082 建国
「今ここにドラゴニア帝国の建国を宣言します」
この世界のカレンダーで10月1日、エレンの宣言によりついにドラゴニア帝国は成立した。
これによりこの日からのドラゴニア帝国のカレンダーにはDTの文字が付く、つまりこの建国の日はDT1年10月1日となる、因みにDTはドラゴニア帝国暦を表す。
この世界ではDTのような独自元号を持った国はドラゴニア帝国しかない、これまでは単に◯◯年◯月◯日とだけ表現していた。
これは今のカレンダーが成立した約2000年前、すべての人間は大陸西方のリレント地域と呼ばれる地域に住んでいたので元号という概念が無かったからだ。
そのため人口が増え人間の生活空間が大陸の南方や東方に広がっていっても、たくさんの国が成立しても独自元号と言う発想が生まれなかったのが原因だ。
独自元号自体にはあまり意味はない、どちらかと言えば今まで通りのカレンダーの方が使いやすいかもしれない。
しかし独自元号は国家としてのオリジナリティーであり、国民の心を1つに纏めると言う効果もある。
新興国家であり多民族・多種族国家として成立したドラゴニアにとっては国旗と並び元号も国民を纏めるためには必要な物だとヨネ子は考えたのだ。
この日は建国宣言の他にも皇帝即位式が行われた、エレンは即位式ではなくエルからの任命式か神授式にしたかったようだが、エルの正体は関係者以外秘密なのでそう言う訳にはいかないと却下されていた。
それでも堅苦しい公式行事は夕方には滞りなく終わったので全員で宮殿に引き返す、これから公式行事以外の行事の報告を聞くのだ。
エレンと流一は慣れないことに疲れ切ってはいるが、責任の重さを痛感しながら報告を聞く。
法令発布、新通貨への切り替え、大使派遣の先触れ出発式、カレンダー変更の公布、大臣を始めとした役職者の任命式など建国宣言と同時進行で進んでいた様々な案件が報告されていく。
エレンと流一にとって幸運だったのはその全てが予定通り推移した事だろう、尤もヨネ子が計画し管理しているのだから順調でない方が驚くが。
夜はささやかながら政治家だけを集めての晩餐会も催された、ただ宮廷楽士による演奏だけはまだ練習中のため披露されなかったのが残念だった。
一夜明けると前日の喧騒が嘘のように実に穏やかな日常が始まっていた、まあ役人と一部だけは例外だが。
例外の一部とはもちろん銀行だ、通貨の切り替え期間が1年あるとはいえどうせなら早い内にと考えている者は多い。
一部紙幣に描かれた皇帝エレンが目的で両替している者がいるのは本人には内緒だ、もしかしたらファンクラブのような物が出来ているかもしれない。
「おはようございます」
「おはよう」
皇帝夫妻の朝は早かった、さすがに建国初日は疲れていたのだろう、夜の営みが無かったおかげではあるのだが。
そして宮殿のダイニングに行くとエレン以外の『白金神龍』の面々はすでに朝食を食べ始めていた。
ここら辺は知らない者が見たら驚くだろう、普通に考えれば国家元首を差し置いて食事を始めているのだから。
「おはようございます」
「おはよう、夕べはよく眠れた?」
「はい、ぐっすり。お陰で体調は万全です」
「それは良かった、流一も大人しくしてたって事ね。じゃあこれからの事を少し話しましょう」
「おま・・そう言う事言うなよ」
ヨネ子のからかいに少し顔を赤くする流一、しかしヨネ子はそれを無視する。
「エレンはこれから皇帝としての仕事があるから『白金神龍』は解散することになるわね」
「そうですね、寂しいですが仕方ありませんね」
かなり寂しそうに小声で答えるエレン。
「それでこれからだけど、私はこれから半年、具体的には建国記念式典までセラフィムと2人で行動しようと思ってるの」
「他の人はどうするんですか?」
エレンが聞いた。
「エル、悪いけど半年アスカをシゴいてやって」
「アスカはエレンの護衛をしながらエルの魔法の特訓を受けなさい」
「魔法の特訓?わかりました」
アスカはこの特訓の意味を理解した、前に言っていたエルの力を借りて変身の魔法を使えるようにするのだと。
「良いけど、アスカなら半年もいらないと思うわよ」
「だったらその時は一緒に行動しましょう」
「わかったわ」
「それからアスカ、あなたは魔法の特訓が終わったら騎士団総長になりなさい。全騎士団のまとめ役よ」
「私で務まるでしょうか」
「私が出来ないものを責任ある立場に付けると思う?」
「そうですね愚問でした。すいません」
「最後に流一、あなたは軍事部門のトップとして元帥に就任しなさい」
