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009 スノーサーベルタイガー

「で?いつ頃来るの?」


センデールのスノーサーベルタイガー対策本部の会議室でヨネ子がグレッグに聞いた。

今戦っていないと言う事は日中しか戦っていない事だと予測出来る、動物には時間感覚は無くとも体内時計はあるので大体同じ時間に襲撃してくるはずだと思ったからだ。


「大体7時から8時の間だな」


グレッグは体内時計など知らない、それでももう5日も戦っているのだ、スノーサーベルタイガーがいつも同じような時間に来ているのは分かっていた。


「そう、なら明日7時に私達2人が柵の外で迎え撃つわ、もちろんこの子も連れて行くわよ」


ヨネ子はそう言いながらスノーサーベルタイガーを指さした。


「なっ!柵の外だって?いくらお前達が強いと言っても無茶苦茶だ。本当に2人と1頭で勝てると思っているのか?」


グレッグは雰囲気でヨネ子もエレンも強いとは思ったが12体のスノーサーベルタイガーを1度に相手出来る程だとは到底思えなかった。


「残念だけど戦いにはならないわよ」


ヨネ子は不必要にスノーサーベルタイガーを殺すつもりは無い、スノーサーベルタイガーがどうして襲って来たのか理由を聞いたからだ、なので話し合いで片が付くと思っている。

尤もヨネ子が本気で戦えばそれは戦いでは無く一方的な虐殺となるのでどちらにしても戦いとはならないとは言えるが。


「戦いにはならない?どう言う事だ?」


「私とこの子でスノーサーベルタイガーを説得するからよ」


ヨネ子は再びスノーサーベルタイガーを指さした。


「何を馬鹿な、こんな獣に話なんて通じる訳がない」


グレッグは声を荒げて反論した、グレッグが『超言語』を使っていたら即座にスノーサーベルタイガーに殺されたかもしれない。


「まあ見てなさい、どうせ貴方達のする事は今までと何も変わらないんだから」


ヨネ子にそう言われればグレッグも引き下がるしか無い、確かに何か手伝う事があるわけでも無いし戦い方が変わるわけでもない、強いて言うなら戦闘開始が遅れるくらいだ。


「わかった。お前がそこまで言うなら任せよう」


話し合い後、ヨネ子とエレンとスノーサーベルタイガーは近くの宿に部屋を取ってもらった。


翌朝、予定通り7時に柵の外に出てスノーサーベルタイガーを待ち構える。

柵の内側はガヤガヤと煩い、大半は「ヨネ子達が死んだらどうするんだ」や「残って負傷者の治療に専念して欲しい」という不安だが、中には「俺も一緒に外に出て戦う」と言う勇ましい者もいて仲間達に止められていた。


待つ事20分少々、ようやく視線の先にスノーサーベルタイガーが現れた、悠然と歩いて来ている、まあこれから戦いが始まるので走ってくるような体力の無駄遣いはしないだろう。


スノーサーベルタイガーの方も前日までとは違う事に気が付いた、柵の外に人が立って待っているのだ気付かない方がおかしい。


そしてそのまま進んで行くと更に異変に気付いた、柵の外にいる人間の横に仲間が居る事に。

最初は目線の高さの違いで気が付かなかったが近付いた事で視認出来るようになったのだ。


だからと言って急いだりはしない、流石に警戒はしながらだが速度を変えずに近付いてきた。


ヨネ子とスノーサーベルタイガーの先頭がおよそ10メートルほどまで近付いた時、ヨネ子の隣に居るスノーサーベルタイガーから仲間に声をかけた。


〔みんな、そこまでにしてくれ。この遠征は失敗だ〕


〔何?お前はベータ、どうしてお前がここに?お前は東の遠征部隊だったはず〕


これまでスノーサーベルタイガーの名前など必要無かったので聞いていなかったが、どうやらヨネ子の隣のスノーサーベルタイガーはベータと言う名前らしい。


〔俺たちの部隊は全滅した。生き残ったのは俺だけだ〕


ベータは悔しそうな、申し訳なさそうな複雑な表情で答えた、尤もその表情がわかるのは同じスノーサーベルタイガーだけだ、人間にはスノーサーベルタイガーの表情の違いなど分からない。


