092 フィールマ大森林の調査開始
「マーガレット、次は何をするの?」
一通りの予定が終了するとエルが聞いて来た。
「そうね、フィールマ大森林の探検なんてどう?」
「それは面白そうだけど、なんで?他にする事はないの?」
「急ぎでする事はもうないわ。後2ヶ月ちょっとで建国記念式典が始まるでしょ?これから新しいことを始めるのは時期的に無理があると思ってね」
「そうか、確かにみんなが忙しい時に新しいことを始めるのは良くないわね。でもそれなら西の魔物領域の先や鉱山の先の山脈の資源調査でも良いんじゃ無い?」
「それでも良いけど、エルフの郷で街道を作るって約束したでしょ?それにフィールマ大森林を通ってガベン王国かフランドル王国に抜ける道も整備したいと思ってるの、今のままじゃ陸路はどこへ行くのもブーストン王国を通る事になるから商人の関税が高くなるし」
「関税ねえ、そこまでは考えてなかったわ。それならフィールマ大森林の調査と街道整備は優先順位の上位ね」
「じゃあ出発は明日。メンバーはエルとセラフィムとレーナとブレイザーの5人ね」
「「「了解」」」
この場にブレイザーはいなかったので3人が返事した。
その後ヨネ子達はブレイザーの元に行きフィールマ大森林の探検に同行するよう告げた、一応断る事も出来るがブレイザーが断る事はない。
ブレイザーの元を出てからヨネ子とエルとセラフィムの3人は一旦エルフの郷近くの川の源流に向かった、ここから空を飛び南下しながら予備調査をするのだ。
上空から川の位置や魔物領域の位置と規模、樹木の種類や植生などから通りやすい道を検討する。
本来ならエルフの郷の東方にはレベンド王国があるので北東方向にも飛んでガベン王国かフランドル王国に向かう方向も調査すべき所だが、今回は建国記念式典までと短期間なのでエルフの郷までの調査に止める事にした。
翌日、キューシュー地方最北部からフィールマ大森林に入って行く、出発はテーブルマウンテンの谷間を抜けて北上して行く。
前日に予備調査をしているので複数ある谷間の内最も街道整備に適した場所に目を付けてある、そこから入って行くのだ。
ヨネ子達は最初に入り口となる場所の木を幾らか切り倒した、ただ切り倒したと言ってもオノやノコギリでチマチマとでは無い、剣の一閃でだ。
レーナにはまだ無理だがヨネ子、エル、セラフィムならそれくらいは軽く出来るので、街道作りの時の目印のためにもある程度の間隔を空けて切り倒して行くのだ。
入り口部分はあまり深く無いジャングルのような植生だ、川のある谷間だと湿度も高くジャングルも深いので街道を作りづらい、そう言う理由からも入口はここにした。
谷間とは言っても切り立った山と山の間は1キロ以上ある、なので道は平坦で歩きやすい事から割と移動も早い。
1日歩いて三叉の谷間に行き着いた、初日はここで野営する、ここまでの間には色鮮やかな鳥を見た以外は特筆すべき事が何も無い。
「レーナ、夕食用に動物を狩りに行くわよ」
「はい、わかりました」
そう言うとヨネ子とレーナは狩りに出かけた、訓練も兼ねているので狩るのはレーナだ。
レーナはまず索敵の魔法を使う、今のレーナは中型以上の大きさの動物に絞れば半径500メートルほどは感知出来る、しかしネズミやリスのような小動物まで対象にすると半径は300メートルほどに狭まってしまう、それでも使うのは半径300メートルまでの詳細な索敵だ。
「レーナ、それでもまだ甘いわ」
その索敵を見てヨネ子がダメ出しをした。
「あの、もっと詳しく調べた方が良いんですか?」
「そうよ、そもそも貴方は何故300メートルにしたの?」
「はい、初めての場所なので毒蛇とかを警戒してです」
「そうよ、それは良い判断だわ。でもそれだけでは不十分よ、こう言う場所ではネズミやリスより小さくても危険な毒蜘蛛やサソリのような生き物も居るのよ」
「あっ!確かに、ありがとうございます」
レーナはヨネ子の言葉に従いさらに範囲を絞ってより詳細な索敵を行った、これにより索敵範囲は200メートル強まで狭まった。
そして獲物を求めてジャングルに入って行く、詳細な索敵なので多くの反応があるがほとんどは大型昆虫か小動物だ。
