072 審査
翌日、契約のために朝から王城に向かうと何故かギルマスのマハンも居た、それを見たエレンが不思議そうに聞く。
「ギルマスがこんなところで何をしているんですか?」
「昨日は言い忘れたんだが、お前達の国に行きたいハンターパーティーを募っていてな。希望者が少しいるから審査して欲しいんだ。まあこの国にしては少ない希望者数だがな」
「いいえ、なんの活動もしていないこの国に希望者がいるだけで凄いと思うわよ」
ヨネ子が言った、実際この国で『白金神龍』の知名度は皆無に等しい、なので通知を出してまだ1ヶ月も経っていないと思われるこの時期に希望者がいるだけで凄いことだと本気で思っている。
「まあ確かにお前達の知名度はこの国じゃほとんど無いからな。だがエムロード大王国と交易する商人の護衛依頼も多いんでな、今回の希望者の大半はエムロードで話を聞いた奴らだ」
「なるほどね、良いわ、契約が終わったらギルドに行くから希望者を集めておいて」
「いや、今から集めると少し時間がかかるから昼過ぎにしてくれ」
「しょうがないわね。じゃあ昼過ぎに行くわ」
話が終わるとマハンは早々に王城を立ち去りハンターギルドに戻った。
ヨネ子達は宰相の元に向かい契約書を交わすが、リシュリュー王国やエムロード大王国と同じ内容ということで交渉する事が何も無いため契約は直ぐに終わった。
仕方ないので全員で近くの食堂に行き今後の予定を話し合う事にした、さすがにこの後ハンターの審査となれば鉱山労働者の移住前に石橋作りの職人を探しに行くのは難しくなったからだ。
「さて、鉱山労働者の移住までもう3日しか無くなったから予定を変えて橋は私達で作るわよ」
「ほう、では石橋職人はもう良いので?」
セラフィムが聞いた、まあ全員同じ事を思っていてたまたまセラフィムが最初に質問しただけだが。
「石橋職人は連れて行くつもりよ、でももう魔物領域解放予定日が数日過ぎてるでしょ。そっちを先に片付けるのよ」
「そう言えば、テレイオースで言ってましたね。でもまだハンターは増えてませんよね」
今度はアスカが聞いた。
「そうね、でも今日審査するハンターと魔物の調査に来ているAランク3パーティーを使えば大丈夫よ。今回はSランクの魔物領域1つしか解放しないから」
「そうかあ、じゃあ今回は日にちもそんなにかからないですね」
「そうね規模としては前回の4分の1くらいだけど騎士と魔法使いの数も少ないから大体10日から2週間くらいでしょうね」
「それで、いつから始めるんですか?もう予定日を過ぎてるのでセリーヌに連絡します」
エレンが言った、魔物領域解放の事は忘れていたのでセリーヌに申し訳ないと思ったのだ。
「鉱山労働者を連れて行った翌日から始めるわ。だから4日後ね」
「わかりました」
それを聞いたエレンは早速セリーヌに連絡をする、その間にヨネ子もディーンに連絡を入れた。
【ディーン、ハンターに貸し出す家はどれくらい出来てる?】
【はい、今4人以内用が30パーティー分、5人〜9人用が12パーティー分、10人以上用が6パーティー分です】
【わかったわ、それからハンター用の家を作っている職人は3日後に連れて行く鉱山労働者用の家を作ってもらうから今の作業が終わったら休ませておいて】
【鉱山労働者は2000人規模ではありませんでしたか?そんなに直ぐに家は立たないと思いますが】
【もちろんよ、とりあえずはみんなが最初に入植して来た時使ってた馬車とテントを使わせるわ。そして家作りの職人の指導で鉱山労働者自身に家を建てさせるの。それなら短期間で出来るでしょ?】
【なるほど、わかりました。それでは鉱山の魔物領域解放は何時ですか?】
【鉱山労働者を連れて行った翌日からかかるわ。今回は騎士団1つと魔法使い5人だけでやってもらいます。騎士団はアーネストと相談して決めなさい。魔法使いは新人のエルフ10人から5人選んで、残りの5人は鉱山労働者の方に専属で付かせなさい】
【鉱山労働者に専属?家を建てる手伝いですか?】
【違うわよ。鉱山労働者は川の西側に連れて行くんだからアルケオンからの家作りの職人の送り迎えや建設資材の搬送にゲートが必要だからよ】