「俺が軍事部門のトップ?俺で良いのかよ」
「残念だけど今この国で一番強いのは魔法も剣術もトップクラスで地球の戦術も知っている上に戦闘経験も豊富な流一だから仕方ないのよ」
「なんだよ残念とか仕方ないとかって。まあ良いや、マーガレットがそう言うんなら俺が1番適任なんだろ」
流一は少し不満げだが怒っているわけではない、それだけマーガレットを信頼しているという事だ。
「私達は差し当たって何をするのですかな?」
セラフィムが聞いて来た、決定権は常にヨネ子にあるが知っていた方が動きやすいのは確かだからだ。
「取り敢えず急ぎは2つ、鉄橋の建設と石橋職人のスカウトね。まあ石橋職人は急ぎって言うよりディラルク王国で探してる途中だったからって理由だけどね」
「なるほどわかりました」
「そうそうエレン、水害対策に土手の整備をしているでしょう?」
「はい、もうほとんど出来てると思いますが、それが何か?」
「土手の高さが10メートルになるように追加工事をさせなさい」
「10メートルですか?わかりました。でもどうしてそんなに必要なんですか?」
「今は川が増水しても河岸の反対側に流れて終わりでしょ?橋を作ると反対側の土手も整備するから今までより水位が高くなるのよ」
「ああ、確かにそうですね。流石です」
そして朝食が終わるとエレンと流一は仕事へと向かった、アスカとエルは打ち合わせをしている、そしてヨネ子とセラフィムも出かけた。
ヨネ子とセラフィムの行き先はボレアースだ、先ずは鋼製ワイヤーの試作品を確認する、これの出来次第で新しい橋のデザインが決まるので重要なのだ。
そして鋼製ワイヤーの出来は地球の物とは比べるべくも無いが十分実用に耐える物だった、なので早速吊り橋の設計図と注文書を作りドワーフの職人に渡した。
次に向かったのは素材ギルド、ギルドマスターのガスパールに長老を紹介してもらうのが目的だ。
氷河人の街は全部で7つ、各街にはトップに首長が居るが実務としてのトップは50人の長老と呼ばれる者達だ。
ドラゴニアは半年後の建国記念式典に氷河人も呼ぶ事にしたが、実際に国として呼ぶには誰が良いのか、どこに書簡を奉呈すれば良いのかがわからないのでヨネ子がその確認役に選ばれたのだ。
「ガスパールさん、先日の通信の件、大丈夫ですか?」
「マーガレットかよく来たな。何人かの長老に話を通している、今から向かおう」
それからガスパールはヨネ子とセラフィムを連れ役所のような場所に連れて来た。
「ギグ長老、ワンダ長老、メフト長老、こちらが先日お話したドラゴニアからの客人のマーガレット殿とセラフィム殿です」
「初めまして長老様がた、ドラゴニアを代表して参りましたマーガレットです」
「同じくセラフィムです」
「ようこそボレアースへ、私は長老筆頭のギグ、隣がワンダ、その隣がメフトです。あなた方の事はガスパールから聞いております。先ずは先のスノーサーベルタイガーの襲撃に際し助力してくれた事感謝いたします。センデールの長老方からも宜しく伝えて欲しいと言う事でした」
「ご丁寧にありがとうございます。ですがセンデールの長老方と話していると言う事は今回の件については既に全ての街と話し合いが済んでいると言う事ですか?」
「さすが聞きしに勝る聡明さですな。あなたのおかげで出来た通信の魔道具のおかげで、ガスパールから連絡を受けて直ぐ各街と連絡を取り合ったのですよ。さあこれ以上は立ち話も何ですので続きはあちらの席で話しましょう」
ギグ長老の勧めで一旦話を打ち切ってそれぞれ席に座った、そして再び話し始める。
「さて、では先ず聞いておきたい事が有るのですが、ドラゴニアは我々と国として付き合いたいと言う事で間違いありませんか?」
「はい、それで間違いありません」
「そうですか。あなた方は我々氷河人の街をどのように見ておられるのですか?」
「基本的にはそれぞれ独立した国と同等だと認識しています」
「そうですか、その認識は間違ってはいません。ですがガスパールから聞いた話では7つの町全てをまとめて1つの国として対応しようとしているように感じられるのですが?」
「その通りです。ですから先ほど言ったように基本的にはです」
「成る程、ではこちらの他の街との相談結果を先に申しますと、建国記念式典にはボレアースとセンデールの二つの街から使者を出すと言う事になりました。これについて何かおっしゃりたい事はありますか?」
「それは1つの国として機能するのは難しいからと言う事で間違いないですか?」