その中には近付いてわかったがタランチュラのような大型の毒蜘蛛も含まれていた、レーナはヨネ子のアドバイスがどれほど有効かを身を持って思い知った。
ジャングルに入って30分ほど、やっと肉になりそうな動物の反応があった、その反応の場所に居たのはオオトカゲだった。
ただ本当に食べられるかどうかは鑑定してみなければわからない、フィールマ大森林はそのほとんどが未開地であり未発見の動植物だらけだからだ。
さらに言うなら危険度もわからないので普段以上に慎重に近付く、そしてうまくオオトカゲを狩ることが出来た。
それをヨネ子が鑑定する、それによれば味はわからないが食用にはなる事がわかった。
これ以降も約1時間かけてイタチの仲間や大型のネズミの仲間など食用に使える動物を数種類狩ってからみんなの元に帰った。
「お帰り、収穫はあった?」
「まあまあね。とりあえず今日狩った分は明日の夕食で食べてみましょう」
迎えてくれたエルにヨネ子が答えた、それを聞いたレーナが質問する。
「あの、これ今日の夕食用じゃなかったんですか?」
「いいえ、明日のよ。今日はこれから捌いて料理すると食事が遅くなるでしょ?それに沢山狩ったのは有用な動植物の調査のためよ」
「ああ、だから色んな種類の動物を狩ったんですか。でも私植物は採ってませんよ」
「それは貴方が狩っている時に私が探していたのよ」
「そうなんですか?全然気が付きませんでした。それで何か良い植物は有りましたか?」
「そうね、薬草が何種類か有ったけどあまり役に立ちそうに無かったわ。でも1つだけ、コーヒーの木を見つけたから近いうちにコーヒー農園を作ると良いかもね」
「コーヒーって何ですか?」
「苦いけど美味しい飲み物よ。今から作ってあげるわ」
ヨネ子はそう言うと収納から摘んできたコーヒーの実を取り出した、それをそのまま魔法で乾燥させる、これは乾燥式と呼ばれる加工方法だ。
コーヒーの加工方法は大まかに水洗式と半水洗式という方法もあるが名前の通り水で洗浄するので今回はその必要のない乾燥式にした。
乾燥したコーヒーチェリーは果肉と内果皮と呼ばれるコーヒー豆の皮を除去してローストする。
ローストしたコーヒー豆は料理用のすり鉢で挽く、ここにはコーヒーミルなど無いのですり鉢で代用するしかない。
ヨネ子はコーヒー豆をグラニュー糖より少し大きめくらいのいわゆる中細挽きくらいまで引いてから鍋に入れ直接煮出した。
出来上がったコーヒーは人数分のカップに注いで行くが、コーヒーの滓がカップに入らないように木綿の布を使って濾しながら入れた。
「出来たわよ」
ヨネ子はそう言うと全員に配った。
「へえ、これは良い香りね。味もこの苦味が良いわ」
エルには好評だ。
「うむ、これはまた初めての味ですがなかなか美味しいですな」
セラフィムにも高評価を得た。
「これがコーヒーですか。この苦味は好みが分かれると思いますが私は好きです」
ブレイザーも気に入ってくれたようだ。
「苦ーい。これ私は苦くて無理です」
さすがにレーナはまだ子供だけに苦いコーヒーは苦手だったようだ、仕方ないのでヨネ子は牛乳と砂糖を混ぜてあげた。
「わあ、これ美味しい。これなら私も飲めます」
この評価を聞いてエル、セラフィム、ブレイザーも半分は牛乳と砂糖を入れて飲んだ、こちらも皆好評だった。
コーヒーを飲み終わると夕食になった、そして夕食後にはまたコーヒーを淹れた、今回はヨネ子、エル、セラフィムがブラックで、レーナとブレイザーがカフェオレだった。
翌日、三叉を左の道へと進んで行く、すると昼ごろにジャガーのような動物に襲撃を受けた、もちろんこのチャンスを無駄にはしない、きっちりとレーナの訓練にした。
2日後、とうとうテーブルマウンテンゾーンを抜け出して純粋な森林ゾーンに入った、ここまでにはコーヒー以外有用な動植物は見当たらなかった、敢えて言うなら初日のオオトカゲが薄味の鶏肉のような味で食用に使えるくらいだ。
ここからはこれまで目印になったテーブルマウンテンが無くなるので事前調査の記憶を頼りに進んで行く、まあヨネ子とエルとセラフィムの記憶なので間違うことなど考えられないが。