【ああ、確かにそうですな。承知しました】
【それから魔物領域解放時の食事の世話をする者の人選もしておいてちょうだい。今回はブレイザーも居るし5人くらいで良いわ】
【了解しました】
話が終わると再び『白金神龍』で話し始める。
「まあ、予定は今聞いた通りよ」
「そう、それで私達はどうするの?ブレイザーだけは料理人として参加するみたいだけど」
エルが聞いて来た、自分達の事には全く触れていなかったので気になったのだ。
「今回はエレンとアスカだけ参加して頂戴、私とエルとセラフィムは橋作りを始めるわ」
「私達だけで大丈夫でしょうか?」
エレンが聞き返した、普通の魔物領域ならSランクでも大した問題は無い、問題はここが元々は未開地でありドラゴンが数多く生息する地という事だ。
要するにアスカとエレンではドラゴンが出現した時に対処出来るか不安になったのだ。
「貴方達2人ならソロではドラゴンを倒せなくても連携すれば大丈夫よ。それでも無理そうなら連絡して来なさい、3人の内の誰かが向かうようにするから」
「「わかりました」」
エレンとアスカは揃って返事した。
話し合いと昼食が終わると時間は13時近かったのでヨネ子達はハンターギルドに向かった。
ギルドに着くと何の確認さえされず直ぐにギルドマスター室へと案内された、見た目とランクにギャップがあり過ぎて職員は『白金神龍』の事を良く覚えていたからだろう。
「わざわざ来てもらってすまんな、とりあえず全員を大会議室に集めてある。それでこれからどうする?全員1度に会うか?それとも小会議室で個別に会うか?」
「先ずは全員分の経歴を見せて頂戴、作ってるんでしょ?」
「ああ、これだ」
マハンは結構な羊皮紙の束をヨネ子に渡した、そこには集まったパーティー全員分のデータが載っている。
ヨネ子はその羊皮紙をパラパラとめくっていく、Aランクパーティー2組9人、Bランクパーティー7組32人、Cランクパーティー6組25人、総勢66人分のデータをほんの1分も掛からず全て暗記した、ヨネ子は瞬間記憶術の使い手でもあるのだ。
「ありがと」
ヨネ子は無造作にデータ束をマハンに返した。
「なんだもう良いのか?まあ量が量だからな、見るより実際に合う方が早いか」
マハンは瞬間記憶術など知らないので勘違いしたようだ。
「何を言ってるの?もう全部覚えたから返したのよ。それよりその中で貴方から見て素行の悪い者は何人いるの?」
「な?たったあれだけで全て覚えただと?・・・」
「そうよ、それより質問に答えて頂戴」
「あ、ああすまん。そうだな・・・ゲル、ザムト、それからアッシュの3人かな」
マハンは本当に記憶しているのか確かめるためにハンターの名前だけを告げた。
「そう、じゃあBランクの『虹の栄光』Cランクの『黒鉄の鎧』と『闇狩人』の3パーティーは帰ってもらって良いわ」
ヨネ子も試されているのは直ぐにわかったので証明するように答えた。
「なっ?・・・ああ、わかった。その後はどうする?」
マハンは本当に記憶している事に驚いた、が、それは取り敢えず置いておく事にした。
「後は小会議室でパーティー毎に面接するわ」
「わかった、じゃあこっちで待っててくれ」
そう言ってマハン自身が面接会場となる会議室に案内するとともに大会議室に向かった、そしてヨネ子の言った通り『虹の栄光』と『黒鉄の鎧』と『闇狩人』の3パーティーに退場を促すと最初の面接者としてAランクの『月光蝶』をヨネ子達の元へと連れて行った。
ヨネ子の面接は至ってシンプルだ、透視の魔法を使い戦闘力と魔力を見て思想的な質問を少しするだけだ。
透視の魔法とは対照の戦闘力と魔力を見る魔法で、戦闘力は赤いオーラのように、魔力は青いオーラのように見える。
オーラの大きさが現在の力で色の濃さが可能性、いわば伸び代となる、つまりオーラが大きいほど力が強く色が濃いほど成長性があるという事だ。
思想的な質問は差別心があるかどうかを見るためのものだ、ヨネ子達の国には人間以外の種族や元奴隷が多いので差別心のある者は絶対に入れたり出来ない。
面接はヨネ子以外にエレンも質問する、エレンは主にパーティーとしての在り方を質問している。
