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007 氷河の異変

この世界の魔物領域は中心部にパワースポットや龍脈と呼ばれる場所があり支配者的な魔物、いわゆる主と呼べる魔物がいる。

その主はパワースポットの力で身体能力が通常の魔物以上に上がり、周りに自身の魔力を拡散している、この魔力の拡散範囲が魔物領域であり魔物の強さが強いほど範囲は広くなる。

主以外の魔物はこの主の魔力に誘われるため魔物領域内からあまり出ないが、主以上に強い魔物にはこれは当てはまらない、なので魔物領域は主のランク以上の魔物はいない。

要するに主がBランクの魔物ならその魔物領域に生息している最強の魔物はBランクであり、主がAランクならやはり最強の魔物はAランクとなるという事だ。


これは基本的にはであり絶対ではない、魔物ははぐれ魔物として魔物領域外に出る事もあるし主のランク以上の魔物が居る事もある。

ただし主のランク以上の魔物が居る場合は誘われたのではなく狙われたというべきだろう、はぐれ魔物となった高ランクの魔物が主の座を狙って入ってきているのだ。

因みに主の交代は魔物領域が沢山あった1000年以上昔は頻繁に起こっていたが現在はほとんど起こらない、数が減った事で魔物領域同士の間隔が広がり、はぐれ魔物が他の魔物領域を見つける可能性が極端に低くなったせいだ。


それからこの世界には3段階のドラゴンが居る、最強は世界に5体しかいないとされる神龍、東洋のドラゴンとほとんど同じ姿形をしている。

次に上位龍、西洋の紋章によく使われるドラゴンそのものの容姿で非常に知能が高い、『デザートイーグル』の友人であるセラフィムもこの上位龍だ。

最後は下位龍、知能は低く姿形も生息域によって様々だ、そして一番の特徴は全ての下位龍がではないが属性を持つ事だろう、そのためそれぞれに得意な魔法や苦手な魔法が存在する。


この内上位龍と下位龍は体内に魔石を持つ魔物の仲間だが神龍は見た目がドラゴンなだけで亜神である、そのため体内に魔石は無い。


神龍の身体は神力によって作られている、そのため神としての力はその身体に封印されている状態なので地上では最強の存在ながら神としての力はほとんど出せない。

それでもなぜ亜神として地上にとどまるのかといえば単純に好奇心としか言えない、神として肉体を捨てれば全能の存在に近くはなるが地上の出来事に直接干渉する事が出来なくなってしまうからだ。


寿命という観点から見るなら下位龍は1000年弱、上位龍は4000年前後だが神龍は約2000年しか無い。

神龍が2000年なのは地上最強だからだ、他者から害される事が無いので寿命が来なければダラダラと生を貪り神へと陞神する事がなくなってしまう、そのため2000年毎に陞神か亜神として地上に残留かを選択するのだ。


神龍は当然ながら人格(神格?)も持つので好奇心からイロイロと干渉したり可笑しな実験紛いの事をする者も当然居る。

そんな神龍の1体、個体名「白金神龍」(固有名称は無い、そもそも名前を付ける存在が居ない)が正にその実験の最中であった。


その実験とは『魔物領域と同じ領域をマナで再現するとどうなるか』というものだ、実験開始からすでに2回寿命を迎えている、寿命と言っても死ぬわけでは無いので実に気の長い実験だ。


内容はウーラル山脈北東部の裾野辺りでマナ領域(と呼ぶことにする)を展開しそこに住む動物がどう変化するかを観察するのである。

魔物領域と違い動物がマナに引き寄せられる事は無いのでかなり広めの領域設定をしている、なのでそこに住む動物は種類が多い。


実験の結果として全ての動物の身体能力が劇的に向上した、氷河なので昆虫系の生き物は居ないが居れば同じように身体能力が向上しただろう。

向上後の能力は同じ動物の魔物より若干上くらいだ、ただこれは単にマナ領域と魔物領域の差か支配者が神龍だからかはサンプルが無いので検証のしようが無い。


マナ領域は動物を誘っているわけでは無いので動物達がマナ領域を気にせず生活しているところは変わらない、ただ範囲が広いのでマナ領域外に出たことのない動物も多数存在する。