「結論から言えばそうです。ただ誤解をして欲しく無いのですが、他の街もドラゴニアとの繋がりは欲しいと思っています。ただ我々氷河人はそれぞれの街が独自に発達してしまったため纏めるのが難しいのです」
「別に無理に纏める必要は無いのでは無いですか?」
「ほう、これは異な事をおっしゃる。街同士が纏まらずにどうやって国と同等に付き合えると?」
「それぞれの町の意見を都度調整すれば良いのです」
「確かにあなたのおかげで遠くの街でも直ぐに連絡はつくようになりました、しかしそれだけでは調整は難しいでしょう」
「そうでもありませんよ。我が国は各国に大使館を無償貸与する準備が出来ています。その大使館に7つの街の責任ある立場の者、長老の誰かを1人づつ常駐させれば良いのでは?」
「何ですかな?その大使館と言うのは」
氷河人はこれまで街同士の連絡が付き辛かった事でお互いに大使かそれに相当する役職者を送り合うと言う事をしてこなかった、これが独自に発達した原因の一つであり1つに纏り辛い最大の原因となっている、なので大使館と言う概念が無かった。
「大使館とは国の代表を派遣しその国との交流を図る本拠地と考えてもらえれば良いでしょう」
「なるほど、その国の代表と言うのに各街の長老を1人づつ派遣すれば良いと言うことですかな?」
「その通りです。決定権のある者が常に同じ場所で相談できる、難しい案件は地元の街と通信の魔道具で連絡を取れる。これならこちらは氷河人の街全てを一つの国と同等に扱えますし、あなた方も1つの国として纏まる必要もないと思いますが」
「確かに・・・いやこれは参った、申し訳ないが返答はもう2、3日待ってもらえるだろうか。もう一度各街と相談してみたいのだが」
「ええ、構いませんよ。では私達は『熊熊亭』に泊まって連絡を待ちますわ」
この日はこのまま長老達と別れ『熊熊亭』に向かい宿泊の予約をした、そして商業ギルドに行き地図を手に入れた。
「マーガレット様、地図を買ったという事は他の街にも行ってみるのですか?」
「そのつもりよ」
「それでは私に乗って行きますか?」
「あなたはどれくらいの速さで飛べるの?」
「そうですな、人型の時の5倍から6倍くらいの速さです」
「それなら私が飛ぶより早いわね、ではそうするわ」
ヨネ子は翌日から2日に分けて、ゲートを繋ぐためセラフィムに乗ってセンデール以外の5つの街メルカート、チグリース、バンプ、アセット、ロードローロを巡った。
そして3日目、『熊熊亭』にギルドマスターのガスパールが自らヨネ子とセラフィムを呼びに来た。
そして前回と同じ場所で同じ長老達と会議を再開する。
「待たせて済まなかった。早速だが結論から言わせてもらうと、各街ともそちらの提案を受け入れるという事だ」
「そうですか、それは良かったわ」
「ただ建国記念式典の招待状は各街にそれぞれ送って欲しいという事だったがどうだろう」
「それくらいは構いません。他には何か有りますか?」
「ああ、それぞれの街は建国記念式典に長老を1人づつ送るがそのまま帰らず大使として止まるという事だった」
「それも大丈夫です」
「それで、各街にはドラゴニアから迎えが来ると言ってあるのだが、日にちと場所は後日伝える事になっている。その辺はどうですかな?」
「日にちはこちらから書簡を届けた後決めてくれて結構です。場所はその日に合わせてそれぞれの街まで迎えに行きます」
「おや?あなた方の使うゲートと言う魔法は行ったことのある所にしか行けないと聞いていたんですが、間違いでしたかな?それともまさか全ての街に行った事が有るのですか?」
「ゲートに関してはその通りです、が昨日と一昨日の2日でセラフィムと2人行ったことの無かった5つの街には行ってきましたのでもうゲートで行けます」
「は?2日で?どうやって?」
氷河人の街同士は近い所で3日、遠い所だと12日の距離がある、それも歩いてではなく犬ゾリの足でだ。
なのでゲートで行けないのに2日で5つの街を巡るなど不可能にしか思えない、だからこそ驚いて聞いた。
「それは秘密です」
「なるほど、あなた方は本当に私たちの常識の外に居るようですね」
なんとなく諦めの表情を浮かべる長老達とガスパールだった。
ヨネ子は早速この結果をドラゴニアに伝えに帰った。
因みにエルフの郷と妖精族の街も同じように国としての対応が出来るように話し合いをしに行かなければならなかったが、それはエルフの郷はエルフの代表に、妖精族の街には『デザートイーグル』にハンターの指名依頼としてそれぞれ向かってもらった。




