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061 VSブーストン王国

「魔法師団集合」


盗賊討伐から帰ったヨネ子は早速魔法師団員を集めた。


「これから全員の治癒魔法向上のため遺体の解剖を行います。付いてきなさい」


ヨネ子はそう言うと建設中の学校の脇に作らせた割と大きめの平家の建物に全員を連れて行く、その建物の中には人1人がギリギリ寝ることが出来る大きさの机ともう一回り大きな机が対で10組並べてあった。

部屋の四端には魔法陣を刻んだ板が置いてあり4等級と思われる魔石が乗せてあった、この魔法陣の力で乗せてある魔石に部屋の中の魔素を吸収させているのだ、これによりこの部屋の中は魔素の少ない空間にする事が出来た。


「ではこれから遺体を出します」


ヨネ子は小さい方の机に10体の遺体を並べて行った、そして遺体に人を配置して行く。

ヨネ子は実演しながら説明するため1体を、エレンとリーグも1体づつ、それ以外は2人で1体になるように配置した。

エルとセラフィムはヨネ子の解剖を見るだけで十分な学習になるので見学だけだ。


次に解剖器具としてドワーフに作ってもらったメスやハサミやピンセット等のセットを渡して行った、現代の解剖器具に比べると品質はかなり劣るが最低限必要な道具は揃っているので問題無い。


その後ヨネ子の指導で解剖が始まる、現代ならこの時点で気分の悪くなる者も出だすところだが死が身近なこの世界の人間にそんな気の弱い者はいないのでサクサクと解体は進んでいった。


腹部を切り裂き各臓器を取り出して働き等を説明して行く、神経や血管も丁寧に見て行く、腕や足の一部は皮膚を剥ぎ取って筋肉を露出させて説明して行く、頭部は頭蓋骨を縦半分に切り裂いて断面として見ていった。

因みに頭蓋骨を切り裂いたのはヨネ子、エル、セラフィムの3人だ、今回渡した解剖器具では頭蓋骨を傷つける事さえ不可能だったので仕方ない。


一通り終わると今度は骨から肉を剥ぎ取り骨の形や構造について説明していく、そこまでやって解剖は終わった、時間は12時から始めたにもかかわらず18時になっていた。


今まで紙に書いたイラストと口頭で伝えただけでもこの世界にしては治癒力が向上していたが、今回の解剖でさらに治癒力に磨きがかかった事を全員が実感していた。


解剖が終了すると全員で解剖を行った建物を掃除して終わった、切り刻まれた骨や肉片全てヨネ子が収納に入れて持ち出し外で焼いた。


翌日、ヨネ子は各騎士団長と副団長、魔法師団長と副師団長を呼んだ。


「まだ国軍は形になっていないので迎撃は騎士団だけで行います。ルディ、ガレット、ボルトンの3人は今回はここに残って国民やハンター達の管理業務をして下さい。魔法師団は戦闘中は上空待機で支援に徹して下さい」


「あの、マーガレット様、魔法師団が戦わないのは何か意味が有るのですか?」


ディーンが聞いた、通常の戦争なら数的な不利にある者が戦力を温存するとは考えられないからだ。


「それは相手が800人しか居ないからよ、今の貴方達なら余裕で勝てるわ。なので魔法師団は怪我をした騎士の治療だけで十分よ。それに次に大部隊で来た時のためにも手の内は隠していた方がいいでしょ?」


「我らは70人しか居ませんがそれでも余裕で勝てると?」


「もちろんよ。今回は上空から魔法師団が支援すると言ったでしょ?それは敵の牽制や負傷者の治療だけでは無いわ、エリアマナチャージを使って魔力を回復させ続ける支援もするのよ」