そんな動物達の中にスノーサーベルタイガーがいる、この地域のファイナルプレデター、いわゆる食物連鎖の頂点に君臨する動物である。

スノーサーベルタイガーは神龍が実験を始めたのち知能が向上し知恵を持つようになった、たった数千年でなぜそうなったのか詳しい理由はわかっていない、逆に数千年で知能を獲得したため進化がそれに追いついていない。


通常知恵が付けばそれを実行する器用さも向上してくる、人間や亜人の場合は手がそれに当たる、なので姿形が似通っている、異世界なら尻尾や触手といった器官を進化させている異形の知的生命体が居るかもしれない。

因みに上位龍はそれが魔法だ、特に変身の魔法で何かしたい場合最も効率のいい生き物に変身する、そのため本体の進化は悪い言い方をすれば「羽の生えたトカゲ」になったと言えるだろう。


それに対してスノーサーベルタイガーは数千年では進化が間に合わなかった、そのため道具の発明などが出来ず精神性だけが向上する結果になってしまった。

具体的に言えば高度な社会性と道徳性などが備わった反面文明は全く発展していない。


言葉は身体構造上発する事は出来ないが魔力を使って会話は出来る、現代で言うテレパシーのようなものだ。


そして道徳性が向上し哲学的な物に目覚めると発生するのが宗教である、スノーサーベルタイガーの社会も御多分に洩れず原始宗教が発生した。

ただ普通は原始宗教と言えば精霊のようなスピリチュアルな物から始まるのが一般的だが氷河でそれを感じるのは難しい、それにこの地にはマナ領域を展開している神龍が居る、知能が向上したスノーサーベルタイガーがそれに気付かないはずはない、かくして最初の宗教は「神龍教」となった。


知能の向上は性格の多様化を生む、社会性の向上は集団生活の安定を生む、ただしこの2つが合わさると当然のごとく派閥が生まれる、これはどうしても避けられない。

カリスマ性を持つ強い個体が常に現れれば問題ないがそんな都合のいい事がそうそうあるわけがない。


結果、現在スノーサーベルタイガーの社会では大まかに2つの勢力がせめぎ合っている。

現在のスノーサーベルタイガー社会では社会性が向上し生活が安定した事による個体数増加が止まらない、普段の生活は氷河でも問題ないのだが、事出産になるとそうもいかない、生まれたての赤ん坊はまだひ弱なため出産には冷気を遮断する場所が必要不可欠になる。

これまでは生活圏内にある木のウロや大きな岩の陰などを利用していたが、個体数増加に伴い数が足りなくなっているのが現状だ。

通常このような場合は出産場所を自分達で作るものだが、進化が歪なせいでそれができない。

そのため現在の生活圏をそのままに出産場所を探すべきと主張する残留派と新たに肥沃な土地を探して移住するべきと言う移住派とに別れて政争(?)が勃発していた。


そしてそれぞれの派閥が自身の主張を補完し支持者を集めるため、それぞれ探索チームを組織し派遣する。

残留派はリーダー1、調査担当2、護衛3の6体1チームで6チームを6方向に派遣した。

移住派はリーダー1、斥候3、護衛5、後方支援3の12体1チームで4チームを東西南北に派遣した。


数日後、移住派の南に派遣されたチームが氷河人の地を発見する、そこはセンデールと呼ばれる氷河人の地の中で最も西にある地だ。


氷河人の地は7つの町それぞれに特徴的産業がある、ヨネ子達が訪れたボレアースは工業が特徴の鉱山の町、『デザートイーグル』が始めて訪れたのがメルカートという街で商業の町、その他にも岩塩が産出する塩の町、繊維産業が得意な軽工業の町、凍っていない池や川を持つ漁業の町、木工製品の製作が得意な林業の町があり、ここセンデールは陶磁器の製作が主な産業の焼き物の町となっている。


