053 エルフの郷
「どうであった?」
今回はエルフの郷の広場に直接ゲートを繋げた、なので帰ってくると直ぐにオーレックが待っていて聞いてきた。
「はい、移住に問題は無いと思います」
「そうですね、今回はこちらの3人が通訳をしてくれたので問題ありませんでしたが言葉が通じないのは問題かと。それ以外は移住しても問題無いと思います」
レフィードの答えの後に一緒に行った女性のエルフが付け加えた。
「そうかまあ立ち話もなんだ、集会場で続きを聞こうか」
そう言うとオーレックは集会場に向かって歩き始めた、それを追うようにレフィード達と他の長老達も集会場に向かう、最後尾からヨネ子達も向かった。
「では会議を開始するが、先ずはレフィード達の見たものや感じた事を教えてもらえるか?」
集会場に着くとオーレックの司会で会議が始まった、そして最初に見学に行ったエルフ達の報告を聞いた。
そして一通り報告が終わった後にオーレックが聞いてきた。
「エレンさん、言葉の問題はどうするつもりですか?」
「移住してくれるエルフ達には言葉も文字もわかるようにするつもりです」
「そうですか、それでは家はどうですか?まだ開拓している人たちの分さえ出来てはいないそうですが」
「それは皆さんの中からも家を建てるエルフに来てもらえればと思います」
「作ってはくれないのですか?」
「こちらで作っても良いですが、私達にはエルフの生活スタイルがわかりませんので不便な作りになるかもしれませんがそれでも良いですか?」
ヨネ子が答えた、当然の意見だろう。
「なるほど、確かにその可能性はありますね。わかりました。それでは何人くらいの移住を予定していますか?」
「何人でも構いません、昨日言った様に無理強いするつもりはありませんので多かろうと少なかろうと受け入れます」
「ですが紙職人を連れて行きたいと言っておられたと思うのですが?」
「はい、ですが紙職人が1人も来てもらえなくても無理強いする事はありません」
「そうですか、わかりました」
その後も土地についてや仕事についてなどいくつかの質問をへてエルフの移住について認める事にした。
この場で話し合われたことは書記のようなエルフがいて記録をとっている、その記録に基づき他のエルフの郷への紹介状を書いてくれる事になった。
そしてヨネ子達は翌日から2人のエルフの案内で他のエルフの郷を巡る事になった。
「おまたせしました、それでは参りましょう」
翌朝、案内人としてやって来たのは前日に書記のような役目をしていたエフィーナという名の女性エルフと最年少で長老に選ばれたクルルムという名の男性エルフだった。
最年少とは言え長老であり長命のエルフだ、年齢は3桁の後半である、ただし見た目は人間なら40代の働き盛りくらいにしか見えない。
エフィーナの方も見た目は人間なら20歳前後だが3桁を超えて久しい。
予定としては隣のエルフの郷セカールまでは2日、一泊して2つ目の郷サキアまでは1日、さらに一泊して3つ目の郷フォルンまでは2日、ここでも一泊して今居る郷ファレーナまではゲートで帰る。
今更ながら聞いた郷の名前はファレーナ、そしてこの郷と同規模のエルフの郷は今回訪れる予定の3つだけしかない、なのでその全てで勧誘する。
2日後、予定通り1つ目の郷セカールに到着した、ここはお目当のエルフ謹製の紙を開発したエルフの居る郷だ。
ヨネ子達がいるため警戒はされたがエフィーナとクルルムのおかげでスムーズに郷に入ることが出来た。
郷に入るとクルルムがこの郷の長老達にオーレックからの紹介状を渡し集会場へと向かった、そこでヨネ子の口から詳しい説明をして協力を要請した。
「あなた達の希望はわかりました、ですがそれに協力するとして私達に何かメリットはあるのでしょうか?」
この郷の長老の一人が聞いて来た。
「特には無いわ、強いて言うなら私達の持つ技術を学べるってところかしらね」
「ほう、技術ですか。ですがそれはそちらに移住した同胞しか恩恵は無いのでは?」
「この郷で有用な技術は持ち込んでも構わないわよ」
「それはそちらで技術を手に入れた同胞を郷に帰すと言うことですかな?」
「帰りたいと言う者が居れば帰しても良いけど基本的には短期滞在ね」
「そうですか、しかしそちらの国との移動には時間もかかるし危険も多い様に感じるのですが?」
「将来的にはこの郷までの街道を整備しようと思っているけど、短期的には私達が送迎をするわ」