〔何?本当か?そこの二本足か?そいつにやられたのか?〕


スノーサーベルタイガーにとって人間は初めて見る生き物なので「人間」に相当する言葉は無い、なので特徴を捉えて「二本足」と呼んでいる。


〔そうだ、そして戦えばお前達も全滅する。だからもうやめてほしい。戦いさえしなければ殺される事は無い〕


〔何を馬鹿な!俺たちは無敵だ!そんなひ弱な二本足に負けたりするものか〕


ヨネ子は話し合いの邪魔をしないようあえて存在を消しているのだが、それがかえってスノーサーベルタイガーに弱いと誤解を与えているようだ。


〔俺たちもそう思ったさ、だからこそ戦いを仕掛けた。結果全滅だ。俺は仲間にその事を伝えるようにリーダーから言われたんだ、だからこそこうして恥を忍んで生き残っている〕


ベータは悔しそうに震える声で仲間に訴えた、スノーサーベルタイガー達はじっとベータの言った言葉を噛み締めている。


東の遠征部隊が全滅したのは疑いようが無い、そしてその原因がベータの横に居る二本足だと言うのも本当の事だろう、そうで無ければとうにベータが殺して二本足の元から逃げ出している。

ならばどうするか、このままおめおめと仲間の元には帰れない、だからと言って戦えばこちらも東の遠征部隊同様全滅するのは避けられないらしい。

結局考えても答えは出ない、ならばとベータにも意見を聞くことにした。


〔だがどうする?それなら俺たちの未来はどうなる?仲間の元に遠征は失敗でしたと頭を下げて戻るか?お前はそれでも良いだろう、他の仲間が全滅した事を知らせる任務がある。だが俺達はどうする?二本足の動物に邪魔されたので帰って来ましたと言って仲間が許してくれると思うか?〕


〔その事なんだが、このマーガレットと言う人間を連れて帰れば解決するかもしれない〕


〔何!人間?この二本足は人間と言う生き物なのか?それよりマーガレット?何故お前はそんな言葉を知っている?いや、まさか、この人間とか言う生き物は俺たちの言葉がわかるのか?〕


〔そうだ、そういう魔法らしい。だから俺はこのマーガレットと話をした。そうしたら仲間の元に連れて行けば解決策も見えてくるらしい〕


スノーサーベルタイガー自体は身体能力が向上しても魔法は使えるようになっていない、それでも魔物と出会う事はあるので魔法の存在自体は知っていた。


〔仲間の元に?本気か?いくらこちらの数が多いと言っても俺たちを全滅させる力のあるものが郷で暴れたらどれだけの被害が出ると思っているんだ?〕


〔大丈夫だ、俺たちには神龍様の加護がある。そうだろう?〕


〔確かにそこの人間・・だったか?それがいくら強かろうと神龍様には敵わないだろう。だが神龍様は滅多に姿を表してはくれない存在だぞ。それこそもう数百年お姿を見たものは居ないんだ、それに期待するなんて馬鹿げてる〕


〔神龍教の教えは覚えているだろう?郷の危機には必ず現れて救ってくださると。それを信じようじゃないか〕


その後も2体の話は続いたが、結局ベータの言う通りヨネ子とエレンを仲間の元に連れて行く事になった。


〔マーガレットとやら、本当に俺達の言葉がわかるのか?〕


〔ええ、わかるわよ〕


〔では本当に我らの郷に連れて行けば出産問題を解決出来るのだな?〕


〔もちろん〕


ヨネ子は即答した、解決方法などヨネ子にかかればいくらでもある、ただそのいくらでもある中のどれが最適か、効率が良いか、それを確かめるためにはやはり現地へ赴くのが一番だ。


〔そうか、では改めて、俺はこの南の遠征部隊リーダーのクーラと言う〕


〔私はマーガレット、後ろに居るのがエレン。貴方達の郷までの案内よろしくね〕


〔こちらこそ、よろしく頼む〕


話は決まった、ヨネ子はその事をグレッグに告げに行く。


「話は纏まったわ、私とエレンはこれからスノーサーベルタイガーの郷まで行ってくるからもう安心して良いわよ」


「何?本当なのか?お前は本当にあのスノーサーベルタイガーと話が出来たのか?」


グレッグはヨネ子とスノーサーベルタイガーがしばらく話をしているのを見ていた、それでもまだ信じられないようだ。


「だから出来たって言ってるでしょう。じゃあね」


ヨネ子はそう言うとグレッグの元を離れてエレンと共にスノーサーベルタイガーの郷へと向かった。


それから数日後、ヨネ子とエレンは無事スノーサーベルタイガーの郷に着いた。


スノーサーベルタイガーの郷は人口(?)個体数(?)1500程、人間界ならちょっとした町だ。

ただこの地域のスノーサーベルタイガーはこの集団しかいないので比べる事が出来ない、なので人間界のように規模による村や町や都市と言った区分がない、そのため数が多くても郷となってしまう。