「なるほど、では今回の戦争では最初から魔力枯渇を気にせず身体強化を使って戦い続けられるという事ですな?それなら納得です」


「それにしてもエルフの魔法使いは最近来たばかりですがもうそれほど腕を上げているのですか?」


今度はアーネストが聞いた。


「エルフは種族的に人間より魔力が多い上に私達がみっちり鍛えたのよ、十分戦力になるわよ」


「なるほど、納得しました」


「他に質問は?」


「なければ出陣を3日後とします。3日後の9時にこの場所に全員整列する事、その後ゲートでブーストン王国との国境まで送りますので陣の設営を行うように。では解散」


「「「「「「ははっ」」」」」」


ヨネ子の解散宣言を受けてそれぞれ持ち場へと帰って行った。


「さて私達も準備に行くわよ」


ヨネ子は『白金神龍』の仲間に向かって言った。


「なんの準備?」


エルが聞いた、自分たちは見学に行く程度に思っていたからだ。


「もちろん騎士達の食事よ。軍では無いから輜重隊が居ないでしょ?戦争なのに騎士達に自炊しろとも言えないしね」


「それもそうね。わかったわ」


エルが納得したところで食堂に向かう、食堂はまだ一軒しか無いので戦争中はハンター達の憩いの場が無くなるが数日は我慢してもらうしか無い。


そして騎士達の食事は食堂の8人とブレイザーの9人で担当することになった。


そこへスクレから再び連絡が入った。


【マーガレット様、連絡です。ブーストン軍に張り付かせていた密偵の報告では進軍が予定より2日ほど早まる見込みです】


【へー、何かあったの?】


【それが、最高指揮官に任命されたブラーエ侯爵の方針で輜重隊の数を減らして高速で進軍し、足りない分は進攻方向にある町や村から強制的に接収しているそうです】


【なるほどね、バカ侯爵が自国民から略奪紛いの事をしていると言うわけね】


【はっ、端的に言えばそういう事です】


【わかったわ、ありがとう】


「欲に目が眩んだバカ貴族が相手なら楽勝ね」


横で聞いていたエルが言った。


「確かに、自国民から略奪紛いの接収をする貴族が相手なら叩き潰しても問題ありませんね」


エレンも半ば呆れながら言った。


3日後の8時30分、騎士団と魔法師団は既に全員整列していた、初めての戦争で全員気が昂っているのだ。

それに対し料理担当の食堂の8人はまだ来ていない、こちらは戦闘とは無縁の予定なので落ち着いている、尤もブレイザーだけは『白金神龍』と行動を共にしているので既に来ている。


「では全員揃っているので少し早いですが出発します」


ヨネ子、エル、セラフィム、エレンの4人がゲートを繋ぐ、アスカは今回料理人を連れて行くため残っている。


やって来たのはブーストン王国との仮の国境(まだ正式に独立していないので国境線が引けないため暫定的に設けている)のキューシュー地方側、一応この仮の国境を超えないようなら戦争にはならないが、800人ものブーストン軍が小さな村さえ無いこんな場所に来てそのまま帰る事などありえない。


全員着いたそうそう本陣を設営していく、そうこうしている内にアスカが料理人達を連れてやって来た。


ブレイザーと料理人は早速昼食の準備に取り掛かる、その間にヨネ子はスクレに連絡した。


【スクレ、ブーストン軍の動きはどう?】


【はい、今朝の報告では後2日の位置まで進軍しているそうです】


【軍の編成はわかる?】


【陣形は分かりませんが騎兵100、弓兵200、歩兵400、輜重輸卒100と言ったところです。騎士と魔法使いは居ないようですね】


【そう、騎士と魔法使いが居ないなんて舐められたものね】


【敵は人海戦術のつもりなのでしょう】


【そうでしょうね。開拓中の場所にまともな戦力があるなんて思わないでしょうしね】


【私もそう思います】


【まあ良いわ、それくらいなら今回の戦争は半日も要らないでしょう】


スクレとの通信が終わると一旦騎士団長、副団長、魔法師団長、副師団長を集めた。


「敵の編成は騎兵100、弓兵200、歩兵400、輜重輸卒100だそうよ。戦法としてはオーソドックスに弓兵の長距離攻撃からでしょうからそれは魔法師団に任せるわ、物理障壁で防ぐなり風魔法で吹き飛ばすなり好きにしなさい」


