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063 妖精族の勧誘

エレンとアスカが戻ってきた翌日、技術開発の続きとして今度はドワーフの鍛治師達の元を訪れた。


「武器のメンテナンスは終わった?」


「はい、騎士様の分は全て終わりました。今はハンターの分が少し残っているだけです」


「そう、それなら良いわね。今度はコレを作って欲しいの」


そう言ってヨネ子が見せたのはベアリングの設計図である、一応真球を使うボールベアリングと円柱を使うローラーベアリングの2種類を用意した。


「これは何ですか?」


「これはベアリングと言うのよ。荷車の車輪部分にコレを使えば軽い力で動かす事が出来るようになるわ」


「ほう、ではコレで荷車を作るので?」


「そうよ、取り敢えずは一輪車を作って欲しいの」


ヨネ子の言う一輪車とはもちろんサーカスなどで使う一輪の自転車の事では無い、建築現場等で良く目にするネコ車の事だ。


「一輪車ですか。それでその一輪車の設計図は無いのですか?」


「それはもう少し先になってから作ってもらうわ。今は取り敢えずそこに書かれたサイズのベアリングを作ってちょうだい」


「わかりました」


鍛治師への注文が終わり外に出るとセラフィムが聞いてきた。


「マーガレット様、なぜ今一輪車を注文しなかったのですか?」


「車輪にゴム制のタイヤを使うからよ。今ゴムは騎士達の靴を作るのに使ってるでしょ?その後魔法師達の靴を作ってタイヤはその後になるからよ」


「なるほど、作りたくてもまだ作れないのですな」


「そう言う事」


納得したところで『白金神龍』だけでウィンス村に向かった、残りの村人全員の移住のためだ。


「迎えに来たわよ」


「これは『白金神龍』の皆さんお迎えありがとう御座います。既に準備は出来ております」


出迎えてくれたのは村長とスクレだ、流石に最後と言うだけあって荷物が多かったが荷馬車などは無いので全てエレンの収納に納めて持って行く事にした。


そしていつものように村人だけは正式な手続きを踏んで国境を越えて開拓地へと到着すると、そこへディーンとアーネストがやって来た。


「マーガレット様相談が有るのですが」


「何か問題でも?」


「はい、実は急激な人口増加に対して水の供給が追いついておりません。人口が増えるたびに急ピッチで井戸を掘ってはいるのですが現状は私達騎士や魔法師が魔法で供給する事も多いのです」


「そう。それで今回の移住者の分は確保出来るの?」


「はい、それは魔法での給水を増やせばなんとか」


「わかったわ、では近いうちに解決策を考えるわ」


「ははっ。よろしくお願いします」


ディーンとアーネストは丁寧に礼を言うと仕事に戻って行った。


「ブーストン王国を探りに行く前に仕事が出来たわね」


「そうですね。でもどうするんですか?アースピットでも使って井戸を掘りますか?」


エレンが聞いた、エルとセラフィムもヨネ子の返事を待っている。


「そうね。妖精族をスカウトしに行くわよ」


「妖精族?それが水と何か関係があるの?」


エルが不思議そうに聞いた、一見水問題と妖精族には何の関係も無さそうに見えるからだ。


「妖精族と水と何か関係が有るんですか?」


エレンも聞いた、やはり関係性が掴めないので仕方ない。


「エレンは『奇跡の泉』の事を覚えてるでしょ」


ヨネ子がエレンに聞いた、『奇跡の泉』とはエレンが旧『デザートイーグル』時代に訪れた事のある場所だからだ。


『奇跡の泉』は約2000年前、この世界に最初に召喚された「始まりの魔法使い」こと「加藤雷華」が伝染病のコレラを撲滅するために作った泉である。

この泉は近くの山の中腹に湧き出る湧き水をさらに浄化して地下を通って麓の村まで引いた人口の泉だ。


そしてそれを指摘されたエレンは重要な事を思い出した。


「そう言えば、あの泉はファティマの技術で作られた人口の泉でした」


「ほう、ファティマと言えば流一がマーガレット様達の世界に帰るための魔法陣のある場所でしたな」


セラフィムも当時ファティマの場所について聞かれた事があったので思い出した。


「どうやら思い出したようね」


そしてヨネ子達は懐かしのファティマへとゲートで向かった、今回は町の入り口では無く直接町の中、追憶の塔の前にした。


ファティマに着いたヨネ子達は早速信託の巫女レムウに会いに行く、道中妖精達から奇異な目を向けられたがそれは仕方ない、それよりも注目するだけで止められたり話しかけられたりされなかったのでレムウの元へはスムーズに行けた。


