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070 ザーラットへ

エムロード大王国の王都サフィーアを出たヨネ子達は一路ザールクリフの元王都ザーラットを目指した、そこにエムロード大王国ザールクリフ総督府はあるのだ。


ただ今回は趣向を変えてザーラット方面の護衛依頼を受けて移動する事にした、そうする事にした理由は特に無い、強いて言うなら素材の売買以外全くハンターらしい活動をしていなかったのでたまにはした方が良いかもと思っただけだ。


依頼を受けたのは中規模商隊の護衛、1週間かけてザールクリフ手前のブランデル辺境伯領領都ブランダまで行くコースだ。

これならブランダに着いたら一旦サフィーアに戻ってガラス技術を学ぶ者達をアルケオンに連れて行く事が出来る。


因みにハンターの証明書にはサフィーアからの出発の証明を付けてもらった、ヨネ子達は全員記録上ブーストン王国にいる事になっていたからだ。


護衛依頼は合計10〜12人となっていたがブレイザー込み6人でも良いと言うことだったので受けた、この商人は『白金神龍』の事を知っているようであった。

尤もコソコソと活動していた訳では無いので情報通なら知っていてもおかしく無い、どちらかといえば優秀な商人だと言えるだろう。


商隊の出発から4日、ヨネ子達がこの世界の馬車に付いて体験と改良方法の考察をしていたところ盗賊に襲われた。


通常盗賊は大規模はもちろん中規模の商隊を襲うことも滅多にない、通常は護衛の数が多くてとても割りに合わないためだ。

それなのに今回襲われたのは、通常御者の横に座っているはずの護衛の姿が見えなかったためだ、そのため盗賊達は護衛代をケチった商人と勘違いしたため襲って来た。


人数は視認6人、護衛が0とは思えないので盗賊達も用心のため伏兵を3人隠している。

だが当然ながら『白金神龍』はその事を全て知っている、そしてセラフィムが申し出た。


「今回は私が行きましょう」


「あら、自分から言うなんて珍しいわね」


答えたのはいつものヨネ子ではなくエルだった。


「私はまだ手加減の練習が出来ておりませんのでな、ちょうど良い機会です」


「そう言う事なら任せるわ」


ヨネ子もその提案に乗った、そしてセラフィムは1人馬車を降りる。


セラフィム1人しか出て行かないのを見た商人は驚いて聞いて来た。


「皆さんは行かないのですか?」


『白金神龍』の事を知っているとは言ってもそう詳しい訳では無い、なので1人しか馬車を降りなかった事に不安を覚えたのだ。


「大丈夫よ。セラフィムならちゃんと生け捕りにできるでしょ」


「えっ?いえ、勝てるのかどうか聞いているのですが」


「あんな雑魚相手じゃ負ける方が難しいわよ、まあ見てなさい」


商人や御者達の心配をよそにヨネ子達は見学を決め込んだ。


そして1人出て行ったセラフィムに盗賊の頭らしき人物が話しかける。


「どうした、護衛はお前だけか?だったら貧乏くじだったな」


「そうだな、確かにこの商隊を襲ったお前達は貧乏くじを引いたようだ」


「なんだと、たった一人で俺たち6人を相手に勝てるつもりか?」


「いや、そんなつもりはない」


「はん、格好つけて出て来ておいて臆病風にでも吹かれたか?」


「そうではない、6人ではなく9人に勝つと言っておるのだ」


「何?なるほど1人で出てくるだけあって只者じゃあ無えって事か。バレてるなら隠れている必要は無え、おい、出てこい」


頭らしき男の合図で隠れていた3人も出て来た、そして戦いの開始を告げる。


「野郎ども、俺たちを甘く見た事を後悔させろ」


「「「「「「「「おう!」」」」」」」」


たかが盗賊だがバランスは考えているのか前衛で剣を持つ者4人、その後方から槍を持つ者2人が同時に襲いかかって来た、そしてそのさらに後方で剣を構える頭の両サイドから弓を持つ者2人が牽制攻撃をして来る。


だが所詮大抵の人間が成れるハンターにさえ成れない盗賊である、武器は持っていても剣士や槍士や弓士とは程遠い腕前しかない、その程度ではセラフィムの準備運動にさえならない。