「ははっ、承知しました」


魔法師団長のリーグが返事した。


「次に騎兵だけど、ディーン、アーネスト馬なしでも大丈夫ね」


今回は騎士達全員馬を使っていない、馬も同時に身体強化を図る「騎馬強化」という魔法があるがまだ一部の騎士しか使えないので今回は全員徒での戦闘にしたからだ。


「はい、身体強化が使えるので問題ありません」

「私も問題ありません」


ディーンとアーネストが答えた、騎士達にしてみれば騎兵よりAランクの魔物の方がよほど恐ろしいので当然だ。


「それから全員で相談して斥候を出しなさい。方法は騎士と魔法使いが2人1組で組むの。敵に見つかってもゲートで戻ってこれるようにね。それから斥候にはこの通信の魔道具を持たせて連絡を取り合う事」


ヨネ子はそういうとディーンに4つの通信の魔道具を渡した、何チーム出すかはこれからの話し合い次第だが4チーム以上にはならないと思ったからだ。


「一応スクレからの報告を聞いて出しますので2つでも十分です。そのかわり馬を用意してもらえますか?」


ディーンがそう言った、確かにスクレから進軍方向を聞けばそれで十分だろう。


「これからも使う事があるでしょうから貴方が持っていなさい。それと馬は選ばれた者がゲートで自分の馬を迎えに行きなさい。そのための魔法使いとのペアでもあるのよ」


「なるほど、わかりました」


「では敵は2日後に到着の見込みよ、それまで残りの者は身体を休めておきなさい」


「「「「「「了解しました」」」」」」


その返事を聞くとヨネ子達は昼食を摂りに行った、ディーン達はそのまま残って斥候の人選をしていた。


昼食後、選ばれた2チームの斥候が陣を離れていった、それを見届けるとディーン達も昼食をとる。


日が暮れた頃、斥候からブーストン軍発見の第一報が入った、2チームとも首尾良くブーストン軍を発見したようだ。


その斥候の一方の魔法使いが索敵で異常な反応を捉えた、ブーストン軍から少し離れた場所に人間と思われる反応が1つある。


【こちら斥候1、ブーストン軍の側方約500メートルに正体不明の人物を一人発見。指示を乞う】


この世界では共通する長さの単位はこれまで無かった、なのでヨネ子は騎士達には「メートル」という単位を教えていた。


なお「斥候1」は第一騎士団の斥候と言う意味だ、なので報告を受けたのはディーンだ。


その報告を受けたディーンは直ぐに一つの可能性を見出す、そう、スクレの部下だ、なのでそのままスクレに部下の位置を確認する。


そして予想通りなのを確認しヨネ子に報告すると、接触して任務を引き継ぐよう指示されたので斥候に連絡した、同時にスクレにもその旨部下に連絡を取らせた。


その夜は斥候とスクレの部下が予定外の交流を図ると、翌日にはスクレの部下をブータンに戻らせ斥候は任務を続けた。


その日の昼過ぎ、斥候が新しいチームと引き継ぎ最初に出た斥候はゲートを使って本陣に戻って来た。


さらに翌日、ブーストン軍の姿が見えたところで斥候をゲートで戻した、これから開戦である。


ブーストン軍はヨネ子達を視界に捉えた後も一定の速度で進軍して来た、こちらはよほどヨネ子達を舐めているのか指揮官のブラーエ侯爵が無能なのか斥候は出していない、まあ後者の方だろう。


「ほう?歩兵ばかり100人近くおるな、報告では結構な規模で開拓をしていると言っていたが本当のようだな」


指揮官のブラーエ侯爵が馬上からヨネ子達の方を見て呟いた、全員馬に乗っていないので騎士ではなく兵士だと勘違いしたようだ。


第一騎士団と第二騎士団は騎士団毎に方陣を組んで敵の前面に布陣した、それを見たブラーエ侯爵は弓兵に命令を出す。


「弓兵前へ、4列横隊で前進、射程に入り次第各人の判断にて発射せよ」


戦術も何も無い力任せの命令だ、それでも数の上で圧倒的有利が確定した以上間違った判断とも言い難い・・・相手がヨネ子達で無ければ。


「魔法師団配置に付け」


敵の陣形変更を受けてリーグが命令した、魔法師団全員が空中に浮く、そしてリーグと部下2人の3人が地上の騎士団のやや前方まで進み残りは6人ずつ二手に分かれてそれぞれ騎士団の最後尾の頭上辺りに移動した、前に出た3人が弓の対処要員だ。