そのセンデールに到着したスノーサーベルタイガーの一団は早速氷河人を蹂躙しだした、スノーサーベルタイガーにとっては人間など餌でしか無い。


最初に攻撃を受けたのは土の土地の辺縁部で農業を営んでいた氷河人だ、しかし最初はスノーサーベルタイガーの斥候1体だけだったので数人の氷河人が逃げ延びて近隣に異変を伝えた。


それを受けて直ぐに討伐のハンターが組織されたが、次に現れた時には1チーム12体が揃っていたので討伐を諦め防衛に徹した。


氷河人の地はこれまで戦争が無かったので街は獣除けの簡単な柵しか設置されていない、なので防衛とは言っても困難をきわめた。


スノーサーベルタイガーの戦闘力は同じ魔物がAランクなのに対しそれより強いSランク相当になっている、だが氷河人はその事実を知らないのでAランクの魔物12体の襲撃と勘違いしていた。

そのため当初は防衛に徹していれば高ランクのハンターが各個撃破出来ると思っていた、しかし現実はそうとはならずにハンターの被害が徐々に拡大していった。

数的優位には立っていることと、スノーサーベルタイガーが対人戦未経験なのに対しハンターは魔物狩りのスペシャリストと言う経験値の差でどうにか凌いでいるがそれも長続きしなさそうな雰囲気になって来た。

そのためセンデールの長老は各町に救援を要請する事にした。


センデールがスノーサーベルタイガーに襲われた2日後、移住派の東に派遣されたチームも氷河人の地を発見して同じ経緯を辿りハンターと交戦が始まった。

その地は工業の町ボレアース、そう、まさにヨネ子とエレンが逗留している町であり2人の逗留3日目だった。


そして当然の如く2人の元へ素材ギルドギルドマスターガスパールがやって来た。


「エレンさん、マーガレットさん。2人に頼みがある、今この町はスノーサーベルタイガーの魔物に襲われている、どうやら通常の魔物より強いようでこの町のハンターだけでは対処出来ない。申し訳ないが2人もスノーサーベルタイガーの討伐に参戦してくれないだろうか。もちろん十分な礼はするし倒したスノーサーベルタイガーの素材もそちらの物にして構わない」