「レムウさんに会いたいんだけど」


レムウの屋敷では無くその隣の神殿に向かい警備の妖精に言った、昼間なので信託の巫女なら神殿に居るはずだからだ。


「お前達は前にここに来た者達だな。巫女様は神聖な儀式の最中だ、今は合わせる訳にはいかん」


「そう、では儀式はいつ終わるの?」


「夕方日の入りと共に終わる」


「わかったわ、じゃあその頃来ましょう。それからこの町で1番偉いのは誰?」


「それはもちろん巫女様だ。だが町の事を仕切っているのは酋長のオルフェブール様だ」


「そのオルフェブール様にはどこに行けば会えるの?」


「あちらに見える議会堂に居るはずだ」


警備の妖精は指を差しながら教えてくれた、ファティマに人間がいるだけで目立つので覚えていた事とレムウが客人としてもてなしていた事を知っていたからこそ警戒せず教えてくれたのだろう。


「そう、ありがとう」


ヨネ子は警備の妖精に礼を言うと議会堂へと向かった。


「酋長のオルフェブールに会いたいんだけど」


「ん?お前達はいつか来ていた人間か?オルフェブール様に何の用だ?」


「チョットした相談よ」


「まあ良い、取り敢えず聞いて来てやる。チョット待ってろ」


そう言うと警備の妖精は議会堂の中にいる妖精にオルフェブールへの使いを頼んだ、すると直ぐに返事が返って来たので警備の妖精が戻ってきた。


「オルフェブール様がお会いになるそうだ。向こうにいる秘書に着いて行ってくれ」


「ありがとう」


ヨネ子達は許可が出たので議会堂に入った、そして入り口で控えていた秘書の妖精に着いてオルフェブールの元に向かった。


「初めまして、私はハンターパーティー『白金神龍』のマーガレットよ」


「同じくエル」


「セラフィムだ」


「エレンです」


「アスカです、よろしく」


それぞれ自己紹介した、流石のオルフェブールもテイムされた動物と思っていたアスカが挨拶したことには驚いていた。


「あ、ああ。ワシがこの町の酋長オルフェブールじゃ」


少し動揺しながら挨拶を返してくれた。


「貴方達は巫女様のお客人ではなかったかな?」


「そうですね、レムウさんにも後で会いに行くけど今日は酋長である貴方に用事が有ってきたのよ」


「ほう、ワシに。それでどんな用事ですかな?」


「この町の浄水設備の技術者が欲しいの」


「ほう、浄水設備の技術者ねえ。欲しいと言う事は人間の世界に連れて行くと言う事ですかな?」


「その通りよ。より正確に言うなら私たちの国によ」


「なるほど、つまり貴方達は人間の国の使者と言う事ですかな?」


「いいえ、私達の国は今建設中よ。そして私達は使者では無く統治者よ」


「何と、国を作っておるのですか?それはまた大胆な。しかし、なるほどそれは技術者が欲しいでしょうな。・・・・・それで、技術者を連れて行く事を認めたとして我々に何かメリットが有りますかな?」


「そうね、私たちの国と友好が結ばれる事くらいね」


「あなた方の国との友好ですか。それにはこの国の技術者を託すだけの価値がありますかな?」


「さあ、それはわからないわ。ただ1つ言えるのは価値は有る物じゃ無く見出す物と言うことよ」


「なるほど、それも一理ありますな。しかしワシがそれで良くても当の技術者達はそれで納得するでしょうか?ワシら妖精族に限らずエルフ族やドワーフ族も人間にはあまり良い感情は持っておりませんが」


「それはもう昔の事よ。私達の国はまだ建国前だけどエルフもドワーフも来てくれているわ」


「何ですと!そんなバカな。そもそもエルフもドワーフも人間とは交流を絶って久しいはずじゃ。人間の国に居るなど聞いたこともない」


オルフェブールは激しく動揺した、妖精族は下位龍グラキルの鱗から作った魔道具で背中の翅を見えなくして人間界で情報を収集している、なので人間と交流を絶って数百年のエルフやドワーフが人間界に居れば話を聞かないわけは無いと思っているからだ。


「それはそうでしょうね。人間界でエルフやドワーフが居るのは私達の所だけですもの、大半の人間は知らないんだから話を聞くわけないわよ」


「なるほどそれならそうかも知れん。しかしそれではあなた方の国にエルフやドワーフが居る事の確認も出来ませんが?」


「出来るわよ。何なら今から見に行く?」


「今からですと?いったい何日かけて行くつもりですかな?」


「レムウから聞いてないの?今直ぐにでも行けるわよ」


ヨネ子はレムウの前でエレンとミランダにゲートの魔法を教えていたし、シェンムーもゲートで連れて帰ったので酋長なら報告を聞いていると思ったのだ。


「そう言えば前に来た時は転移の魔法で帰ったと言っていたような」


「転移では無いけど遠くに一瞬で行く所は同じね」


「良いでしょう、本当にそんな事が出来るのなら連れて行ってもらいましょう」


オルフェブールはそう言うと秘書を呼んだ、そしてこれからの予定を全てキャンセルする事と2人の長官を呼ぶように指示した。


この町の長官は他国で言う大臣と同じ立場だ、そして呼ばれたのは内務長官と土木長官の2人。

普通の国なら外務の長官となる所だが妖精族は他国との接点が何も無いので外務と言う役職は無い、なのでこの2つのポストの長官が呼ばれた、もちろん酋長と共に開拓地の視察に行くためだ。