魔法師団の空中布陣を見たブラーエ侯爵は少し動揺した、が、それでも圧倒的な数の差で勝てると思っているのでそのまま進軍を続けた。


両軍の距離が約200メートル程になると弓兵が矢を放って来た、リーグ達は無難に物理障壁で矢を回避した。


「なんだあれは?全く矢が効いておらぬではないか。くそう、弓兵は下がれ、騎兵突撃、歩兵も騎兵に続けー」


ブラーエ侯爵の命令により騎兵100騎が50騎づつの二手に分かれて騎士団に襲い掛かった、だが騎兵なのにあまり速度が出ていない、魔法使いが上空待機しているため魔法攻撃を警戒して速度が出せないのだ。


「第一騎士団突撃」

「第二騎士団突貫」


突撃して来た騎兵目掛け騎士達も突っ込んでいった、そして騎兵はものの数分で殲滅された。

馬に乗っているとはいえ100人対70人である、数の差がそれほど無くなれば騎兵などものの数では無い。


しかしそれを見たブラーエ侯爵は背筋が凍りつく感覚に襲われた、そしてそれを振り払うように歩兵に撃を飛ばす。


「突っ込めー、相手は高々100人足らずの歩兵だ、ブーストン兵の精強さを見せつけてやれー」


「「「「「「「「うおーーーーーーー」」」」」」」」


大声を張り上げて突撃してくる歩兵に対して騎士団も突っ込んだ、その場では倒れた馬や騎兵が邪魔で戦い難いからだ。

それに合わせて上空の魔法師団も前に出る、しかし予定通り攻撃はしない。


ヨネ子達も魔法師団のさらに上空から様子を見る、眼下では激しい戦闘が繰り広げられているがたかが6倍程度の歩兵では身体強化を使った騎士達には敵う筈もない。

しかも通常の戦闘と違い歩兵達はほぼ即死か重傷を負っている、それに怖れをなした歩兵は段々と腰が引けて騎士達に向かっていかずかなり距離をとって剣を構えるだけになった。

既に剣撃の音が止み、一見すると戦闘が終了したようにも見える。


そこへヨネ子が声をかけた。


「リーグ、これではラチが開かないわ。貴方の魔法でブラーエ侯爵を倒しなさい」


「承知。サンダー」


リーグは返事をするや否や100メートル以上離れたブラーエ公爵に雷を落とした。


ドガーーーーン


「「「「「「うわーー」」」」」」


ブラーエ侯爵は悲鳴さえあげられずに絶命する、その前方にいた弓兵達はその惨劇に悲鳴を上げて逃げていった。

流石に総指揮官が一瞬で殺されては中隊長や小隊長の命令など聞いていられない、歩兵達も我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


「戦闘終了よ、全員死体を一ヶ所に集めなさい」


ヨネ子の命令に、上空にいた魔法師団も地上に降りて馬と兵士の死体を集めた。


まだ息のあった兵士は治癒魔法の成果の確認も兼ねて魔法師団が治癒していった、ほぼ瀕死の重傷者ばかり27人ほどいたが全員みごとに回復させた、解剖までした成果はあったようだ。

ただし流れ出た血液までは増やしていないので全員貧血で動くことは出来ない、なので全員を本陣に連れて行き休ませる事にした。


集めた死体は魔法師団が焼いた、このままにしておくとゾンビ化して周辺が死臭で臭くなるので仕方ない。


その後は治療した敵兵のために腐り難い食料を3日分だけ渡して全員開拓地に引き上げた、今回の戦争は負傷するものさえ居ない快勝に終わった。


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