〔どうしたお前たち、何か問題でも出来たのか?〕


最初に郷に帰ったのは斥候役の3体のスノーサーベルタイガー、いきなりヨネ子とエレンを連れて行くより先触れとして郷に伝えておいた方が良いだろうとのクーラの配慮だ。

その斥候に郷を守っているスノーサーベルタイガーが聞いてきた、1500とは言え一処に住んでいればほとんどの個体が顔見知りとなる、なので帰って来たのが南の遠征部隊のメンバーだと知っているのだ。


〔いや、ちょっと報告があって帰って来た。郷長はいるか?〕


〔ああ、自分の巣にいるぞ〕


スノーサーベルタイガーの郷は針葉樹の森の中の少しだけ開けた土地だ、長年同じ場所に住んできたおかげで若木が育たず森の中に樹木の少ない空間がポッカリと出来上がっている。

広さは3キロ四方ほど、ただ個体数が急激に伸びたため現在は周りの樹木が多い部分にまで生活圏が広がっている、なので郷の広さは正確には表せない。


スノーサーベルタイガーには出産時以外『巣』という概念が無いが、例外的に郷長や所謂幹部と呼ばれるスノーサーベルタイガーは居場所を明かにしておいた方が良い関係上『巣』と呼ぶ場所を持っている。


斥候は早速郷長のところへ行き事の次第を報告した、その中にはもちろん東の遠征部隊が全滅し生き残りはベータ1頭だけと言うことも含まれている。


それを聞いた郷長は早速幹部を集めて対策を考える、と言ってもヨネ子とエレンを迎える準備をするだけだが。


斥候が郷に帰ってから2時間ほど、ようやくクーラが残りの仲間とヨネ子、エレンを連れて郷に帰って来た。


「良くいらして下さった、マーガレットとエレンで良かったかな?ワシはこの郷の郷長でギロンと言う」


ギロンはヨネ子とエレンを丁寧に迎えてくれた、ただ当然だが警戒はしている。


「私がマーガレットよ、よろしく」


「私がエレンです、よろしくお願いします」


ヨネ子とエレンも自己紹介をした、ただしこちらも警戒している。

許可を得ているとは言え数日前は殺し合った敵同士だ、しかもヨネ子は11体ものスノーサーベルタイガーを殺している、歓迎されるとは全く思えない。


ヨネ子とエレンはそのままギロンに連れられ郷の中心部へとやってきた、そこでは話を聞いたスノーサーベルタイガーが集まっている。


索敵魔法を使うとほとんどのスノーサーベルタイガーが敵意を持っていた、どうやら東の遠征部隊の大半が目の前のヨネ子に殺された事を聞いているのだろう。


そんな中から1体のスノーサーベルタイガーがヨネ子の前に進み出て来た。


〔あんたが俺の兄さんを殺したのか?〕


〔東の遠征部隊に居たならそうよ〕


ヨネ子は全く動ぜず冷静に答えた。


〔よくも兄さんを殺したな。お前は兄さんの仇だ、覚悟しろよ〕


そのスノーサーベルタイガーはそう言うと臨戦態勢に入った。


〔貴方の兄は私たち人間を襲ったのよ、それなら返り討ちにあう覚悟は出来ていたはずでしょ。それとも貴方たちはそんな覚悟さえ無く人間を襲ったの?もしそうならとんだ愚か者だわ〕


〔喧しい、覚悟くらいあるさ〕


〔そう、ならかかって来なさい〕


ヨネ子はそう言うと殺気を全開にした。


〔グ・グ・グウゥ〕


スノーサーベルタイガーはその殺気だけで動けなくなりその場に座り込んだ。

あまりの殺気に周りにいたスノーサーベルタイガーも座り込んでいる。


〔どうしたの?サッサとかかって来なさい。それともこちらから行きましょうか?〕


〔ま、待ってくれ。郷の者の非礼はワシが詫びる、どうか許してくだされ〕


あまりの出来事にギロンが慌てて止めに入った、それこそ巻き添えで殺される危険を冒して。


〔まあ、今回は郷長の顔を立てて引いてあげるわ〕


ヨネ子も元々殺す気だったわけではない、その気ならサッサと殺している、なので後の事をギロンに任せた。


しかし、そのヨネ子の殺気を受けてやって来た者がいる、神龍である。

神龍はまだ亜神ながらスノーサーベルタイガーの崇める「神龍教」の神として信者を守るためにやって来たのだ。


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