人間はどうしても個人と集団では取る行動が変わる習性がある、なので役割分担としてヨネ子が個人としての、エレンが集団としての行動特性を把握するように質問しているのだ。
もちろんこんな事はヨネ子1人でも事足りる、それでもエレンにもやらせるのは新しい国はエレンが統治すると言う事を自覚させるためだ。
因みにエルとセラフィムとアスカは人間では無いので人間の行動についてなどどう質問して良いかわからない、なので今回は賑やかしの置物となってもらった。
この調子で全てのパーティーを審査した、Aランクになれるような優秀な者は人間的にも優れているようで2パーティーとも合格だ、しかしBランクは6パーティーの内の5パーティーがCランクは4パーティーの内1パーティーだけが合格した。
しかしこれで終わりでは無い、これまでは来る資格の有無を審査しただけだ、今度は条件を提示して本当に来る意思があるのかどうかを確認しなければならない。
条件は、先ずこの2日以内に出発準備が出来る事、これは直ぐに魔物領域解放が始まるためだ、ただし移動についてはヨネ子達がゲートで連れていくので旅費や移動中の食費等は節約出来る事も告げる。
次に金銭的な物だが、これはハンターギルドが営業を開始したのでそちらで確認するようにした、ただし目安は必要なのでどのような素材が取れるかと護衛依頼の平均的な依頼料は伝えた。
後はインフラについて、ホームの無償貸与や食事のし易さ、武器や防具の手入れ等ハンター生活に必要な施設の詳細を伝える。
これら全ての条件を提示した上で合格した全てのパーティーが来てくれる事になった、どうやら移動に時間もお金もかからない事とパーティー人数に見合ったホームを無償で貸してもらえると言うことが1番の魅力だったようだ。
とまれ、これでAランクパーティー2組9人、Bランクパーティー5組21人、Cランクパーティー1組6人合計36人が来る事になった。
本来ならこの後ギルマスのマハンに結果を伝えるところだが、今回マハンはずっと審査を見学していた、なので2日後にハンターを迎えに来る事だけ伝えてギルドを後にした。
ハンターギルドを出たヨネ子達はそのままサレンダーの町を見て回る、魔物領域解放用にとかなりの食料を買い込んだ。
ヨネ子達は翌日もサレンダーの町を見て回った、もちろんただ観光しているわけではない、人材の登用も兼ねてだ。
その甲斐あってか9人の人材を確保した、その中の1人は魔法使いの素質がある。
この世界の人間は全員魔力を持っていて訓練さえすれば誰でも魔法は使える、しかしそれを知っている者は実はほとんど居ない、大半の人間は魔力は持っているが魔法は使えないと思っている。
その上でこの世界で言う魔法使いとは攻撃魔法を発動出来る者を言い、その者の持つ魔力量により初級、中級、上級に分けられている。
そして魔法使いは大抵の場合貴族や大商人のような金持ちが囲っている、なので魔法使いが野に埋もれているのは珍しいケースなのだ。
因みにこの世界では魔法と意識せずに魔法を使っている者達も多数いる、その代表が職人達だ。
例えば鍛治職人特にドワーフのような優秀な鍛治師は魔法鍛治により短時間で強力な武器や防具が作れるし、大工など力仕事が多い職人には無意識で身体強化を使っている者も少なくない。
そんな充実した2日間を過ごした後、ヨネ子達はハンターギルドへと向かった。
ハンターギルドでは2階の大会議室に案内された、そこには既に8パーティー36人全員が揃っていた。
そしてやって来たヨネ子達にマハンが声をかける。
「もう全員揃ってるぜ」
「そのようね。ではこれから全員をアルケオンに連れて行きます」
ヨネ子がそう言うとエレンと2人アルケオンへとゲートを繋げた。
アルケオンに着いたハンター達は少し困惑していた、事前に聞いていたとは言っても一瞬でサレンダーから遠く離れた地に行けると言う事実は受け入れるのに時間がかかるようだ。
アルケオンに着いたハンター達は一旦ハンターギルドに連れて行った、そして既に赴任して来ていたギルドマスターのライカスとサブギルドマスターのメルケスに挨拶させた後それぞれに貸与するホームへと連れて行った。