尤も今回は手加減の練習が目的なので役には立っていると言えるが。


バキッ、グシャ、ゴキッ、バキバキ。


剣と槍を持つ者達の身体が一瞬で不自然な形に折れ曲がった、そして地に倒れ伏して呻いている。

商人や御者達から見たらやり過ぎのような気はするが、『白金神龍』の手加減とは怪我を負わせる程度ではなく殺さない程度の事だ、なのでこれで手加減としては完璧と言える。

死にさえしなければどんな大怪我も一瞬で治療出来る『白金神龍』ならではだ。


ゴキャッ、グシャッ、バギン。


前衛の6人を軽くあしらったセラフィムはすぐさま後方3人の元に向かった、前衛との距離は20メートルほどあったが一瞬で詰め寄ると全員を同じように無力化した。


そこへヨネ子が声をかける。


「さすがセラフィム、完璧ね」


「ははっ、いささか物足りなくはありますが」


「ただの練習なんだからそれで良いのよ」


エルもセラフィムに声をかけた。


「マーガレット様とエル様にそう言って頂けたなら幸いです」


少し照れたように言うと盗賊9人はセラフィムの収納に納めた、収納魔法の中は時間の流れが通常の約3500分の1しか無い、なので光も音も空気も無い場所だがブランダまでの残り3日は収納内時間で1分半も無いので苦しむ事はあっても死ぬ事はない。


その後は予定通り3日でブランデル辺境伯領ブランダに着いた。


商人と分かれたヨネ子達は早速ハンターギルドに行き依頼の達成報告と盗賊の受け渡しを行った、もちろん盗賊達の怪我は治癒魔法で全快させてから引き渡した、そうしなければ犯罪奴隷として高くは売れないからだ。


ハンターギルドを出ると、予定通り一旦サフィーアに行き大王国とルビー公爵領の技術見習い20人をアルケオンに連れて行った、事前に通信の魔道具で連絡していたので受け入れ準備は万全だ。


その日はアルケオンに滞在して今後の指示を出すことにした、まだ見つかってはいないが石橋の職人を連れてくる事、それより先に高山労働者を連れてくる事、それらの受け入れ態勢について、短期間で建国となればやる事は山ほどある。


ハンターギルドの建設も既に始まっていたので視察した、ハンターギルドはギルドが依頼した職人が来て建設している。

ただ、建設資材や職人はギルドから依頼を受けたヨネ子が魔法師団を使ってゲートで運んだ、だからこそ評議会から直ぐのこの時期に建設が始まっている、もちろんサービスなどではなくそれなりの報酬をもらっている。


ギルドの建設だけではなく素材の調査員も運んできており既に調査に向かっていることも報告を受けた、素材の調査は未知の場所のため危険が大きいのでAランクパーティー3組が同行しているらしい。

ハンターの入国はヨネ子達の了解を得てからと言う事だったが、この3組については報告のみで了承した、まだハンターギルド発足前と言うことと実力重視が望まれる仕事と言う理由からだがハンターギルドも馬鹿ではないので当然人間的にも優れたパーティーを厳選して来ている。


ギルドマスター予定者のライカスとサブギルドマスター予定者のメルケスはまだ来ていないが解体職人達は既に来ていた、調査員達が持ち帰った魔物や動物を使って新素材の解体に慣れて行くためだ。


今後は受付や事務員の採用を始める予定だが、それについてはエルドランド学園に行けばなんとかなるらしい。

エルドランド学園はまだ出来たばかりだが、仕事が決まっていないために一時的に入学している者も多数居る。

特にウィンス村の出身者で成人間際の者などはその村の特性上読み書きや簡単な四則演算は出来る者ばかりだ、ハンベル辺境伯はその行動と結果が間違っていただけでウィンス村の統治方法は間違っていなかったと言える。


アルケオンには一泊しただけで再びブランダに向かった、そこからは徒歩でザーラットに向かう事になる。


エムロード大王国とザールクリフの間にも国境は有りそれぞれに砦も整備されている、ただし実質は同じ国なので警備はユルユルだ。

元々は属国化した当初蔓延っていた反乱軍の侵攻を未然に防ぐために残していた物だが、反乱の心配が無くなった今でも撤去されずに残っているのは、まあどこにでもあるお役所の「事なかれ主義」の産物だ。


