067 ギルドマスター評議会
イリアとの商談の翌日、やっとレムウから妖精族の移住の準備が出来たとの知らせが来たので妖精族をアルケオンに連れて行った、なんと浄水技術者だけで50人、その家族や移住希望者を合わせると200人ちょっとの妖精族が来てくれる事になった。
それほど多くの妖精族が来てくれる事になった理由は『デザートイーグル』のミランダが時々シェンムーを里帰りさせているかららしい、シェンムーから人間界での生活について色々聞いた事で人間界での生活に憧れを持ったようだ。
ヨネ子達からすれば予想外の幸運だが、喜んでばかりもいられない、まだギルドマスター評議会まで時間があったので急遽『超言語』の指輪を大量作成する事になってしまったからだ。
妖精族の移住が終わるとギルドマスター評議会の開催日にアルバート王国へと乗り込んだ、開催場所はハンターギルドの会議室だ。
ギルドマスター評議会は権威ある会議ではあるが参加者は少ない、今回で言えば近隣7カ国の王都のギルドマスターと開催国アルバート王国の王都テレイオース、レクスブルク、コルムステルのギルドマスターの10人だけである。
ギルドマスター評議会の開始は9時、当然ながら開始時間に遅れるギルドマスターなどいるはずが無い。
基本的に評議会の議長は開催国の首都のギルドマスターが行う、なので今回はテレイオースのギルドマスターランディだ。
「定刻になったのでギルドマスター評議会を開催する」
評議会は議長のランディの開催宣言から始まった、が、その直後に受付嬢が慌てて入ってきた。
「ご報告致します。ただいま『白金神龍』の皆様が評議会への参加を申し入れて参りました」
流石に受付嬢も今日の評議会の開催理由は知っている、そしてその当事者がやって来たので慌てて報告したのだ。
「何?『白金神龍』が?・・・わかった、通してくれ」
ランディは少し考えてから受け入れる事を決定した、本来は極秘会議ではあるが今回の議題の当事者である事を鑑みて議長権限で受け入れた形だ。
「突然悪いわね」
受付嬢の案内でやって来たヨネ子は全く悪いとは思っていないのにそう挨拶した。
「いや、今回の評議会はお前達に関する事だからな」
「じゃあ席が出来るまで自己紹介でもしましょうか」
そう言うとヨネ子から順番に自己紹介を始めた、その間にギルド職員は慌てて『白金神龍』の席を用意している。
席の用意が出来、全員がそこに座ると評議会が再開された。(アスカだけはヨネ子の横で立ったままだが身体構造上仕方ないだろう)
「それではせっかく当人が来ているので建国状況について聞かせてくれるか?」
ランディはいきなりヨネ子に振った、まあ現状把握から始める方が都合がいいので当然ではあるが。
「私達の国は今まだ開拓途中ですが、現在11のハンターパーティーが護衛依頼を遂行中です。建国の予定は1年以内とアバウトですが最初の町にはアルケオンと名付けましたのでそこへの早期のハンターギルド設立は承認するつもりです」
ヨネ子の言葉にベイルーン(リシュリュー王国王都)のギルドマスターリロイが質問して来た。
「今依頼遂行中と言うハンターはどこから雇っているんだ?」
「アルバート王国の各地から10組、ブーストン王国から1組よ」
それを聞いてブータン(ブーストン王国王都)のギルドマスタードラギスが怒ったように言い放つ。
「ブーストン王国だと?俺のところに報告は来ていないぞ」
ドラギスは建国予定地と唯一隣接する国だから呼ばれたが『白金神龍』についてはほとんど何も知らない、ギルド幹部への通達事項で報告は受けているがほぼ報告を見ていないからだ、今集まっているギルドマスターの中ではかけ離れて無能と言わざるを得ない。
「あら、お久しぶり。この前は名乗ってくれなかったけどドラギスっていうのね」
「それがどうした、それよりそのパーティーはどこの誰だ?」
「『銀鋭の爪』よ、それが何か?」
「あいつらか、くそっ」
ドラギスには覚えのあるパーティーだったようだ、しかしギルドを通さない依頼については何も制限は無いので文句を言うこともできない。
ドラギスが大人しくなったところで再びリロイの質問が始まる。
「それではアルケオンにハンターギルドを作るとして、建国まではアルバート王国の支部と言う扱いになるのかな?」
「国体はまだ決まっていませんが国名は「ドラゴニア」と決まっています。なのでドラゴニアの首都支部と言う扱いにしてもらいます」
「ハテ?首都支部とはおかしな言い回しだな?アルケオン支部では無いのか?」
「将来的にはそうなりますが、首都はアルケオンとは別に作る予定です」
「なるほどわかった。だがそうなると首都のギルドマスターの選定が必要になるがそれも今決めるのか議長?」
リロイは今度はランディに振った。
「そのつもりだ、だがその前にハンターギルドの設立は全員賛成で良いのか?まだ建国はされておらんが」
「いいんじゃ無いか?ここしばらく大量の珍しい素材があちこちで出回っているがあれはドラゴニアの物だろう?」