「エレン、もうすぐ日没だから酋長達は貴方が連れて行って案内しなさい、私達はレムウのところに行くわ。終わったらレムウの屋敷に来てちょうだい」


ヨネ子はエレンに案内をさせた、案内自体は誰でも良かったのだが帰りはレムウの屋敷となるためエレンしか知らないからだ。


「わかりました」


エレンも素直に受けた。


しばらくして内務と土木の2人の長官がやって来たので直ぐに開拓地へと出発する。


「では言って来ます」


「じゃあ後でね」


エレンの挨拶にはエルが答えた。


エレンと酋長達を見送った後ヨネ子達は一旦公園のような広場で日没までの時間を潰した、尤もその時間は30分もなかったが。


そして十分日も沈んだところで再び神殿を訪れた。


「儀式は終わった?」


「そうですね、もう終わっているはずですので伝えて参ります」


警備の妖精はそう言うと神殿の奥に向かっていった、そして数分後に戻って来た。


「巫女様は直ぐにお帰りになられるので話は屋敷でお聞きになるそうです」


「そう、ならここで待ってるわ」


待つ事十数分、レムウが神殿から出て来た。


「お待たせして申し訳ありません。直ぐに参りましょう」


レムウは走ってはいないが少し慌てたようにヨネ子達を伴って屋敷へと帰った、そして応接室へと通された。


「久しぶりね」


「はい、お久しぶりです。ですが他の方々は初めましてですよね」


ヨネ子の挨拶には笑顔で答えたが他の面々を見て困惑気味に聞いた、その最大の原因は言うまでもなくアスカだが。


「私はエルよ、初めまして」


「わたしはセラフィムだ」


「アスカです」


「えっ?喋れるんですか?・・・すいません信託の巫女をしておりますレムウと申します」


それぞれ自己紹介をしたが、予想通りアスカの挨拶には驚かれた。


「それで今日来た理由なんだけど」


「あっ、そうですね。はいなんでしょう」


ヨネ子が強引に話を始めた事でレムウも我に帰った。


「私達は今新しい国を作ってて浄水設備の技術者を連れに来たんだけど、他にも移住してくれる妖精がいないかと思ってね。それで貴方に協力してほしくて来たのよ」


「新しい国をですか、すごいですねえ。でもそれなら私より酋長に言ったほうが良いと思うのですが」


「それはもう行ったわ。今はエレンの案内で開拓地を視察中よ。終わったらここに来る事になってるの」


「そうでしたか、それでは私は何をすれば?」


「私達の国に来る説得をして欲しいのよ。信託の巫女の言葉なら信用されるでしょ」


「わかりました、でも条件があります」


「条件?何?」


「私もその国に連れて行ってください。あっ、でも住むわけじゃありませんよ。私も貴方達の国を見てみたいと思っただけですから」


「そんな事?もちろん良いわよ。そうねだったら貴方にもこれを渡しておくわ」


ヨネ子はそう言って通信の魔道具を渡した、そして使い方を教えた。


「ではこれを使えばいつでも皆さんとお話しが出来るんですね」


「そうよ。それから8006はシェンムーだから近いうちにかけてあげなさい」


「シェンムーも持ってるんですか?絶対かけます」


レムウは通信の魔道具を両手で握って喜びを全身で表現した。


そうこうしている内にエレン達が帰ってきた、もちろんいきなり部屋の中に来たりはしない、玄関に現れて部屋まで使用人に案されて来たのだ。


「ただいま帰りました」


「ご苦労様」


「お疲れ様でした」


ヨネ子とアスカがエレンに労いの声をかけた。


「あなた方の仰る通りでした。エルフもドワーフも皆生き生きと働いておりました。それから水事情も聞きました、私達でお手伝いできるのなら是非協力致しましょう」


「ええ、我々も協力致します」


オルフェブールと2人の長官は帰ってくるなり協力を約束してくれた、やはり「百聞は一見にしかず」で有る。


その後はレムウの屋敷でそのまま具体的な話になった、そして普段は交流のない他の町にも声をかけ最低でも30人の技術者を集めてくれる事になった。

もちろん技術者は家族ごとの移住であるし技術者以外でも移住の希望者を募ってくれる事になった。


ヨネ子からはグラキルの鱗を提供すると共に、他の町やヨネ子との連絡用に10個の通信の魔道具を提供した。


後は移住の準備が整ったという連絡が来次第迎えに来るだけだ。



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