ブランダから国境までは通常は徒歩で5日、国境からザーラットまでは徒歩で2週間と言うところだが、ヨネ子達は急いでいなくても移動は早い、なので国境には4日で、そこからザーラットには10日で着いた。


都合14日で町や村に寄ったのは3カ所だけだが、あまり長居しなかった事もあり欲しい人材は1人も見つけ出せていなかった。


ザーラットに着いたヨネ子達は先ず最初に総督府を訪れた、現ザールクリフ総督カイナン伯爵に挨拶をするためだ。


総督府ではエムロード大王国の宰相に一筆したためててもらっていた事もあり、すんなりとカイナン総督と会うことが出来た。


「あなた方が『白金神龍』の皆さんですか。はじめましてザールクリフ総督のエンリケント=フォン=カイナンです」


「初めまして、『白金神龍』のリーダーマーガレットよ」


「エルです」


「セラフィムだ」


「エレンです」


「アスカです、よろしく」


「ブレイザーと申します。私は『白金神龍』ではなく専属の料理人です」


全員がそれぞれ自己紹介をした。


「あなた方の事は聞いています。それで移住の予定には3週間ばかり早いように思うのですが?」


「今日は挨拶だけよ。ところで技術者達との連絡は取れたの?」


「はい、つい3日ほど前に下山して来まして、今は出発の準備を始めているところです」


「それを聞いて安心したわ、ではまた3週間後に」


「お待ち下さい。せっかく来ていただいたのです、せめて今夜だけでも時間を頂けませんか?歓迎の晩餐など催したいのですが」


「まあそれくらいなら良いわよ」


「ありがとうございます。では早速部屋を用意させますので時間までお寛ぎ下さい」


メイドに案内するよう命令していたカイナン総督はどこかホッとしたような表情をしている、それと言うのも宰相から最初に送られてきた1600人強の人材の移住命令書に『白金神龍』の事が詳しく書かれており、来た時は丁重にもてなすよう厳命されていたからだ。


ヨネ子達はメイドに案内されそれぞれの部屋を確認した後ヨネ子の部屋に集まった、尚アスカの部屋はエレンと同室にしてもらっている、人間の家や部屋はアスカには不便なのでエレンの護衛代わりに同室にしたのだ。


「マーガレットさん、どうして晩餐を受けたんですか?」


エレンが聞いた、カイナン総督への挨拶が済めば直ぐにディラルク王国に向け出発すると思っていたからだ。


「受けた時のカイナン総督の顔を見た?あからさまにホッとしてたでしょ?」


「そうなんですか?すみません見逃しました」


「そうね、相手の表情はなるべく観察する様にした方が良いわね。それよりあの態度でわかるのは上からそうするように命令されてるって事よ」


「晩餐会を開くようにですか?」


「そんな直接的じゃないと思うわよ。もっと曖昧な「丁重にもてなせ」的な言い回しでね」


「はあ、そうなんですか。それなら確かに断るとカイナン総督の顔を潰す事になりますね」


「そうよ。これから世話になるんだから気持ちよく仕事をしてもらった方がいいでしょ」


「そうですね。それくらいで快く仕事してもらえるならその方が良いですね」


エレンも納得した、もちろんブレイザーを除く3人も同じ疑問を持っていたので納得した。

ただブレイザーだけはまだ平民思考が完全には抜けていないので貴族の招待を受けるのは当たり前程度に思っていた。


その夜の晩餐会にはカイナン総督の他にもザールクリフの貴族が数人参加していた。


ザールクリフにも貴族はいるが、その貴族も平民が二等国民扱いされている事と同様の扱いを受けている。

具体的にはザールクリフには侯爵、伯爵、子爵、男爵の爵位しかなくその扱いも本国の同じ爵位の一段下に見られる、つまり侯爵は本国の伯爵と、伯爵は子爵と、子爵は男爵と、男爵は準男爵と同列に扱われる。

それでも領地に関してはむしろ本国の同じ爵位の貴族より広いくらいなので不満が爆発する事は無い。


さらに鉱山技術者の52人もカイナン総督の計らいで招待されていた、技術者達にとっては貴族の晩餐などありがた迷惑でしか無いが、技術者とヨネ子達の顔合わせはカイナン総督のファインプレーと言える。


お陰で義務的だった晩餐はヨネ子達にとって有意義な物へと変わっていた。


翌日、ヨネ子達はディラルク王国に向け旅立った。


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