ガスパールは戦闘力の高さから魔物と勘違いしているがこれは仕方ない事だろう、しかしそれに対する答えなど決まっている。


「わかりました。それではそこへ案内して下さい」


エレンはそう答えると、ヨネ子と2人ガスパールに案内されて戦闘場所に到着した。


そこには12体のスノーサーベルタイガーがハンター相手に暴れまわっていた、知能が高いだけに連携して動いているのでハンターは防戦一方だ。


スノーサーベルタイガーの動きはほとんど変わらずハンターだけに負傷者が増えていく、死亡者も既に数人出ているようだ。


「エレン、貴方は負傷者の治療に専念しなさい。あいつらの素材は私がいただくわ」


マーガレットが静かに命令した、マーガレットにとってはSランク相当のスノーサーベルタイガーもただの素材でしかない。


しかしそれを隣で聞いていたガスパールは驚きの表情で聞き返す。


「なっ!あんたあれだけのスノーサーベルタイガーに1人で勝てるって言うのか?」


「当然でしょ、あんなのただの素材でしか無いわよ」


ガスパールにそう言い放つと、ヨネ子はサバイバルナイフを取り出しスノーサーベルタイガーの元へと走って行った。


ザシュッ

ドシュッ

ザシュッ


ヨネ子はいきなり3体のスノーサーベルタイガーの喉元を切り裂き倒した。


ザシュッ

ブシュッ

ザシュッ

ドシュッ


仲間がいきなり倒された事に驚いて動きを止めたスノーサーベルタイガーに対し、ヨネ子はその機を逃さずさらに4体の喉元を切り裂いた。


流石に知能が向上したスノーサーベルタイガーである、仲間7体が倒されたのを目の当たりにし残りの5体が一箇所に集まった、リーダーを中心に作戦会議でもするのだろう。


ヨネ子はそのスノーサーベルタイガーの元へ悠然と歩いて近付く。


スノーサーベルタイガーはそのヨネ子に一斉に襲い掛かった、その数4体。


スパパパパ


ヨネ子はこれまで見せたことのない素早い動きで4体の喉元を切り裂いた、それでもまだ本気は出していない。


残った1体はその光景を確認すると慌ててその場を逃げ出した、これはリーダーに命令されていたからだ、「自分達が全滅したらその事を帰って仲間に伝えるように」と。


しかしそれを見逃すほどヨネ子は甘くない、ヨネ子は見える範囲の最大射程でゲートを使い逃げ出したスノーサーベルタイガーの前方に現れた。


自身の前方にいきなり現れたヨネ子を見てスノーサーベルタイガーは動きを止めると同時に死を覚悟した、そして一言言った、とは言えテレパシーのようなものでだが。


〔なんだこいつは、化け物め〕


ヨネ子は氷河人の地に来てからずっと『超言語』の魔法を使い続けている、なのでこのスノーサーベルタイガーの言葉も聞こえた。


「へえ、あなた会話が出来るのね」


〔何っ?お前は俺たちと話が出来るのか?〕


「出来るわよ。それで、あなた達はどうしてこの町を襲ったの?」


ヨネ子は相手に殺意が無い事と話が通じる事で殺すのをやめた、何よりその方が多くの情報を得る事が出来るからだ、それによりこのスノーサーベルタイガーから仲間の現状を知ることが出来た。


そして一応捕虜としてスノーサーベルタイガーに同行するよう命令しガスパールの元へと帰って行った。


ガスパールは会話こそ聞こえなかったがその光景を呆然と眺めながらヨネ子を迎えた。

その横では治療を終えたエレンが待っている、エレンも会話は聞こえなかったがどうやら話をしているようだとは思ったのでヨネ子とスノーサーベルタイガーを暖かく迎えた。


「ギルマス、スノーサーベルタイガーの素材はギルドで解体してちょうだい。それから2体分は持って帰るけど他は要らないから『デザートイーグル基金』の原資にでも充当しておいてちょうだい」


『デザートイーグル基金』とは、かつて旧『デザートイーグル』が倒したマンモスの魔物をオークションにかけた時、金額が多くなりすぎたためハンターの遺児に生活支援をするため立ち上げた基金の事だ。


その言葉でガスパールはやっと現実に戻ってきた、しかしその表情は硬いままだ、さっきまで脅威になっていたスノーサーベルタイガーが1体側にいるのだから仕方ない。


「わ、わかった。それよりコイツは大丈夫なのか?」


顔が少し引き攣ったまま聞いてきた、さっきまで殺し合いをしていたスノーサーベルタイガーを平然と連れ歩くヨネ子の方が脅威なのは間違い無いのに人型では無いだけでスノーサーベルタイガーの方に恐怖する、人間とはそんなものだ。


「大丈夫よ、それよりサッサと帰りましょ」


「そうですね。あっ!この子は宿に泊められるでしょうか?」


ヨネ子の言葉に反応するエレン、こちらもヨネ子といるせいか肝が据わっている。


「さあ、そこはギルマスの力でなんとかしてもらいましょ。お願いしますね」


「あ、あ、ああ」


流石にヨネ子にニッコリと微笑まれながらお願いされれば嫌とは言えない、それだけ目の前で繰り広げられている光景にはインパクトがあるのだ。


結局そのまま町に戻ると宿に到着する前にもう一波乱有った、センデールから救援の要請が来ていたのだ。


「あのー、マーガレットさん、こちらもお願いしてもよろしいでしょうか?」


ガスパールはやや腰の引けた感じでヨネ子にお願いしてきた、ヨネ子的には乗りかかった船である、二つ返事で引き受けた。


そして翌日に注文していた武器を受け取ってからセンデールからの使者の案内でセンデールへ向かう事にした。


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