山の反対側に回る途中でミスリルの鉱床の反応があった、さらにオリハルコンもあるようだ。
「あら、こんなところにミスリル鉱床があるわ。それにもう1つ・・・これはオリハルコンね」
ヨネ子がそう言うのでエルとセラフィムもアースソナーで探ってみた。
「確かにミスリルとオリハルコンがあるわね」
「おお確かに、ここを開発すれば他国からミスリルやオリハルコンを買わずに済みますな」
「そうね、でも開発するには先に街道を整備しないといけないからまだ少しかかるでしょうね」
「それもそうね。でもここの開発は優先順位を上げる必要があるんじゃない?」
「ええ、その通りよ」
話がまとまったところで続きの探索をする、しかしこの日はこれ以上めぼしい物は発見出来なかった。
次に向かったのはもう1つの山、カルデラ湖のある単独峰だ。
ここは6合目くらいから上が魔物領域となるのでその前で1回野営してから登って行った。
この山は単独峰と言っても富士山のような綺麗な円錐形はしていない、ヨネ子の推定では元々5000メートル級の山が巨大噴火により三千数百メートルまで低くなったように見える。
なので頂上は火山のように長大な尾根を構成しておりその中に巨大なカルデラ湖が出来上がっている、尾根の外周は10キロ以上あるようだ。
頂上の尾根から湖面まではほんの5メートルほどしかないが、そこまでの道は急傾斜のため無い。
逆にその急傾斜のため魔物領域でありながらカルデラの内側には魔物が居ない、尤も湖の中は別だ。
この山の地上の魔物領域には強い魔物はいなかった、初めて見る魔物が多いが戦った感じではBランクがせいぜいだろう。
しかしカルデラ湖の中は違う、この魔物領域の中心はカルデラ湖の中心の湖底にあるようだ。
どうやら魔素的にはSランクながら範囲が狭いのは魔素の殆どが水に溶け込んでいるため地上にはあまり影響を及ぼしていないからのようだ。
それだけにカルデラ湖の中の魔物は異常な強さを身につけているかもしれない、それを調べるためヨネ子は湖面に降りた。
降りたと言っても道無き道を進んだわけではない、移動の魔法で空中を歩いて行ったのだ。
するとすぐに反応があった、ヨネ子目掛けて巨大な魚が飛び出してきたのだ。
ヨネ子はその攻撃を躱すと収納から剣を取り出して脳天部分を突いた、そしてその魚を持ったままみんなの元に帰る。
魚は全長1メートル強、アマゾンのピラルクのような見た目だが歯が異常に発達している。
魔物だけに食用には向かないが鱗や骨は何かの素材に使えるような気がする、魔石は陸上の魔物の物より小ぶりだが赤みが強いように思える。
魔石の感じからこの魔物の強さはBランク相当と思われる。
今度はエルが湖面に行ってみた、同じように魚に襲われる、そしてヨネ子と同じようにして捕まえた。
今度の魚は1.5メートルほどの巨大ナマズ、こちらも同じように素材として何かに使えるかもしれないが今はまだわからない、こちらの魔石も同じく小ぶりで赤みが強いように思えた。
そしてこちらも同じくBランク相当に思える。
「ここの魔物の素材は何に使えるかわからないから今は必要無いわね」
「そうね、でも後何匹か捕まえて持って帰ったらどう?使い方は誰かに研究させればいいでしょ」
「エルがそう言うなら良いわよ。じゃあ後は誰が行く?」
「私行きたい」
レーナが手を挙げたので行かせた。
レーナも1メートルほどのナマズを獲ってきた、さすが魚ではあっても魔物だ、ジャンプ力はもちろん自分より大きな物にも飛びかかる獰猛さは普通の人間には恐怖だろう。
ただヨネ子としては納得がいかない事もある、魔素の感じからSランク相当だと思っているのにBランクと思われる魚しか襲ってこないからだ。
しかし次にセラフィムが湖に向かった時ヨネ子も納得する事になった、湖底からセラフィム目掛けて飛び付いてきたのは体長8メートルくらいの巨大な蛇だったからだ。
流石にその巨体では全身が湖から出る事は無かったが、セラフィムに簡単に殺され引き上げられた。
この蛇はエラ呼吸をするように進化していた、そして毒こそ無いが獲物を締め付けた際に鱗の一部が針状に変化して獲物を逃がさないようになっていた。
この蛇は魔石の感じからSランクと思われる、なので詳しく調べないとわからないが蛇ではなく亜竜なのかもしれない。
「うわー、こんなのも居たんですね。私の時に出てきてたら捕まえる自信は無かったです」
レーナがその蛇を見て驚きと同時に感想を漏らした。
その後も3匹ほど捕まえたが新種はいなかった。
「さあ、そろそろ戻りましょう」
「そうね、もうこれくらいで十分でしょう」
ヨネ子の言葉にエルが賛成して魔物狩りは終了となった。
ヨネ子達はこの後前日と同じ場所でもう一度野営をしてからこの山の周りを探索した。
この山の魔物領域より下にはトロナが眠っていた、今はまだキューシュー地方にトロナの産地があるがガラスを増産する際にはここのトロナが役立つだろう。
ここにはこれ以上めぼしい物は発見されなかった、なのでもう一回野営して翌日街道の予定地へと戻って行った。