「あなた方が送迎?それで時間が短くなったり危険が無くなったりするんですか?」
この質問にはクルルムが答えた。
「この方達はこの方達の国とここを一瞬で行き来出来ますぞ」
「は?何を馬鹿な事を。そんな事出来る訳がない」
「じゃあそれが出来ると証明出来れば前向きに検討してくれる?」
ヨネ子がセカールの長老達に聞いた。
「ああ、良いだろう。本当にそんな事が出来るなら移住者を募っても良い」
長老の中で中央に座る郷長役と思われる長老が安直に答えた、ヨネ子では無くクルルムが言ったのにも関わらず嘘だと思ったからだ。
「そうですか、では長老方、こちらへ来てください。ファレーナに連れて行きますのでオーレックさんと実際に私達の国に来たレフィードさんに話を聞いて下さい」
「ほう、それなら連れて行ってもらおうか」
そう言って長老達がヨネ子の元にやって来た、なのでヨネ子がファレーナまでゲートを繋ぎ長老達に魔法陣を潜らせた。
潜った先は郷の広場だったので近くにいたエルフにオーレック達を呼びに行ってもらう。
そしてオーレック達がやって来るとやっとセカールの長老達はファレーナに来た事を実感した、そして半分呆けながらオーレックやレフィード達の話を聞くとセカールの集会場まで戻ってきた。
「では約束通りお願いします」
帰るなりヨネ子が言った、信じていなかったとは言え最上位の長老が口にした事だ約束は守られるだろう、なので会議はここまでにしてセカールを案内してもらった。
案内役は見た目二十代前半の女性のエルフフェーレン、この郷では優秀なエルフという事で長老達の秘書的な仕事をしており信頼も厚いらしい。
エルフ達はヨネ子達、特にアスカに驚き警戒をしていたが特に何かをされたり言われたりと言う事は無かった。
「ここで紙を作ってるの?」
「フェーレン、この人間達は?いや動物もいるな」
この製紙場の責任者のようなエルフが聞いて来た、このエルフこそ約300年前に製紙技術を確立したエルフで名前をオーケンロードと言う。
「紹介するわオーケンロードさん、この人達は私達エルフをスカウトしに来たマーガレットさんにエルさん、セラフィムさん、エレンさん、ブレイザーさん、そしてスノーサーベルタイガーのアスカさんです。特にここに居る職人に来て欲しいそうよ」
「なんだ?人間の世界で紙を作れと言うのか?」
ここでヨネ子が返事する。
「そうしてくれると嬉しいわね、正確に言うなら「私達の国で」だけど」
「お前さん達の国?どう違うんだ?お前さん達の国も人間の世界だろう?」
「私達の国は人間以外にも獣人も居るしドワーフも来る事になってるわ。それに貴方達エルフも来てもらいたいと思ってる。決して人間だけの国ではないわよ」
「なるほどな、しかしそんなところに行って何になるんだ?俺たちは別に今のままの生活で不便も不満も無いぞ。紙が欲しいなら買いに来れば良い」
「貴方はエルフは閉鎖的だとは思わない?世界は広いのよ、そこには貴方の知らない世界が有り技術がある。今のままでは発展に取り残されるわよ」
「ふふん、技術が無いからここの職人を連れて行きたいんじゃ無いのか?俺たちエルフは十分発展しているぞ」
「下地があった方が良いから来て欲しいだけよ。まあ良いでしょう、それより貴方の目を覚ましてあげるわ」
そう言って製紙作業をしている職人の一人に近付いた、そこは木の繊維が溶けた水を溜めた四角い大きな桶のような場所で、和紙で言えば紙漉きの工程の職人のところだ。
「な、何をするつもりだ?」
オーケンロードが慌てて聞いた、ただ止めるつもりは無いようだ。
「まあ見てなさい」
そう言うとヨネ子は紙を漉く四角い漉き簀と呼ばれる紙の型のような道具に木の繊維が溶けた水を汲んだ。
そしてそこに手をかざして魔法を使う、漉き簀の中の水から転移の魔法で不純物を完全に取り出すと繊維を複雑に絡ませていくのだ。
現代の紙の顕微鏡写真を知っているヨネ子ならではの魔法で現代の紙に近い品質の紙を作り出した、そしてその紙を漉き簀から外して魔法で乾燥させる。
「どうぞ」
ヨネ子は出来上がった紙をオーケンロードに渡した。
「な!?これは、本当に今作った紙なのか?これほど白く丈夫になるのか?な、何をしたんだ?」
オーケンロードはその紙をじっくりと確認すると驚きを隠せなかった。
「別に。ちょっと魔法を使っただけよ。それを見てもまだエルフの技術が上だと?」
「いや、そうだな。どうやら俺が間違っていたようだ」