「そうね、私も良いと思うわ」
フライツェン(フランドル王国王都)のギルドマスターデニスとダルーザ(ガベン王国王都)のギルドマスターアレッサが賛成しハンターギルドの設立自体は承認されたが、ドラギスがブーストン王国の支部とするよう意見した。
「ちょっと待て、俺もギルド支部を置く事には賛成だがブーストン王国内の支部にすべきでは無いのか?。俺の国だけが隣接しているんだ、建国前ならそれが当たり前だろう?」
「悪いがドラギス、お前では管理出来んよ。それにどの道1年以内には建国すると言っているんだ、今首都支部に決めておいた方が二度手間にならずに済む」
タペヤラ(レベンド王国王都)のギルドマスターカイゼルがドラギスに言った、割と辛辣だが隣国だけにドラギスの人間性を知っているのだろう。
「何?カイゼル、俺では役不足だと?」
ドラギスは本来首都のギルドマスターの器では無い、それなのにギルドマスターになれたのはブーストン国王の強い要請による物だ。
ハンターギルドは超国家組織とは言えそれぞれの国との軋轢は出来るだけ避けたいので、その国の政府の意向は割と強く反映される事が多い。
「そのとうりだ。それにお前以外誰も反対などしておらんぞ、それでもまだ言うか?」
ドラギスは周りの全員が険しい目で自分を見ている事に気が付いた、なので大人しく矛を収める。
ドラギスはかなり利己的でだからこそブーストン国王に取り入ってギルドマスターになれた、しかし姑息な性格でもあるため周りの全てが敵に回りそうな時は大人しくする。
「わかった、俺も認めよう」
ドラギスが大人しくなった事を確認したランディは次の議題に移る。
「ではハンターギルド設立は承認されたとして、ギルドマスターとサブギルドマスター、それに受付や解体職人の人選はどうする?」
ここで今度はサフィーア(エムロード大王国王都)のギルドマスターキグナスがヨネ子に聞いた。
「マーガレットさん、あなたの国にはギルドで働ける人材は居るか?もちろんギルドマスターとサブギルドマスター以外の職員としてだが」
「受付程度ならいるけど解体職人はいないわね」
実際は解体の出来る者は割と居る、ただし全員家畜の解体を生業としているので現状ハンターギルドには人材が裂けない。
「そうか、では受付や事務員は現地調達でギルマス、サブマス以外は解体職人だけ連れて行くと言う事で良いか」
「そうだな、それより先ずはギルドマスターとサブギルドマスターだが誰か推薦はあるか?」
その質問にキグナスが答えた。
「俺のとこのルンビニー支部のギルドマスターライカスはどうだ?そこのエレンさんとは顔見知りだし、良いと思うんだが」
「えっ?ライカスさんですか?叙勲された人なのに良いんですか?」
エレンは驚いたように聞き返した、ライカスはエレンが『デザートイーグル』時代にエムロード大王国から勲一等の叙勲を受けた時、勲三等だが共に叙勲されているのだ。
「まあギルドマスターと言う肩書は同じでも栄転だからな、本人も嫌とは言わんと思うぞ」
「そうですか、ライカスさんなら信頼出来ますから喜んで受け入れます」
「じゃあギルドマスターはルンビニー支部のライカスで良いとしてサブギルドマスターは?」
「それなら私のところの職員を出すわ。名前はメルケス、まだ若手の事務員だけど能力は保証するわよ」
提案したのは今回唯一の女性ギルドマスターアレッサだ、しかしそこでデニスが難色を示した。
「事務員だと?事務員上がりで荒くれ者の多いハンターを纏められるのか?」
「それは大丈夫、元はBランクハンターだけどAランク間近と言われてた実力派よ。結婚を機にハンターを引退するって言ったからギルドの事務員に採用したのよ」
「なるほど、Aランクに手の届いていた元ハンターで事務にも明るいか。それなら問題ねえ」
結局サブギルドマスターはメルケスに決まった、ついでに解体職人はエムロード大王国とガベン王国以外の各国が1人づつ出す事で決定した。
「次は設立の時期だが・・・」
ランディが次の議題に移ろうとしたところでデニスが止めた。
「ちょっと待て、その前に素材の調査隊を送らなきゃならないんじゃ無いか?」
デニスがそう意見したのはキューシュー地方で取れる素材が特殊だからだ、ギルドとしてはハンターにランクに応じた依頼を受けさせるために魔物や危険な動物にもランクを付けている。
なのでギルド設立までにキューシュー地方の魔物や動物のランク査定をするべきだと主張しているのだ。
「なるほど、確かにそうだな。では調査隊の人選は後にするとして調査にはどれくらいかける?」
「全てを調査しようと思ったら何ヶ月かかるかわからんぞ。それより期限を切ってそれまでに調査しきれなかった分はギルド発足後の追加報告にした方がいいんじゃ無いか?」
意見を述べたのはコルムステルのギルドマスターパチェックだ、首都のギルドマスターでは無いが評議会に参加している以上発言権はある。
結局このパチェックの意見を取り入れる事にした、そしてギルドの施設建設を3ヶ月で終わらせる事になった。