テーブルマウンテンを抜けた直ぐのこの位置はCランクの魔物領域の端っこの方だった、ここにはキューシュー地方と違い魔物領域はポツポツと点在しているだけだ。
なので魔物領域ではあってもこの1つを潰すだけで通りやすい道ができるので敢えてここを通る事にしたのだ。
ただ、所詮はCランクなので今回はブレイザーを除く4人で解放してしまう事にした、ここならレーナも単独で狩りが出来るしブレイザーは魔道具のおかげで護衛が要らないからだ。
そして早速戦闘を開始するが、例によって今回も大部分は狩らずに追い払う事にする。
この魔物領域の主な魔物は猿、オオトカゲ、アリクイ、バクの4種類だった、さすがに未開地だけにエルやセラフィムでさえ見たことのない魔物もいるが地球には近縁種がいるのでヨネ子には認識できる。
今回はほとんどを狩らずに追い払うので狩りは1日で終わらせて中心部を封印すると、後は前回同様エルとセラフィムの威圧で近辺から追い払った。
しばらくははぐれ魔物として魔物領域外で行動するだろうが、まばらとは言えそう遠くない場所に数カ所魔物領域があるので直ぐにそこへ居つくだろうと思われる。
「レーナ、どうだった?」
「はい、初めて見る魔物にビックリしましたけどそんなに強く無かったので良かったです」
ヨネ子の質問に笑顔で答えるレーナ、Cランクとは聞いても初めての魔物という事で緊張したようだがそれ以上に楽しめたようだ。
「エルとセラフィムは全部知ってるの?」
「いいえ、さすがにコレとコレは初めて見たわ」
エルはアリクイとバクを指して言った。
「はい、私もこの2匹は初めて見ます。マーガレット様は見た事があるのですか?」
セラフィムもエルと同じ魔物が初見だったようだ。
「全く同じじゃ無いけど地球にも居たわ。こっちがアリクイ、こっちはバクと言う名前よ」
ヨネ子が説明した、因みにアリクイは地球とほとんど同じ見た目で、バクはマレーバクのような白黒だが地球のマレーバクとは色が反対だ。
「へえ、地球ではそんな名前がついてるのね。じゃあこっちでもそう呼びましょう」
「そうですな、こちらでは誰も見た事が無くて名前なんて付いていなんですからそれで問題無いでしょう」
「こっちの白黒がアリクイでこっちの白黒がバクですね、覚えました」
レーナも素直に地球と同じ名前で呼ぶことにした。
この日は新種の動植物探索はやめて食事をして休んだ。
翌日は進路を少し東寄りに歩き始めた、そして直ぐにカエルの集団を見つけた、カラフルな見た目で目立っていたからだ。
このカエルは地球でも派手な色で水族館では人気があるヤドクガエルだ、つまりカラフルな見た目は毒を持ってるぞアピールである。
「わあ、可愛いカエル」
レーナがその見た目に騙されて触ろうとした。
「止めなさい!」
当然ヨネ子に諌められる。
「えっ?このカエル危ないんですか?」
「そう、猛毒のカエルよ。エルやセラフィムなら毒には耐性があるでしょうけどレーナやブレイザーが素手で触ると危険よ」
「そんなに・・・このカエルもマーガレットさんの世界にいるんですか?」
「ええ、名前はヤドクガエル、名前の由来は弓矢の矢に塗って動物を狩るための毒を持っているところから付いたのよ」
「ヤドクガエル・・・小さくて可愛らしいし見た目も綺麗だからそんな危険なカエルだとは思いませんでした」
「カラフルな生き物には目立つ事で毒を持っていることをアピールする物もいるのよ、次から気を付けなさい」
「わかりました」
レーナは反省しきりだった、しかしそれだけ成長しているとも言える。
ただレーナの反応はヨネ子にとっても参考になる、特に今回のヤドクガエルのような生き物はこの場所を街道とするなら多くの者が目にする事になる、そうすれば必然的に素手で触り最悪命を落とす者も現れると予測がつくからだ。
そのような危険を回避するためにも普通の人間たちが何を見てどのような反応をするのかを知れるのは有意義な事なのだ。
この日はこの後ウサギとナマケモノを足して2で割ったような見た目のクマくらいの大きさの動物に出会った。
ヨネ子の知識の中で最も近いのは絶滅動物のメガテリウムだ、ただこの動物は大人しいらしく直ぐに逃げ出したので狩りはしなかった。