オーケンロードは少し肩を落とした、そこへエレンが声をかける。
「どうですか?勉強のつもりでも良いですので考えてみてくれませんか?オーケンロードさん」
「そうだな、考えてみよう」
製紙場を出ると他の場所も回ってみる、基本的にはファレーナもセカールもあまり代わり映えはしない、なので見て回ったからと言って目新しい物は何も無い。
ただ子供達の反応は少し違う、ファレーナの子供達は前に『デザートイーグル』と交流があったので直ぐに打ち解けたが、セカールの子供達は近付きたい様子だが遠目にヨネ子達を見ている。
「お姉ちゃん達はエルフじゃないの?」
遠巻きに見ていたエルフの子供の中から最も好奇心のある女の子がヨネ子達の前に出て来て聞いてきた。
「私達はエルフじゃ無くて人間よ」
エルとセラフィムは人間ではないがエレンとブレイザーは人間なので嘘では無い。
「こっちの白い動物さんは?」
「私はスノーサーベルタイガーのアスカよ」
「うわあ!喋った!?」
自己紹介したアスカにエルフの子供は驚いて数歩後ずさった。
「驚かせてごめんね。でも仲良くしてね」
「うん、わかった。あたしの名前はリルリアーナ」
「そうリルリアーナちゃんって言うの。良い名前ね」
それを皮切りに子供達が群がってきたので郷を見て回るのはやめて子供達と遊んであげた。
次のエルフの郷サキアまでは1日で着く、なので夜営をしなくても良いように翌日は朝食を食べると直ぐに出発した。
サキアの郷にはまだ太陽が沈む前に到着した、普通のエルフはそこまで早く到着しない、ヨネ子達は身体強化を使って歩いていたからこそ早いのだ。
因みにエフィーナとクルルムは身体強化魔法が使えないのでエレンが身体強化をかけた。
サキアでもやはり警戒はされたがすんなりと郷に入れた、警戒心は強いがエルフ同士の結び付きも強いのだろう、エフィーナとクルルムのおかげで順調だ。
身体強化のおかげで予定よりは早く到着したので早速集会場で会議をすることになった。
ここでもヨネ子達の紹介とやって来た目的を話す、当然二つ返事で了承とは行かない。
それでもファレーナやセカールのように余計な証明をさせられる事も無かった、しかしそれだけに移住には消極的なように見える。
「クルルム殿、ファレーナでは何人移住するつもりですかな?」
サキアの長老の一人がクルルムに聞いた。
「まだわかりません、今希望者を募っている所ですので」
「それで、ファレーナでもセカールでも1人も希望者が居なかった時はどうするんですかな?」
「どうもしません、その旨この方達に伝えるだけです」
「それでこの者達は引き下がるんですかな?」
「はい、無理矢理連れて行くようなことはしないと言っておりますから」
「甘いな、人間がこんなところまでやって来て何の成果も出さずに帰ると本気で思っているのか?」
「この方達にとってここまで来ることはそれほど苦ではありませんよ。なので今回誰も連れて帰れなかったとしてもまたいつか勧誘に来ると思います。それに・・・」
クルルムは言いかけて少し考えた、そこへサキアの長老の一人が続きを促す。
「それになんだ?」
「それに希望者が1人もいないと言うことは無いと思います。何より私がもう少し若ければ付いて行きたいと思っているくらいですから」
「あらクルルムさん、そんな事思ってたんですか?」
エレンがクルルムに聞いた、ファレーナを出てからずっと行動を共にしていたのにそんな素振りを全く見なかったからだ。
「ええ、あなた方の魔法やセカールで紙を作った技術など目を見張るものがありました。もう少し若ければ本気でそれらを学びたいと思いました」
「そう、だったら来ても良いのよ」
今度はエルが言った。
「いえ、最年少とは言え私はファレーナの長老の1人です。そう言うわけにはいきません」
「それは残念ね。私達は貴方のような向上心のある者ほど求めてるのに」
「ありがとうございます」
クルルムがエルに礼を言うと、今度はヨネ子がサキアの長老達に向かって言った。
「私達の目的はわかったと思います。出来れば協力をお願いします」
「まあ、聞くだけで良いなら聞いてやろう。しかし直ぐにと言うわけにはいかんぞ」
「ええ、期間は1週間ほどでどうでしょう。1週間後に迎えに来ます」
「1週間か、良いだろう」
こうしてサキアでも協力を取り付ける事は出来た、ただヨネ子は長老達の様子から期待薄だろうとも思った。