ただし調査期間を1ヶ月とし、1ヶ月後に出来ている施設の一部を使ってギルドの運営を開始する事になった。
これで今回の評議会最大の目的、新ギルド設立は決定された、そしてランディは次の議題に移る。
「新ギルドについては以上だ。次はここにいる『白金神龍』のギルドランクについてだが、俺は全員Aランクにした方が良いと思っているんだがみんなの意見を聞かせてくれ」
これにはまたドラギスが噛み付いた。
「ちょっと待て、こいつら今Cランクだろ、それが何故いきなりAランクなんだ?こいつらにそんな実力が有るのか?」
この意見にドラギス以外の全てのギルドマスターが絶句した、ヨネ子達は最初に会った時ドラギスの無脳ぶりはわかっていたのでブーストン王国内では素材を売っていない、しかしその素材には多数のドラゴンの素材も含まれるため報告は上がっているはずなのだ。
つまり全員ドラギスが重要なギルドの報告さえ見ていないとわかった、そんな怠け者がギルドマスターをしている事に驚いたのだ。
そしてランディがそれを指摘する。
「ドラギス、お前俺たちが出した報告書は見ていないのか?」
「報告書・・・い、いや見ているぞ、見ているとも」
全員の怒りを通り越した呆れ顔を目の当たりにしたドラギスは少し引きつったような顔で答えた。
「だったら何故『白金神龍』の功績を知らない?ここにいる全員お前以外の報告書には目を通しているぞ」
実際値崩れしないようにブーストン王国以外の国では満遍なく素材を売っていた、なのでその情報は全てのギルドへと報告されていたので確かにここにいるドラギス以外の全員がブーストン王国以外の全員の国の報告書を読んでいた。
「・・・・・」
ドラギスは結局何も答えられなかったしこれ以降は発言もしなくなった、結果全員一致で『白金神龍』全員のAランク昇格が決定した。
「最後にギルドの運営について『白金神龍』から意見があるそうなので聞いてくれ」
ランディが話をヨネ子に振った、別に打ち合わせをしていたわけではない、前回会った時許可したハンターしか受け入れないと言っていたのを覚えていたからだ。
ヨネ子も当然それは覚えている、なのでブーストン王国の傭兵問題の前にその事を告げた。
「では皆さん、ハンターギルドの運営について我が国から要望があります。それは私達が許可したハンターしか受け入れないと言うことです。ハンターが我が国に来る時は先ず最初に審査をしますのでそのつもりでいて下さい」
これについてはドラギスが何も言わなくなったおかげですんなりと受け入れられた。
「次にブーストン王国のハンターギルドについてですが、今現在傭兵を募集しています。王国西の魔物領域解放のためと銘打ってますが実際は私達の国への尖兵です。なので皆さんにはその募集に応じないようハンター達に徹底して下さい」
これにはドラギス以外の全員が驚いた、もちろん話を振ったランディもだ。
しかしここでまたもやドラギスが我慢出来ずに声を上げた。
「何故お前がその事を知っている?それを誰に聞いたーーー」
ドラギスはブーストン国王の紐付きである、当然傭兵の本当の目的はキューシュー地方の奪取だと知っている、知っていて傭兵募集に加担しているのだ。
ヨネ子もその事は王宮に忍び込んだ時に全て調査済みだ、だからこそこの場でドラギスを失脚させる事が最も効果的なハンター保護になると思っている。
「知ってて当然でしょ、私たちの国の事なんだから。それより良いの?ギルドマスター自らハンターを騙しているって公言したけど」
これを聞いてドラギスは顔を青くさせた、流石に報告書を読んでいないどころの騒ぎでは無い。
案の定他の全てのギルドマスターが怒りの形相でドラギスを睨み付けている、そしてランディがヨネ子に静かに言った。
「ギルドの恥部を見せたようですまない。こんな事を頼める義理では無いがあいつを拘束してくれないか?そのかわり後の始末は引き受ける」
「しょうがないわね」
ヨネ子はそう言うとゲートでドラギスの背後に周り気絶させた、ドラギスには何が起こったか全くわかっていない、そしてこの場に居る全ギルドマスターが絶対に『白金神龍』とは敵対しない事を再確認した。
この後は追加でブータンのギルドマスターの選定をすると共にブータン支部の調査と場合によってはドラギスの仲間の捕縛について相談して評議会は閉会した。
ただし傭兵の募集については真実を公表するだけで撤回はしない事に決定した、不正ギルドマスターのした事とは言え一旦正規の手続きで受け付けた依頼をギルド側の都合で撤回するのは問題があるからだ。
とは言えこのままでは報酬が高額な事もあり引き受けるハンターは多いだろう、なので流石にドラゴニアの戦力を教えるわけにはいかないが『白金神龍』の強さとその『白金神龍』がドラゴニアに加担している事は伝えるようにした。
そこまでしても依頼を受ける者は死んでも自己責任だ、そこまではヨネ子達も面倒は見きれない。




